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第23話 ハートのペンダント
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「まずは敵と思わしき黒の旅団、その組織の一員がどこに潜んでいるかを探る必要がありますわね」
一人張り切るアリシアは、首から下げたハート型のペンダントを徐に外す。手にしたそれを垂直に床に垂らした。
魔力円環によって矢印のように尖ったハートの先端部に光の精霊レムが集まり、彼らが光のしずくを落とす。
それが床で弾けると、またたく間に燐光が魔法陣を描いていく。
「悪しきモノの下まで導け――光の導き!」
アリシアが呪文を唱えると、ペンダントの先端部がカタカタと音を鳴らす。やがて独りでに部屋の外を指し示した。
「邪気に反応していますわ!」
「(嘘だろ!?)」
俺は【恋と魔法とクライシス】において、彼女がサポート系ヒロインと呼ばれていたことを思い出していた。
王族である彼女の血を好む精霊は多い。中でも光の精霊は特に王家の血を好むと云われている。
アリシアは邪な心に敏感な光の精霊の特性を活かし、悪意をダウジングしていたのだ。
たしかゲームでは彼女固有の光魔法だったと記憶している。
「敵はこっちですわよ、リオニス!」
「(ちょっと待つのだ!)」
普段のお淑やかな彼女は完全に鳴りをひそめ、本当のアリシア・アーメントが姿を現した瞬間である。
ハートのペンダントが矢印のように指し示す方角に彼女は歩きはじめ、徐々にその速度を上げていく。
気を抜いてしまえば見失ってしまいそうなスピードで、彼女は寮を飛び出した。
「(この方角って!? 湖の方ではないのか?)」
敵はてっきり寮、もしくは校舎のどこかに身をひそめているものとばかり思っていた。
「より反応が強くなっていきますわ!」
ペンダントに宿った光は激しさを増し、まるで大型犬でも散歩させているかのようにアリシアを引っ張っていく。
「敵は近いですわよ!」
黄昏色に染まる幻想的な湖が近付いてくると、アリシアはゆっくりとスピードを落として立ち止まる。
「光の導きはこの辺りを示していますわね」
しかし、そこは湖の畔。
周辺には誰の姿も見当たらない。
「(――あれは!?)」
そう思ったのだが、俺は茂みの奥に人影を発見した。
肩口で切りそろえられた黒髪がよく似合う、女教師の姿を。
「サシャール先生?」
「――――!?」
茂みの奥で身をかがめていたサシャール先生が、アリシアの声にびっくりして立ち上がった。
「Ms.アーメントにMr.グラップラー! ど、どうしたのですか? こんなところで」
慌てて振り向いたサシャール先生は息を飲むように俺たちの名前を口にした直後、すぐにいつもの優しい口調に戻った。
「先生こそ、一体何をしているんですの?」
訝しむアリシアのペンダントは、湖に敵がいることを知らせるように光っていた。
「少し気晴らしに散歩をしていただけですよ」
サシャール先生は女性らしいしなやかな指先で眼鏡のブリッジを持ち上げ、取り繕うように微笑んだ。
しかし、先生のその言葉に俺は違和感を覚えていた。
なぜなら、先生の衣服が泥で汚れていたのだ。
散歩をしていただけだというのに、なぜこれ程までにサシャール先生の衣服は汚れているのだろう。
「散歩……ですの?」
アリシアの目線がゆっくりサシャール先生のパンツ――膝に付着した泥へと向けられる。
「現在アルカミアでは恐ろしい事件が起きていると聞きましたわ。そんな折、サシャール先生は散歩を楽しんでいましたの?」
「気分転換も必要なのですよ、Ms.アーメント。歩くことで脳が活性化し、何か敵につながるヒントが得られるかもしれませんから」
「それはとても素晴らしいですわね。だからこそ説明してもらえると有り難いですわ」
「説明、ですか?」
「先生は赤ん坊のように膝をついてお散歩をするのかしら? ……泥、ついていますわよ」
「!?」
アリシアの鋭い指摘に、サシャール先生は慌てて羽織で脚元を隠した。
うつむいてしまったサシャール先生に、アリシアは毅然とした態度で問い詰める。
