無償の愛などあり得ない

夜道に桜

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前編

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「婚約はしないわ。私達、別れましょう」

月明かりが僅かに窓から差し込む部屋で、マリーは冷たい口調で、婚約者であるニックに背中を向けて目も合わせずに告げた。

「……いきなり何を言い出すんだマリー。僕たちあんなに愛し合ってたじゃないか…」

冷静な口調とは裏腹に、ニックは珍しく動揺していた。

一年前に花屋で看板娘をしていたマリーに

マリーはかなりの美貌の持ち主で、ニック以外からの男性からも数多く告白を受けていたが、全員断っていた。

マリーはニックに恋をしていたから。

ニックはマリーの告白を受け入れ、二人は付き合い始めた。

交際当初、周囲の予想を遥かに上回って二人の関係は良好だった。

が、それも長くはなかった。

半年もすれば、マリーはニックを避けるようになり始めた。

ニックもそれは薄々分かっていた。

だから、今日しばらくぶりにマリーから「話があるの」と連絡を受けた時は、心が躍り、浮足立って彼女の元に来たが、まさか婚約破棄の通告をされるなんて――夢にも思わなかった。

「何かあったのか? あるなら教えてくれ」

「……」

自分に非があるなら口に出して教えて欲しい。

だが、マリーは相変わらず背を向けたまま、理由を教えてくれようとしない。

「だんまりなんてひどいじゃないか。はっきり口に出してくれ。そうすれば僕も行動に移せる」

そう言って、ニックはマリーに近づこうとしたが、

「こっちに来ないで」

――拒絶。

そう言われれば、ニックは歩み寄る事さえできず、近づくことさえできなくなってしまった。

「――どう……したんだよ…」

「理由を言ったら、帰ってくれるの?」

「今日は……帰るよ。約束する」

ようやく口を開いたマリーの言葉に、ニックは項垂れたような声で答えだが――。

「……私ね。ニックじゃ満足できないの。ニックのようなどこにでもいるような普通の男じゃ満足できないの」

「………………」

「もっとお金持ちで身分も高い人じゃないと嫌。今だって、ニックよりもいい人と愛し合っているの」

「マリー……」

乾いた笑い。

口の中が急激に乾燥する。

「嘘じゃないわ。だから……ね? 私の事は諦めて。とはもう終わったの」

淡々と他人行儀に振舞うマリー。

そして、それっきりマリーは口を閉ざし、ニックも何も言えなくなってしまい、「……帰るよ」と、弱弱しい足取りで帰った。

☆★☆

ニックが居なくなった後、部屋の中では啜り泣くマリーの姿が居た。

そして、そんな彼女に後ろから包み込むように肩を回す男の姿が。

彼の名前は、デューク。

若くして公爵家の当主を務めている。

デュークは、マリーの手入れされた艶のある金色の髪に顔を近づけて囁いた。

「何を泣く必要があるんだい? これで君も彼も幸せになれるじゃないかい。君は僕という富を。彼は……そうだな、君という魔女の束縛から逃れ、偽りの愛から解放されたんだ。素晴らしい事じゃないか」




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