加護なし転生

ボロン

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episode 1 逃避

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異世界に堕とされてから、およそ一ヶ月が経過した。

シェルターの屋根は枯れ葉を重ね、泥を混ぜて乾燥させることで補強され、雨の心配はほぼ解消されている。
狩りは小さな蛇やトカゲ、昆虫などが主で、食料事情は常に綱渡りだ。

最初に仕留めた蛇の皮は、飲用水の袋として試したが、すぐに断念した。
生乾きの皮から溶け出す生臭さと鉄のような匂いが水に移り、煮沸しても到底飲めたものではなかった。
(あのサバイバル番組で魚の皮を使っていたが、あれを飲めるなんて信じられない。)

しばらく探索を続ける中で、水筒の代わりを見つけられたのは幸運だった。
水場から少し離れた場所に、節が長く太い竹に似た植物を見つけたのだ。
石でなんとか加工し、内部の薄い膜を棒で突き破って洗浄する。不格好ではあったが、安全な煮沸後の水を持ち運べるようになった。
これで行動範囲が広がる。
いつか森を出られるかもしれない!

水筒のおかげで、僕は行動範囲を広げ、拠点から三百メートルほど先の丘を見つけることができた。

丘の先は崖になっており、眼下には小さな川が流れていた。
なんと、その川沿いに、集落があったのだ。
最初は「助かった!」と思った。
粗末な木造の小屋が三十棟ほど立ち並ぶ、開拓村と思われる。

すぐにでも降りていって助けを求めたい衝動に駆られたが、理性を働かせ集落を観察し、すぐに違和感を覚えた。

異様に汚れた麻布のような服を着た人々が、ろくな道具もなく必死に働かされていた。
彼らは奴隷だとすぐに理解した。
指示役の人間は、面白半分としか思えない理由で彼らを蹴りつけ、棒で殴りつけている。
殴られた奴隷は、抵抗もせず、ただ痛みに耐えるだけだった。

僕は焚き火の煙が、巨木の葉に遮られ、さらに崖の下という位置関係から、集落から目立たずに済んでいたのだと悟った。
一歩間違えば、今頃あそこに立たされていたかもしれない。
見つからない場所まで避難すべきか?
僕は自分の安全のために、そう考える。

この村のコミュニティに僕が受け入れられる要素はないだろう。
人権などという概念は存在しない世界だろう。
僕の服装は彼らが暴力を振るう奴隷側のものに近い。つまり、見つかれば即座に奴隷として扱われる。
恐らくここは安全だと思えるが、備えなければいけない。

更に観察を続けて数日が経ったある日の正午。
いつものように奴隷の一団が使役されている最中だった。
一人の奴隷が、棒で腹を殴られ、その場に倒れた。
動かなくなった奴隷を、村人二人が雑に抱え上げ、集落から離れた森の奥へと運んでいくのが見えた。しばらくして、村人は手ぶらで集落に戻った。

(死体を森に野晒しにするのか?)

吐き気と激しい嫌悪感が込み上げた。
前世の「普通」の倫理観が、目の前の光景を拒絶した。
だが、嫌悪感を押し殺し、森の様子を窺っていると、運ばれていった先の森の開けた場所に、微かな動きがあることに気づいた。
遠すぎて詳細はわからない。だが、地面を這いながら、必死になって動こうとしている奴隷の姿が見えた気がした。

助けるべきか?
無駄だと見捨てるべきか?

助けられるなら助けたい、という思いもある。

だけど、それをした瞬間から僕は傍観者ではなく当事者だ。
もし、奴隷を助けようとして存在がバレたら、僕のサバイバルは終わりだ。

日が傾き、森に影が伸び始める。僕は散々悩んだ末に、一つの結論を出した。

「もし、奴隷が夜まで生きていたなら、助けよう。」

闇夜に乗じれば、発見されるリスクは軽減だろう。
あの様子では、村人がわざわざ死体を確認に戻ることはないと思える。

そして、これはこの胸にこびりつくような罪悪感から逃れるための、僕なりの言い訳だ。
夜は村の囲いは閉じられ誰も出ないことは確認済みだ。助けたとしても、重症を負った奴隷が生き延びられるかはわからない。

僕がここにいる理由が、もしかしたらこの選択にあるのかもしれない。
あの3つの道から逃げた僕に意味があるのかもしれない。
夜の闇が全てを包み込むのを待って、僕は槐槍を強く握り直した。

闇夜の森は危険だ。
無事に辿り着けるかもわからない、それでも、、、






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