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第2章 サムライの星 [戦星]
第2話 水王家の忍び・千里華
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【登場人物】
▼何でも屋(IMIC)
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
[バリス・スピア]
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
▼水王家
[水王 千里華]
深い青色のショートカットの少女。元名家の水王家の忍び。
戦星の森で襲われているところをプラズマ達に助けられた。
[水王 涙流華]
深い青色のポニーテールをした水王家軍団長を務める女サムライ。
[水王 木勝]
水王家十代目当主。
▼その他
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
「よって……」
「水王千里華を禁固・拷問刑、この者達を即時処刑とする。」
「え……ショケイ………?」
涙流華と呼ばれる若い女性が淡々と即時処刑を口にすると、周りの家臣達がざわつき始める。
そして涙流華の対面に座るサムライが声を上げた。
「木勝殿!いくら何でも厳しすぎます!軍団長は自分の地位を実の妹に取られるのが怖いのです!」
「そうだそうだ!!」
「横暴が過ぎますぞ!!」
「いくらなんでも限度がある!!」
その言葉に続くように、他の家臣も涙流華に思い思いのヤジを飛ばした。
「やかましい!!言いたい放題言いよって!!」
涙流華の怒声にサムライ達は静まり返る。
「涙流華よ、厳しい処遇だが熟考の末だな?」
水王家の当主として木勝が厳しい面持ちで水王家軍団長としての涙流華に問いかける。
すると涙流華は目を閉じて深く頷いた。
その様子に我慢できなくなったプラズマが声を発した。
「おい!俺たちはスパイなんかじゃねぇ!」
バリスもプラズマに続く。
「その如月家ってやつとも関係ねえしな。」
「そうだそうだーー、俺たちは貿易船で密入国しただけだ!!」
ナチュラルに余計なことを言うプラズマの後頭部を、バリスは手枷をはめたまま思い切り殴りつけた。
罪人である2人が勝手に発言したことによって、家臣達から怒号が飛び交う。
「うそをつくな!お前達他星の雇われの忍びであろう?」
「密入国などわかりやすい嘘を!」
「如月家の鉄に頼まれたのだろう!?」
家臣たちの罵詈雑言に応戦するようにプラズマ達が言い返していたときだった。
目にも止まらぬ速さで全身黒ずくめの忍が現れるや、木勝に何やら耳打ちを始めた。
家臣たちもその様子が気になったのか、段々と怒号は弱まっていく。
「やめよ。その者たちはただのよそ者だ。」
「今情報が入った。その者たちが如月家の者を退け千里華を助けたと。捕らえた如月家の忍びが吐いたようだ。」
「会議はこれにて終いだ。先ほど下された処分は取り消しとする。解散。」
木勝の号令に、家臣たちはぶつくさ言いながら大広間を後にする。
家臣たちが皆広間を出た後、涙流華が千里華の元まで行き、彼女を平手打ちにした。
パーン、と大きな音が鳴り響く。
涙流華はそのまま言葉を発することなく去っていき、その後千里華は涙を流しながら部屋を出ていった。
平手打ちに唖然としていたプラズマ達に木勝が謝罪をする。
「すまないことをした、本当に申し訳ない。旅の御仁よ。」
「あのチリカって娘はどうなるんだ?」
プラズマが尋ねる。
「千里華がしくじったことに変わりはないからな。涙流華のことだ。恐らく何らかの処罰は与えるだろう。厳し目のな。」
木勝は俯いてそう答えた。
「けどさっき聞いてた感じだとあいつら姉妹じゃないの?厳しすぎじゃないか?」
プラズマの純粋な質問に、木勝は少し間を置いた。
「娘たちも昔は仲が良かった。しかし涙流華が軍団長になってから責任を感じているのか、厳しくなりすぎた。若いが腕は立つ。それ故怯えている者も多い。間違った方向に進まなければ良いが……」
「あの見るからにカタブツな女が昔はチリカと仲良かったのか?」
プラズマがつい率直な感想を言ってしまう。
しかし、木勝もそれを気に留める様子はない。
