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第19話骨抜きにされた男達
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絶世の美女、マリー。
彼女の心は、暗闇の中に沈んでいた。
マリーに求められたのは唯一つ。
デュークの幅広い交友関係である上流階級の人々の前で、彼を輝かせる最高の装飾品の一つとして光り輝く事。
故に、一人でいる時はマリーは、また自室に引き籠っていた。
ソファの上で、両手を膝にのせて、微動だにせず、虚空を何時間もボーっと座るその姿は、フランス人形の様であった。
が、そんな彼女の耳に屋外から2人の男女が楽しそうに談笑するのが聞こえてきた。
最初こそ、耳に入っていなかったマリーであったが、いつまでも終わりそうにない会話に、次第に耳を傾けていた。
そして理解する。
二人は同じ職場で働く同僚であり夫婦。
まだ結婚して日は浅く、生活が豊かであるとは言えない。
しかし、二人は希望に胸を膨らませていた。
愛を語り合い、幸せな家庭を手にし、一生を共にしようと誓い合う二人。
そんな夫婦の会話を聞いている内に、マリーは思った。
(……バカな人たち。そんなものありえないのに)
だが、それでも尚も楽し気に夢を語る二人の会話を聞いている内に……、マリーの心の中で徐々にどす黒い感情が沸き上がってきた。
以前のマリーなら絶対に思わない事。
――それは、二人の仲を裂く事。
彼女の持つ『魅了』の力をもってすれば、容易かった。
男は直ぐに言い寄るマリーに惹かれ、恋に堕ちてしまった。
「……ねぇ、いいの? 貴方には奥様が……」
「あ、当たり前や。君だけなんや。君が俺の全てや。あいつは捨てる! そやそかい俺を選んでくれ!」
「えぇ……どうしようかしら。本当に私の為なら奥様を捨ててくれる?」
「も、勿論や!」
「そ、じゃあ奥さんと別れたらまた会いましょう」
「あ、ああ!」
甘えた声を出すマリーの色気に男は完全に理性を失い、そのままの勢いで別れて、そして、再び彼女の元を訪れたが、
「……本当に別れたの? 信じられない。馬鹿ね。そんなの勘違いしたあなたに諦めてもらうための方便なのに。……第一、私にはデュークがいるの。アンタみたいなどこにでもいるような普通の男に満足するはずないじゃない……バカね」
「……な、なんやて!?」
こうしてマリーは一つの家庭を崩壊させてしまった。
だが、不思議と彼女の心の中は今までにない満足感で満たされていた。
それが何なのかはマリーにははっきりと言語化することは出来なかったが、とにかくとてつもない心地よさが彼女を包んだ。
一度味わうと忘れてしまうことが出来ない程の快楽。
マリーはこの快楽を得るために、複数回同様の事をし、徐々に行動はエスカレートしていく。
ついには、デュークの耳にも彼女の男遊びの噂が飛び込んでしまった。
あまりの不祥事。
公爵家はこれをもみ消すまでの間、マリーを一度実家に送り返されることを決めたが、デュークがマリーを責めることは無かった。
それどころか、「マリー。今の君は誰よりも美しいよ」と称賛した。
★☆★
母が済む実家に帰省したマリー。
しばらくぶりに彼女を見た母。
あまりの娘の性格の変貌ぶりに言葉を失った。
まるで昔の自分そのものではないかと。
だが、母は娘に何と声を掛けていいか分からなかった。
元はと言えば、金銭面的に余裕がなかったとはいえ、ロディの元に行かせてしまった自分が原因。
絶句する母に対し、マリーは店頭に並ぶ花を指差してこう言った。
「お母さん。私、お店の手伝いをするね」
それは花屋の娘としてならごく普通の言葉であったが、この瞬間娘の瞳が妖しく光ったのが目に入ると、鳥肌が立った。
「マリー、貴方もしかして!」
「なぁに? お母さん?」
「……い、いや何でもないわ。手伝ってちょうだい」
「ありがとう、お母さん」
もはや自分の娘ではない何かになり果てた『怪物』を目の前にして母は許可するしかなかった。
★☆★
マリーが帰ってきた。
この噂は狭い片田舎の街において、半日も掛からない内に駆け抜けた。
街中の女達は、自分が愛する男をマリーに奪われるのを危惧し、花屋には近寄らないように何度も念押しした。
……それでも男達の好奇心を押さえつけるには十分ではなかったが。
(どんな女性なんだろう)
(一度ぐらい見たっていいじゃないか)
(そうだ。花を買ってプレゼントすれば言い分も立つ)
そう思った男が一人、二人とふらふら引きずりこまれる様に、花屋を訪れ、そして彼らがもう妻や恋人の所に戻ることは無かった。
