元教え子に車内で迫られました(R18)

ももも

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「成人した教え子と飲む酒! これが教師冥利に尽きるなあ」

 進路主任の林先生はビール缶を手にはははっと笑った。
 
「校内でお酒飲んで良いんですねーっ、先生たちいいなーっ」

 20歳になった卒業生の女の子が、机の上のお菓子を食べながら茶化すように言う。在学時真っ黒だった彼女の髪は今は明るい茶髪になっている。彼女は服飾系の専門学校に進学して、今年就職した。メイクも個性的な感じで、学校生活楽しんでるんだろうなと思った。

「いつもこんなことやってるわけじゃないわよ。今日は特別!」

 私はその子にビール缶を渡しながらにっこり笑った。

 今日は私、竹宮 香奈たけみや かなが教員をしている緑山高校の卒業生による進路講演会の打ち上げなのだ。
 進学後のイメージを持ってもらうために、ゴールデンウイークの最初の休日に成人した卒業生たちに戻ってきてもらって新3年生に自分の体験を語ってもらう恒例イベントで……、打ち上げとして構内の和室で進路指導部の教員と飲み会を行うのも恒例になっている。

 成長した彼らの姿を久しぶりに見れるのは嬉しくて、林先生の言葉じゃないけど教師冥利に尽きる。

怜央れおの出待ちする女子がいてなぁー、追い返すのに手間がかかってスタートが遅くなったんだぞー」

 林先生は柔らかい茶髪の男子生徒を小突いた。
 彼は岡田 怜央くん、お父さんがアメリカ人のハーフの子で、親が離婚してお母さんと一緒に高校1年生の2学期から編入してきた子だ。

 彫りの深い顔に、茶色い瞳。染めたんじゃない、地毛の柔らかい茶色い髪で王子様っぽい見た目のため、テンションの上がった女子たちが、それぞれあらかじめ興味ある進路先の卒業生のいる教室で話を聞くことになっているはずなのに、途中で彼の教室に押しかけて店員オーバーする事態になったのが今日の進路講演会の一番のトラブルだった。

 さすがに校内で飲酒しているのを生徒に見られて保護者に知られると問題になるので、彼を出待ちする生徒を帰宅させてからの飲み会開催になったので、開始時間が遅くなってしまった。

「そうなんですか?」

 岡田くんは困ったように首を傾げた。林先生ははははっ豪快に笑うと彼にビール缶を渡す。

「自覚あるくせに何言ってんだ? 飲め、飲め」

「僕、今日車なんで駄目なんですよ……」

 岡田くんはそう言ってペットボトルのオレンジジュースを取った。

「お前、生意気に車か! 良いねえ」

 林先生は嬉しそうに笑って、ペットボトルを岡田君の手から奪うと彼の紙カップに注ぐ。それから私たち教員を見回して言った。

「今日の運転手は牧田先生だよな!」

 うちの学校――緑山高校はその名の通り、といったらなんだけど山奥にあるため通勤はほとんどの先生が車だ。そのため、飲み会時は運転手が必ず必要になる。大体お酒の飲めない牧田先生がやることが多いけど。

「戸締りは私でーす」

 私ははい、と手を挙げた。

「先生は飲まないんですか?」

 岡田くんがビール缶を私に渡そうとしてくる。

「戸締り係だからねえ。私もオレンジジュースにするわ」

 戸締り係は最後まで校内に残ってセキュリティをかけて帰らなければならない。飲みたい気持ちもあったが、どっちにしろ連休明けの授業の準備でちょこっと残ろうと思ってたから自分から名乗り出た。

 私が笑ってジュースを取ろうとすると、岡田くんがさっとペットボトルを持つ。

「僕が注ぎますよ」
 
 そう言うと、先生どうぞ、と紙コップを私にもたせて、両手でペットボトルを持って会社の飲み会で上司にビールを注ぐみたいに入れてくれる。

 サークルの飲み会とかで先輩にやってるのかなあ。
 私は彼のその手慣れた手つきに思わずじーんとした。

 当時教員2年目でようやく担任を持った私のクラスに編入してきた子だったけど、当初あんまり日本語の読み書きができなくて、英語担当の私が付きっきりで教えたりして手がかかったからよく覚えている。
  
 そんな彼が東京の大学に進学して、1人暮らしをしているというんだから何だか感動してしまう。
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