「水王家も先代までは名家だったからな、割と名家間で交流があって開放的だったのだ。異星間の交流も盛んで娘達もよく異星に行っていた。水王家にも多くの他家が入り水王家自体に国際化の流れがあったんだが……」
木勝は語気を弱める。
そしてバリスが続きを言い当てた。
「大元帥の反乱事件が起こって、その流れに反対した重鎮達が鎖国の方向へ推し進めた、ってとこだろうな。」
「そう。それとその当時の政府軍大元帥……つまり私の父上、水王行不地は水王家の正当後継者ではなかった。」
「父上の姉様が元々大元帥だったのだが殉職してな。その背を追って父上は大元帥に上り詰めた。」
「ただでさえ、父上が当主の座を欲しがって暗殺したなどと根も葉もない噂が立っていたのに……」
「水王家の正当後継者ではない者が大元帥までのし上がり、その立場で政府に反乱を起こした。」
バリスは腕を組んで頷いている。
「なるほど。その血を引く今の当主やその娘達の発言力もそこまで強くはない、ってわけだな。」
痛いところを突かれたのか木勝の反応はない。
しかしそんなことはお構いなしにプラズマがさらに続ける。
「ていうかアンタがこのサムライ達のリーダーなんだろ?チリカの罰をなしにすりゃいいんじゃねぇの?」
「水王家は腐っても元名家。仕来りを重んじる者も多くいる。それを無視することはできんのだ。」
プラズマは分かりやすく顔をしかめている。
「しきたりで娘守れないって、なんだそりゃ。しょうもねぇ。」
「仕様もないか……」
「全くその通りだ。」
木勝はプラズマ達に聞こえない程の小声でそう呟いた。
「まぁ、それはいいとしてご客人。先程は無礼な扱い申し訳なかった。ぜひ夕餉……夕食を。」
木勝はパッと表情を変えプラズマ達に夕食の申し出をする。
「やったーー!腹減ってた!」
プラズマが大喜びし、大声を上げる。
すると甲高い音を立てて、広間の襖が開いた。
「おい、部外者!あまり水王家の中で騒ぐなよ!叩き斬るぞ!」
涙流華がプラズマたちを睨みながら警告し、襖を勢いよく閉める。
「ま、まぁ、また夕餉の支度ができ次第で呼ぶから客間で待っていてくれ。」
木勝が言い終えると、勢いよく閉められた襖が再度開き、若い女性の使用人2人が入って来る。
「私達が案内いたします。どうぞこちらへ。」
プラズマ達は木勝に促され、女性使用人の2人の後に続き廊下を歩いていく。
廊下に響く木板を踏む足音。
廊下は長くまだまだ奥へと続いている。
そんな静寂を破ったのは、やはり能天気なプラズマだった。
「なぁ、水王家ってどのくらいの家が入ってんだ?」
プラズマ達を客間へと案内する使用人に尋ねる。
答えたのは薄白い肌に、背中まで伸びた黒色長髪の女性使用人だった。
「私含め、全14家です。」
「あんたは水王家?」
「いえ、滅相もございません。」
使用人は急に歩みを止めて振り返ると、申し訳なさそうに胸の前で手を振った。
「私目は水王家に拾っていただいた讃岐家の者でございます。」
「生まれて間もなかったころ、前当主の行不地様に拾われ、こうして水王家の使用人として住まわせてもらっているのです。」
讃岐という使用人は隣に立つ使用人――明るいブロンドのポニーテールに褐色の肌をした女性を手のひらで示した。
「こちらの“茉雛”は水王家の者です。」
茉雛と呼ばれる褐色の女性は申し訳なさそうな表情で話し始める。
「私は戦争孤児だったのですが、亡くなった先代の衛菜様とご縁があり、その弟君であられました行不地様に水王家として拾っていただいたのです。」
「じゃああんたの名前って……」
「はい、畏れ多いことに水王茉雛でございます。」
「水王家には、私のように元々水王家ではない者も少なくありません。」
「へぇ~、カルチュアルエクスチェンジってやつ?」
プラズマはさも学のありそうなことを言っているが、実は晩飯のことを考えながら適当に喋っていた。
「は、はぁ……」
聞き慣れないことばに2人の使用人は困惑している。
そんな彼女達を見たバリスはプラズマの後頭部を軽くはたいた。
「困らせんな。」
「行不地様は本当に変わったお方でした。私達のような何処の馬の骨とも分からないような者を受け入れてくださったのです。」
「確かに。元名家なのにな。反発も凄かっただろうに。」
「確かに反発はありましたし、今も私達のような外様は肩身が狭いのも事実です。しかし当時は時代についていくには必要だとして開放的な施策を推し進めてくださったのです。」
