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奇跡の少女
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男の手には鉄パイプが握られている。
「おいっ!」
ヤバイ、と思った時には既に駆け出していた。
「若っ!?」
前の男の攻撃を受けるのに必死な少女の後方から振り下ろされるそれを手早く手刀で叩き落す。
「うあっ!!」
そこに自分が駆け出したタイミングで瞬時にフォローに動いてくれていた門脇が飛び込んできて、その男の腕を掴み捻り上げて拘束した。
「ナイス!門脇っ!!」
上手い具合に連携が取れ桐生は声を上げると、今度は胸倉を掴まれている少女を庇うように間へと入り込み、掴んでいる男の手を弾くと、その顔面に一撃を食らわせた。男は後方へと吹っ飛び、地に倒れ伏すと、そのまま意識を手放した。
そうして、この騒動は幕を閉じたのである。
「やれやれ…」
桐生は大きな溜息を吐くと、最後の一撃を放ったことで未だに痺れている右手を小さく振った。そして、意外にも大人しくその場に留まっている少女へと向き直る。
実は、先程彼女を庇った時に逃げられないようにしっかりその腰をホールドしていたのだ。
今までにない近い距離で…というより、思い切り腰に手を回して抱えているような状態ではあるが、素直に自らの腕に収まったままでいるその少女へと視線を落とした。
少女は俯いていた。
こんなに至近距離にいるのに顔が見えない。体力を使い果たしてしまったのか、いつものように逃げる様子はないようだった。
とうとう、その素顔を知る時が来たのだ。桐生は緊張気味に声を掛けた。
「おい、お前…大丈夫か?」
すると、少女はビクリ…と小さく身体を揺らすと、ゆっくりと顔を上げた。
ただ、上を向くだけの動作であるのに。桐生にとって、それはまるでスローモーションのように長い時のように感じていた。
前に掛かっていた長い髪がさらりと肩を流れる。そして現れる白い顔。伏せられた長い睫毛が上向くと同時に瞬くと、そこから大きな透き通るような瞳が覗いた。
「お…前…」
それは初めて会った時。一度だけ保健室で見た、忘れられない少女の顔だった。
毎日のように会ってはいるのに普段は分厚い眼鏡でその素顔は隠されてしまい、見ることは叶わない美しい瞳。それがこちらを真っ直ぐに見上げていた。
「如月…。お前、何で…」
「………」
彼女は表情を変えることなく無言でこちらを見上げている。
「何で…お前が、こんなことやってんだよ?」
別に彼女のことを何か知っている訳じゃない。ただの同じ学校に通う下級生というだけだ。
だが、信じられない気持ちで一杯だった。
あんな並外れたパワーを持つ、ある意味カリスマ的な存在の人物が…。今まで追い掛けても追い掛けても捕まえられなかったアイツが、まさかこんな普通の少女だったなんて。
桐生は静かに反応を待っていた。
この状況で彼女がどう出るのか。そして、こうして大人しくこの状況に留まっている以上は何かを語ってくれるものと思っていたのだ。
だが、紅葉は無言で桐生を見つめてくるだけだった。特に抵抗することもなく、静かに。
その、あまりに反応のない紅葉に、桐生は次第に怪訝な表情を浮かべる。
「…如月?」
そんな二人の様子を何となく遠巻きに眺めていた組の者たちは、不思議そうに桐生の周りに集まって来た。
「おいっ!」
ヤバイ、と思った時には既に駆け出していた。
「若っ!?」
前の男の攻撃を受けるのに必死な少女の後方から振り下ろされるそれを手早く手刀で叩き落す。
「うあっ!!」
そこに自分が駆け出したタイミングで瞬時にフォローに動いてくれていた門脇が飛び込んできて、その男の腕を掴み捻り上げて拘束した。
「ナイス!門脇っ!!」
上手い具合に連携が取れ桐生は声を上げると、今度は胸倉を掴まれている少女を庇うように間へと入り込み、掴んでいる男の手を弾くと、その顔面に一撃を食らわせた。男は後方へと吹っ飛び、地に倒れ伏すと、そのまま意識を手放した。
そうして、この騒動は幕を閉じたのである。
「やれやれ…」
桐生は大きな溜息を吐くと、最後の一撃を放ったことで未だに痺れている右手を小さく振った。そして、意外にも大人しくその場に留まっている少女へと向き直る。
実は、先程彼女を庇った時に逃げられないようにしっかりその腰をホールドしていたのだ。
今までにない近い距離で…というより、思い切り腰に手を回して抱えているような状態ではあるが、素直に自らの腕に収まったままでいるその少女へと視線を落とした。
少女は俯いていた。
こんなに至近距離にいるのに顔が見えない。体力を使い果たしてしまったのか、いつものように逃げる様子はないようだった。
とうとう、その素顔を知る時が来たのだ。桐生は緊張気味に声を掛けた。
「おい、お前…大丈夫か?」
すると、少女はビクリ…と小さく身体を揺らすと、ゆっくりと顔を上げた。
ただ、上を向くだけの動作であるのに。桐生にとって、それはまるでスローモーションのように長い時のように感じていた。
前に掛かっていた長い髪がさらりと肩を流れる。そして現れる白い顔。伏せられた長い睫毛が上向くと同時に瞬くと、そこから大きな透き通るような瞳が覗いた。
「お…前…」
それは初めて会った時。一度だけ保健室で見た、忘れられない少女の顔だった。
毎日のように会ってはいるのに普段は分厚い眼鏡でその素顔は隠されてしまい、見ることは叶わない美しい瞳。それがこちらを真っ直ぐに見上げていた。
「如月…。お前、何で…」
「………」
彼女は表情を変えることなく無言でこちらを見上げている。
「何で…お前が、こんなことやってんだよ?」
別に彼女のことを何か知っている訳じゃない。ただの同じ学校に通う下級生というだけだ。
だが、信じられない気持ちで一杯だった。
あんな並外れたパワーを持つ、ある意味カリスマ的な存在の人物が…。今まで追い掛けても追い掛けても捕まえられなかったアイツが、まさかこんな普通の少女だったなんて。
桐生は静かに反応を待っていた。
この状況で彼女がどう出るのか。そして、こうして大人しくこの状況に留まっている以上は何かを語ってくれるものと思っていたのだ。
だが、紅葉は無言で桐生を見つめてくるだけだった。特に抵抗することもなく、静かに。
その、あまりに反応のない紅葉に、桐生は次第に怪訝な表情を浮かべる。
「…如月?」
そんな二人の様子を何となく遠巻きに眺めていた組の者たちは、不思議そうに桐生の周りに集まって来た。
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