101回目の人生で、俺が初めて好きになった相手は破滅確定の皇女殿下!?

葉月

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第18話 皇子の使者

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「セドリックだとッ!?」

 まるで雷が鳴り響くかのような大声が響き渡り、屋敷の玄関扉は一瞬で吹き飛んだ。鬼のように変わり果てたレーヴェンが、扉を蹴破って姿を現したのだ。

「お待ちください、レーヴェン様!」

 彼女を追いかけるように、ロレッタとハーネスも飛び出してきたが、レーヴェンは二人の制止を振り切り、門前へと駆けていった。

「貴様っ! 次に会ったら容赦しないと言ったはずだァッ!」
「えっ!? ちょっ、ちょっと待って!?」

 サーベル片手に鉄門を蹴破り、セドリックに襲いかかるレーヴェン。

「ランス、レーヴェン様を止めなさいっ!」
「え……俺っ!?」
「そこの間抜けな裏切り者は、一応シュナイゼル殿下の使者として来ているのです!」

 すっかり俺のことを呼び捨てにするようになったロレッタに命令され、俺は仕方なくレーヴェンを後ろから制止した。

「冷静になってくれ、レーヴェン!」
「離せ、ランス!  セドリック、貴様、どうして私の前にのこのこ現れたっ!」
「あっ、ちょっと待って!」

 腕の中でレーヴェンが暴れるたび、高貴でお姫様のような香りが鼻に広がり、頭がぼーっとした。それに、レーヴェンの体は驚くほど柔らかかった。

「離すんじゃありませんよ、ランス! ハーネスッ!」
「はっ!」

 目にも留まらぬスピードで、ハーネスがレーヴェンを抱えて屋敷に消えていった。地面に臀部を打ち付けた俺の前には、馬の上で震えるセドリックの姿があった。

「お前、あの時のっ!?」

 俺を認識したセドリックは、不機嫌そうな皺を眉間に寄せた。

「げっ!?」

 しかし、すぐにその表情が引きつってしまう。俺の背後に立つメイド長から放たれる凄まじい殺気に、セドリックの顔色が急速に変わっていく。どうやら彼はメイド長の恐ろしさを理解しているようだ。

 俺は首を振って後ろをちらっと確認したが、両手に計六本ものテーブルナイフを持つメイド長は、もはやただのメイドではない。その姿勢はまさに、伝説の「アサシン」と呼ぶに相応しいものだった。

「お久しぶりでございます、セドリック様」
「……あ、ああ。久しぶり」

 心に氷のような冷たさが広がるロレッタの言葉に、彼の肩が小刻みに震えていた。その怒りが俺に向けられていないことに、俺は心から安堵していた。

「で、私が手塩にかけて育てた可愛いメイドたちを手にかけたセドリック様が、なぜシュナイゼル殿下の使者としてここにいるのか、是非その経緯をお聞かせいただければ幸いです」

 冷静な口調の奥にひそむ怒りと殺意に、俺はこの場から逃げ出したい気持ちに駆られていた。けれど、メイド長は俺をそっと引き止めた。

「ランス、申し訳ありませんが、私の側から離れないでいてくれますか?」
「へ……?」

 にっこり微笑むメイド長が、恐ろしいことを口にする。

「誰も見ていないとなれば……私、この間抜けをバラして豚の餌にしてしまいかねないので」
「……」
「そんなことをすれば、レーヴェン様の御迷惑になってしまいます。監視係として、側にいてくれますか?」
「………は、はい」

 怖いから嫌だ! なんてことは、口が裂けても言えない。

「あ……」

 セドリックは恐怖に驚き、まるで口から魂が抜け出たような表情を浮かべていた。そんなに怖いのなら、なぜ裏切ったのかと思わずにはいられなかった。

「う、馬を厩舎に繋ぎたいのだが」

 セドリックは何とか気を取り戻し、恐る恐る尋ねた。が、メイド長は彼には答える気配もなく、お前になど教えるかと明後日の方向を向いてしまった。仕方なく、俺が屋敷の裏手の厩舎に彼を案内することになった。

