My² Gene❇︎マイジーン ~URAZMARY~

泥色の卵

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第2章 サムライの星 [戦星]

第3話 妹の想い

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【登場人物】

▼水王家
[水王家十代目当主の長女]
 現当主の長女で正統後継者。次期当主。
 武芸の才に溢れ高い知性を持つが、水王家の為ならば冷徹な考えをもいとわないサムライ。

[水王家十代目当主の次女]
 水王家の次女で、異端後継者。
 姉の才能や知力には遠く及ばないが、優しく温かい心を持つ。
 

 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡




 私は月夜に照らされる荒野をただひたすら駆けていた。

 姉に平手打ちされ熱を持った右頬に冷たい夜風が当たる。

 


~13年前~


「お姉ちゃん!待ってよ!」

「遅いぞ!千里華チリカ!」

 私は姉の背中を追いかけ荒野を駆けていた。

 姉は今年から侍となる資格を得る。

 
「お姉ちゃん、侍になるの?」


「当たり前だ!私は侍になって千里華を守る!」

「私だってお姉ちゃんを守るの!」


 お姉ちゃんは遺伝子能力の才能も、剣術の才能も、知略の才能もあった。

 そして何より心優しい人だった。


 私は……何一つお姉ちゃんより優っているところはなかった。


 侍になると水王家の侍隊舎で寝食をすることになるから、お姉ちゃんとはほとんど会えなくなる。

 お姉ちゃんが侍になってから会えなくなっても、お姉ちゃんへの尊敬の念は募るばかりだった。


 自慢の姉だった。



 それから5年の年月が経ち、私も侍になる権利を得ることとなった。
 もちろん私はお姉ちゃんの後を追い、侍になることに決めた。


 お姉ちゃんはたった5年で水王家の軍団長にまで上り詰めた。

 私は本当にお姉ちゃんが誇らしかった。

 けど同時に苦しかった。

 水王スオウ家に私の居場所はなかったから。


 水王家には代々、正当後継者と異端後継者に分かれる。

 基本的に先に生まれた方が正当後継者。後に生まれた方が異端後継者。

 私には居場所どころか立場もなかった。

 けどそれも仕方のないことだ。

 私は水王家の重鎮が話をしていたのを偶然聞いてしまった。

 私は父上の実の娘ではない、と。

 父上の妹が私の本当の親だった。
 つまり姉上は本当の姉ではなかった。

 それを知って少し心が軽くなったのを覚えている。
 姉とは遺伝子が違う。
 その事実が私を少しだけ救ってくれたし、納得できた。

 お姉ちゃんと私は才能が違って当たり前だ、って。


 お姉ちゃんが軍団長になってから、周りだけでなくお姉ちゃんからも私への当たりが強くなった。

 それはそう。
 出来の悪い妹……
 いや、出来の悪い侍なんて水王家の足手まといになる。

 水王家の軍団長として、家を強くするのは役割であり責任でもある。

 そのころから自然とお姉ちゃんのことを“姉上”と呼ぶようになった。
 “お姉ちゃん”なんて呼べる姉妹の雰囲気ではなくなっていた。


 私も何か水王家の役に立てることはないだろうか……

 いや、お姉ちゃんの役に………


 お姉ちゃんはただでさえ重大な役割を担っているのだから、妹の私がもっと支えなければ……




~水王家・道場~


「はぁ!!!」

 私の持つ木刀が弾き飛ばされると、姉上の振るう木刀が鋭く私の右脇腹付近にめり込んだ。

「肋骨がいったな。相手は実の妹なのに全く容赦がない……」

「ありゃ少しばかり千里華チリカが可哀想だ。」

「剣の才能もそこそこ、遺伝子能力の使い様もそこそこ身体能力も並。」

「そして何より侍として一番欠けている点は、優しすぎるところだな。」


 痛みで余裕がないのに、そんな言葉は嫌になるほど私の耳に入ってきた。

「かっ……はっ……はっ………」

「千里華お前は弱い。」




▽▽▽▽▽▽



「父上……私を水王家の戦闘部隊から外してください。」

「このままでは水王家に泥を塗るどころか、この弱さでは命さえすぐに失ってしまいます……」

「給仕でもなんでもやります………どうか非戦闘の役を……」

「それでは水王家次女のお前はこの家での立場がなくなるぞ。」

「侍ではなく、忍びはどうだ?姉を支えるという意味でもお前の面目は保たれる。」

「それも嫌であれば、お前の望み通り給仕に回そう。」

「お姉ちゃんを支える………」

