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第5章 祭りのあと編

第26話 どっちつかずのコウモリ

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 夏休みも終わり今は九月、二学期に入っている。

 九月は十月に行われる運動会に向けて全学年、練習に忙しいけど、演劇部はそれと並行して十一月の文化祭に向けての活動も忙しい。

 文化祭中、体育館で行われるイベントの最後を飾るのが毎回演劇部で七夕祭り以上の期待を周りは持っている。

 おそらく演劇部員全員が不安だろうけど、幸い私は『前の世界』で結果を知っているからそれほど不安は無い。でも……

 でも微妙に『前の世界』と『この世界』では未来が違ってきているから安心はできないんだけど……



 静まり返った教室で立花部長が全員に話始める。

「さぁ、今日からいよいよ文化祭に向けての活動をやるんだけど、演目はまだ決まっていません。いくつか候補があるので今日はみんなで決めたいと思います」

 いよいよかぁ……
 でも運動会のリレーも気になるんだけどなぁ......

 私はクラスの女子の中で足が一番早く、クラス代表の四人の中に選ばれていた。
 それに隣のクラスの順子から勝負を挑まれている。

 去年、私達のクラスが一位で順子のクラスが二位……
 年々、負けず嫌いな性格になっている順子は今年こそは私達のクラスに勝とうと気合いが入っているらしい。

 『前の世界』での私はそんな順子の挑発的な態度に素直に乗ってしまい、頑張り過ぎて足を痛めてしまった経験がある。

 でも今回の私は一味違う。
 順子の挑発が十五歳の私にはとても可愛らしく見えてしまっているから……
 でも手は抜けない。そういうことに敏感な彼女だからもし私が本気を出さなかったら直ぐに気付いてしまい『親友関係』が崩れてしまうかもしれない……
 

 そんな事を考えながら立花部長の話を聞いていると立花部長が突然私と彼に話をふってきた。

「石田さんに隆君? なんだか上の空みたいだけど今度の劇では副部長の隆君も勿論だけど、石田さん達四年生にも演者として出てもらう予定だからよろしくね?」

 立花部長はニヤリとした表情で私達に言った。
 というか、彼も私と同じで上の空だったんだ。
 何でだろう? 私と同じでリレーのことでも考えていたのかな?

「えっ!? そうなんですか?」

 彼は驚いた表情をしながら立花部長に聞き直した。

「うん。そのつもりよ。六年生は文化祭での劇が最後になるし、私は今回、今まで前例のなかった四年生副部長の隆君や他の四年生の人達とも一緒に演技をして良い思い出を作りたいなぁって思ったし、四年生の人達には来年に繋げて欲しいっていう想いがあるの」

 立花部長は満面の笑みでそう言った。

「隆、これはかなりのプレッシャーだな?」

 高山君が小声でニコニコしながら彼に言っている。

「高山、他人事じゃないんだぞ。お前もなんだからな」

「はいはい、俺は『木の役』じゃなかったら何でもしますよ~」

「 「 「ハッハッハッハ!!」 」 」

 皆、高山君の返事に爆笑していた。


 すると教室中が笑い声でガヤガヤしている中、影の副部長こと高田さんが口を開く。

「それでさ香織、そろそろ文化祭でやる演目候補を教えてくれない?」

 
「あっ、ごめんごめん。今から演目候補五作品を発表しますね」

 立花部長が苦笑いをしながら少し慌てた表情で言う。

「まず一つ目は『白雪姫』です」

「私、白雪姫役がしたい!!」

 佐藤さんが叫んだが立花部長はそれを無視して次の演目を発表する。

「二つ目は『シンデレラ』」

「シ、シンデレラ役もいいわね……」

 またしても佐藤さんが今度は少し遠慮気味で言ったけど、それも聞き流し立花部長は発表を続ける。

「三つめは『大きなカブ』」

「・・・・・・」

 佐藤さんは何も言わなかった。そんな分かりやすい性格の佐藤さんが私は大好きだ。

「 「佐藤さん、『カブの役』似合うんじゃない? プッ……」 」

 轟さんと安達さんが同時に言った。

 それを聞いてみんなは大爆笑だったけど佐藤さんだけは顔を真っ赤にしながら横を向いてしまう。

 引き続き立花部長が話し出す。

「四つ目は『ロミオとジュリエット』です……」

「わぁ、これ私と木場君とでやりたいなぁ……」
「なっちゃん、俺は恥ずかしくていやだよぉぉ……」

 四年生の夏野さんと木場君が小さな声で話している。

「最後に五つ目が卑怯なコウモリです!」

 えっ?

