王宮追放された没落令嬢は、竜神に聖女へ勝手にジョブチェンジさせられました~なぜか再就職先の辺境で、王太子が溺愛してくるんですが!?~

結田龍

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千年越し、新たな聖女が誕生だ

第108話

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「ん……っ」

「……シュ、カ……イシュカ!」


 ゆっくりとまぶたを開ければ、光があふれた。
 最初に見えたのは、黄金色の虹彩が輝く美しい瞳。
 私の好きな瞳。


「ローク……?」

「ああ、俺だ、イシュカ!」


 倒れてしまっていたのか、ロークにゆっくりと体を起こされた。
 そのままぎゅっと強く抱きしめられた。


「無事でよかった! 帰ってきてくれた!」


 鍛えられた厚い胸板に顔を押し付けられれば、ロークの心臓の音がとくとくと聞こえた。
 ああ、生きている。
 すごく安心する。


「イシュカ、おかえり」

「……ただいま」


 ロークがやさしく笑うから、私もつられて微笑んだ。


『ヴェルザンディ!』


 声がした方向に振り向けば、スクルドとウルズが倒れているヴェルザンディに駆け寄っていた。


『弟よ、目覚めたか?』

『兄上たち……わ、我は一体……?』


 むくりと起き上がったヴェルザンディが辺りを見回した。


『ヴェルザンディ。カノンが……いや、イシュカがお前の泉を浄化した』

『我の泉を……?』

『囚われていた記憶から解放されたんだ』


 スクルドの言葉に、ヴェルザンディがため息をついた。


『そうか……ごめんなさい、兄上たち。手間をかけさせました。長い間、苦労をかけたことも』

『よいよい。お主が正気に戻って、妾たちは安心したよ』


 竜神たちは笑顔を浮かべていた。
 良かった。浄化は無事成功したみたい。
 ヴェルザンディは正気に戻ったのね。
 これでいにしえの時代から、このカスタリアの地を守護してきた三竜神が揃った。
 ほっと安堵していると、ロークがヴェルザンディのもとへ行き、ひざまずいた。


「竜神ヴェルザンディ、俺はランドリック王国王太子・ローク・ランドリック。竜神の神域を穢してしまったことをお詫びさせてください」

『王太子……カノンの末裔か。お前、竜神の声が聞こえるのか』

「はい。二年前、我々は隣国からの侵攻とはいえ、この神域にて戦を起こしてしまいました。あなたの正気を奪うような行為です。国を代表してお詫び申し上げます」

『かまわない、カノンの末裔。我の精神が弱かっただけだ。お前は戦以降、この地を統治しているのだろう? この地を大事にしてくれているお前になら任せられる』

「ありがとうございます。光栄です。竜神ヴェルザンディの守護する地を引き続き治めます」

『それから……イシュカ』


 ヴェルザンディが私に目を向け、じっと見た。


『今回のこと、カノンのことを含め感謝している』

「もったいないお言葉です」

『……イシュカ、腕を出せ』

「腕を?」


 ヴェルザンディに言われた通りに腕を差し出した。
 すると目の前にほわりと光の玉が現れ、腕に着けていたブレスレットが反応する。
 ブレスレットが一瞬強く発光した後、スクルドとウルズの竜神石の間に、奥深い青の宝石が加わっていた。


「この宝石は、タンザナイト……?」

『この石は我の竜神石だ』

「ヴェルザンディ様の……」





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