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「若葉っ、あんた、何してんの」
お母さんは私を見るなり、怒鳴りつけた。
「……何、って、お母さんこそ何でここにいるの」
私は思わず眉間に皺を寄せた。
ヒステリックな、責め立てるようなこの声、この声が嫌いだ。
「あんたが、戻って来ないから心配して来てやったのに、何よその言い草は」
お母さんはつかつかと私に近づいて来た。
「戻るなんて私一言も……」
「ったく、あなたって子はだから駄目なのよ。私の言う通り、きちんと進学してれば今頃卒業してきちんとした会社で働いているはずだったのに」
剣幕に後ずさった私の背中を、がっしりとした胸が受け止めた。
振り返ると、貴司くんがいた。
「――若葉のお母さんですか?」
「誰よ、その男、若葉」
「そんなチャラチャラした人と付き合って――、あなたには私みたいになってほしくないのに」
「どうせ、浮気してどっかに行くのよ、そんな男。ねえ、若葉、お父さんだってそうだったでしょ。あんたには私しかいないんだから、戻ってきて、今すぐ家の近くの大学を受けなさい。それで、近くのきちんとした会社に就職して、私に今まで迷惑かけた分楽させてよ――」
私は全身の体温が下がって身体が硬くなるのを感じた。
ずっと毎日延々と呪いみたいに聞かされた言葉に、息が吸えなくなる。
――その時だった。
私の腕を掴んでいる、お母さんの手を貴司くんが払った。
お母さんはよろめいて、後ろに数歩下がった。
私は驚いて振り返る。貴司くんは不機嫌そうに眉を寄せて、低い声で怒鳴った。
「うるせぇよ、ババア」
彼が口にした言葉が信じられなくて、私もお母さんも思わずぽかんと口を開けた。
「お前の旦那と俺を一緒にすんな。俺は一途だ。だいたいチャラチャラしてねーし、仕事してるし、テレビ見てねーのかよ」
貴司くんは息継ぎせずに早口で怒鳴った。
一瞬シーンとしたあと、お母さんは私を見て、眉を吊り上げた。
「若葉、何なのこの失礼な男は」
私は大きく息を吐くと、彼女に向かって、たぶん、初めて大声を出した。
「――私、今、きちんと仕事してるし、毎日楽しくしてるから、放っておいてよ」
だけど、彼女は――私の言ってることなんて聞こえないみたいに、話し続けた。
「仕事って、ただのバイトでしょ? そんなのしてて何になるのよ。高卒のフリーター?情けない」
「――バイトじゃないよ、喫茶店、きちんと就職した」
「喫茶店なんかで働いてどうするの? どうせ潰れたりするのよ。そしたらもう、人生詰むわよ、今のままのあんたじゃ」
ああ、駄目だ。何を言っても。この人は私の話なんか全然聞かない。
その時、貴司くんが私の手を引っ張った。
「だいたいお前が若葉の人間関係切らせたせいで、俺が会うのが遅くなったんだよ、バーカ」
そう吐き捨てて、私を車の助手席に押し込むと、そのまま車を発車する。
「待ちなさい」とお母さんの声がしたけれど、振り向こうとする私の顔を貴司くんは前に向けさせた。
「気にしなくていいよ、あんな馬鹿」
「馬鹿って……」
私はあははと笑って、少し黙ってから、言った。
自然と言葉が口から出た。瞳が潤む。
「……ありがと、私、貴司くんのこと好きだ」
貴司くんは一瞬止まって、そのまま困ったように呟いた。
「――泣きながら、そんなこと言うの反則だろ」
信号で車が停止する。彼はそのまま私の肩を掴むと、唇を塞いだ。
ぎゅっと押し付けた唇を離すと貴司くんは熱に浮かされたような声で囁いた。
「我慢すんの無理になるから」
お母さんは私を見るなり、怒鳴りつけた。
「……何、って、お母さんこそ何でここにいるの」
私は思わず眉間に皺を寄せた。
ヒステリックな、責め立てるようなこの声、この声が嫌いだ。
「あんたが、戻って来ないから心配して来てやったのに、何よその言い草は」
お母さんはつかつかと私に近づいて来た。
「戻るなんて私一言も……」
「ったく、あなたって子はだから駄目なのよ。私の言う通り、きちんと進学してれば今頃卒業してきちんとした会社で働いているはずだったのに」
剣幕に後ずさった私の背中を、がっしりとした胸が受け止めた。
振り返ると、貴司くんがいた。
「――若葉のお母さんですか?」
「誰よ、その男、若葉」
「そんなチャラチャラした人と付き合って――、あなたには私みたいになってほしくないのに」
「どうせ、浮気してどっかに行くのよ、そんな男。ねえ、若葉、お父さんだってそうだったでしょ。あんたには私しかいないんだから、戻ってきて、今すぐ家の近くの大学を受けなさい。それで、近くのきちんとした会社に就職して、私に今まで迷惑かけた分楽させてよ――」
私は全身の体温が下がって身体が硬くなるのを感じた。
ずっと毎日延々と呪いみたいに聞かされた言葉に、息が吸えなくなる。
――その時だった。
私の腕を掴んでいる、お母さんの手を貴司くんが払った。
お母さんはよろめいて、後ろに数歩下がった。
私は驚いて振り返る。貴司くんは不機嫌そうに眉を寄せて、低い声で怒鳴った。
「うるせぇよ、ババア」
彼が口にした言葉が信じられなくて、私もお母さんも思わずぽかんと口を開けた。
「お前の旦那と俺を一緒にすんな。俺は一途だ。だいたいチャラチャラしてねーし、仕事してるし、テレビ見てねーのかよ」
貴司くんは息継ぎせずに早口で怒鳴った。
一瞬シーンとしたあと、お母さんは私を見て、眉を吊り上げた。
「若葉、何なのこの失礼な男は」
私は大きく息を吐くと、彼女に向かって、たぶん、初めて大声を出した。
「――私、今、きちんと仕事してるし、毎日楽しくしてるから、放っておいてよ」
だけど、彼女は――私の言ってることなんて聞こえないみたいに、話し続けた。
「仕事って、ただのバイトでしょ? そんなのしてて何になるのよ。高卒のフリーター?情けない」
「――バイトじゃないよ、喫茶店、きちんと就職した」
「喫茶店なんかで働いてどうするの? どうせ潰れたりするのよ。そしたらもう、人生詰むわよ、今のままのあんたじゃ」
ああ、駄目だ。何を言っても。この人は私の話なんか全然聞かない。
その時、貴司くんが私の手を引っ張った。
「だいたいお前が若葉の人間関係切らせたせいで、俺が会うのが遅くなったんだよ、バーカ」
そう吐き捨てて、私を車の助手席に押し込むと、そのまま車を発車する。
「待ちなさい」とお母さんの声がしたけれど、振り向こうとする私の顔を貴司くんは前に向けさせた。
「気にしなくていいよ、あんな馬鹿」
「馬鹿って……」
私はあははと笑って、少し黙ってから、言った。
自然と言葉が口から出た。瞳が潤む。
「……ありがと、私、貴司くんのこと好きだ」
貴司くんは一瞬止まって、そのまま困ったように呟いた。
「――泣きながら、そんなこと言うの反則だろ」
信号で車が停止する。彼はそのまま私の肩を掴むと、唇を塞いだ。
ぎゅっと押し付けた唇を離すと貴司くんは熱に浮かされたような声で囁いた。
「我慢すんの無理になるから」
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