「その時に多くの家が水王家に入ることとなり、今の水王家ができました。」
「じゃぁ、キサラギ家ってのは?」
讃岐という使用人はその言葉に顔を伏せた。
「如月家は……もういません。」
「如月家の当主、鉄様は水王家の副軍団長であられましたが、木勝様との意見の相違から離反されました。それからは……」
「交戦状態ってわけか。」
バリスがその続きを言い当てる。
「なんか、家の中に何個も家が入ってて大変だな。」
讃岐という使用人は胸の前で両手を握ると、肩をすくめて俯いた。
「当主の木勝様も、軍団長の涙流華様も……」
「そしてもちろん、心お優しい千里華様も大変苦労されています。」
「殿は父親のように私を育ててくださり、お二方も実の姉妹のように接してくださいましたから、この八千代も、本当に心苦しゅうございます。」
「へぇ~………」
「さぁ……着きました。客間でございます。夕餉……夕食の準備が整いましたら、またお呼びいたします。」
「ではごゆっくり旅の疲れを癒してくださいませ。」
そう言って讃岐八千代と水王茉雛は深々とお辞儀をし、ゆっくりと戸を閉めた。
客間にはすでに2人分の布団が敷いてある。
プラズマはその布団にダイブすると、仰向けになり天井をじっと見つめた。
「あの千里華ってやつ大丈夫かな?」
「人の家の話だ、俺たちは入り込めねぇさ。しかも水王家は元名家だ。そりゃ厳格だろうさ。」
バリスは難しい表情で答える。
「まぁ、長旅で疲れてんだ。ひとまず寝よう。」
そういうとバリスは寝転がり布団の中に潜り込むと、程なくしてプラズマも自然と眠りに入った。
これから長い夜が始まるとも知らずに。
To be continued.....
~EXTRA STORY~
「よって……水王千里華を禁固・拷問刑、この者達を即時処刑とする。」
「木勝殿!いくら何でも厳しすぎます!軍団長は自分の地位を実の妹に取られるのが怖いのです!
「そうだそうだ!!」
「横暴が過ぎますぞ!!」
「いくらなんでも限度がある!!」
「上から目線やめてくだされ!!」
「稽古が辛すぎる!!」
「一人で食糧食いすぎです!!」
「風呂が長い!!後がつっかえます!!」
「親父臭いって言わんでください!!」
「やかましい!!言いたい放題言いよって!!」
To be continued to Next EXTRA STORY.....?
【登場人物】
▼何でも屋(IMIC)
[サンダー・パーマー=ウラズマリー]
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
[バリス・スピア]
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
▼水王家
[水王 千里華]
深い青色のショートカットの少女。元名家の水王家の忍び。
戦星の森で襲われているところをプラズマ達に助けられた。
[水王 涙流華]
深い青色のポニーテールをした水王家軍団長を務める女サムライ。
[水王 木勝]
水王家十代目当主。
▼その他
[セリナ]
プラズマの幼馴染の女の子。
勤勉で真面目な性格。氷の能力を操る。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
「よって……」
「水王千里華を禁固・拷問刑、この者達を即時処刑とする。」
「え……ショケイ………?」
涙流華と呼ばれる若い女性が淡々と即時処刑を口にすると、周りの家臣達がざわつき始める。
そして涙流華の対面に座るサムライが声を上げた。
「木勝殿!いくら何でも厳しすぎます!軍団長は自分の地位を実の妹に取られるのが怖いのです!」
「そうだそうだ!!」
「横暴が過ぎますぞ!!」
「いくらなんでも限度がある!!」
その言葉に続くように、他の家臣も涙流華に思い思いのヤジを飛ばした。
「やかましい!!言いたい放題言いよって!!」
涙流華の怒声にサムライ達は静まり返る。
「涙流華よ、厳しい処遇だが熟考の末だな?」
水王家の当主として木勝が厳しい面持ちで水王家軍団長としての涙流華に問いかける。
すると涙流華は目を閉じて深く頷いた。
その様子に我慢できなくなったプラズマが声を発した。
「おい!俺たちはスパイなんかじゃねぇ!」
バリスもプラズマに続く。
「その如月家ってやつとも関係ねえしな。」
「そうだそうだーー、俺たちは貿易船で密入国しただけだ!!」
