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王太子妃候補の一人がやってきた
第42話
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すると、とん、と誰かに肩を触れられる。
「ソニア嬢、俺が助けたんだ」
見上げれば、真剣な瞳で話を切り出した殿下がいた。
肩に優しく触れられた手のひらから温かさが伝わる。
その温かさがうれしい、なんて。
「ロークお兄様が?」
「イシュカは冤罪だよ。宰相の娘によってね」
「まあ! あの頭がお花畑のシャーロットの。あの子、黒い噂があったけれど本当だったのね!」
「ソニア、言葉を慎みなさい」
「本当の事でしょう、お兄様。イシュカさん、ごめんなさい。知りもしないで疑って」
「いえ。大丈夫です」
すぐに謝罪の言葉を口にしたソニア様は、素直で正義感の強い方なんだろう。
可愛らしい姿だけど、凛とした強さが見え隠れする。
けれども、さすが王宮と言うべきか。シャーロット様の噂も含めて、悪い噂はすぐに広まるものね。
「セレーネさん、水術師ということはあなたがポーションを作られるのでしょうか」
「はい。ステッド先生。カスタリアに来る前は王宮でもポーションを作っておりました。元はと言えば私がお医者様をお呼び立てしたようなもので。本当に王都からありがとうございます」
「そうでしたか。ポーションは王都で何度も扱って来ていますから、お役に立てると思いますよ。ご安心ください」
「ありがとうございます。助かります」
お礼を言えば、ステッド先生がにこりと笑みを浮かべた。
頼りになりそうな方で良かった。
ホッとしたとたん、肩をくいっと引き寄せられた。
引き寄せた人物は一人しかいないんだけど……殿下、近いんですが!
見上げれば、視線が合った殿下がふっと微笑まれた。
多分、私は真っ赤になっていると思う。
「イシュカには期待をしているんだ。助けてもらえるかな?」
「もちろんです。殿下」
「ステッド先生、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。セレーネさん」
なるべく平静を装って返事をしたけれど、不自然になっていないかしら。
こちらを睨んでいるように見える表情のソニア様が気になるけれど……。
「まだ玄関ホールにいたのか。部屋は用意できているぞ。急ぎソニア嬢の分もな」
今までこの場にいなかったグレッグがやってきた。
ナンシー様が客室の準備をされていたはずだけど、どうやら駆り出されていたらしい。
「ソニア、あなたは体が弱いのだから、先に部屋で休ませもらいなさい」
「でも、ニコラスのおじ様にご挨拶しないと」
「気にするな、ソニア嬢。父への挨拶は晩餐のタイミングに設けよう」
「わかったわ。みんな過保護ね。ありがとう、グレッグお兄様」
「サイモン。ソニアを一度診てもらえますか? 大丈夫だと思いますが」
「もちろんです。メルヴィン様」
ソニア様はお体がそんなに強くないのかしら。
もしかして王太子妃候補だからという理由だけではなく、養生も兼ねているのかもしれない。
みんなが部屋へ引き上げていく中、私はソニア様の様子を伺っていた。
「ソニア嬢、俺が助けたんだ」
見上げれば、真剣な瞳で話を切り出した殿下がいた。
肩に優しく触れられた手のひらから温かさが伝わる。
その温かさがうれしい、なんて。
「ロークお兄様が?」
「イシュカは冤罪だよ。宰相の娘によってね」
「まあ! あの頭がお花畑のシャーロットの。あの子、黒い噂があったけれど本当だったのね!」
「ソニア、言葉を慎みなさい」
「本当の事でしょう、お兄様。イシュカさん、ごめんなさい。知りもしないで疑って」
「いえ。大丈夫です」
すぐに謝罪の言葉を口にしたソニア様は、素直で正義感の強い方なんだろう。
可愛らしい姿だけど、凛とした強さが見え隠れする。
けれども、さすが王宮と言うべきか。シャーロット様の噂も含めて、悪い噂はすぐに広まるものね。
「セレーネさん、水術師ということはあなたがポーションを作られるのでしょうか」
「はい。ステッド先生。カスタリアに来る前は王宮でもポーションを作っておりました。元はと言えば私がお医者様をお呼び立てしたようなもので。本当に王都からありがとうございます」
「そうでしたか。ポーションは王都で何度も扱って来ていますから、お役に立てると思いますよ。ご安心ください」
「ありがとうございます。助かります」
お礼を言えば、ステッド先生がにこりと笑みを浮かべた。
頼りになりそうな方で良かった。
ホッとしたとたん、肩をくいっと引き寄せられた。
引き寄せた人物は一人しかいないんだけど……殿下、近いんですが!
見上げれば、視線が合った殿下がふっと微笑まれた。
多分、私は真っ赤になっていると思う。
「イシュカには期待をしているんだ。助けてもらえるかな?」
「もちろんです。殿下」
「ステッド先生、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。セレーネさん」
なるべく平静を装って返事をしたけれど、不自然になっていないかしら。
こちらを睨んでいるように見える表情のソニア様が気になるけれど……。
「まだ玄関ホールにいたのか。部屋は用意できているぞ。急ぎソニア嬢の分もな」
今までこの場にいなかったグレッグがやってきた。
ナンシー様が客室の準備をされていたはずだけど、どうやら駆り出されていたらしい。
「ソニア、あなたは体が弱いのだから、先に部屋で休ませもらいなさい」
「でも、ニコラスのおじ様にご挨拶しないと」
「気にするな、ソニア嬢。父への挨拶は晩餐のタイミングに設けよう」
「わかったわ。みんな過保護ね。ありがとう、グレッグお兄様」
「サイモン。ソニアを一度診てもらえますか? 大丈夫だと思いますが」
「もちろんです。メルヴィン様」
ソニア様はお体がそんなに強くないのかしら。
もしかして王太子妃候補だからという理由だけではなく、養生も兼ねているのかもしれない。
みんなが部屋へ引き上げていく中、私はソニア様の様子を伺っていた。
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