全てはマリーの心を満たすために。
街中の男達はたちまちマリーに骨抜きにされていた。
――
次が最終回
彼女の心は、暗闇の中に沈んでいた。
マリーに求められたのは唯一つ。
デュークの幅広い交友関係である上流階級の人々の前で、彼を輝かせる最高の装飾品の一つとして光り輝く事。
故に、一人でいる時はマリーは、また自室に引き籠っていた。
ソファの上で、両手を膝にのせて、微動だにせず、虚空を何時間もボーっと座るその姿は、フランス人形の様であった。
が、そんな彼女の耳に屋外から2人の男女が楽しそうに談笑するのが聞こえてきた。
最初こそ、耳に入っていなかったマリーであったが、いつまでも終わりそうにない会話に、次第に耳を傾けていた。
そして理解する。
二人は同じ職場で働く同僚であり夫婦。
まだ結婚して日は浅く、生活が豊かであるとは言えない。
しかし、二人は希望に胸を膨らませていた。
愛を語り合い、幸せな家庭を手にし、一生を共にしようと誓い合う二人。
そんな夫婦の会話を聞いている内に、マリーは思った。
(……バカな人たち。そんなものありえないのに)
だが、それでも尚も楽し気に夢を語る二人の会話を聞いている内に……、マリーの心の中で徐々にどす黒い感情が沸き上がってきた。
以前のマリーなら絶対に思わない事。
――それは、二人の仲を裂く事。
彼女の持つ『魅了』の力をもってすれば、容易かった。
男は直ぐに言い寄るマリーに惹かれ、恋に堕ちてしまった。
「……ねぇ、いいの? 貴方には奥様が……」
「あ、当たり前や。君だけなんや。君が俺の全てや。あいつは捨てる! そやそかい俺を選んでくれ!」
「えぇ……どうしようかしら。本当に私の為なら奥様を捨ててくれる?」
「も、勿論や!」
「そ、じゃあ奥さんと別れたらまた会いましょう」
「あ、ああ!」
甘えた声を出すマリーの色気に男は完全に理性を失い、そのままの勢いで別れて、そして、再び彼女の元を訪れたが、
「……本当に別れたの? 信じられない。馬鹿ね。そんなの勘違いしたあなたに諦めてもらうための方便なのに。……第一、私にはデュークがいるの。アンタみたいなどこにでもいるような普通の男に満足するはずないじゃない……バカね」
「……な、なんやて!?」
こうしてマリーは一つの家庭を崩壊させてしまった。
だが、不思議と彼女の心の中は今までにない満足感で満たされていた。
それが何なのかはマリーにははっきりと言語化することは出来なかったが、とにかくとてつもない心地よさが彼女を包んだ。
一度味わうと忘れてしまうことが出来ない程の快楽。
マリーはこの快楽を得るために、複数回同様の事をし、徐々に行動はエスカレートしていく。
ついには、デュークの耳にも彼女の男遊びの噂が飛び込んでしまった。
あまりの不祥事。
公爵家はこれをもみ消すまでの間、マリーを一度実家に送り返されることを決めたが、デュークがマリーを責めることは無かった。
それどころか、「マリー。今の君は誰よりも美しいよ」と称賛した。
★☆★
母が済む実家に帰省したマリー。
しばらくぶりに彼女を見た母。
あまりの娘の性格の変貌ぶりに言葉を失った。
まるで昔の自分そのものではないかと。
だが、母は娘に何と声を掛けていいか分からなかった。
元はと言えば、金銭面的に余裕がなかったとはいえ、ロディの元に行かせてしまった自分が原因。
絶句する母に対し、マリーは店頭に並ぶ花を指差してこう言った。
「お母さん。私、お店の手伝いをするね」
それは花屋の娘としてならごく普通の言葉であったが、この瞬間娘の瞳が妖しく光ったのが目に入ると、鳥肌が立った。
「マリー、貴方もしかして!」
「なぁに? お母さん?」
「……い、いや何でもないわ。手伝ってちょうだい」
「ありがとう、お母さん」
もはや自分の娘ではない何かになり果てた『怪物』を目の前にして母は許可するしかなかった。
★☆★
マリーが帰ってきた。
この噂は狭い片田舎の街において、半日も掛からない内に駆け抜けた。
街中の女達は、自分が愛する男をマリーに奪われるのを危惧し、花屋には近寄らないように何度も念押しした。
……それでも男達の好奇心を押さえつけるには十分ではなかったが。
(どんな女性なんだろう)
(一度ぐらい見たっていいじゃないか)
(そうだ。花を買ってプレゼントすれば言い分も立つ)
そう思った男が一人、二人とふらふら引きずりこまれる様に、花屋を訪れ、そして彼らがもう妻や恋人の所に戻ることは無かった。
全てはマリーの心を満たすために。
街中の男達はたちまちマリーに骨抜きにされていた。
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