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みんな大好き聖女様 (ソフィア視点)
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私――ソフィア・マグネシアが前世の記憶を思い出したのは、8歳のころだった。この世界は前世でプレイした乙女ゲーム。そのゲームの名前は魔法の光と6人の彼、略してまほひかであり、私、ソフィアはまほひかのヒロインであった。
前世ではさえない陰キャであった私だが、この世界では、ヒロインである私中心に回っている。実際、王立学園の入学式の日、廊下ですれ違った悪役令嬢、レイナ・ファリウムに押し倒されたと嘘をついたのに、みんな私の言葉を信じたのだ。その後は前世の知識を駆使し、攻略対象の好みの女を演じ、その他のモブには、少し優しくするだけで私に順々になった。
モブであろうが、この世界ではみんな顔がいい。イケメンたちが自分をもてはやすのは気分がよく、私は悪役令嬢を利用し、悲劇のヒロインを演じた。
レイナ様に制服を破られた、レイナ様に物を奪われた、レイナ様に階段から突き落とされた、レイナ様に殴られた、レイナ様にドレスを汚された……嘘しか言っていないのに、面白いように悪役令嬢のことを信じず、ヒロインのことだけ信じる。悪役令嬢は私に貶められるたびに顔を青くさせる。そんな顔が面白くて、私は内心あざ笑う。もちろん、そんなのは顔に出さず、か弱い悲劇のヒロインを演じるのであるが。
まほひかの世界は、王立学園に通う3年間の物語であるのだが、その間、隠し攻略対象であり、魔王であるシュエル・ライリオンには会えなかった。逆ハエンドを狙っていたのだが、二週目以降に会えるシュエルに、一回しかない人生で会うなんてありえないと思い、あきらめていた。
そんな中、私は城下町にあるカフェ・シャスタに向かった。攻略対象の一人であるルナソル・シャイムがどうしても私と二人で行きたいと言い、仕方がなく訪れたシェスタ。そんなカフェだが、私の好みになかなか合い、ルナソルがいない時を狙ってもう一度訪れようとしたのだが……私はその日、奇跡が起こったと思った。
なんと、シャスタ近くの道で、シュエルを見つけたのだ。
「きゃっ……!!」
私はすれ違いざまにシュエルにぶつかり、わざとシュエルの足元にへたり込む。
「っと……だ、大丈夫か……?」
そう言いながら、足元にへたり込む私に手を差し出してくれるシュエル。
私はこれからのことに思いをはせ、内心ほくそ笑みながら、シュエルの手を握り、立ち上がる。
「あ、はい!えっと……すみません……」
シュンとしながらそういうと、シュエルは私が思った通り、「いや、大丈夫だ。それより、怪我はないか?」と聞いてくる。
「はい!えっと……」
「あぁ、名乗り忘れていたな。俺の名前はシュエル・ライリオンだ」
「シュエル……様?ですね。私の名前はソフィア・マグネシアと申します。よろしくお願いします」
「よろしくな、ソフィア。……っと、そろそろ俺は……」
「ま、待ってください!!」
一言私に断りを入れながらその場を去ろうとするシュエルを、私は腕を絡ませながら、その場に押し止める。
「あ、その、すみません!!あの……シュエル様がよろしければ、この後一緒にお茶でもしませんか……?」
「いや、断ろう。俺は少し用事があってな……」
「で、でも!!」
な、なんで!?これまで、攻略対象たちを私が誘惑すれば、すぐにそれにひっかっかったのに……なんでシュエルには効かないの!?
私は一人困惑しながら、それでもあきらめずに、シュエルを誘惑し続ける。
しかし、どれだけ誘惑しても、シュエルは私になびく様子すら見せず、困ったような表情を浮かべる。
なんで、どうして……!?
「――あら?ソフィアさん。こんなところで奇遇ですね」
私が焦っていると、後ろから誰からか声をかけられる。
誰よっ!?と思いながら後ろを振り返ると、どこかで見たことあるような女性が立っていた。
「へ?……あぁ、えっと……」
誰だったっけな……多分、学園の生徒なんだろうけど……。
私が困りながらそう考えていると、その考えを見透かしたかのように、女性はふふっ、と笑いながら口を開く。
「私の名前はヴィル・テイランですよ」
ヴィル・テイラン……テイラン……
「あ、あぁ!公爵家の!!」
そうだ、思い出した。公爵令嬢、ヴィル・テイラン!!
