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第一章・ハイテク・プリズン『電子レンジ地獄』
第七話・ドリアとお茶と飛行機雲
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「あまちゃん、いや、アマギさん、あの……」
「『あまちゃん』でいいよ。この世界ではね。はい、ドリア」
ドリアを差し出すあまちゃん。富樫はそれを受け取り、その表面にそっと触れてみた。さっきは触れないほどアツアツだったのに、今はいい感じの温度になっている。
「お弁当の温め過ぎ、私もついついやっちゃうんだけど、食べる前に冷めちゃうことがほとんどだから、実際には、少しアツアツくらいの方がちょうどいいのよね。はい、スプーンどうぞ」
「あ、ありがと……」
あまちゃんが透明のラップを取り、フタをあけると、ほわっと湯気がたちのぼった。
「うん……、いい感じ。ここまでは順調ね、トガシ君」
「ああ……。で、お前は誰だ。あまちゃんの姿をしているが、俺にはわかる。お前はニセモノだよな?」
「ええ、そうよ。私はニセモノ。あまちゃんをモデルに作られた、この仮想世界でしか生きられないバーチャルな生き物」
「そうか……、お前もセファに作られたのか?」
「うん、そうよ」
富樫はドリアのラップを外してフタを開け、スプーンで食べ始めた。あまちゃんの言う通り、温めはちょうどいい感じだ。表面の、焼けてとろけたチーズ。その下の具だくさんのトロトロに煮込まれた、ピリ辛のカレー。ジャガイモやニンジン、ブロッコリーといった野菜に加えて、エビ、イカ、ホタテなどが入っている。たっぷりしきつめられたカレーをどかすと、その下に、ターメリックで黄色く色付けされた、パラパラのピラフが出てきた。
「すげえ、贅沢だな。これで400円ってめちゃめちゃ安い。頑張ってるな」
「うん、しかもすごくおいしい。癖になりそう」
「む、ほんとだ。うまい! ってこれ、現実でも新発売されてるものなのかな。コンビニでこんなうまいドリアなんて、信じられないぞ」
もぐもぐと口を動かしながら、あまちゃんが答える。
「そう? 私もよくコンビニでドリアを買って食べるけど、どれもおいしいけど?」
「ん? お前さっき、バーチャルな生き物って言ったじゃないか。なんでコンビニの記憶があるんだ?」
「それはね、私は現実のあまちゃんを完全再現しているから、記憶もあまちゃんと全く同じなの。人間のような、感情までは持ってないけど、あまちゃんが何を考えていたか、どう感じていたかくらいは、私にもわかるの」
「そうなのか! すげえなセファ」
富樫は猛烈な勢いでドリアを食べていたが、ふっとその手を止めて、あまちゃんを見た。
「なあ……、お前の記憶に、俺に怒鳴られた時の記憶はあるのか?」
「おにぎりの温めの時の事ね。あるよ。あれはすごく悲しかった」
「そうか……、ゴメンな。俺、コンビニのバイトがこんなに大変だなんて、知らなかったんだ。なんでおにぎりのあっためくらいで失敗するんだと、腹が立ってさ。でも、腹が立った原因は、それだけじゃなくてさ……」
「駄目よ、私に謝っても。私は絶対に許さないから」
「え?」
あまちゃんもスプーンの手をとめて、富樫を見て、くすっと笑った。
「現実に戻った後で、本物のあまちゃんに謝って。だって私の記憶や意識は、あなたがゲームをクリアしたら、消えちゃうからね」
にこっと笑って再びドリアを食べ始めるあまちゃん。
「え、消えちゃうって?」
「私はこのゲームで、あなたに課題を与えるために作られたNPC。あなたがこのゲームをクリアしたら、もう用済みなのよ。あ! でも気にしないで。さっきも言ったけど、この世界の仮想の人間には、記憶はあるけど感情はないから」
最後の一口を、ぱくっと口に入れ、あまちゃんは空になった容器とスプーンをコンビニ袋に入れた。
