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――ガン、ガン、ガン。
頭の奥で、何かが内側から叩かれているようだった。
呼吸が浅くなる。
喉が乾く。
まるで、脳が焼けるような異常な熱がこみあげてくる。
(……ダメ……! 私、私……!)
「サナちゃん。ねえ、大丈夫?」
その声が、やけに遠くに聞こえた。
「顔、真っ青だよ。ふふ……効いたみたいだね。予想以上に」
ぐらり、と世界が傾く。
私は、タクマの目の前で、膝から崩れ落ちた。
床に手をつこうとしたが、力が入らない。
思考も鈍る。視界はにじみ、光がうす暗く滲んで見えた。
(立って……立って……まだ……)
心の中で、何度も叫ぶ。
だが、体は言うことをきかなかった。
タクマはしゃがみ込み、私の顔をのぞき込む。
口元には、演技ではない――本物の笑み。
「……まだ意識あるんだ。へぇ……君、意外と根性あるね」
「……っ、あ……」
声が出ない。喉が震えるだけ。
「普通なら、もうとっくに“俺に夢中”になってるんだけどな。ま、いいや。ちゃんと書き換わるまでには、少し時間がかかるタイプなんだろうね」
タクマはゆっくりと立ち上がり、個室のソファに座るよう促す。
「ほら、立てる? 歩ける? 無理だよね。……仕方ないなぁ」
彼は私の腕を乱暴ではない程度に引いて、カラオケのソファへと運んだ。
私はほとんどぐったりしたまま、座席に身を預ける形になる。
頭はまだ重い。吐き気すらする。
だけど、意識ははっきりしている。
(……ララ……)
その名前だけが、脳裏に浮かぶ。
(あんな男に……ララを……)
怒りだった。
焼けるような怒りが、意識の底から湧き上がっていた。
それだけが、今の私の理性をつなぎ止めていた。
「……おぉ……その顔いいね」
ふいに、タクマが小さく笑った。
「目はまだ死んでない。でも、体はもう“こっち”に傾いてる。うん、いいよ。徐々に染まっていくタイプ……楽しみがいがある」
タクマは立ち上がり、部屋の照明を少し落とす。
そして、私の隣のソファに腰を下ろした。
近い。
吐息がかかるほどの距離。
「最初から思ってたけどさ……サナちゃんって、綺麗だよね」
「……っ」
「男にモテそうなのに、全然そういうのに興味なさそうで。……もしかして、女の子が好き?」
その一言で、私はわずかに顔を強張らせた。
タクマはすかさず、にやりと口角を上げる。
「やっぱり……ねぇ。じゃあさ、そういう“君の中の軸”も……俺がちょっとずつ壊していくから」
吐息混じりの声。
それは、明らかに“優しさ”の仮面を脱ぎ捨てた男のものだった。
「……まだ抵抗してるのも、わかるよ。だけどね、もう君の心には、俺がちゃんと足を踏み入れてる。……ねぇ、感じない? この鼓動」
タクマは私の手首に指を添える。
触れられたその瞬間、身体がわずかに震えた。
頭では拒絶しているはずなのに、身体が勝手に反応してしまう。
(違う……これは私じゃない……!)
わかっている。
でも、その“わかっている”という感覚すら、崩れかけていた。
「この部屋で、君は俺と初めて会って――
この部屋で、君は俺を“意識”し始める」
その声は、甘く、毒のように響いた。
私の理性は――ほんのわずかずつ、削られていった。
頭の奥で、何かが内側から叩かれているようだった。
呼吸が浅くなる。
喉が乾く。
まるで、脳が焼けるような異常な熱がこみあげてくる。
(……ダメ……! 私、私……!)
「サナちゃん。ねえ、大丈夫?」
その声が、やけに遠くに聞こえた。
「顔、真っ青だよ。ふふ……効いたみたいだね。予想以上に」
ぐらり、と世界が傾く。
私は、タクマの目の前で、膝から崩れ落ちた。
床に手をつこうとしたが、力が入らない。
思考も鈍る。視界はにじみ、光がうす暗く滲んで見えた。
(立って……立って……まだ……)
心の中で、何度も叫ぶ。
だが、体は言うことをきかなかった。
タクマはしゃがみ込み、私の顔をのぞき込む。
口元には、演技ではない――本物の笑み。
「……まだ意識あるんだ。へぇ……君、意外と根性あるね」
「……っ、あ……」
声が出ない。喉が震えるだけ。
「普通なら、もうとっくに“俺に夢中”になってるんだけどな。ま、いいや。ちゃんと書き換わるまでには、少し時間がかかるタイプなんだろうね」
タクマはゆっくりと立ち上がり、個室のソファに座るよう促す。
「ほら、立てる? 歩ける? 無理だよね。……仕方ないなぁ」
彼は私の腕を乱暴ではない程度に引いて、カラオケのソファへと運んだ。
私はほとんどぐったりしたまま、座席に身を預ける形になる。
頭はまだ重い。吐き気すらする。
だけど、意識ははっきりしている。
(……ララ……)
その名前だけが、脳裏に浮かぶ。
(あんな男に……ララを……)
怒りだった。
焼けるような怒りが、意識の底から湧き上がっていた。
それだけが、今の私の理性をつなぎ止めていた。
「……おぉ……その顔いいね」
ふいに、タクマが小さく笑った。
「目はまだ死んでない。でも、体はもう“こっち”に傾いてる。うん、いいよ。徐々に染まっていくタイプ……楽しみがいがある」
タクマは立ち上がり、部屋の照明を少し落とす。
そして、私の隣のソファに腰を下ろした。
近い。
吐息がかかるほどの距離。
「最初から思ってたけどさ……サナちゃんって、綺麗だよね」
「……っ」
「男にモテそうなのに、全然そういうのに興味なさそうで。……もしかして、女の子が好き?」
その一言で、私はわずかに顔を強張らせた。
タクマはすかさず、にやりと口角を上げる。
「やっぱり……ねぇ。じゃあさ、そういう“君の中の軸”も……俺がちょっとずつ壊していくから」
吐息混じりの声。
それは、明らかに“優しさ”の仮面を脱ぎ捨てた男のものだった。
「……まだ抵抗してるのも、わかるよ。だけどね、もう君の心には、俺がちゃんと足を踏み入れてる。……ねぇ、感じない? この鼓動」
タクマは私の手首に指を添える。
触れられたその瞬間、身体がわずかに震えた。
頭では拒絶しているはずなのに、身体が勝手に反応してしまう。
(違う……これは私じゃない……!)
わかっている。
でも、その“わかっている”という感覚すら、崩れかけていた。
「この部屋で、君は俺と初めて会って――
この部屋で、君は俺を“意識”し始める」
その声は、甘く、毒のように響いた。
私の理性は――ほんのわずかずつ、削られていった。
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