加護なし転生

ボロン

文字の大きさ
8 / 15
episode 2 無刻の樹海

8

しおりを挟む
「無刻の樹海」

この森の最深部の名前だ。

神々の産まれし陰りのない聖域として、古くは「夜露の知らぬ場所」とも呼ばれ、
紋様の始まりと共に、紋様の及ばぬ地として語られる。
人族と亜人、共通の畏怖すべき地であり、神の墓所と言われる聖域。

だからこそ、この地に追っ手はこない。

ただし、、神々の、それも原初の力の溜まり場とも言われており何がいるのか、世の常識が通じない危険地帯とも言われている。

用意するもの、といっても財産なんてないわけで、、、。
槐槍と松明、木の実などの食料と水筒をそれぞれ4本腰に括り付けている。

彼女の名前は「フィオーラ・ヴィエル」というらしい。
生命の花を意味する。
友人や家族はフィーと呼んでいたらしく、そのように呼んでほしいと言われたので「フィー」と呼ぶことにした。

「フィー、少し待ってもらっていい?」

「ええ、もちろん。」

フィー似合いそうな槐の若木を見つけたのだ。
申し訳ないが、、、根本をなんとか作ってみた石斧で叩き折る。
次いで余計な枝を削ぎ落としていく。
不恰好だがないよりはマシだろう。

「これ、フィーの杖にどうかな?」

「ふふ、お揃いだね。」

お揃いだね、は不意打ちだった。
と言うのも、、少しフィーを意識してしまっているのだ。
頼る人が他にいない彼女に漬け込むようで、絶対に悟られたくはない。

当初は、ボサボサの髪に汚れた肌、酷い怪我だったし、、自分にも余裕はなかったから気づかなかった。
水場で清めた彼女は、どこか神秘的で儚く、、、ただ美しかった。

ああ、いやいや。そんな時でないだろ。

「落ち着いたらもう少し綺麗に削るよ。今はこれで。」

「ふふ、ありがとう。」

——————————-

出発して数日

森の植生は変わらないが、少し空気が重い、、いや、香りというか微かな違和感。

「ノア。あの茂みを見て」

姿勢を低くしたフィーの視線を追うと野鼠らしい小動物が餌を食べているのが見えた。

ノアは僕の名前だ。
と言っても前世の微かな記憶に自分の名前はなかった。
名前がわからないと伝えるとフィーが考えてくれた名前だ。

「うん。」

音が鳴らないように風下から近づき、、、槐槍で一気に突き刺し仕留める。

「フィーは気配を隠すのが上手いね。」

森の深部を目指す逃避行だけど、拠点のない僕らは都度獲物を獲って進まなければならない。
フィーの話では、徒歩で1週間も進めばまず人に見つかる事はないと言われたが、安心はできないと思って行動した方がいい。
拠点を作って生活の場を安定させるのはまだ先になるだろう。

だから水場を見つけたら可能な限り水を確保してすすむし、食料になるものは手当たり次第採取する事にしている。

「今日はもう少し進んだら火起こししよう。水場があれば完璧だけど、、、。」

手順なんてわからないなりに、解体しながら話す。
腹を割き内臓を取り除いたら念の為穴を掘って埋める。
あとは流れるにまかせて血抜きするのみだ。

「できれば、、粗末でもいいから家を建てて、ゆっくり暮らしたいね。」

「そうね。安心して寝たいかも。」

夜の森は想像以上に煩いのだ。
虫の鳴き声に動物の気配。
風の音、、、心穏やかに聴ける環境ではないのだ。
警戒を交代しながらの睡眠は満足に休めているとはとても言えない。

できればこの肉も冷水で冷やしたいがそんなことも言ってられない。
できるだけ早く熱を通して食べないと雑菌が繁殖して汚染されてしまうだろう。
孤独感はなくなったけど、生活しているとはとても言えない。

2時間ほど進んだ先で運良く水のせせらぎが聞こえてきた。

「本当に、、運がいい。小さくても水筋があればいいけど、、」

音を頼りに進むと現れたのは小さな湧き水の溜まりと少しだけ開けた空間に出る。
念の為、動物の痕跡を探すが、大型の動物はいなさそうだ。

「この森にはあまり大きな動物はいないのかな?」

「んー、そんな事はないわ。鹿や熊、狼なんかはいると思う。でも、不思議よね。本当に痕跡がない。」

いるんだ、、。聞いた瞬間背筋が凍る気がした。
もし、、捕食者に見つかれば僕らは終わりだ。

見つかったらその時だ、なんて割り切れたもんじゃないが、それでも他に選択肢があるかと言えばそんな事はない。

「考えてもしょうがないかも、だけど、、出来ることをするしかないね。僕は火を起こすから念の為周囲の警戒を頼めるかな?」

「ええ、任せて。私が成人したら、もっと色々と助けられるんだけど、、、」

フィーが言うには、亜人は成人することで魔力を使えるようになるそうだ。
フィーの親は、生活に必要な火を魔法で生み出していたそうだ。成人したら薪に火をくべるくらい朝飯前だと言っていた。

正直、、めちゃくちゃ羨ましい。
だって魔法だぜ?夢だよなぁ、、、。

この原始的な火起こしは、かなり力作業で役割分担として僕がすると言い張って今に至る。

火を起こしたら、獲物の表面を炙りながら毛を処理していく。
切れ味の良いナイフもないから、不恰好な肉の塊に分けて、枝を刺して焼くだけだ。

焚き火の揺らめきを眺めながら見入っていると、水を汲んできたフィーは煮沸して明日からの水の準備をしてくれる。

「ねぇノア。深部へ行けば人に怯える必要はなくなると思うの。でも、、何があるのかわからない。どこかで決めないといけないと思う。」

「うん、いつまでも彷徨ってられないしね。でもまだ安心できる程進んではいないだろ?もう少し、、せめてあと4日程は進んだ方がいいと思う。」

「うん、、、。」

今日はなんとか生きられたけど、これがいつまで続けられるだろう?
追っ手がいる可能性は低いと思うけど、、毎日進むのが正解とも言えない。

少し悩んだが、僕は一つ決断する。

「ここで数日かけて準備しようか。簡単なシェルターを作って、水と食料を確保して、一気に進むための準備をするのはどうだろう?」

「そうね。ほんとは少し、、疲れが溜まってて。準備してる間に体調を戻せるように頑張る。」

「そうだよね。あんな大怪我してた訳だし、無理させてごめん。」

「ううん、そうじゃないの。ごめん、そんな気で言ったんじゃないの、、ごめんなさい。」

少しの沈黙。

「お互いに、さ。無理はしないようにしよう。遠慮せずにさ。だって、僕らは2人しかいないんだ。気を使って過ごすのは危険だし疲れちゃうからさ。信頼するしかないし、して欲しいとも思ってる。」

「うん。わかってる。私はノアを信じる。」

「ああ、だから、これこらもよろしく。」

食事を終えた僕らはいつも通り交互に休みながら朝を待つ。

当たり前に明日を心配しない生活、なんて贅沢だったんだろう。

空に浮かぶ、輪をもつ月。
あぁ、夜空はすごく、、、美しいな。
ふっと心が軽くなるような、自然に神や精霊を見た昔の人々の気持ちが少しわかった気がした。








—————————————————
もし良ければ、お気に入り登録お願いします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる

柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった! ※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

処理中です...