加護なし転生

ボロン

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episode 1 逃避

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あれから2週間ほど経ったろうか?
彼女は驚くべき生命力で命を繋いだ。

まだ、動ける程に回復はしていないが、それでも会話できる程度には容態も安定している。

「この国で亜人は、、神の怒りを受けた罪の象徴として瞳に紋様を持つと信じられている。」

そして、僕の疑問に答える形で彼女は語る。

集落の非生産的な残酷さについて。
なぜ、貴重な労働力である人間を、ああも無意味にすり潰すのか。
彼女の答えは、僕の予想を遥かに超えるものだった。

「あの集落は、開拓村なんかじゃない。流刑地よ。私たちが毎日させられている無意味な重労働や、理由のない暴力は、『浄化』の名の下に行われている。」

この辺りの国を収める人族の宗教では、亜人の瞳の紋様は「神罰による罪の刻印」とされている。経典には、その罪は苦行の果てに祓われるべきだと記されているらしい。

「私たち亜人は、集落で衰弱死することを強いられている。
無意味な苦痛と労働で、生命の灯を意図的に消していく場所。
あの集落と同じような場所が、この国には無数にある。
私や他の者は、亜人狩りや、人族との戦争で捕らえられて送られてきた。」

彼女の声は震えていたが、その事実は、僕が感じた集落の異様な雰囲気に完璧に符合した。
あそこは労働施設ではない。
命をゆっくりと削り取る処刑場だ。

「亜人……私たちには、生まれつき魔力があるから」

彼女はそう付け加えた。魔力を使えるのは、十六歳で祝福を受けた成人だけだが、彼女は十五歳ながらも、その不完全な力のおかげで生き延びたのだ。

「魔力による治癒力の向上。
それが、ひどい傷を負ってもあなたに助けられるまで生き延びられた理由だと思う。」

そこで、彼女は視線を落とし、さらに恐ろしい真実を告げた。

「この世界では、人が亜人を殺すことで、その魔力を奪い、自分の肉体を強靭にできる。
だから、私たちを狩るの。
……この世界は、人族と亜人が互いに殺し合うようにできている。」

重い沈黙の中、僕は竹筒を握りしめ、自分自身の出自について告白した。

「僕は……正直、自分が何者なのか、わからないんだ。
気が付いたら、この森にいた。死んだはずなのに」

僕の言葉を聞き終えた彼女は、不思議そうに首を傾げた。
そして、彼女の口から出た言葉は、僕がこの世界の「異物」であることを決定づけるものだった。

「あなたは、亜人でも、人でもないわ」

「……どういう意味だ?」

「人族にはね、額に彼らの神の紋様があるの。そして、亜人にはこの瞳の紋様がある。
どちらも、この世界に座す神の烙印。
でも、あなたには、どちらの紋様もない。」

鏡などないから確かめようがない。
似た服装だから、同類と思って助けられたと考えたが、、、僕は、この殺し合いの世界で、亜人でも人でもない、無印の存在として存在しているということか。

「、、、烙印のない者は理の内にいない。」

それは、、どういう意味なんだ?鼓動が早くなるをのはっきりと感じる。

残酷な世界の理に反する存在、普通に考えれば理の中の争いよりも酷い結果が待っているのではないか?
僕は次に続く言葉を、、ただ恐れた。

「だけど、あなたは私を救ってくれた。ありがとう。
私は、、、母も、父も、、妹も失わずに済んだのかな?あなたのように、こんなものなければ。」

返す言葉を、僕は知らない。

沈黙が続く。黄昏が連れてくる常闇のように重く静かに。

「母がいつか語ってくれた御伽話には、、烙印のない人の話がある。」

不安を抑えながら先を促す。

「最初の人は神が作り出した。
烙印のない人々。
彼らは縛られない。
自由に、、成すがままに成した。
世界を作り変える意思を持っていた。
破壊することも厭わなかった。
癒す事を恐れなかった。
愚かで賢く、際限がない。
だから、二柱の神を敬う事さえ忘れられた。

闇の大地神と光の天空神は人を恐れた。

闇の大地神は、肥沃な大地の恵みを持って育て、
命の終わる時にはその揺籠で包み込む事を約束した。
大地の子は、その額に輪廻の紋様を刻んだ。

光の天空神は、その慈愛の光で恵みを与え、
命の終わるその時まで、決して光を奪わぬと約束した。
光の子は、その瞳に灯火の紋様を刻んだ。

紋様は神の示す道標。

紋様なき人は、神の理の内にない。
囚われえぬ最初の人。


前世を思えば確かにそうなのかもしれない。
大地を汚しながら、同時に癒しもする。
二面性の極致のような生き物が人間だ。

僕はあの時、道を選ばなかった。
まさに、、人間だろうさ。

「私は、、あなたに救われた。
烙印のない人は、畏敬の念を持って語られる。
想像もつかなかったけれど、、ただ、あなたはとても優しいと、、私は思う。」

「そんな事は、、ないよ。
助けたのは気まぐれのようなものだしね。
、、まさに理の外、なのかもね。」

人はとても優しいけれど、とても残酷だ。どんな生き物よりも、そうだと思う。

「僕は、、いや、君はこれから先どうしたい?亜人の国へ行くのかい?」

「私の故郷は、、もうないの。生きる希望だった家族はもういない。」

沈黙が流れる。
僕は、、彼女に何か、、伝えるべき何かを持たないと思う。

「あなたに救ってもらった。だから、私は私の神に誓ってあなたの道を照らしたい。力なんてないけれど、、、。」

「行き場がないのはお互い様なのかもしらないね。
ただ、一つはっきりしている事は、この場所に留まっていても安全ではなさそうって事だね。
だから、新天地を目指すよ。
争いに巻き込まれたくはない。
僕は君に何かしてあげられる事がないから、亜人の村か何かあればと思っていたんだけど、、」

