23 / 29
第23話 ハートのペンダント
しおりを挟む
「まずは敵と思わしき黒の旅団、その組織の一員がどこに潜んでいるかを探る必要がありますわね」
一人張り切るアリシアは、首から下げたハート型のペンダントを徐に外す。手にしたそれを垂直に床に垂らした。
魔力円環によって矢印のように尖ったハートの先端部に光の精霊レムが集まり、彼らが光のしずくを落とす。
それが床で弾けると、またたく間に燐光が魔法陣を描いていく。
「悪しきモノの下まで導け――光の導き!」
アリシアが呪文を唱えると、ペンダントの先端部がカタカタと音を鳴らす。やがて独りでに部屋の外を指し示した。
「邪気に反応していますわ!」
「(嘘だろ!?)」
俺は【恋と魔法とクライシス】において、彼女がサポート系ヒロインと呼ばれていたことを思い出していた。
王族である彼女の血を好む精霊は多い。中でも光の精霊は特に王家の血を好むと云われている。
アリシアは邪な心に敏感な光の精霊の特性を活かし、悪意をダウジングしていたのだ。
たしかゲームでは彼女固有の光魔法だったと記憶している。
「敵はこっちですわよ、リオニス!」
「(ちょっと待つのだ!)」
普段のお淑やかな彼女は完全に鳴りをひそめ、本当のアリシア・アーメントが姿を現した瞬間である。
ハートのペンダントが矢印のように指し示す方角に彼女は歩きはじめ、徐々にその速度を上げていく。
気を抜いてしまえば見失ってしまいそうなスピードで、彼女は寮を飛び出した。
「(この方角って!? 湖の方ではないのか?)」
敵はてっきり寮、もしくは校舎のどこかに身をひそめているものとばかり思っていた。
「より反応が強くなっていきますわ!」
ペンダントに宿った光は激しさを増し、まるで大型犬でも散歩させているかのようにアリシアを引っ張っていく。
「敵は近いですわよ!」
黄昏色に染まる幻想的な湖が近付いてくると、アリシアはゆっくりとスピードを落として立ち止まる。
「光の導きはこの辺りを示していますわね」
しかし、そこは湖の畔。
周辺には誰の姿も見当たらない。
「(――あれは!?)」
そう思ったのだが、俺は茂みの奥に人影を発見した。
肩口で切りそろえられた黒髪がよく似合う、女教師の姿を。
「サシャール先生?」
「――――!?」
茂みの奥で身をかがめていたサシャール先生が、アリシアの声にびっくりして立ち上がった。
「Ms.アーメントにMr.グラップラー! ど、どうしたのですか? こんなところで」
慌てて振り向いたサシャール先生は息を飲むように俺たちの名前を口にした直後、すぐにいつもの優しい口調に戻った。
「先生こそ、一体何をしているんですの?」
訝しむアリシアのペンダントは、湖に敵がいることを知らせるように光っていた。
「少し気晴らしに散歩をしていただけですよ」
サシャール先生は女性らしいしなやかな指先で眼鏡のブリッジを持ち上げ、取り繕うように微笑んだ。
しかし、先生のその言葉に俺は違和感を覚えていた。
なぜなら、先生の衣服が泥で汚れていたのだ。
散歩をしていただけだというのに、なぜこれ程までにサシャール先生の衣服は汚れているのだろう。
「散歩……ですの?」
アリシアの目線がゆっくりサシャール先生のパンツ――膝に付着した泥へと向けられる。
「現在アルカミアでは恐ろしい事件が起きていると聞きましたわ。そんな折、サシャール先生は散歩を楽しんでいましたの?」
「気分転換も必要なのですよ、Ms.アーメント。歩くことで脳が活性化し、何か敵につながるヒントが得られるかもしれませんから」
「それはとても素晴らしいですわね。だからこそ説明してもらえると有り難いですわ」
「説明、ですか?」
「先生は赤ん坊のように膝をついてお散歩をするのかしら? ……泥、ついていますわよ」
「!?」
アリシアの鋭い指摘に、サシャール先生は慌てて羽織で脚元を隠した。
うつむいてしまったサシャール先生に、アリシアは毅然とした態度で問い詰める。
「本当はここで何をしていたんですの?」
「………」
「沈黙は話せない事をしていた、そう捉えられても仕方ないですわよ」
「…………」
黙り込むサシャール先生に不信感を募らせたアリシアは、この事をヴィストラールに報告すると身をひねった。
刹那――火花が飛び散る。
「――――ッ!」