ナチュラルに余計なことを言うプラズマの後頭部を、バリスは手枷をはめたまま思い切り殴りつけた。
罪人である2人が勝手に発言したことによって、家臣達から怒号が飛び交う。
「うそをつくな!お前達他星の雇われの忍びであろう?」
「密入国などわかりやすい嘘を!」
「如月家の鉄に頼まれたのだろう!?」
家臣たちの罵詈雑言に応戦するようにプラズマ達が言い返していたときだった。
目にも止まらぬ速さで全身黒ずくめの忍が現れるや、木勝に何やら耳打ちを始めた。
家臣たちもその様子が気になったのか、段々と怒号は弱まっていく。
「やめよ。その者たちはただのよそ者だ。」
「今情報が入った。その者たちが如月家の者を退け千里華を助けたと。捕らえた如月家の忍びが吐いたようだ。」
「会議はこれにて終いだ。先ほど下された処分は取り消しとする。解散。」
木勝の号令に、家臣たちはぶつくさ言いながら大広間を後にする。
家臣たちが皆広間を出た後、涙流華が千里華の元まで行き、彼女を平手打ちにした。
パーン、と大きな音が鳴り響く。
涙流華はそのまま言葉を発することなく去っていき、その後千里華は涙を流しながら部屋を出ていった。
平手打ちに唖然としていたプラズマ達に木勝が謝罪をする。
「すまないことをした、本当に申し訳ない。旅の御仁よ。」
「あのチリカって娘はどうなるんだ?」
プラズマが尋ねる。
「千里華がしくじったことに変わりはないからな。涙流華のことだ。恐らく何らかの処罰は与えるだろう。厳し目のな。」
木勝は俯いてそう答えた。
「けどさっき聞いてた感じだとあいつら姉妹じゃないの?厳しすぎじゃないか?」
プラズマの純粋な質問に、木勝は少し間を置いた。
「娘たちも昔は仲が良かった。しかし涙流華が軍団長になってから責任を感じているのか、厳しくなりすぎた。若いが腕は立つ。それ故怯えている者も多い。間違った方向に進まなければ良いが……」
「あの見るからにカタブツな女が昔はチリカと仲良かったのか?」
プラズマがつい率直な感想を言ってしまう。
しかし、木勝もそれを気に留める様子はない。
「水王家も先代までは名家だったからな、割と名家間で交流があって開放的だったのだ。異星間の交流も盛んで娘達もよく異星に行っていた。水王家にも多くの他家が入り水王家自体に国際化の流れがあったんだが……」
木勝は語気を弱める。
そしてバリスが続きを言い当てた。
「大元帥の反乱事件が起こって、その流れに反対した重鎮達が鎖国の方向へ推し進めた、ってとこだろうな。」
「そう。それとその当時の政府軍大元帥……つまり私の父上、水王行不地は水王家の正当後継者ではなかった。」
「父上の姉様が元々大元帥だったのだが殉職してな。その背を追って父上は大元帥に上り詰めた。」
「ただでさえ、父上が当主の座を欲しがって暗殺したなどと根も葉もない噂が立っていたのに……」
「水王家の正当後継者ではない者が大元帥までのし上がり、その立場で政府に反乱を起こした。」
バリスは腕を組んで頷いている。
「なるほど。その血を引く今の当主やその娘達の発言力もそこまで強くはない、ってわけだな。」
痛いところを突かれたのか木勝の反応はない。
しかしそんなことはお構いなしにプラズマがさらに続ける。
「ていうかアンタがこのサムライ達のリーダーなんだろ?チリカの罰をなしにすりゃいいんじゃねぇの?」
「水王家は腐っても元名家。仕来りを重んじる者も多くいる。それを無視することはできんのだ。」
プラズマは分かりやすく顔をしかめている。
「しきたりで娘守れないって、なんだそりゃ。しょうもねぇ。」
「仕様もないか……」
「全くその通りだ。」
木勝はプラズマ達に聞こえない程の小声でそう呟いた。
「まぁ、それはいいとしてご客人。先程は無礼な扱い申し訳なかった。ぜひ夕餉……夕食を。」
木勝はパッと表情を変えプラズマ達に夕食の申し出をする。
「やったーー!腹減ってた!」
プラズマが大喜びし、大声を上げる。
すると甲高い音を立てて、広間の襖が開いた。
「おい、部外者!あまり水王家の中で騒ぐなよ!叩き斬るぞ!」
涙流華がプラズマたちを睨みながら警告し、襖を勢いよく閉める。
「ま、まぁ、また夕餉の支度ができ次第で呼ぶから客間で待っていてくれ。」
木勝が言い終えると、勢いよく閉められた襖が再度開き、若い女性の使用人2人が入って来る。
「私達が案内いたします。どうぞこちらへ。」
プラズマ達は木勝に促され、女性使用人の2人の後に続き廊下を歩いていく。