「なんで貴様がここにいる」
「口が臭いから喋らない方がいいぞ」
「なっ、なんだと貴様!?」
「おいてくぞ?」

 レーヴェンを裏切った奴にいちいち説明してやる義理もなければ、彼女の敵に親切にする必要もない。

「俺は誇り高き帝国聖騎士、サンダース家の次期当主だぞ! 平民如きがそんな口を聞いて許されると思うなよ!」
「あっそ。丸腰の臣下を斬りつける騎士なんて聞いたこともない。騎士ってのは魂とも呼べる剣に忠義を誓うんだろ? でも、主君をころころ変えるサンダース家ってのは、騎士というよりは道化師の方がお似合いなんじゃないのか?」
「き、貴様! サンダース家を愚弄する気か!」
「剣の腕も平凡以下。あの時は相当情けなかったよな。もう少しパパに木剣で稽古つけてもらった方がいいんじゃないか?」
「貴様ッ!」

 セドリックに肩を掴まれたところで、ロレッタに止められた。

「セドリック様、レーヴェン様がお待ちです。御用があるならお早めに」
「その前に、この無礼者を処罰しろ!」

 ロレッタが静かに俺に視線を向ける。
 あなたが挑発してどうするのですかと、ロレッタはやれやれと肩をすくめていた。それからセドリックに向かい合っていた。

「セドリック様、この御方は平民ではございません」
「では、どこの田舎貴族だ」
「ランナウェイ国の第一王子、ランス・ランナウェイ殿下です」
「は? 王子だと!?」

 もう王子でもなければ、ランナウェイでもないのだが、面倒事を避けるために黙っていることにした。セドリックは俺が小国の王子であることを知り、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「なんでランナウェイ国の王子がこんなところにっ……」

 独り言ちるセドリックを無視して、俺とロレッタは屋敷に入っていく。応接室には、セドリックに激怒しているレーヴェンや姿があった。彼女はソファに深く腰かけ、その背後にはハーネスが控えていた。何かあればすぐに対応できるように、神経を張り巡らせていた。

「――!?」

 よそ者の俺はすぐに退室しようとしたのだが、ロレッタに腕を掴まれた。

「王族のフリをして隣に座りなさい」
「え……?」
「もし何かあった場合は、体を張ってレーヴェン様を止めなさい」

 ロレッタが耳元で囁き、お茶の用意をするために一度退室する。俺は彼女にうなずいて、踵を返した。そして、レーヴェンの隣に腰を落ち着かせた。

 心の中では、レーヴェンに注意されるのではないかと不安だったが、彼女は俺には目もくれず、目の前の男に集中していた。一心に彼を睨んでいた。

 セドリックは黙って足元を見つめていた。どうやら顔を上げることさえできない様子だった。蛇に睨まれた蛙とは、今の彼のことをいうのだろう。

 しばらくして、バーカートを押したメイド長が戻ってきた。応接室にはダージリンの爽やかで華やかなフラワリーな香りが広がり、机にはティーカップが並べられた。

「それで、シュナイゼルの使者が私に何用だ」

 威圧的な暗い声に、緊張が走る。セドリックは喉を鳴らし、懐から一枚の封書を取り出した。それをレーヴェンへと差し出す。

「それは何だ?」
「シュナイゼル殿下より預かって参りました。婚約披露パーティに関する知らせのようです」
「シュナイゼルにはすでに婚約者がいたはずだ。それに、なぜ私がシュナイゼルの婚約パーティに出席せねばならん」
「いえ、これはシュナイゼル殿下の婚約パーティではなく、レーヴェン殿下の婚約パーティの知らせです」
「何?」
「え……?」

 俺とレーヴェンはほぼ同時に驚きの声を上げていた。場の空気が凍りつき、時間が一瞬止まったようだった。

 やがて――

「婚約だとっ!?」
「ふざけるなッ!」

 俺たちは同時に大声を上げていた。
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