「Mr.グラップラー!?」
杖剣を抜いたサシャール先生がアリシアへと突撃したのだ。
「リオニス!?」
しかし、間一髪二人の間に割り込むことに成功した俺は、サシャール先生の一撃を杖剣で受け止めていた。
「どういうつもりだッ!」
「少し眠ってもらうだけです!」
刀身がわずかに光を帯びている。恐らく眠りの効果がある魔法を付与しているのだろう。
「(眠り剣かッ!)」
不殺の剣は斬った者を回復させ、眠り剣は相手を深い眠りへと誘う。
掠っただけでひどい睡魔に襲われる危険な剣である。
「眠る……私を狙って!? 信じられませんわ!」
競り合うサシャール先生を力任せに押し返すと、怒りに震えるアリシアが一歩前に躍り出る。
そのまま流れるような動きで、杖剣の切っ先をサシャール先生へと向けていた。
「許せませんわ! なぜこのようなことを! どうしてみんなを石に変えたんですのッ!」
「生徒を石に変えるような真似ッ、私はしません!」
「今さらそのような言い訳が通用すると思っておりますの!」
「やはり、説明しても無駄なようですね」
「白々しい言い訳はお止しなさい! 口封じに私に刃を向けた貴方の言葉を誰が信じると言いますのッ!」
アリシアはサシャール先生に向けていた杖剣を天に掲げ、茜色の空へと向かって特大サイズの光玉を放った。
「うっ!?」
「(眩し!)」
強烈な光が辺り一帯に降り注ぐ。
「直に他の先生方がやって来ますわ。貴方はもう終わりですわよ」
これにはさすがのサシャール先生も観念したのか、力が抜け落ちたように腕がだらりと垂れ下がる。
「終わったか」
これにて一件落着かと思った矢先――
「え?」
「ん?」
水飛沫を舞い上げる巨大な何かが、突如湖から勢いよく飛び出した。
「なんですの……これは!?」
「嘘だろ!?」
全長数十メートルはあるだろう巨大な蛇――バジリスクが姿を現したのだ。
一人張り切るアリシアは、首から下げたハート型のペンダントを徐に外す。手にしたそれを垂直に床に垂らした。
魔力円環によって矢印のように尖ったハートの先端部に光の精霊レムが集まり、彼らが光のしずくを落とす。
それが床で弾けると、またたく間に燐光が魔法陣を描いていく。
「悪しきモノの下まで導け――光の導き!」
アリシアが呪文を唱えると、ペンダントの先端部がカタカタと音を鳴らす。やがて独りでに部屋の外を指し示した。
「邪気に反応していますわ!」
「(嘘だろ!?)」
俺は【恋と魔法とクライシス】において、彼女がサポート系ヒロインと呼ばれていたことを思い出していた。
王族である彼女の血を好む精霊は多い。中でも光の精霊は特に王家の血を好むと云われている。
アリシアは邪な心に敏感な光の精霊の特性を活かし、悪意をダウジングしていたのだ。
たしかゲームでは彼女固有の光魔法だったと記憶している。
「敵はこっちですわよ、リオニス!」
「(ちょっと待つのだ!)」
普段のお淑やかな彼女は完全に鳴りをひそめ、本当のアリシア・アーメントが姿を現した瞬間である。
ハートのペンダントが矢印のように指し示す方角に彼女は歩きはじめ、徐々にその速度を上げていく。
気を抜いてしまえば見失ってしまいそうなスピードで、彼女は寮を飛び出した。
「(この方角って!? 湖の方ではないのか?)」
敵はてっきり寮、もしくは校舎のどこかに身をひそめているものとばかり思っていた。
「より反応が強くなっていきますわ!」
ペンダントに宿った光は激しさを増し、まるで大型犬でも散歩させているかのようにアリシアを引っ張っていく。
「敵は近いですわよ!」
黄昏色に染まる幻想的な湖が近付いてくると、アリシアはゆっくりとスピードを落として立ち止まる。
「光の導きはこの辺りを示していますわね」
しかし、そこは湖の畔。
周辺には誰の姿も見当たらない。
「(――あれは!?)」
そう思ったのだが、俺は茂みの奥に人影を発見した。
肩口で切りそろえられた黒髪がよく似合う、女教師の姿を。
「サシャール先生?」
「――――!?」
茂みの奥で身をかがめていたサシャール先生が、アリシアの声にびっくりして立ち上がった。
「Ms.アーメントにMr.グラップラー! ど、どうしたのですか? こんなところで」
慌てて振り向いたサシャール先生は息を飲むように俺たちの名前を口にした直後、すぐにいつもの優しい口調に戻った。
