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復讐への下準備
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翌日、私は再びカフェ・シャスタへと赴いていた。
昨日は、隠し攻略対象であるシュエルの現状を確認するために来ていたのだが、今回はルナソルと、偶然を装って会うためである。
シャーナ(我が家のメイドである)に調べてもらったところ、ルナソルは二日に一回は一人でシャスタを訪れるほどの常連らしく、ルナソルが前回シャスタに行ったのが一昨日。つまり、シャーナの調べが正しいのであれば、今日一日シャスタにいれば、ルナソルに会えるのである。まぁ最悪、ルナソルに会えなくてもシャーナが私に嘘の情報を伝えたということで、クビにできるいい理由ができるので、ルナソルが来なくても問題ない。
「いらっしゃいませ。ご自由な席へとお座りください」
私が考え事をしながら、シャスタのドアを開けて店内へと入ると、店員さんの明るい声が聞こえ、私は昨日と同じくテラス席を選び、椅子に腰かける。
「えっと……さすがに昨日と同じものを食べるのは……」
そう小さくつぶやきながら、私はメニューに目を通す。
「あ、これいいかも」
私は好みそうな品を見つけ、店員さんを呼ぶ。
「……お待たせしました。ご注文をどうぞ」
「はい。えっと……イチゴとレモンのタルトと、アイスコーヒーをください」
「かしこまりました。少々お待ちください」
結局少し悩んだのに、タルトを頼んでしまったが、好きなのだから仕方がない。
一人頭の中で言い訳をしながら、私はシャスタの外に目を向けるのであった。
―――――
「あ、来た……」
私が頼んだアイスコーヒーも残りわずかになったころ。
ルナソルがシャスタ近くの道を通り、店内に入っていくのが見えた。
ちなみに、シャーナの調べによれば、ルナソルは普段、テラス席に座っているらしい。
「あら?ルナソル君じゃない」
テラス席に来たルナソルに、私は偶然を装ってそう声をかける。
「え?テイラン先輩!?奇遇ですね!!」
人懐っこく笑いながら私に駆け寄ってくるルナソルに、私はにこやかな笑みを向けながら、「相席する?」と問うと、ルナソルは満面の笑みを浮かべながら「ぜひ!!」と大きな声で答える。
「ルナソル君は何を選ぶの?」
「あ、はい!!えっと……僕は毎回、レモンのタルトを選んでいます。僕、それが大好きで……」
「え……あぁ、それ、美味しいわよね」
「食べたことがあるんですか!?」
「……えぇ」
「そうなんですね……!!あ、店員さん!!注文お願いしてもいいですか?」
レモンのタルト……ソフィアを貶めたと言われ、悪女と呼ばれたレイナが好きだったもの。おそらく、彼らソフィアを傷つけた(ことになっている)者の好物を好きだなんて言わないであろう……すなわち、ルナソルはレイナがレモンのタルトが好きだったことを覚えていないのである……かつて、仲が良かったのに、だ。
ルナソルが店員さんに注文をしている間、私は彼に対しての憎しみは、増すばかりであった。
「そういえば、どうして先輩がシャスタにいるんですか?」
「あら?いたらだめだったかした?」
「い、いえ!!決してそんなことは……ただの興味本位です」
「ふふっ、素直な子は嫌いじゃないわよ」
私はレイナのため、レイナを傷つけた者を褒めるという、最大級の屈辱を自ら受ける。
そんな私の苦悩に気づくはずがないルナソルは、呑気に私の冗談に乗る。……まぁ、本人は私の言葉が冗談だなんて思ってないんでしょうけど。
「っ……!!」
まったく楽しくない会話を繰り返していると、突然、ルナソルが右の頬を抑える。
「どうしたのですか……?」
「い、いえ……何故か突然、頬が切れるてしまったらしくて……」
「まぁ、それは大変……!」
本当のことを言うと、ルナソルの頬を切ったのは私である。
風魔法を使い、空気を刃のように鋭く形成し、ルナソルの右の頬に当てて、怪我を負ってもらったのだ。
「……治療します。少し、じっとしていてくださいね」
互いの吐息すら聞こえるほど顔を近づけ(あぁ、気持ち悪い)、私はルナソルの右の頬に手をかざす。
「テイラン先輩……?」
不思議そうに私を見てくるルナソルを視線で黙らせながら、私は「ヒール」とつぶやく。すると、ルナソルの頬の傷は、まるで元々なかったかのように、きれいさっぱり消えた。
「よし、もう大丈夫よ」
私がそう声をかけると、ルナソルは頬に傷がないのを確認したあと、私にお礼を言ってくる。
「ありがとうございます!!……って、初めて知ったんですが、テイラン先輩って治療魔法が使えるんですね!!」
「えぇ。治療魔法であれば、レイナにも負けないわ」
私がそう言うと、ルナソルはあからさまにテンションを下げながら、「へぇ……それはすごいですね」という。
「そういえば……先ほどの傷は、テイラン先輩が死んだら戻ってしまいますね」
話題を無理やり変えるようにしてそう言うルナソルに、私は「えぇ、そうね」と同意する。この世界の魔法は、その魔法をかけたものが死ぬと、強制的に魔法が解除されてしまう。すなわち、治療魔法で怪我などを直しても、その魔法をかけたものが死ねば、かけた魔法は解け、怪我が戻ってしまうのだ。
――私はそんな魔法の性質を利用して、私はルナソルに復讐する。