「私……忍びになります。」

「私に侍の才能は無いけど、きっといつか忍び長になってお姉ちゃんを……」


「お前はすぐには死なないよ。私が“ある術”をかけたからな。」

「“ある術”……?」

「そう。お前が生まれたときに懸けた術だ。お前はあと何十年も生きる。」




▽▽▽▽▽▽


 私は月夜に照らされる荒野をただひたすら駆けていた。

 姉に平手打ちされ熱を持った右頬に冷たい夜風が当たる。


「父上の言うことが本当なら私はすぐには死なない……」

「いや……仮に死んだって……」



「待て。」
その言葉と共に一つの影が千里華の目に入る。


「………!」


「情報通りの予測経路で来るとは、忍びとしての能力値は低いようだな。」
 彼女の前に立ちはだかったのは、深い緑色の長髪の男――腰に帯刀した侍だった。

「あなたは……!」
 その男は千里華でも知っている如月家の幹部。
 実力は千里華では到底敵わないものだった。

 千里華は黒装束の腹部分をまくり上げると、腹に巻かれた多数の爆薬が露わとなる。
「わ、私は……水王家の……お姉ちゃんのために……!」

「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
 千里華は腹に巻かれた爆薬の導火線に火を点けた。

 そしてそのまま如月の侍へと突っ込んでいく。

 「自爆か……お前は忍の戦を全く理解していないな。」
 その侍は目にも止まらぬ速さで抜刀すると、千里華の腹を横に一閃した。

「(私もここまで……か……)
 腹を斬られた千里華は死を覚悟した。

 体勢を崩して侍の前に倒れ込んだ千里華。
 襲ってくるはずの痛みがない。

 そう気づいて腹部に手をあて確認する。
 
 ――斬られていない

 そう気づいたのも束の間、千里華の四肢に何かが巻き付き引っ張られた。

「これは如月家の……!」
 千里華に巻き付いたのは、如月家の遺伝子能力で生成されたつるだった。

「お前はいい人質になる。水王千里華。」

 侍はゆっくりと納刀している。
「水王家には消滅てもらう。」

「今、この戦星は狙われている。争っている場合ではないんだ。」

 “争っている場合ではない”。
 元はと言えば、如月家が離反して始まった紛争。
 侍の言葉を聞き、千里華は侍を睨みつける。
「なら……離反なんてやめて戻ればいいでしょう……?」

「今の水王家では無理だ。考えの古い老中達が足を引っ張る。」

行不地いかずち様の代ならばよかったが、当主に力のない今の水王家に期待はできない。だから如月家が水王家を一度滅ぼし、水王家の癌を取り除いた上で取り込む。」

 その侍の言う通り、現当主の木勝きしょうは才のある侍だが、水王家内での立場は弱く家来を……特に先代からの古参の者達をまとめきれていなかった。
 先代の水王行不地のときのように盤石の体制とは程遠かったのだ。

「木勝殿とお前の姉には悪いが、けじめとしてその首は差し出してもらおう。お前の命と交換でな。」

 その企みに千里華は目を伏せ、表情を曇らせた。
「来ない……私のためには……」

「あちらがそれを断れば、お前も死ぬだけだ。」

 侍は身動きのとれなくなった千里華をさらにつるで縛り上げる。
 そして彼女を肩に担ぎ上げ、歩き始めた。
「どちらにせよ、水王家は滅びる。」


「それが、戦星の民のためだ。」




To be continued.....





~EXTRA STORY~


「兄上……この子をよろしくお願いします……」

さき……すまない……」

「いいんですよ……私は異端後継者ですから……医星で治療が受けられるとは思っていませんよ……」

「ただ……どうか娘をお願いしますね……」


「咲、この子の名は……?」

「名は……兄上がつけてあげてください……これからは兄上の娘なんですから……」

「また…だな……」

「いいんですよ……私だって異端ですけど……」

「誇り高き水王家の後継者……なんですから……」



▽▽▽▽▽▽

「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」


「さっ、咲様!!咲様!生まれましたよ!!元気な女の子です!!」




「咲様………こんなこと……」


「咲……お前と義弟あいつの娘達、必ずや立派に育てて見せる。」


「決めたよ。この子の名は………」



To be continued to Next EXTRA STORY.....?
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