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悪女殿下の7回目の婚約の行方
第99話
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カツンカツン、と靴のかかとが響く地下空間に、クリスティーナはシキに先導されてやってきた。
シキが足を止めた先には、二室の牢屋があった。
「閣、下……」
「あれ、目覚めんたんだね。クリスティーナ」
「おかげさまで。今度は立場が逆転しましたわね。ジェレミーお兄様、エドワード」
牢屋に入っていたのはジェレミーとエドワードだった。
クリスティーナが目覚めた翌日、シキに現状を聞いてここに訪れたのだ。
シキによると、クリスティーナを救出しにきた第三師団は、首謀者であるジェレミーとエドワード、それに離宮を防衛していた第二隊を拘束し、地下牢に投獄した。
「君が来たってことは、処分でも決めるのかな?」
「そうです、殿下」
まだ処分は下されていなかったのか、とシキとジェレミーの会話に内心目を見開いた。
皇族同士とはいえ、皇女を誘拐し帝国の決定に背いているのだ。
すでに何かしらの処分がくだされていると思っていたのだが。
「皇太子殿下はこの件を重くみています。ジェレミー殿下は廃嫡の上、国外追放。第二隊は解散及び帝国軍法違反者に対して処罰。エドワード・トリアトトは皇族に対しての罪、さらに帝国軍法違反も重ね、死刑宣告をしてもかまわない、そうおっしゃっています」
シキの言葉に、誰かの唾を飲み込む音が響いた。
レオンハルトの処罰の内容は妥当のように思えたが、クリスティーナはどうしても引っかかりを覚えていた。
(レオンお兄様はどうしてこの処分の通達を、帝宮や帝国軍本部で行わなかったのかしら)
関わっている人間の身分を考えると、この場所で行うには違和感がある。
帝宮や帝国軍本部で行うと公になるが、ここで行えば内密に処理できる。
(なるほど。レオンお兄様はジェレミーお兄様たちを利用しろ、と言っているんだわ)
レオンハルトが皇太子に即位し、次代も盤石だと国内外で思われている。
それに納得できていないのが第二皇子派だ。
長きに渡る対立に対して、兄はそろそろ引導を渡したいのかもしれない。
(それにレオンお兄様やお母様に手を出されて、わたくしが黙っているわけないでしょう。いいわ、お兄様のご期待に応えましょう)
クリスティーナは小首を傾げて、口の端を上げた。
「レオンお兄様も残酷な決定をなさるのね。でも、わたくしは納得できないわ」
「へぇ、兄上の決定が不服なんだ。クリスティーナ、言うねぇ」
ジェレミーが軽口をたたいているが、内心焦っているのが手に取るようにわかる。
クリスティーナはふふ、と笑った。
「ジェレミーお兄様、わたくし、記憶を取り戻したの」
「……それで?」
「わたくしは復讐したいの。そのために、あなたたちを使うわ」
「使う?」
「そう。あなたたちを使って第二皇子派を潰すわ。第二皇子派に密偵を送りたかったのよ。わたくしもレオンお兄様も。だから」
「だから?」
「わたくしの下僕になりなさい」
悪女らしく言い放つと、牢屋にいる誰もが目を丸くした。
「ジェレミーお兄様、第二隊をわたくしにちょうだいな。魔導士が味方にいたらとても便利だわ。表向きは今まで通り、お兄様が指揮官だけど実権はわたくしよ。それとジェレミーお兄様は、第二皇子派の情報を逐一流してもらうわ」
「僕がそんなことするとでも?」
「するわ。お兄様もうんざりでしょう? 皇帝になりたくなかったら、わたくしに協力するしかないわ。毒を食らわば皿まで、ってお兄様の得意分野でしょうし」
「……そうだね。クリスティーナの言う通りだ」
ふう、と息を吐いたジェレミーが諦めたように言うが、どこか吹っ切れているように見える。
「それと……エドワード」
急に名前を呼ばれたエドワードが、びくりと肩を震わせた。
「エドワードは皇太子殿下の処罰通りにして?」
「それは閣下がオレの死を望んでいると……」
「ええ。一度死んで、皇太子殿下の元で働いてもらうわ」
にこりと目を笑ませれば、エドワードがずるりと座り込んだ。
「お兄様、海外で自由に動ける密偵を欲しがっていたのよ。ドルレアンを第二皇子派が動かせると分かった以上、他の国の情報も欲しいところ。これまで副官として、わたくしとともに海外を渡り歩いていたエドワードなら適任よ」
「クリス閣下……」
震える手で牢屋の鉄格子をつかんでいるエドワードに近づき、クリスティーナはエドワードの顎をくいっと指で上げた。
