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無償の愛などあり得ない
しおりを挟む――その晩、マリーは夢を見た。
場所は二人が共に過ごしたあの小さな家のアトリエ。
ロディはいつものように黙々と絵を描いていた。
マリーは彼が用意したと思われる古びれた椅子に座っていて、彼の後姿をただ眺めている。
(……これは夢、ね……)
今となっては懐かしいオルゴールの音。
マリーは感傷に浸りながら、どこか客観的に現実と夢の区別をつけていた。
と、その時だった。
ロディは描いていた手をピタリと止め、マリーの方に向き直って、ポツリと悲しそうに言った。
「……マリー。どうしてアイツと……デュークと居るんだ? 君は……あんな男と居るべきじゃない。アイツが俺に何をしたか分かってるだろう!?」
「……知ってるわ。さっきも聞いたから」
「じゃあ何でだよ!」
感情を剝き出しにするロディとは対照的にマリーは静かに応える。
「……誰かを傷つけるのはもう嫌なの。……ロディ、貴方のようにね」
「――ッ。お、おれは君に傷なんかつけられやしない! 君の勘違いだ、それは!」
否定するロディだが、マリーは首を横に振って、
「いいえ、違わないわ。貴方を狂わさせてしまったのは……私よ。こんな事になるのなら、貴方からもっと早く離れるべきだったわ。本当に……ごめんなさ――」
「違うッ!!! 絶対に違うっ! 俺は狂ってなんか絶対ない!!! 俺はマリー……姉さんの事が本当に好きなんだ!!! ……もう君を縛ったりはしない。だから、またココで二人で暮らそう。姉さん!」
血走った眼で必死にマリーを説得しようとするロディ。
けれど、マリーは冷めた目でただ一言。
「…無理よもう」
そして、そう答えた瞬間マリーは夢から解放された。
☆★☆
無償の愛。
見返りなど一切ない、純粋な愛。
かつてはそんなロマンティックな恋に憧れ、密かに恋心を寄せていた幼馴染の男子から告白された時、その憧れが叶うのではないかと、マリーはひどく胸が高ぶった。
だが、それは魅了による幻影だった。
この力は悪魔に見初められているとしか思えない。
願わくば、自然にこの力が自分の手から消え失せてくれれば良いのに。
何度そう思い、ロディと暮らし、彼に何の変化もないと知った時(思い込んだ時)、その願いが叶ったのではないと思った事か。
現実は、こうして夢にも出てくるぐらいロディは自分に感情を振り回されている。
(……もう疲れたのよ。誰かを振り回すのは)
疲弊しきった心。
マリーはそんなに心の強い女性ではなく、誰かにもたれ掛からなければやっていきなかった。
そして、それがデュークだった。
魅了を知った上での婚約の申し込みは彼女の心を上手く取り込み、そしてマリーは心の安定のために、彼に与えた。
——愛を。
——偽りの愛を。
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