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ニックという男
しおりを挟むだが、街中の男達がマリーに愛を囁いても、彼女の乾いた心は満たされることはなかった。
穴が開いたバケツに水をいくら注いでも何の意味も無いように。
(……足らない。もっと。もっとよ……)
愛されたい。
もっと。
もっと。
誰よりも。
世界中の誰よりも!
もっと私を愛して!
留まる事のない欲望は日に日に高まっていた。
けれども、マリーは誰か一人と深く交際するという事は無かった。
ニックに出会う前までは。
★☆★
とある日の事だった。
「ちょっとアンタ!」
「……私ですか?」
「そう、アンタよ! この泥棒猫! よくも人の男に色目使ってくれたわね!」
「……何の事です?」
「とぼけるつもり!? あんたが節操も無く男を引っ掛けているって事はこの街のみーんな、知ってんだからね!?」
店終いに取り掛かっていたマリーに、声を荒げて詰め寄る女性。
しかし、特に意に介する様子もなく、
「……あ、あぁその話。誰が私に好意を寄せていらっしゃるのかはご存じないですけれど、別に私には気になっている男性なんて今はいないですよ。良かったですね」
と言い、そのまま店終いに取り掛かろうとするマリー。
しかし、その程度で女性の腹の虫が治まるはずもない。
「ふ、ざけ……ないでよね。何よその態度! アンタなんか、アンタなんか……」
目に涙を溜め、わなわなと身体を震わせる。
と、その時だった。
女性の背後から急にスッと人が出てきて、
――パシッ
頬に衝撃が走った。
「……え?」
しかし、頬をぶたれたこと以上に衝撃だったのは、会話に割って入ってきた相手が男だったこと。
さっきまで涙目だった女性も呆気に取られて、口をぽかんと開けたまま、その男の横姿を見て、急に静かになった。
男はやや怒り気味に口を開いた。
「さっきから後ろで聞いていたが今のは何だ! あなたは彼女に謝るべきじゃないのか?」
「……‥誰ですか貴方? この人の家族かなんかですか?」
突然横から割って入ってきた男にマリーは苛立ちと驚きが入り混じりつつ、反論した。
しかし、
「……いや。そんなんじゃない」
「は?」
「とにかくそういう事だ」
てっきりそう思ったマリーだったが、男はマリーの質問に取り合う気はないらしく、そのまま一言言い残して、どこかへと消えてしまった。
女性はというと、一連の流れで、マリーの誰もが羨むであろう雪のように綺麗な肌が真っ赤に腫れたのを見ると、怒りがすっかり治まったのか、「ざまあないわね!」と言い残して、店を後にした。
そして、一人呆然と立ち尽くしていたマリー。
「‥‥‥」
しばらくそうしていたが、一連の流れを店の奥に隠れていた母親が一声かけると、ようやく我に返った。
そして、その瞬間マリーは気がついた。
今の男が自分の魅了にかかっていなかった事を。
———
前回の、最終回詐欺でした。すみません。
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