そういえば、学園在学中は、よくレイナと一緒にいた記憶がある。
ゲームのモブである彼女は、公爵家というので、一応名前と顔を覚えていた気になっていたが、すっかり忘れてしまっていた。
「そういえば、先ほどデイファン様が貴女を探していると言っていましたよ?」
「えぇ!?デイファン様が!!」
「えぇ」
なんと、まさかの情報。
しかし、シュエルも攻略したいのだが……いやいや、このままなびかないシュエルを攻略しようとしたって、埒が明かない。ここはいったん引いて、デイファンの好感度を落とさないことの方が先決だ。
「どこにいたの!?」
私がヴィルにそう問うと、ヴィルは、「えっと、確か……城下町のはずれのどこかだったような……」という、あいまいな回答をするが、私はそんなこと気にせずに、「ありがとう!!」と、ヴィルに言う。
「……それと、シュエル様もお元気で!!」
そう言いながら、私は二人ににこりと笑うが、二人は動じない。
それを不思議に思いながら、私はそれでも、町はずれの道へと向かうのであった。
前世ではさえない陰キャであった私だが、この世界では、ヒロインである私中心に回っている。実際、王立学園の入学式の日、廊下ですれ違った悪役令嬢、レイナ・ファリウムに押し倒されたと嘘をついたのに、みんな私の言葉を信じたのだ。その後は前世の知識を駆使し、攻略対象の好みの女を演じ、その他のモブには、少し優しくするだけで私に順々になった。
モブであろうが、この世界ではみんな顔がいい。イケメンたちが自分をもてはやすのは気分がよく、私は悪役令嬢を利用し、悲劇のヒロインを演じた。
レイナ様に制服を破られた、レイナ様に物を奪われた、レイナ様に階段から突き落とされた、レイナ様に殴られた、レイナ様にドレスを汚された……嘘しか言っていないのに、面白いように悪役令嬢のことを信じず、ヒロインのことだけ信じる。悪役令嬢は私に貶められるたびに顔を青くさせる。そんな顔が面白くて、私は内心あざ笑う。もちろん、そんなのは顔に出さず、か弱い悲劇のヒロインを演じるのであるが。
まほひかの世界は、王立学園に通う3年間の物語であるのだが、その間、隠し攻略対象であり、魔王であるシュエル・ライリオンには会えなかった。逆ハエンドを狙っていたのだが、二週目以降に会えるシュエルに、一回しかない人生で会うなんてありえないと思い、あきらめていた。
そんな中、私は城下町にあるカフェ・シャスタに向かった。攻略対象の一人であるルナソル・シャイムがどうしても私と二人で行きたいと言い、仕方がなく訪れたシェスタ。そんなカフェだが、私の好みになかなか合い、ルナソルがいない時を狙ってもう一度訪れようとしたのだが……私はその日、奇跡が起こったと思った。
なんと、シャスタ近くの道で、シュエルを見つけたのだ。
「きゃっ……!!」
私はすれ違いざまにシュエルにぶつかり、わざとシュエルの足元にへたり込む。
「っと……だ、大丈夫か……?」
そう言いながら、足元にへたり込む私に手を差し出してくれるシュエル。
私はこれからのことに思いをはせ、内心ほくそ笑みながら、シュエルの手を握り、立ち上がる。
「あ、はい!えっと……すみません……」
シュンとしながらそういうと、シュエルは私が思った通り、「いや、大丈夫だ。それより、怪我はないか?」と聞いてくる。
「はい!えっと……」
「あぁ、名乗り忘れていたな。俺の名前はシュエル・ライリオンだ」
「シュエル……様?ですね。私の名前はソフィア・マグネシアと申します。よろしくお願いします」
「よろしくな、ソフィア。……っと、そろそろ俺は……」
「ま、待ってください!!」
一言私に断りを入れながらその場を去ろうとするシュエルを、私は腕を絡ませながら、その場に押し止める。
「あ、その、すみません!!あの……シュエル様がよろしければ、この後一緒にお茶でもしませんか……?」
「いや、断ろう。俺は少し用事があってな……」
「で、でも!!」
な、なんで!?これまで、攻略対象たちを私が誘惑すれば、すぐにそれにひっかっかったのに……なんでシュエルには効かないの!?
私は一人困惑しながら、それでもあきらめずに、シュエルを誘惑し続ける。
しかし、どれだけ誘惑しても、シュエルは私になびく様子すら見せず、困ったような表情を浮かべる。
なんで、どうして……!?
「――あら?ソフィアさん。こんなところで奇遇ですね」
私が焦っていると、後ろから誰からか声をかけられる。
誰よっ!?と思いながら後ろを振り返ると、どこかで見たことあるような女性が立っていた。
「へ?……あぁ、えっと……」
誰だったっけな……多分、学園の生徒なんだろうけど……。
私が困りながらそう考えていると、その考えを見透かしたかのように、女性はふふっ、と笑いながら口を開く。
「私の名前はヴィル・テイランですよ」
ヴィル・テイラン……テイラン……
「あ、あぁ!公爵家の!!」
そうだ、思い出した。公爵令嬢、ヴィル・テイラン!!
そういえば、学園在学中は、よくレイナと一緒にいた記憶がある。
ゲームのモブである彼女は、公爵家というので、一応名前と顔を覚えていた気になっていたが、すっかり忘れてしまっていた。
「そういえば、先ほどデイファン様が貴女を探していると言っていましたよ?」
「えぇ!?デイファン様が!!」
「えぇ」
なんと、まさかの情報。
しかし、シュエルも攻略したいのだが……いやいや、このままなびかないシュエルを攻略しようとしたって、埒が明かない。ここはいったん引いて、デイファンの好感度を落とさないことの方が先決だ。
「どこにいたの!?」
私がヴィルにそう問うと、ヴィルは、「えっと、確か……城下町のはずれのどこかだったような……」という、あいまいな回答をするが、私はそんなこと気にせずに、「ありがとう!!」と、ヴィルに言う。
「……それと、シュエル様もお元気で!!」
そう言いながら、私は二人ににこりと笑うが、二人は動じない。
それを不思議に思いながら、私はそれでも、町はずれの道へと向かうのであった。
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