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後編②
しおりを挟むそれからしばらくして。
――あのお屋敷には絶世の美女がいる。
どこから話が漏れたのか、マリーについての噂が町全体に広まってしまった。
使用人の誰からが言いふらしたのか、はたまたマリーが花を摘んでいる姿を偶然誰かが外から見かけてか……ともかくロディはその噂が町に住むほとんどの物の関心の的になっていることに焦った。
(こんな事になるなんて……。やはり、姉さんは部屋に入れておくべきだ)
そう思い、マリーにも説得し部屋から出ないように通達した。
おかげで、時間が経つにつれて人々の関心も薄れていった。
これで一安心。
ロディはほっと胸を撫でおろした。
前ほどではないにせよ、マリーとの生活を送れるだろう。
しかし……その男はやってきた。
「一度君の家に遊びに行っても良いかな?」
いつものようにデュークに描き上げた絵を売りに行くと、何を思ってか彼は報酬を支払う際に言った。
ロディは激しく動揺した。
付き合いが長くなると、ロディの耳にはデュークがひどく女癖が悪いという事が度々飛び込んでいた。
そんな彼の視界にマリーが映り込んでしまうと……結果は火を見るより明らかだろう。
出来るなら断りたい。
だが、デュークは独り立ちできなかった自分を正規の道ではないとは言え、ここまで成り上がらせてくれた張本人でもある。
……悩んだ末、ロディは首を縦に振った。
絶対にマリーをデュークの目に視界に入れないように細心の注意を払って。
☆★☆
その日がやってきた。
マリーには屋敷で一番奥の部屋でデュークが帰るまでの間隠れているように伝えてある。
ロディは、万全の準備をしてデュークを出迎えようと待機していた。
何も問題はない。
大丈夫だ、大丈……。
しかし、ロディの考えはデュークが応接間に入ってくるなり放った一言で打ち砕かれた。
「君の恋人はどこだい?」
「……は?」
いきなり核心をつく質問に、ロディは心臓に氷の刃が当てられているような気分になった。
デュークは追撃を止めない。
「とぼけるなよ。ここに来るまでそれとなく探してみたけどいないじゃないか。居るんだろ? 君の恋人が。みんな知っている。僕にも会わせてくれ。今日はそれを目当てに来たんだ」
「……こ、恋人ではありません。マリーはその……姉です」
「君のお姉さんなのか! じゃあ、尚更いいな。お姉さんを呼んでくれ。簡単だろ?」
「……」
黙りこむロディ。
彼の心中は怒りに震えていた。
なぜ、よりにもよってなぜそれなのか。
それ以外の事、全てならば自分は目の前の悪人のいう事なら何でもするのに。
なぜ、それなのか?
なぜ……。
そしてチラッと様子を伺うようにデュークに視線を送って、言葉を捻りだそうとするが、何も浮かばない。
――結局しばらく沈黙が続いた。
やがてデュークが沈黙を嫌って、懐から取り出した葉巻を吸う音だけが部屋に静かに響き、煙草の匂いが部屋に充満し出した。
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