彼が絶望に落ちる日を、私は今か今かと待ち続けているのである。
昨日は、隠し攻略対象であるシュエルの現状を確認するために来ていたのだが、今回はルナソルと、偶然を装って会うためである。
シャーナ(我が家のメイドである)に調べてもらったところ、ルナソルは二日に一回は一人でシャスタを訪れるほどの常連らしく、ルナソルが前回シャスタに行ったのが一昨日。つまり、シャーナの調べが正しいのであれば、今日一日シャスタにいれば、ルナソルに会えるのである。まぁ最悪、ルナソルに会えなくてもシャーナが私に嘘の情報を伝えたということで、クビにできるいい理由ができるので、ルナソルが来なくても問題ない。
「いらっしゃいませ。ご自由な席へとお座りください」
私が考え事をしながら、シャスタのドアを開けて店内へと入ると、店員さんの明るい声が聞こえ、私は昨日と同じくテラス席を選び、椅子に腰かける。
「えっと……さすがに昨日と同じものを食べるのは……」
そう小さくつぶやきながら、私はメニューに目を通す。
「あ、これいいかも」
私は好みそうな品を見つけ、店員さんを呼ぶ。
「……お待たせしました。ご注文をどうぞ」
「はい。えっと……イチゴとレモンのタルトと、アイスコーヒーをください」
「かしこまりました。少々お待ちください」
結局少し悩んだのに、タルトを頼んでしまったが、好きなのだから仕方がない。
一人頭の中で言い訳をしながら、私はシャスタの外に目を向けるのであった。
―――――
「あ、来た……」
私が頼んだアイスコーヒーも残りわずかになったころ。
ルナソルがシャスタ近くの道を通り、店内に入っていくのが見えた。
ちなみに、シャーナの調べによれば、ルナソルは普段、テラス席に座っているらしい。
「あら?ルナソル君じゃない」
テラス席に来たルナソルに、私は偶然を装ってそう声をかける。
「え?テイラン先輩!?奇遇ですね!!」
人懐っこく笑いながら私に駆け寄ってくるルナソルに、私はにこやかな笑みを向けながら、「相席する?」と問うと、ルナソルは満面の笑みを浮かべながら「ぜひ!!」と大きな声で答える。
「ルナソル君は何を選ぶの?」
「あ、はい!!えっと……僕は毎回、レモンのタルトを選んでいます。僕、それが大好きで……」
「え……あぁ、それ、美味しいわよね」
「食べたことがあるんですか!?」
「……えぇ」
「そうなんですね……!!あ、店員さん!!注文お願いしてもいいですか?」
レモンのタルト……ソフィアを貶めたと言われ、悪女と呼ばれたレイナが好きだったもの。おそらく、彼らソフィアを傷つけた(ことになっている)者の好物を好きだなんて言わないであろう……すなわち、ルナソルはレイナがレモンのタルトが好きだったことを覚えていないのである……かつて、仲が良かったのに、だ。
ルナソルが店員さんに注文をしている間、私は彼に対しての憎しみは、増すばかりであった。
「そういえば、どうして先輩がシャスタにいるんですか?」
「あら?いたらだめだったかした?」
「い、いえ!!決してそんなことは……ただの興味本位です」
「ふふっ、素直な子は嫌いじゃないわよ」
私はレイナのため、レイナを傷つけた者を褒めるという、最大級の屈辱を自ら受ける。
そんな私の苦悩に気づくはずがないルナソルは、呑気に私の冗談に乗る。……まぁ、本人は私の言葉が冗談だなんて思ってないんでしょうけど。
「っ……!!」
まったく楽しくない会話を繰り返していると、突然、ルナソルが右の頬を抑える。
「どうしたのですか……?」
「い、いえ……何故か突然、頬が切れるてしまったらしくて……」
「まぁ、それは大変……!」
本当のことを言うと、ルナソルの頬を切ったのは私である。
風魔法を使い、空気を刃のように鋭く形成し、ルナソルの右の頬に当てて、怪我を負ってもらったのだ。
「……治療します。少し、じっとしていてくださいね」
互いの吐息すら聞こえるほど顔を近づけ(あぁ、気持ち悪い)、私はルナソルの右の頬に手をかざす。
「テイラン先輩……?」
不思議そうに私を見てくるルナソルを視線で黙らせながら、私は「ヒール」とつぶやく。すると、ルナソルの頬の傷は、まるで元々なかったかのように、きれいさっぱり消えた。
「よし、もう大丈夫よ」
私がそう声をかけると、ルナソルは頬に傷がないのを確認したあと、私にお礼を言ってくる。
「ありがとうございます!!……って、初めて知ったんですが、テイラン先輩って治療魔法が使えるんですね!!」
「えぇ。治療魔法であれば、レイナにも負けないわ」
私がそう言うと、ルナソルはあからさまにテンションを下げながら、「へぇ……それはすごいですね」という。
「そういえば……先ほどの傷は、テイラン先輩が死んだら戻ってしまいますね」
話題を無理やり変えるようにしてそう言うルナソルに、私は「えぇ、そうね」と同意する。この世界の魔法は、その魔法をかけたものが死ぬと、強制的に魔法が解除されてしまう。すなわち、治療魔法で怪我などを直しても、その魔法をかけたものが死ねば、かけた魔法は解け、怪我が戻ってしまうのだ。
――私はそんな魔法の性質を利用して、私はルナソルに復讐する。
彼が絶望に落ちる日を、私は今か今かと待ち続けているのである。
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