「エドワード、もうわたくしを裏切らないでね。あなたはわたくしのものよ」
悪女らしく嫌味たらしく、それでいて艶やかに笑った。
シキが足を止めた先には、二室の牢屋があった。
「閣、下……」
「あれ、目覚めんたんだね。クリスティーナ」
「おかげさまで。今度は立場が逆転しましたわね。ジェレミーお兄様、エドワード」
牢屋に入っていたのはジェレミーとエドワードだった。
クリスティーナが目覚めた翌日、シキに現状を聞いてここに訪れたのだ。
シキによると、クリスティーナを救出しにきた第三師団は、首謀者であるジェレミーとエドワード、それに離宮を防衛していた第二隊を拘束し、地下牢に投獄した。
「君が来たってことは、処分でも決めるのかな?」
「そうです、殿下」
まだ処分は下されていなかったのか、とシキとジェレミーの会話に内心目を見開いた。
皇族同士とはいえ、皇女を誘拐し帝国の決定に背いているのだ。
すでに何かしらの処分がくだされていると思っていたのだが。
「皇太子殿下はこの件を重くみています。ジェレミー殿下は廃嫡の上、国外追放。第二隊は解散及び帝国軍法違反者に対して処罰。エドワード・トリアトトは皇族に対しての罪、さらに帝国軍法違反も重ね、死刑宣告をしてもかまわない、そうおっしゃっています」
シキの言葉に、誰かの唾を飲み込む音が響いた。
レオンハルトの処罰の内容は妥当のように思えたが、クリスティーナはどうしても引っかかりを覚えていた。
(レオンお兄様はどうしてこの処分の通達を、帝宮や帝国軍本部で行わなかったのかしら)
関わっている人間の身分を考えると、この場所で行うには違和感がある。
帝宮や帝国軍本部で行うと公になるが、ここで行えば内密に処理できる。
(なるほど。レオンお兄様はジェレミーお兄様たちを利用しろ、と言っているんだわ)
レオンハルトが皇太子に即位し、次代も盤石だと国内外で思われている。
それに納得できていないのが第二皇子派だ。
長きに渡る対立に対して、兄はそろそろ引導を渡したいのかもしれない。
(それにレオンお兄様やお母様に手を出されて、わたくしが黙っているわけないでしょう。いいわ、お兄様のご期待に応えましょう)
クリスティーナは小首を傾げて、口の端を上げた。
「レオンお兄様も残酷な決定をなさるのね。でも、わたくしは納得できないわ」
「へぇ、兄上の決定が不服なんだ。クリスティーナ、言うねぇ」
ジェレミーが軽口をたたいているが、内心焦っているのが手に取るようにわかる。
クリスティーナはふふ、と笑った。
「ジェレミーお兄様、わたくし、記憶を取り戻したの」
「……それで?」
「わたくしは復讐したいの。そのために、あなたたちを使うわ」
「使う?」
「そう。あなたたちを使って第二皇子派を潰すわ。第二皇子派に密偵を送りたかったのよ。わたくしもレオンお兄様も。だから」
「だから?」
「わたくしの下僕になりなさい」
悪女らしく言い放つと、牢屋にいる誰もが目を丸くした。
「ジェレミーお兄様、第二隊をわたくしにちょうだいな。魔導士が味方にいたらとても便利だわ。表向きは今まで通り、お兄様が指揮官だけど実権はわたくしよ。それとジェレミーお兄様は、第二皇子派の情報を逐一流してもらうわ」
「僕がそんなことするとでも?」
「するわ。お兄様もうんざりでしょう? 皇帝になりたくなかったら、わたくしに協力するしかないわ。毒を食らわば皿まで、ってお兄様の得意分野でしょうし」
「……そうだね。クリスティーナの言う通りだ」
ふう、と息を吐いたジェレミーが諦めたように言うが、どこか吹っ切れているように見える。
「それと……エドワード」
急に名前を呼ばれたエドワードが、びくりと肩を震わせた。
「エドワードは皇太子殿下の処罰通りにして?」
「それは閣下がオレの死を望んでいると……」
「ええ。一度死んで、皇太子殿下の元で働いてもらうわ」
にこりと目を笑ませれば、エドワードがずるりと座り込んだ。
「お兄様、海外で自由に動ける密偵を欲しがっていたのよ。ドルレアンを第二皇子派が動かせると分かった以上、他の国の情報も欲しいところ。これまで副官として、わたくしとともに海外を渡り歩いていたエドワードなら適任よ」
「クリス閣下……」
震える手で牢屋の鉄格子をつかんでいるエドワードに近づき、クリスティーナはエドワードの顎をくいっと指で上げた。
「エドワード、もうわたくしを裏切らないでね。あなたはわたくしのものよ」
悪女らしく嫌味たらしく、それでいて艶やかに笑った。
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