「トガシ君も早く食べて。近くに自動販売機があるから、お茶を買いに行こう。あ、それと、言い忘れてたけど、このクリア報酬のデートは、30分で終了だからね」
「え!! 30分? なんでそんな大事なことを! で、今何分だ?」
富樫は慌ててドリアを口に押し込んだ。
「今25分。あと5分よ。自販機はこっち!」
あまちゃんが富樫の手を握って引っ張った。
「お、おい……」
しょうがなく立ち上がり、あまちゃんに手を引かれて早歩きの富樫。自動販売機はすぐに見つかった。
「お金は私が払うね。どうせバーチャルなお金だから、財布からいくらでも出てくるの」
「ほ、ほんとか……」
あまちゃんは財布から小銭を出し、自動販売機に入れ始めた。
そのあまちゃんのちっちゃな後ろ姿を見ながら富樫は思う。そういえばここは仮想世界だったな。あまちゃんもこの世界だけの、バーチャルな生物だとしたら、例えば俺が今ここで後ろからあまちゃんに抱きついても、誰にも迷惑はかからない、はずだ……。ごくり、とツバを飲み込みあまちゃんの背後ににじり寄る富樫。そんな気配を感じ取ったのか、あまちゃんが言った。
「あ、そうそう、私にエッチなことをしようとすると、センサーが働いてこのデートは中止になるから、変なことは考えないで」
「そ、そうか、エッチなこと禁止な、そんなことはしないけどな、ははは!」
その後、あまちゃんに買ってもらったお茶を、ぐびぐびと飲みながら、富樫はいつも飲んでいるはずのそのお茶も、すごくおいしいことに気づいた。
(変だな、いつものお茶、いつもの味なのに、こんなにおいしいなんて。そうか、横にあまちゃんがいるからか。いつものドリア、いつものお茶も、二人でならこんなにおいしくなるんだ……)
ぐびぐびとお茶を飲み終えた富樫は、ふうっと息をついて青空を見上げた。そこには飛行機雲が描かれていた。あまちゃん、またこういうデートって出来るかな、とたずねようとした瞬間、あまちゃんが言った。
「はい、30分経ちました、これでデートは終了です、お疲れ様でしたー!」
「何!?」
あっという間の30分、あっという間のあまちゃん(バーチャル)との楽しいデートの時間は、こうしてあっという間に過ぎ去ったのであった。
「『あまちゃん』でいいよ。この世界ではね。はい、ドリア」
ドリアを差し出すあまちゃん。富樫はそれを受け取り、その表面にそっと触れてみた。さっきは触れないほどアツアツだったのに、今はいい感じの温度になっている。
「お弁当の温め過ぎ、私もついついやっちゃうんだけど、食べる前に冷めちゃうことがほとんどだから、実際には、少しアツアツくらいの方がちょうどいいのよね。はい、スプーンどうぞ」
「あ、ありがと……」
あまちゃんが透明のラップを取り、フタをあけると、ほわっと湯気がたちのぼった。
「うん……、いい感じ。ここまでは順調ね、トガシ君」
「ああ……。で、お前は誰だ。あまちゃんの姿をしているが、俺にはわかる。お前はニセモノだよな?」
「ええ、そうよ。私はニセモノ。あまちゃんをモデルに作られた、この仮想世界でしか生きられないバーチャルな生き物」
「そうか……、お前もセファに作られたのか?」
「うん、そうよ」
富樫はドリアのラップを外してフタを開け、スプーンで食べ始めた。あまちゃんの言う通り、温めはちょうどいい感じだ。表面の、焼けてとろけたチーズ。その下の具だくさんのトロトロに煮込まれた、ピリ辛のカレー。ジャガイモやニンジン、ブロッコリーといった野菜に加えて、エビ、イカ、ホタテなどが入っている。たっぷりしきつめられたカレーをどかすと、その下に、ターメリックで黄色く色付けされた、パラパラのピラフが出てきた。
「すげえ、贅沢だな。これで400円ってめちゃめちゃ安い。頑張ってるな」
「うん、しかもすごくおいしい。癖になりそう」
「む、ほんとだ。うまい! ってこれ、現実でも新発売されてるものなのかな。コンビニでこんなうまいドリアなんて、信じられないぞ」
もぐもぐと口を動かしながら、あまちゃんが答える。
「そう? 私もよくコンビニでドリアを買って食べるけど、どれもおいしいけど?」