 何それ!?

 教室内が五秒ほど静まり返り、そして……

「 「 「卑怯なコウモリ~っ!? 何それっ!?」 」 」

 この作品を知っている私以外の部員が同時に声を出した。
 あれ? 彼もあまり反応が無かったような……

 そして山口先生が『卑怯なコウモリ』について説明を始めだす。

「このお話はイソップ寓話の一つで昔、鳥の一族と獣の一族がお互いに争っていたんだけど、情勢を見守っていたコウモリは、鳥の一族が優勢になると「私は鳥の仲間です。あなたたちと同じように羽を持っています。」と言って鳥側に付き、獣の一族が優勢になると「私は獣の仲間です。ネズミのような灰色の毛皮と牙があります。」と言って獣側に付いて形勢が有利な方に加担していたらしいの。でもその後、鳥と獣は和解して争いが終わります。すると、何度も寝返ったコウモリはどちらの種族からも嫌われちゃって仲間外れにされて昼間は獣や鳥に追い掛け回されるようになり、やがて暗い洞窟に身を潜めるようになりました。みたいなお話です」

「へぇ、おもしろそうじゃん」

 福田さんがそう言うと、

「それじゃ、コウモリ役は福田で決定ね!!」

 佐藤さんがすかさずそう言った。

「なんで俺なんだよぉぉ!? 俺はコウモリみたいに全然、卑怯じゃないよ~っ!!」

 福田さんがそう言い返すと教室中が大爆笑になった。

「山口先生、他の四作品はみんなよく知っているお話しだし、『卑怯なコウモリ』のお話だったらみんな最後まで飽きずに観てくれるんじゃないかな!?」

 高田さんが目を輝かせながら言うと、

「そうね。これだったら登場人物もたくさんいるし、みんな少しずつでも演技もできるんじゃないかな」

 大浜さんがこれに決まりといった表情で言った。

「森や草原が多そうですけど、今回、木の役は絶対嫌ですよ~」

 そう高山君が言うと再び教室中が大爆笑になった。


「どっちつかずのコウモリかぁ……」

 立花部長が何気にそう呟いたのが私はとても気になった。

 リレーと演劇、どっちも気になってどっちつかず……
 まさにコウモリは今の私みたいだなぁ……
 私の中身は十五歳なんだから、どっちも真剣に頑張らないとね。

 私がそんな事を思っていると山口先生が再び話し出す。

「このお話にはねぇ。実はまだ続きがあるのよ。本番当日の時間の関係でコウモリが嫌われるところまでにするか、時間があれば続きのお話までするか、一度ちゃんと脚本を書いてから練習しないと時間がわからないのよねぇ……だから今回の脚本は先生が今週中に書いてくるから次の部活は来週の月曜からにしましょう。それまではみんな運動会の練習を頑張ってちょうだい!!」

 私は山口先生の言葉に救われた。
 これでリレーの練習ができる。

 私は何気に彼の顔を見たけど、彼もどことなくホッとした表情をしていたので小声で彼に話しかけてみた。

「これでリレーの練習ができるね? 五十鈴君も私もリレーの選手だしさ」

 彼は一瞬ドキッとした表情をした後に笑顔でこう言った。

「ほ、ほんと助かったよ。今年のリレーは絶対に一位を取りたいんだ……」

 私は彼が私と同じで、さっきからリレーのことを考えていたんだという事が分かり、とても嬉しい気持ちになった。

 そして数十秒後
 立花部長が思い出したかのように全員に問いかける。

「そういえば文化祭の演目は『卑怯なコウモリ』でいいのかな?」


「 「 「異議な――――――――――――――――――しっ!!!!」 」 」




――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。

運動会でのリレーも文化祭での演劇も、どっちも気になる浩美
そんな中、文化祭での演劇の演目は『卑怯なコウモリ』に決定する。
どっちつかずのコウモリと自分を重ねながら話をきていた浩美だが隆も同じ思いだったことを知り、少し嬉しくなる浩美だった。

これからの数ヶ月、運動会と文化祭に向けて浩美達は走り出す。

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
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