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ターゲット、無実の罪で追放だ
第10話
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「戦争で死んだ方が、オズウェン公爵にとっては都合が良かったんだろう。王宮で味方がいない状況に投げやりになって、この戦争で散っていいと本気で思っていた」
「そんな」
「でも、生き抜いてしまったんだ」
絶望も悲しみも混ぜ込んだような響きに、胸が痛くなる。
勇敢な戦いぶりの裏で、そんなことを考えていたなんて。
「でも、イシュカに出会ってそうじゃないって思った」
「え……」
「帰りを待ってくれる人がいて、誇りに思ってくれる人がいる。それだけで生きていけると思ったんだ。俺は君に助けられたんだ」
殿下は手を伸ばし、私の両手を取るとぎゅっと握った。
慌てて反射的に手を引こうとしたけど、殿下の力が強くてかなわない。
「だから、今度は俺が君を助けるって決めていたんだ」
顔を上げると、真摯で、それでいて熱を伝えてくるまなざしに見つめられていた。
目が、離せない。
私は急激に体温が上がり、トクトクトクと心臓の鼓動が身体中に響く。
殿下に握られた手が、熱く痺れているようだった。
「いつまで女性の手を握っているおつもりですか?」
突然、馬車のドアが開いて声をかけられ、殿下の手が緩んだ隙に、ぱっと手を離した。
そこにいたのは側近の方。
人に見られていたなんて、恥ずかしい!
「いいところだったのに。ワザとだろ」
「ワザとなもんですか。宿場町に着きましたよ。馬車が停車したことに気づかなかったんでしょう?」
「まぁ、そうだな。イシュカしか見えてなかったから」
「で、殿下!?」
甘さを含む言葉をさらりと言われて、さらに頬が熱くなった。
「はいはい。夢にまで見た聖女様を前に浮かれているのは分かりますが、イシュカ嬢もそろそろ身綺麗にしたいんじゃないでしょうかね?」
指摘されてはっと気がつく。
そういえば、私ほこりまみれだった!
檻のような馬車に乗せられ、その馬車が横転し戦いに巻き込まれて、お世辞にも綺麗な状態とはいえない。
王太子殿下の前なのに、女性として恥ずかしい……。
「も、申し訳ございません! こんなお恥ずかしい姿で……」
「すまない。気遣えればよかったんだが」
「そうですよ。どうせ彼女が持ってきた荷物もあちらの馬車に置いたままでしょう?」
「あー、そうだな。すまない、イシュカ」
「と、とんでもございません!」
申し訳なさそうに眉を下げる殿下に、私はぶんぶんと首を横に振る。
荷物と言っても必要最低限の物しか許されなかったから、大したものは入れていない。
「イシュカ嬢、必要なものはこちらで揃えます。今日宿泊する宿屋の女主人にも伝えていますから、何かあれば申し出てください」
「お手をわずらわせてしまい、申し訳ございません。ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
「甘えて、イシュカ」
私物を持っていないというどうにもならない状況なので即決したけど、助けてもらってばかりだから、私こそ申し訳なさでいっぱいだった。
だけど、一言言わせていただきたい。
殿下、そんな甘い微笑みを一般女子に安売りしたら、糖度が高すぎて失神者がでますよ!
「そんな」
「でも、生き抜いてしまったんだ」
絶望も悲しみも混ぜ込んだような響きに、胸が痛くなる。
勇敢な戦いぶりの裏で、そんなことを考えていたなんて。
「でも、イシュカに出会ってそうじゃないって思った」
「え……」
「帰りを待ってくれる人がいて、誇りに思ってくれる人がいる。それだけで生きていけると思ったんだ。俺は君に助けられたんだ」
殿下は手を伸ばし、私の両手を取るとぎゅっと握った。
慌てて反射的に手を引こうとしたけど、殿下の力が強くてかなわない。
「だから、今度は俺が君を助けるって決めていたんだ」
顔を上げると、真摯で、それでいて熱を伝えてくるまなざしに見つめられていた。
目が、離せない。
私は急激に体温が上がり、トクトクトクと心臓の鼓動が身体中に響く。
殿下に握られた手が、熱く痺れているようだった。
「いつまで女性の手を握っているおつもりですか?」
突然、馬車のドアが開いて声をかけられ、殿下の手が緩んだ隙に、ぱっと手を離した。
そこにいたのは側近の方。
人に見られていたなんて、恥ずかしい!
「いいところだったのに。ワザとだろ」
「ワザとなもんですか。宿場町に着きましたよ。馬車が停車したことに気づかなかったんでしょう?」
「まぁ、そうだな。イシュカしか見えてなかったから」
「で、殿下!?」
甘さを含む言葉をさらりと言われて、さらに頬が熱くなった。
「はいはい。夢にまで見た聖女様を前に浮かれているのは分かりますが、イシュカ嬢もそろそろ身綺麗にしたいんじゃないでしょうかね?」
指摘されてはっと気がつく。
そういえば、私ほこりまみれだった!
檻のような馬車に乗せられ、その馬車が横転し戦いに巻き込まれて、お世辞にも綺麗な状態とはいえない。
王太子殿下の前なのに、女性として恥ずかしい……。
「も、申し訳ございません! こんなお恥ずかしい姿で……」
「すまない。気遣えればよかったんだが」
「そうですよ。どうせ彼女が持ってきた荷物もあちらの馬車に置いたままでしょう?」
「あー、そうだな。すまない、イシュカ」
「と、とんでもございません!」
申し訳なさそうに眉を下げる殿下に、私はぶんぶんと首を横に振る。
荷物と言っても必要最低限の物しか許されなかったから、大したものは入れていない。
「イシュカ嬢、必要なものはこちらで揃えます。今日宿泊する宿屋の女主人にも伝えていますから、何かあれば申し出てください」
「お手をわずらわせてしまい、申し訳ございません。ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
「甘えて、イシュカ」
私物を持っていないというどうにもならない状況なので即決したけど、助けてもらってばかりだから、私こそ申し訳なさでいっぱいだった。
だけど、一言言わせていただきたい。
殿下、そんな甘い微笑みを一般女子に安売りしたら、糖度が高すぎて失神者がでますよ!
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