「先生こそ、一体何をしているんですの?」
訝しむアリシアのペンダントは、湖に敵がいることを知らせるように光っていた。
「少し気晴らしに散歩をしていただけですよ」
サシャール先生は女性らしいしなやかな指先で眼鏡のブリッジを持ち上げ、取り繕うように微笑んだ。
しかし、先生のその言葉に俺は違和感を覚えていた。
なぜなら、先生の衣服が泥で汚れていたのだ。
散歩をしていただけだというのに、なぜこれ程までにサシャール先生の衣服は汚れているのだろう。
「散歩……ですの?」
アリシアの目線がゆっくりサシャール先生のパンツ――膝に付着した泥へと向けられる。
「現在アルカミアでは恐ろしい事件が起きていると聞きましたわ。そんな折、サシャール先生は散歩を楽しんでいましたの?」
「気分転換も必要なのですよ、Ms.アーメント。歩くことで脳が活性化し、何か敵につながるヒントが得られるかもしれませんから」
「それはとても素晴らしいですわね。だからこそ説明してもらえると有り難いですわ」
「説明、ですか?」
「先生は赤ん坊のように膝をついてお散歩をするのかしら? ……泥、ついていますわよ」
「!?」
アリシアの鋭い指摘に、サシャール先生は慌てて羽織で脚元を隠した。
うつむいてしまったサシャール先生に、アリシアは毅然とした態度で問い詰める。
「本当はここで何をしていたんですの?」
「………」
「沈黙は話せない事をしていた、そう捉えられても仕方ないですわよ」
「…………」
黙り込むサシャール先生に不信感を募らせたアリシアは、この事をヴィストラールに報告すると身をひねった。
刹那――火花が飛び散る。
「――――ッ!」
「Mr.グラップラー!?」
杖剣を抜いたサシャール先生がアリシアへと突撃したのだ。
「リオニス!?」
しかし、間一髪二人の間に割り込むことに成功した俺は、サシャール先生の一撃を杖剣で受け止めていた。
「どういうつもりだッ!」
「少し眠ってもらうだけです!」
刀身がわずかに光を帯びている。恐らく眠りの効果がある魔法を付与しているのだろう。
「(眠り剣かッ!)」
不殺の剣は斬った者を回復させ、眠り剣は相手を深い眠りへと誘う。
掠っただけでひどい睡魔に襲われる危険な剣である。
「眠る……私を狙って!? 信じられませんわ!」
競り合うサシャール先生を力任せに押し返すと、怒りに震えるアリシアが一歩前に躍り出る。
そのまま流れるような動きで、杖剣の切っ先をサシャール先生へと向けていた。
「許せませんわ! なぜこのようなことを! どうしてみんなを石に変えたんですのッ!」
「生徒を石に変えるような真似ッ、私はしません!」
「今さらそのような言い訳が通用すると思っておりますの!」
「やはり、説明しても無駄なようですね」
「白々しい言い訳はお止しなさい! 口封じに私に刃を向けた貴方の言葉を誰が信じると言いますのッ!」
アリシアはサシャール先生に向けていた杖剣を天に掲げ、茜色の空へと向かって特大サイズの光玉を放った。
「うっ!?」
「(眩し!)」
強烈な光が辺り一帯に降り注ぐ。
「直に他の先生方がやって来ますわ。貴方はもう終わりですわよ」
これにはさすがのサシャール先生も観念したのか、力が抜け落ちたように腕がだらりと垂れ下がる。
「終わったか」
これにて一件落着かと思った矢先――
「え?」
「ん?」
水飛沫を舞い上げる巨大な何かが、突如湖から勢いよく飛び出した。
「なんですの……これは!?」
「嘘だろ!?」
全長数十メートルはあるだろう巨大な蛇――バジリスクが姿を現したのだ。
0
あなたにおすすめの小説
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました
蒼黒せい
恋愛
侯爵令嬢ミリアはその性格の悪さと家の権威散らし、散財から学園内では大層嫌われていた。しかし、突如不治の病にかかった彼女は5年という長い年月苦しみ続け、そして治療の甲斐もなく亡くなってしまう。しかし、直後に彼女は息を吹き返す。病を克服して。
だが、その中身は全くの別人であった。かつて『日本人』として生きていた女性は、異世界という新たな世界で二度目の生を謳歌する… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる