未来に帰りたい石山さんと家に帰りたい昇坂くん。

tanuki

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第4話 なにが「ふぉっふぉっふぉ」だ

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「昇坂くん、今から私たちはサンタクロースになるわ」

 石上さんは僕にそう言い放つと、勝手に『コミュニティハウス光』の建物へと入っていく。

 その様子は勝手知ったるといったもので、入り口の門を開き、スタスタと玄関へむかっていった。

「これは昇坂くんの分よ」

 外観よりもこじんまりとした玄関をぬけ、特に誰とも出くわさずに『コミュニティルーム』と書かれた部屋へ通された。そこにはいくつかの学校机と揃いの椅子が並んでいる。

「なにそれ」

 僕の疑問には返答はない。脈絡もなしに手渡されたものは、パンパン膨れた大きな白い袋だった。持ってみるとけっこう重い。

「私ね、子どもが嫌いなの」

 相変わらず会話ができない人である。未来人は会話というツールを捨てたのかもしれない。

 先ほど「サンタクロースになる」と宣言した人とは思えない台詞を吐きながら、石上さんはそのまま部屋から出ようとスライド式のドアに手をかける。

「え、いや、ちょっとどこいくの?」

 見知らぬ場所に取り残されそうになった焦りから、僕の喉からは思いのほか必死な声がでた。

 石上さんがドアを見つめたまま言う。

「もちろん着替えてくるの。着いてきちゃだめよ。えっち」

 何がもちろんなのか全然わからなかったが、無表情に「えっち」と言った石上さんがかなり良かったので、僕は「待て」をされた犬のように大人しく待つことにした。

 カッチ、コッチ、としばらく時計の針が動く音だけが室内に響いた。今頃気がついたことだが、部屋の壁には子どもが描いたような似顔絵や草花の絵が画鋲でとめてあった。

 僕がぼんやりとその壁に貼られた絵を見ていると、時計の音に紛れて控え目なドアの開く音がした。

 入ってきたのは完璧なサンタスタイルとなった石上さんだった。赤の上着とズボンに、ポンポンのついた帽子、顔には白くて長い髭が張り付いている。なるほど。僕が持たされているのはサンタが持つ袋のようだ。

「ふぉっふぉっふぉ」

 なにが「ふぉっふぉっふぉ」だ。正直、僕は怒っていた。

 

 この多様化の時代、恥ずかしげもなくミニスカサンタだって良いじゃないか。女の子のサンタスタイルはもうそっちの方がポピュラーなはずだ。まぁ本当にされたら僕には刺激が強過ぎて目のやり場に困っていた気はするが。

「ふぉっふぉっふぉ」

 石上さんは笑い声の練習をしていた。その表情こそいつもと変わらないが、額からは汗が垂れている。見ているこっちも暑い。

 ひとしきり笑い声の練習をした後、満足した石上さんはようやく僕におおまかな説明をはじめた。

 どうやらまずこの『コミュニティハウス光』という建物は孤児院らしい。何となく施設の様子で想像はついている部分もあったが。石上さんの戸籍の持ち主……ええいややこしいなこの設定。石上さん(仮)もここでお世話になっていたという。何でも孤児院のイベントはクリスマスのみらしく、石上さんの解釈によるとこの施設のイベントは全て『クリスマス』なるらしい。

 石上さんの「未来」のための計画では、刺激に飢えた孤児院の子どもたちに突発的なプレゼントを渡すことによってその欲望を刺激し、ふたたび刺激のない生活に戻すことで子どもたちは潜在的な資本主義の豚になるのだという(ほぼ原文まま)

 心の底から「どうしてそんなことを?」と僕が聞くと

「私は未来人だから」

 という返答がきた。最近こういっておけば何とかなると思ってないか。

 しかし、未来はディストピアでもなっているのだろうか?
 それとも行き過ぎた資本主義により滅ぶことが義務付けられているのか?
 どちらにせよ未来人の価値観は現代人には僕には計りきれなかった。

「昇坂くんは現代人だものね」

 言っていることはふざけているが、石上さんは顔が整っている分なんとなく雰囲気がある。

「そういうことよ」

 それだけ言うと、得意の遠くを見つめる眼差しをする石上さん。

 格好つけているところ悪いけど、ボタボタ汗を垂らす石上さんにハンカチを渡しておいた。
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