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episode 1 逃避
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僕は火を最低限の大きさまで弱め、竹筒に水を満たし、蔓を準備した。
奴隷を背負う際、身体に固定するためのものだ。
夜の闇が森を深く閉ざしていたが、幸い月明かりがあった。
槐槍を杖代わりに使い、目を凝らして足元を確かめながら、崖の斜面を慎重に下りていく。
一歩踏み外せば滑落だ。
村に見つかる危険と同じくらい、自滅の危険を感じた。
数十分をかけて、ようやく森の開けた場所に辿り着く。
風に乗って腐臭が鼻につく。
まったく考えていなかった。あんな風に無造作に捨てられるのなら、、何人も同じようにそこに、、、。
助けたいという当初の思いと裏腹に足が止まる。
単純に、、見たくない。近づきたくない。
だけど、、だけど、、、
奴隷はまだ生きていらだろうか?
意を決して進む。
異臭が強くなる。
吐き気を抑えて進む。
が、思わず息が止まる。
視線の先、茂みから手がみえたのだ。
鼓動が早くなるのを感じ、、、深呼吸したいが吐きそうだ。
恐る恐る近づく。
それは微かに動いているのがわかる。
辺りを警戒しながら、、、声をかけようとして、僕は口を噤んだ。
言葉が通じるのか?
だがすぐにその事は忘れることにした。些細な問題だ。
僕の気配に気づいたのだろう。
地面に倒れていた奴隷の身体が、微かに、震えるように動いた。
その目が、暗闇の中で僕に向けられる。
暗闇のせいで表情はよくはからない。
だけど、その瞳は「生きたい」と、強く、微かに訴えかけていたと思う。
意を決し、僕は静かに話しかけた。
「、、、喋らないで。大丈夫だから。」
言葉が通じたかはわからない。
安心させようとできるだけ笑顔を作ろうと意識はしたけど、おそらく酷い表情だったと思う。
奴隷は戸惑った表情を向け、そのまま意識を失った。
僕は奴隷を抱き上げようとし、その時に初めて、奴隷が女性だと気づいた。
布越しに触れた胸の感触に戸惑ったが、すぐにそんなことはどうでもよくなった。
急いで蔓で彼女の身体を自分の背中にしっかりと固定する。
彼女は予想よりも軽く、それが彼女の衰弱を物語っていた。
僕は竹筒と槐槍を握り直し、来た時よりも遥かに慎重に、数時間をかけて拠点を目指して進んだ。
巨木のシェルターに辿り着いた時、夜明けが近かった。僕は彼女の具合を確認した。
殴られるのが日常なのだろう。黒ずんだような大小の痣だらけだ。
ここでは、、、何もしてやれない。
ただ温かい焚き火のそばに寝かせ、気休めだとわかっていながらも、患部に手を当てて癒えることを願うしかなかった。
その日からの数日間は、ほとんど看病に費やされた。
水筒の水は彼女のために温存し、彼女の命の灯が消えないよう、見張った。
そして四日目の朝、彼女は薄く目を開けた。
「……なぜ、助けてくれたの?」
微かに掠れた声だったが、彼女の口から出た言葉が通じたことに、僕は心底安堵した。
「、、なぜだろうね。」
僕には明確な答えなどなかった。
責任など取れる訳ではないし、最良だったかと問われればバカな事をしたと答えるだろう。
お互いを力無く見つめ合う。
彼女の片方の瞳の白目の部分に、細かな紋様が青白くうっすら浮かび上がっているのに気がついた。
僕はその紋様について尋ねた。
すると彼女は、不思議そうに僕を見て答えた。
「、、、亜人の瞳は皆こうでしょう?」
亜人?人間ではない似て非なるものなのか?そんな漠然とした疑問と共に、ここが地球ではないと断定された気がして眩暈がした。
「あなたは、、なぜ?」
なぜ助けたの?だろうか?
理由はなんだろう。単に助けれるなら助けたいと思うし。
でも、それだけか?
僕は、、寂しかったからだ。死んだと思ったら過酷な異世界に独りだ。
誰でもよかったから人との関わりが欲しかったんだろう。
「なぜ、、だろうね。いや、、寂しかったんだ」
僕は視線を逸らさずに、正直にそう答えた。
彼女は無理に身体を起こそうとして腹をおさえる。
「無理に起きなくていい。君は、、生きてるのが不思議なくらい酷い状態だと思う。水は飲める?」
少しだけ上体を支えてやりながら、水筒を口に運ぶ。
ゆっくりと、時間をかけて飲み干した彼女は小さく泣き、、気絶するようにまた瞳を閉じた。
水分だけでは無理だろう。
木の実を潰して粥のようなものを作り、少しでも体力を戻してやらないと。
自分1人でも必死な状態で、だけど頑張れているのは、、いや、1人の時よりも前向きになれているのは、彼女の生への渇望が、僕の存在をどうしょうもなく肯定してくれるからだ。
人は一人では生きられない、か。
薄汚れた同士、凡そ文明的ではないこの場所。
なのに、僕には前世も含めて、、良い意味で一番人間的なのかもしれないと思えてならないのだ
—————————————————
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奴隷を背負う際、身体に固定するためのものだ。
夜の闇が森を深く閉ざしていたが、幸い月明かりがあった。
槐槍を杖代わりに使い、目を凝らして足元を確かめながら、崖の斜面を慎重に下りていく。
一歩踏み外せば滑落だ。
村に見つかる危険と同じくらい、自滅の危険を感じた。
数十分をかけて、ようやく森の開けた場所に辿り着く。
風に乗って腐臭が鼻につく。
まったく考えていなかった。あんな風に無造作に捨てられるのなら、、何人も同じようにそこに、、、。
助けたいという当初の思いと裏腹に足が止まる。
単純に、、見たくない。近づきたくない。
だけど、、だけど、、、
奴隷はまだ生きていらだろうか?