「ん? お前さっき、バーチャルな生き物って言ったじゃないか。なんでコンビニの記憶があるんだ?」
「それはね、私は現実のあまちゃんを完全再現しているから、記憶もあまちゃんと全く同じなの。人間のような、感情までは持ってないけど、あまちゃんが何を考えていたか、どう感じていたかくらいは、私にもわかるの」
「そうなのか! すげえなセファ」
富樫は猛烈な勢いでドリアを食べていたが、ふっとその手を止めて、あまちゃんを見た。
「なあ……、お前の記憶に、俺に怒鳴られた時の記憶はあるのか?」
「おにぎりの温めの時の事ね。あるよ。あれはすごく悲しかった」
「そうか……、ゴメンな。俺、コンビニのバイトがこんなに大変だなんて、知らなかったんだ。なんでおにぎりのあっためくらいで失敗するんだと、腹が立ってさ。でも、腹が立った原因は、それだけじゃなくてさ……」
「駄目よ、私に謝っても。私は絶対に許さないから」
「え?」
あまちゃんもスプーンの手をとめて、富樫を見て、くすっと笑った。
「現実に戻った後で、本物のあまちゃんに謝って。だって私の記憶や意識は、あなたがゲームをクリアしたら、消えちゃうからね」
にこっと笑って再びドリアを食べ始めるあまちゃん。
「え、消えちゃうって?」
「私はこのゲームで、あなたに課題を与えるために作られたNPC。あなたがこのゲームをクリアしたら、もう用済みなのよ。あ! でも気にしないで。さっきも言ったけど、この世界の仮想の人間には、記憶はあるけど感情はないから」
最後の一口を、ぱくっと口に入れ、あまちゃんは空になった容器とスプーンをコンビニ袋に入れた。
「トガシ君も早く食べて。近くに自動販売機があるから、お茶を買いに行こう。あ、それと、言い忘れてたけど、このクリア報酬のデートは、30分で終了だからね」
「え!! 30分? なんでそんな大事なことを! で、今何分だ?」
富樫は慌ててドリアを口に押し込んだ。
「今25分。あと5分よ。自販機はこっち!」
あまちゃんが富樫の手を握って引っ張った。
「お、おい……」
しょうがなく立ち上がり、あまちゃんに手を引かれて早歩きの富樫。自動販売機はすぐに見つかった。
「お金は私が払うね。どうせバーチャルなお金だから、財布からいくらでも出てくるの」
「ほ、ほんとか……」
あまちゃんは財布から小銭を出し、自動販売機に入れ始めた。
そのあまちゃんのちっちゃな後ろ姿を見ながら富樫は思う。そういえばここは仮想世界だったな。あまちゃんもこの世界だけの、バーチャルな生物だとしたら、例えば俺が今ここで後ろからあまちゃんに抱きついても、誰にも迷惑はかからない、はずだ……。ごくり、とツバを飲み込みあまちゃんの背後ににじり寄る富樫。そんな気配を感じ取ったのか、あまちゃんが言った。
「あ、そうそう、私にエッチなことをしようとすると、センサーが働いてこのデートは中止になるから、変なことは考えないで」
「そ、そうか、エッチなこと禁止な、そんなことはしないけどな、ははは!」
その後、あまちゃんに買ってもらったお茶を、ぐびぐびと飲みながら、富樫はいつも飲んでいるはずのそのお茶も、すごくおいしいことに気づいた。
(変だな、いつものお茶、いつもの味なのに、こんなにおいしいなんて。そうか、横にあまちゃんがいるからか。いつものドリア、いつものお茶も、二人でならこんなにおいしくなるんだ……)
ぐびぐびとお茶を飲み終えた富樫は、ふうっと息をついて青空を見上げた。そこには飛行機雲が描かれていた。あまちゃん、またこういうデートって出来るかな、とたずねようとした瞬間、あまちゃんが言った。
「はい、30分経ちました、これでデートは終了です、お疲れ様でしたー!」
「何!?」
あっという間の30分、あっという間のあまちゃん(バーチャル)との楽しいデートの時間は、こうしてあっという間に過ぎ去ったのであった。
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