「本当はここで何をしていたんですの?」
「………」
「沈黙は話せない事をしていた、そう捉えられても仕方ないですわよ」
「…………」
黙り込むサシャール先生に不信感を募らせたアリシアは、この事をヴィストラールに報告すると身をひねった。
刹那――火花が飛び散る。
「――――ッ!」
「Mr.グラップラー!?」
杖剣を抜いたサシャール先生がアリシアへと突撃したのだ。
「リオニス!?」
しかし、間一髪二人の間に割り込むことに成功した俺は、サシャール先生の一撃を杖剣で受け止めていた。
「どういうつもりだッ!」
「少し眠ってもらうだけです!」
刀身がわずかに光を帯びている。恐らく眠りの効果がある魔法を付与しているのだろう。
「(眠り剣かッ!)」
不殺の剣は斬った者を回復させ、眠り剣は相手を深い眠りへと誘う。
掠っただけでひどい睡魔に襲われる危険な剣である。
「眠る……私を狙って!? 信じられませんわ!」
競り合うサシャール先生を力任せに押し返すと、怒りに震えるアリシアが一歩前に躍り出る。
そのまま流れるような動きで、杖剣の切っ先をサシャール先生へと向けていた。
「許せませんわ! なぜこのようなことを! どうしてみんなを石に変えたんですのッ!」
「生徒を石に変えるような真似ッ、私はしません!」
「今さらそのような言い訳が通用すると思っておりますの!」
「やはり、説明しても無駄なようですね」
「白々しい言い訳はお止しなさい! 口封じに私に刃を向けた貴方の言葉を誰が信じると言いますのッ!」
アリシアはサシャール先生に向けていた杖剣を天に掲げ、茜色の空へと向かって特大サイズの光玉を放った。
「うっ!?」
「(眩し!)」
強烈な光が辺り一帯に降り注ぐ。
「直に他の先生方がやって来ますわ。貴方はもう終わりですわよ」
これにはさすがのサシャール先生も観念したのか、力が抜け落ちたように腕がだらりと垂れ下がる。
「終わったか」
これにて一件落着かと思った矢先――
「え?」
「ん?」
水飛沫を舞い上げる巨大な何かが、突如湖から勢いよく飛び出した。
「なんですの……これは!?」
「嘘だろ!?」
全長数十メートルはあるだろう巨大な蛇――バジリスクが姿を現したのだ。
一人張り切るアリシアは、首から下げたハート型のペンダントを徐に外す。手にしたそれを垂直に床に垂らした。
魔力円環によって矢印のように尖ったハートの先端部に光の精霊レムが集まり、彼らが光のしずくを落とす。
それが床で弾けると、またたく間に燐光が魔法陣を描いていく。
「悪しきモノの下まで導け――光の導き!」
アリシアが呪文を唱えると、ペンダントの先端部がカタカタと音を鳴らす。やがて独りでに部屋の外を指し示した。
「邪気に反応していますわ!」
「(嘘だろ!?)」
俺は【恋と魔法とクライシス】において、彼女がサポート系ヒロインと呼ばれていたことを思い出していた。
王族である彼女の血を好む精霊は多い。中でも光の精霊は特に王家の血を好むと云われている。
アリシアは邪な心に敏感な光の精霊の特性を活かし、悪意をダウジングしていたのだ。
たしかゲームでは彼女固有の光魔法だったと記憶している。
「敵はこっちですわよ、リオニス!」
「(ちょっと待つのだ!)」
普段のお淑やかな彼女は完全に鳴りをひそめ、本当のアリシア・アーメントが姿を現した瞬間である。
ハートのペンダントが矢印のように指し示す方角に彼女は歩きはじめ、徐々にその速度を上げていく。
気を抜いてしまえば見失ってしまいそうなスピードで、彼女は寮を飛び出した。
「(この方角って!? 湖の方ではないのか?)」
敵はてっきり寮、もしくは校舎のどこかに身をひそめているものとばかり思っていた。
「より反応が強くなっていきますわ!」
ペンダントに宿った光は激しさを増し、まるで大型犬でも散歩させているかのようにアリシアを引っ張っていく。
「敵は近いですわよ!」
黄昏色に染まる幻想的な湖が近付いてくると、アリシアはゆっくりとスピードを落として立ち止まる。
「光の導きはこの辺りを示していますわね」
しかし、そこは湖の畔。
周辺には誰の姿も見当たらない。
「(――あれは!?)」