意を決して進む。
異臭が強くなる。
吐き気を抑えて進む。
が、思わず息が止まる。
視線の先、茂みから手がみえたのだ。
鼓動が早くなるのを感じ、、、深呼吸したいが吐きそうだ。
恐る恐る近づく。
それは微かに動いているのがわかる。
辺りを警戒しながら、、、声をかけようとして、僕は口を噤んだ。
言葉が通じるのか?
だがすぐにその事は忘れることにした。些細な問題だ。
僕の気配に気づいたのだろう。
地面に倒れていた奴隷の身体が、微かに、震えるように動いた。
その目が、暗闇の中で僕に向けられる。
暗闇のせいで表情はよくはからない。
だけど、その瞳は「生きたい」と、強く、微かに訴えかけていたと思う。
意を決し、僕は静かに話しかけた。
「、、、喋らないで。大丈夫だから。」
言葉が通じたかはわからない。
安心させようとできるだけ笑顔を作ろうと意識はしたけど、おそらく酷い表情だったと思う。
奴隷は戸惑った表情を向け、そのまま意識を失った。
僕は奴隷を抱き上げようとし、その時に初めて、奴隷が女性だと気づいた。
布越しに触れた胸の感触に戸惑ったが、すぐにそんなことはどうでもよくなった。
急いで蔓で彼女の身体を自分の背中にしっかりと固定する。
彼女は予想よりも軽く、それが彼女の衰弱を物語っていた。
僕は竹筒と槐槍を握り直し、来た時よりも遥かに慎重に、数時間をかけて拠点を目指して進んだ。
巨木のシェルターに辿り着いた時、夜明けが近かった。僕は彼女の具合を確認した。
殴られるのが日常なのだろう。黒ずんだような大小の痣だらけだ。
ここでは、、、何もしてやれない。
ただ温かい焚き火のそばに寝かせ、気休めだとわかっていながらも、患部に手を当てて癒えることを願うしかなかった。
その日からの数日間は、ほとんど看病に費やされた。
水筒の水は彼女のために温存し、彼女の命の灯が消えないよう、見張った。
そして四日目の朝、彼女は薄く目を開けた。
「……なぜ、助けてくれたの?」
微かに掠れた声だったが、彼女の口から出た言葉が通じたことに、僕は心底安堵した。
「、、なぜだろうね。」
僕には明確な答えなどなかった。
責任など取れる訳ではないし、最良だったかと問われればバカな事をしたと答えるだろう。
お互いを力無く見つめ合う。
彼女の片方の瞳の白目の部分に、細かな紋様が青白くうっすら浮かび上がっているのに気がついた。
僕はその紋様について尋ねた。
すると彼女は、不思議そうに僕を見て答えた。
「、、、亜人の瞳は皆こうでしょう?」
亜人?人間ではない似て非なるものなのか?そんな漠然とした疑問と共に、ここが地球ではないと断定された気がして眩暈がした。
「あなたは、、なぜ?」
なぜ助けたの?だろうか?
理由はなんだろう。単に助けれるなら助けたいと思うし。
でも、それだけか?
僕は、、寂しかったからだ。死んだと思ったら過酷な異世界に独りだ。
誰でもよかったから人との関わりが欲しかったんだろう。
「なぜ、、だろうね。いや、、寂しかったんだ」
僕は視線を逸らさずに、正直にそう答えた。
彼女は無理に身体を起こそうとして腹をおさえる。
「無理に起きなくていい。君は、、生きてるのが不思議なくらい酷い状態だと思う。水は飲める?」
少しだけ上体を支えてやりながら、水筒を口に運ぶ。
ゆっくりと、時間をかけて飲み干した彼女は小さく泣き、、気絶するようにまた瞳を閉じた。
水分だけでは無理だろう。
木の実を潰して粥のようなものを作り、少しでも体力を戻してやらないと。
自分1人でも必死な状態で、だけど頑張れているのは、、いや、1人の時よりも前向きになれているのは、彼女の生への渇望が、僕の存在をどうしょうもなく肯定してくれるからだ。
人は一人では生きられない、か。
薄汚れた同士、凡そ文明的ではないこの場所。
なのに、僕には前世も含めて、、良い意味で一番人間的なのかもしれないと思えてならないのだ
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