廊下に響く木板を踏む足音。
廊下は長くまだまだ奥へと続いている。
そんな静寂を破ったのは、やはり能天気なプラズマだった。
「なぁ、水王家ってどのくらいの家が入ってんだ?」
プラズマ達を客間へと案内する使用人に尋ねる。
答えたのは薄白い肌に、背中まで伸びた黒色長髪の女性使用人だった。
「私含め、全14家です。」
「あんたは水王家?」
「いえ、滅相もございません。」
使用人は急に歩みを止めて振り返ると、申し訳なさそうに胸の前で手を振った。
「私目は水王家に拾っていただいた讃岐家の者でございます。」
「生まれて間もなかったころ、前当主の行不地様に拾われ、こうして水王家の使用人として住まわせてもらっているのです。」
讃岐という使用人は隣に立つ使用人――明るいブロンドのポニーテールに褐色の肌をした女性を手のひらで示した。
「こちらの“茉雛”は水王家の者です。」
茉雛と呼ばれる褐色の女性は申し訳なさそうな表情で話し始める。
「私は戦争孤児だったのですが、亡くなった先代の衛菜様とご縁があり、その弟君であられました行不地様に水王家として拾っていただいたのです。」
「じゃああんたの名前って……」
「はい、畏れ多いことに水王茉雛でございます。」
「水王家には、私のように元々水王家ではない者も少なくありません。」
「へぇ~、カルチュアルエクスチェンジってやつ?」
プラズマはさも学のありそうなことを言っているが、実は晩飯のことを考えながら適当に喋っていた。
「は、はぁ……」
聞き慣れないことばに2人の使用人は困惑している。
そんな彼女達を見たバリスはプラズマの後頭部を軽くはたいた。
「困らせんな。」
「行不地様は本当に変わったお方でした。私達のような何処の馬の骨とも分からないような者を受け入れてくださったのです。」
「確かに。元名家なのにな。反発も凄かっただろうに。」
「確かに反発はありましたし、今も私達のような外様は肩身が狭いのも事実です。しかし当時は時代についていくには必要だとして開放的な施策を推し進めてくださったのです。」
「その時に多くの家が水王家に入ることとなり、今の水王家ができました。」
「じゃぁ、キサラギ家ってのは?」
讃岐という使用人はその言葉に顔を伏せた。
「如月家は……もういません。」
「如月家の当主、鉄様は水王家の副軍団長であられましたが、木勝様との意見の相違から離反されました。それからは……」
「交戦状態ってわけか。」
バリスがその続きを言い当てる。
「なんか、家の中に何個も家が入ってて大変だな。」
讃岐という使用人は胸の前で両手を握ると、肩をすくめて俯いた。
「当主の木勝様も、軍団長の涙流華様も……」
「そしてもちろん、心お優しい千里華様も大変苦労されています。」
「殿は父親のように私を育ててくださり、お二方も実の姉妹のように接してくださいましたから、この八千代も、本当に心苦しゅうございます。」
「へぇ~………」
「さぁ……着きました。客間でございます。夕餉……夕食の準備が整いましたら、またお呼びいたします。」
「ではごゆっくり旅の疲れを癒してくださいませ。」
そう言って讃岐八千代と水王茉雛は深々とお辞儀をし、ゆっくりと戸を閉めた。
客間にはすでに2人分の布団が敷いてある。
プラズマはその布団にダイブすると、仰向けになり天井をじっと見つめた。
「あの千里華ってやつ大丈夫かな?」
「人の家の話だ、俺たちは入り込めねぇさ。しかも水王家は元名家だ。そりゃ厳格だろうさ。」
バリスは難しい表情で答える。
「まぁ、長旅で疲れてんだ。ひとまず寝よう。」
そういうとバリスは寝転がり布団の中に潜り込むと、程なくしてプラズマも自然と眠りに入った。
これから長い夜が始まるとも知らずに。
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「よって……水王千里華を禁固・拷問刑、この者達を即時処刑とする。」
「木勝殿!いくら何でも厳しすぎます!軍団長は自分の地位を実の妹に取られるのが怖いのです!
「そうだそうだ!!」
「横暴が過ぎますぞ!!」
「いくらなんでも限度がある!!」
「上から目線やめてくだされ!!」
「稽古が辛すぎる!!」
「一人で食糧食いすぎです!!」
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