「少なくとも、この国に安心して暮らせる亜人の村なんて、、ないと思う。亜人の国は樹海を越えた先にあるけれど、、とても無理だと思う。」

東西を分つように樹海が広がっている。
東を人族、西は亜人と住み分けがなされているのだ。
そして、北側の比較的樹海が浅い地域が両国が唯一行き来できる場所となっている。

それだけに国境として互いの戦力が集中しており、一般人の行き来は難しいそうだ。

「行き場がない、、、か。ちなみに、、刻印がない人は、、その、、」

「••••どう扱われるのか?」

「うん。自分がどういう立ち位置なのか、それは知っておきたい。自分の事で悪いんだけど、、」

「ううん。当然気になると思う。さっきも話した通り亜人も、人族もそれぞれの神の祝福を受けているの。無印の人はそれを拒んだ。端的にいうと、、異端者として扱われる。どちらの国でもそれは変わらないわ。」

「、、、はは、、、そうなんだね。異端者は、、その、どうなるの?」

「••••異端者は見つかり次第殺される、と思う。」

「思う?」

「ええ、昔の、、それこそ数100年も昔の御伽話にしかいないもの。神と眷属たる亜人と人族がそれぞれ狩尽くしたと言われてるわ。」

もう、最悪だ。
訳もわからないままこの世界に落ちて、必死に生きようとしたらこれだ。
紋様を偽造できないもんか?刺青的な?どうやって?針もないし、そもそも偽造できるもんなのか?

「私は、、あなたに助けてもらった。少しだけど、言葉も交わしてる。あなたは優しいと思う。神は私を救ってはくれなかったけど、あなたは違った。だから、わたしはあなたの、、味方になりたい。」

そう言った彼女の瞳は、すごく優しい眼差しで僕をみていた。
もし、観察もせずに浮かれて村に行けばそこで終わってたんだろうな。
偶然助けた彼女が僕の味方をするという。
信じて良いのかわからない。
わからないけど、他にも選択肢もない。

優しい眼差しは僕がそう思いたいからなんだろうか?
本当と所はわかりっこない。

「ありがとう。君は、、あの村の同胞を、助けたい?」

彼女は驚いて考え込む。
僕は静かに答えを待つ。

「助けたい人は、、もう先に。他の同胞も、、助けたい。助かるなら助けたい。でも、、それは無理だわ。どうやって助けるの?」

「君と同じさ。人数差もあるし、こっちにはろくな武器もない。捨てられた後、拾いに行く。運頼みで綱渡りの賭けだよ。」

「•••ありがとう。でも、、無理だと思う。この水場は何人も養える程多くはないし、食糧だって。それにあるはずの死体が複数なければ疑われる。」

確かにそうだ。だけど、更に奥に行けばどうだろう?
暮らせる場所はあるかもしれない。
助けられるかもしれない命を見捨てるのは正しいだろうか?
やらないよりやる偽善だ。

考えの甘い戯言だけど、、、そして、助けた人が彼女のようにぼくを肯定するだろうか?
人数が増えて、上手くいって生活ができるようになった時、異分子はどうなるかなんて、、。
彼女はそこまで考えてくれたのかもしれない。

「この更に奥に行けばわからない。人数がいれば、この森を抜けられるかもしれない。そうすれば、君達は安全に暮らせるはずだろ?」

「森を抜ける?森の奥は神々の聖域、、或いは墓所と言われているわ。何がいるかわからない。亜人も人族も一度として抜けたことがないのよ。」

「でも、、それを君が見たわけではないんだろ?
危険かもしれないけど、それはこの場所も同じなんだよ。
目と鼻の先にある事を考えたら、こっちの方が危険だと思う。

どちらにしても拠点はもっと奥にするべきだと思う。
もし、大勢を養える土地があればそれで良いし、更に奥を目指せるなら抜けれるかもしれない。
何もせずに見つかれば死ぬしかない。それなら、僕は抗って可能性に賭けたい。」

彼女は僕の言葉を検討してくれている。

「このままここにいても危険なのはその通りだと思う。だから、まず奥に移動するのは賛成よ。同胞を助けるかどうかは、、その時に考えましょう。」

「ありがとう。そうだね。死んじゃうかもしれないしね。」

縁起でもないが、現実的な話でもある。
人を助ける前に、、いや、助けるためにはまず己れを助けなければ話にならない。

「さっそく、水食料を準備して、でき次第奥を目指そう。」
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