王宮追放された没落令嬢は、竜神に聖女へ勝手にジョブチェンジさせられました~なぜか再就職先の辺境で、王太子が溺愛してくるんですが!?~

結田龍

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竜神に聖女に認定されちゃった……

第36話

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 水術師として働いていて、他の人より魔力を使っても疲れないくらいの自覚はあったけれど。
 まさか桁違いと言われるとは……自分のことながらあんまりぴんとこない。
 同期のヘンリエッタの方がトップ入団だったし、自分の家が魔力に関係する家柄でもなかったし。


『竜神が嘘をついてどうするんだよ。自覚をすればもっと大きな魔力を使えるぞ。というわけで、しっかり聖女の修行をするように。イシュカには立派な聖女になってもらわないと』

「あ、薬草が足りてない! ちょっともらってくるわね」

『おい!』


 びしっと指さす姿が可愛いが、言っていることは可愛くないから、さっさと退散することにした。
 聖女なんて荷が重すぎる。
 部屋を出て、ここ最近お世話になっている城の温室へ行く。
 ここが辺境の地であり、国境を守る任があるトレムス家は自分たちで薬草を育て、薬を作っているそうだ。
 ちなみに、トレムス辺境伯の領地はもっと王都側にあるそうだが、グレッグの兄が主に領主の仕事をしているらしい。


「えっと、足りなくなった薬草は……」


 温室に入り、必要な薬草を採取していく。
 本当にこのやり方でいいのかしら。
 また同じことの繰り返しになるんじゃないかと頭によぎる。
 城の図書室の入室許可をもらって、何か情報を見つけた方がいいのかも……。


「あら、イシュカ?」


 誰もいないと思っていた温室で声をかけられ、振り向いた。
 そこにいたのはベールの女性。


「ナンシー様」

「また薬草を取りに来たの?」

「はい。ポーションはまだ完成していないので」

「そう。精が出るわね」

「ナンシー様はどうされたのですか?」

「私は花の手入れに来たのよ」


 温室の奥にはナンシー様が手入れをしている花たちが綺麗に咲いていた。
 ニコラス閣下がナンシー様のために用意されたそうだ。


「ねえ、イシュカ……そのポーション、私のためなんでしょう?」

「ええっと……」


 小首を傾げたナンシー様に、私は言葉に詰まった。
 グレッグから秘密にしてほしいとは言われていないが、ご事情を伺わず動いてしまっていることに、嫌な気分になっていないかしら……。


「いいのよ。隠さなくて。大方グレッグから依頼されたんじゃなくて?」

「……ええ。そうです」

「あの子にも心配かけてばかりね。ありがとう、イシュカ。私のために日夜頑張ってくれて」

「いえ。水術師としての仕事ですし、お世話になっている分、ご恩をお返ししたいので。あの……ご迷惑でしたか?」


 おずおずと聞いてみると、ナンシー様が首を横に振った。


「迷惑だなんて……本当にありがたいと思っているのよ。でも、イシュカはローク様のもとで仕事をするのでしょう? 私のポーションなんて、イシュカの仕事の邪魔をしているだけだわ」

「そんなことありません」

「そんなことあるのよ。私は病を患ってから、みんなに迷惑をかけて、心配させて。そして、あなたにも……私は足を引っ張ってしまう存在だから」


 ナンシー様は溜息を吐いた。





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