そう思ったのだが、俺は茂みの奥に人影を発見した。
肩口で切りそろえられた黒髪がよく似合う、女教師の姿を。
「サシャール先生?」
「――――!?」
茂みの奥で身をかがめていたサシャール先生が、アリシアの声にびっくりして立ち上がった。
「Ms.アーメントにMr.グラップラー! ど、どうしたのですか? こんなところで」
慌てて振り向いたサシャール先生は息を飲むように俺たちの名前を口にした直後、すぐにいつもの優しい口調に戻った。
「先生こそ、一体何をしているんですの?」
訝しむアリシアのペンダントは、湖に敵がいることを知らせるように光っていた。
「少し気晴らしに散歩をしていただけですよ」
サシャール先生は女性らしいしなやかな指先で眼鏡のブリッジを持ち上げ、取り繕うように微笑んだ。
しかし、先生のその言葉に俺は違和感を覚えていた。
なぜなら、先生の衣服が泥で汚れていたのだ。
散歩をしていただけだというのに、なぜこれ程までにサシャール先生の衣服は汚れているのだろう。
「散歩……ですの?」
アリシアの目線がゆっくりサシャール先生のパンツ――膝に付着した泥へと向けられる。
「現在アルカミアでは恐ろしい事件が起きていると聞きましたわ。そんな折、サシャール先生は散歩を楽しんでいましたの?」
「気分転換も必要なのですよ、Ms.アーメント。歩くことで脳が活性化し、何か敵につながるヒントが得られるかもしれませんから」
「それはとても素晴らしいですわね。だからこそ説明してもらえると有り難いですわ」
「説明、ですか?」
「先生は赤ん坊のように膝をついてお散歩をするのかしら? ……泥、ついていますわよ」
「!?」
アリシアの鋭い指摘に、サシャール先生は慌てて羽織で脚元を隠した。
うつむいてしまったサシャール先生に、アリシアは毅然とした態度で問い詰める。
「本当はここで何をしていたんですの?」
「………」
「沈黙は話せない事をしていた、そう捉えられても仕方ないですわよ」
「…………」
黙り込むサシャール先生に不信感を募らせたアリシアは、この事をヴィストラールに報告すると身をひねった。
刹那――火花が飛び散る。
「――――ッ!」
「Mr.グラップラー!?」
杖剣を抜いたサシャール先生がアリシアへと突撃したのだ。
「リオニス!?」
しかし、間一髪二人の間に割り込むことに成功した俺は、サシャール先生の一撃を杖剣で受け止めていた。
「どういうつもりだッ!」
「少し眠ってもらうだけです!」
刀身がわずかに光を帯びている。恐らく眠りの効果がある魔法を付与しているのだろう。
「(眠り剣かッ!)」
不殺の剣は斬った者を回復させ、眠り剣は相手を深い眠りへと誘う。
掠っただけでひどい睡魔に襲われる危険な剣である。
「眠る……私を狙って!? 信じられませんわ!」
競り合うサシャール先生を力任せに押し返すと、怒りに震えるアリシアが一歩前に躍り出る。
そのまま流れるような動きで、杖剣の切っ先をサシャール先生へと向けていた。
「許せませんわ! なぜこのようなことを! どうしてみんなを石に変えたんですのッ!」
「生徒を石に変えるような真似ッ、私はしません!」
「今さらそのような言い訳が通用すると思っておりますの!」
「やはり、説明しても無駄なようですね」
「白々しい言い訳はお止しなさい! 口封じに私に刃を向けた貴方の言葉を誰が信じると言いますのッ!」
アリシアはサシャール先生に向けていた杖剣を天に掲げ、茜色の空へと向かって特大サイズの光玉を放った。
「うっ!?」
「(眩し!)」
強烈な光が辺り一帯に降り注ぐ。
「直に他の先生方がやって来ますわ。貴方はもう終わりですわよ」
これにはさすがのサシャール先生も観念したのか、力が抜け落ちたように腕がだらりと垂れ下がる。
「終わったか」
これにて一件落着かと思った矢先――
「え?」
「ん?」
水飛沫を舞い上げる巨大な何かが、突如湖から勢いよく飛び出した。
「なんですの……これは!?」
「嘘だろ!?」
全長数十メートルはあるだろう巨大な蛇――バジリスクが姿を現したのだ。
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