【完結】悪役令嬢の断罪から始まるモブ令嬢の復讐劇

夜桜 舞

文字の大きさ
12 / 23

復讐への下準備

しおりを挟む
翌日、私は再びカフェ・シャスタへと赴いていた。
昨日は、隠し攻略対象であるシュエルの現状を確認するために来ていたのだが、今回はルナソルと、偶然を装って会うためである。

シャーナ(我が家のメイドである)に調べてもらったところ、ルナソルは二日に一回は一人でシャスタを訪れるほどの常連らしく、ルナソルが前回シャスタに行ったのが一昨日。つまり、シャーナの調べが正しいのであれば、今日一日シャスタにいれば、ルナソルに会えるのである。まぁ最悪、ルナソルに会えなくてもシャーナが私に嘘の情報を伝えたということで、クビにできるいい理由ができるので、ルナソルが来なくても問題ない。

「いらっしゃいませ。ご自由な席へとお座りください」

私が考え事をしながら、シャスタのドアを開けて店内へと入ると、店員さんの明るい声が聞こえ、私は昨日と同じくテラス席を選び、椅子に腰かける。

「えっと……さすがに昨日と同じものを食べるのは……」

そう小さくつぶやきながら、私はメニューに目を通す。

「あ、これいいかも」

私は好みそうな品を見つけ、店員さんを呼ぶ。

「……お待たせしました。ご注文をどうぞ」
「はい。えっと……イチゴとレモンのタルトと、アイスコーヒーをください」
「かしこまりました。少々お待ちください」

結局少し悩んだのに、タルトを頼んでしまったが、好きなのだから仕方がない。
一人頭の中で言い訳をしながら、私はシャスタの外に目を向けるのであった。

―――――

「あ、来た……」

私が頼んだアイスコーヒーも残りわずかになったころ。
ルナソルがシャスタ近くの道を通り、店内に入っていくのが見えた。
ちなみに、シャーナの調べによれば、ルナソルは普段、テラス席に座っているらしい。

「あら?ルナソル君じゃない」

テラス席に来たルナソルに、私は偶然を装ってそう声をかける。

「え?テイラン先輩!?奇遇ですね!!」

人懐っこく笑いながら私に駆け寄ってくるルナソルに、私はにこやかな笑みを向けながら、「相席する?」と問うと、ルナソルは満面の笑みを浮かべながら「ぜひ!!」と大きな声で答える。

「ルナソル君は何を選ぶの?」
「あ、はい!!えっと……僕は毎回、レモンのタルトを選んでいます。僕、それが大好きで……」
「え……あぁ、それ、美味しいわよね」
「食べたことがあるんですか!?」
「……えぇ」
「そうなんですね……!!あ、店員さん!!注文お願いしてもいいですか?」

レモンのタルト……ソフィアを貶めたと言われ、悪女と呼ばれたレイナが好きだったもの。おそらく、彼らソフィアを傷つけた(ことになっている)者の好物を好きだなんて言わないであろう……すなわち、ルナソルはレイナがレモンのタルトが好きだったことを覚えていないのである……かつて、仲が良かったのに、だ。

ルナソルが店員さんに注文をしている間、私は彼に対しての憎しみは、増すばかりであった。

「そういえば、どうして先輩がシャスタここにいるんですか?」
「あら?いたらだめだったかした?」
「い、いえ!!決してそんなことは……ただの興味本位です」
「ふふっ、素直な子は嫌いじゃないわよ」

私はレイナのため、レイナを傷つけた者を褒めるという、最大級の屈辱を自ら受ける。
そんな私の苦悩に気づくはずがないルナソルは、呑気に私の冗談に乗る。……まぁ、本人は私の言葉が冗談だなんて思ってないんでしょうけど。

「っ……!!」

まったく楽しくない会話を繰り返していると、突然、ルナソルが右の頬を抑える。

「どうしたのですか……?」
「い、いえ……何故か突然、頬が切れるてしまったらしくて……」
「まぁ、それは大変……!」

本当のことを言うと、ルナソルの頬を切ったのは私である。
風魔法を使い、空気を刃のように鋭く形成し、ルナソルの右の頬に当てて、怪我を負ってもらったのだ。

「……治療します。少し、じっとしていてくださいね」

互いの吐息すら聞こえるほど顔を近づけ(あぁ、気持ち悪い)、私はルナソルの右の頬に手をかざす。

「テイラン先輩……?」

不思議そうに私を見てくるルナソルを視線で黙らせながら、私は「ヒール」とつぶやく。すると、ルナソルの頬の傷は、まるで元々なかったかのように、きれいさっぱり消えた。

「よし、もう大丈夫よ」

私がそう声をかけると、ルナソルは頬に傷がないのを確認したあと、私にお礼を言ってくる。

「ありがとうございます!!……って、初めて知ったんですが、テイラン先輩って治療魔法が使えるんですね!!」
「えぇ。治療魔法であれば、レイナにも負けないわ」

私がそう言うと、ルナソルはあからさまにテンションを下げながら、「へぇ……それはすごいですね」という。

「そういえば……先ほどの傷は、テイラン先輩が死んだら戻ってしまいますね」

話題を無理やり変えるようにしてそう言うルナソルに、私は「えぇ、そうね」と同意する。この世界の魔法は、その魔法をかけたものが死ぬと、強制的に魔法が解除されてしまう。すなわち、治療魔法で怪我などを直しても、その魔法をかけたものが死ねば、かけた魔法は解け、怪我が戻ってしまうのだ。

――私はそんな魔法の性質を利用して、私はルナソルに復讐する。
彼が絶望に落ちる日を、私は今か今かと待ち続けているのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

悪役令嬢は断罪されない

竜鳴躍
恋愛
卒業パーティの日。 王太子マクシミリアン=フォン=レッドキングダムは、婚約者である公爵令嬢のミレニア=ブルー=メロディア公爵令嬢の前に立つ。 私は、ミレニア様とお友達の地味で平凡な伯爵令嬢。ミレニアさまが悪役令嬢ですって?ひどいわ、ミレニアさまはそんな方ではないのに!! だが彼は、悪役令嬢を断罪ーーーーーーーーーーしなかった。 おや?王太子と悪役令嬢の様子がおかしいようです。 2021.8.14 順位が上がってきて驚いでいます。うれしいです。ありがとうございます! →続編作りました。ミレニアと騎士団長の娘と王太子とマリーの息子のお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/mypage/content/detail/114529751 →王太子とマリーの息子とミレニアと騎士団長の娘の話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/449536459

死に戻り令嬢の華麗なる復讐(短編まとめ)

水瀬瑠奈
恋愛
「おねが、い、しにたくな、」 最後に見えたのは、それはそれは嬉しそうに笑う妹の顔だった。  そうして首を切り落とされて死んだはずの私はどうやら過去にループしてきたらしい!?  ……あぁ、このままでは愛していた婚約者と私を嵌めた妹に殺されてしまう。そんなこと、あってはなるものか。そもそも、死を回避するだけでは割に合わない。あぁ、あの二人が私に与えた苦しみを欠片でも味わわせてやりたい……っ。  復讐しなければ。私を死に追いやったあの二人に。もう二度と私の前に顔を表さなくなるような、復讐を―― ※小説家になろうでも掲載しています ※タイトル作品のほかに恋愛系の異世界もので短めのものを集めて、全部で4本分短編を掲載します

処理中です...