王宮追放された没落令嬢は、竜神に聖女へ勝手にジョブチェンジさせられました~なぜか再就職先の辺境で、王太子が溺愛してくるんですが!?~

結田龍

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盗まれた。ひとつ残らずポーションが……

第51話

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「っ……これじゃない、もう……どうすれば……」


 絶えず動かしていた手が止まり、気づけば唇を噛みしめていた。
 目の前にある調合台にある完成したポーションは、最初に作ったポーションと同じ効果しか得られないことがわかった。
 私が中心となって作ったポーションは、「例年より遅れている」「効果がイマイチ」と言われ、いらだっているというのに。


「ヘンリエッタ。どうだ、新たなポーションは作れたか?」

「……いえ。研究は続けておりますが、今あるポーションより効果が高いものは、まだ作れておりません」


 王宮術師団の一角にある水術研究室に入ってきたのはホーマー様だった。
 私の顔を見ながら、少し困ったように眉尻を下げた。
 その表情がムカつく。
 私の力がイシュカより劣っているから仕方がない、という感じがありありと出ている。


「そうか、すまんな。宰相閣下から今のポーションよりも効果が高いものを、急いで作るようにと指示が出ておってな。王都の疫病が抑えられていないから、政治責任を問う声がでておるようだ」

「政治責任……」


 体がぶるりとふるえた。興奮と恐怖で。
 閣下の前で、私はお任せくださいと言い切ったのだ。
 力を見せつけるチャンスでもあり、失敗すれば自分の身がどうなるか想像がつかない。
 その時、コンコンと研究室のドアがノックされた。
 はい、と返事をすれば入ってきたのはシャーロット様の侍女のひとりだった。


「失礼いたします。ヘンリエッタ様、シャーロット様が至急来てほしいとお呼びなのですが」

「シャーロット様が?」

「ヘンリエッタ、行って差し上げなさい」

「わかりました」


 ホーマー様に軽く会釈をして、侍女とともに王宮にある、特別に用意されたシャーロット様の部屋へ向かった。
 失礼しますと声をかけ部屋に入ると、シャーロット様がソファからすくっと立ち上がり、つかつかとこちらへ向かってきた。


「シャーロット様、お呼びと伺いましたが……ぐっ!」


 痛……っ。
 あごの下に閉じられた扇が突きつけられた。
 突然の行動に目を見開き、シャーロット様を見ると鋭い双眸でこちらをにらんでいた。


「あなた、いつになったら効果のあるポーションが作れるのかしら?」

「た、ただいま研究中でして……」

「遅い! 水術師長が言っていたことは本当だったのね」

「い、一体何事でございますか?」

「お母様が流行り病で倒れたのよ。そちらにお父様から、急ぎでより効果が高いものを作るようにと指示があったでしょう?」


 閣下が指示してきた裏の意図は、そういうことだったのか。
 背中にたらりと冷や汗が流れた。


「あなたが作った王都に出回っているポーションは、効果があまりないという噂だったけど本当だったわ。お母様に使ったけど、病状がよくならないのよ」

「そんなはずは……」

「貧困層や体力のない民から死人が出ていると言うし。あなた、お母様がそうなったらどうするつもり!?」

「シャーロット様、落ち着いてください。より効果のあるポーションを作っておりますので」

「あなたのポーションを待っている間に、お母様の病状がひどくなったらどうするのよ?」

「そ、それは……」


 自分の顔がこわばっていくのが分かった。
 結果を出せずオズウェン公爵家を敵に回すことは、自分の人生の終わりを意味する。
 どうする、どうすれば……。





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