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……結局、岡田くんの車に乗せてもらうことになった私は、家で作業すべく教材を段ボールに入れて両手で抱えて英語科準備室を出た。
「そんなに持って帰るんですか」
とたん腕が軽くなる。岡田くんが段ボール箱をひょいと持ち上げていた。
「ありがとー。連休明けの準備がねえ、間に合ってなくて……。本当は残って作業しようと思ってたんだけど」
私は頭をかくと、あははと苦笑した。
「僕、待ちますけど……」
階段を下りながら岡田くんが言う。
「そんな、悪いわよ。岡田くんのママ、遅くなると心配するでしょ」
私はからかうような口調で言った。彼はお母さんのことをママと呼んでいたので、編入当初しばらくクラスで面白がられていたのを思い出した。そのうちみんな慣れたけど。
「母は」
岡田くんは足を止めるとむっとした顔をした。
「今、北海道にいます。去年再婚して引っ越しました」
「あれ、そうなんだ。今回はじゃあ、どうしたの? 友達のうちに泊まり?」
ゴールデンウィークに実家に帰省ついでに母校に来てもらおうって企画だから、別に元生徒の宿泊先なんて気にしないけど……。お母さんいないならどこに泊まってるんだろう。
「ホテル取りました」
岡田くんはサラリと言う。
私はびっくりして立ち止まった。
「お金かかるでしょ……。そんなわざわざ来てくれてありがとね……」
わざわざホテルまでとって在校生に進路の話しに来てくれるなんて思ってなかったので感動してしまう。「いえ」と岡田くんはすたすたと歩く速度を速めた。
「その、先生に会いたかったですし……」
「そうなの? 嬉しいなぁ」
私は笑って後をついていった。そう言われると本当に嬉しい。
□
校内の全体セキュリティをかけ、校舎を出て来客用の駐車場に向かう。
そこに1台だけ止まってる青いセダンの助手席を開けると、岡田くんは「どうぞ」と言った。
「下のスーパーの所で降ろしてもらえれば大丈夫よ。私だって軽なのに、やるねえ」
私は助手席に座ると運転席の岡田くんを肘で小突いた。
「去年、買いました」
車を発車させて、慣れた手つきで校門を出ると岡田くんはそう答える。
私は少し驚いた。お母さんの車かなんかだと思ってた……。
「東京は車いらないっていうけどねえ」
「あった方がやっぱり便利なので……、仕事の打ち合わせとかで結構いろんなところ行くんですよ」
「仕事? あ、帰国子女の子の家庭教師のサポートしてるんだっけ」
彼が進路の話で話していたことを思い出す。確か外国にいる帰国予定の日本人の子に事前に勉強をサポートする団体を起業したということだった。
起業……、ボランティア団体みたいな感じかなとイメージしてたけど、どうやら違うようだ。
「東京の大学生は凄いね。ちゃんと仕事なんだ」
暗い山道を下りながら岡田くんは不満そうな声を出した。
「僕、代表ですから。就活しないでそのまま続ける予定です。もうちゃんと社会人みたいなもんです」
「そっか。ごめんごめん、言い方悪かったわね。頑張ってるね、岡田くん」
私が謝ると、岡田くんはそのまま黙って坂の途中の待避所に車を停めた。私は首を傾げる。前方から登ってくる車もないのに……。
「どうかした? 大丈夫?」
「先生」と岡田くんが真剣な表情で私を見つめる。
「社会人になったら、付き合ってくれるって言いましたよね」
「そんなに持って帰るんですか」
とたん腕が軽くなる。岡田くんが段ボール箱をひょいと持ち上げていた。
「ありがとー。連休明けの準備がねえ、間に合ってなくて……。本当は残って作業しようと思ってたんだけど」
私は頭をかくと、あははと苦笑した。
「僕、待ちますけど……」
階段を下りながら岡田くんが言う。
「そんな、悪いわよ。岡田くんのママ、遅くなると心配するでしょ」
私はからかうような口調で言った。彼はお母さんのことをママと呼んでいたので、編入当初しばらくクラスで面白がられていたのを思い出した。そのうちみんな慣れたけど。
「母は」
岡田くんは足を止めるとむっとした顔をした。
「今、北海道にいます。去年再婚して引っ越しました」
「あれ、そうなんだ。今回はじゃあ、どうしたの? 友達のうちに泊まり?」
ゴールデンウィークに実家に帰省ついでに母校に来てもらおうって企画だから、別に元生徒の宿泊先なんて気にしないけど……。お母さんいないならどこに泊まってるんだろう。
「ホテル取りました」
岡田くんはサラリと言う。
私はびっくりして立ち止まった。
「お金かかるでしょ……。そんなわざわざ来てくれてありがとね……」
わざわざホテルまでとって在校生に進路の話しに来てくれるなんて思ってなかったので感動してしまう。「いえ」と岡田くんはすたすたと歩く速度を速めた。
「その、先生に会いたかったですし……」
「そうなの? 嬉しいなぁ」
私は笑って後をついていった。そう言われると本当に嬉しい。
□
校内の全体セキュリティをかけ、校舎を出て来客用の駐車場に向かう。
そこに1台だけ止まってる青いセダンの助手席を開けると、岡田くんは「どうぞ」と言った。
「下のスーパーの所で降ろしてもらえれば大丈夫よ。私だって軽なのに、やるねえ」
私は助手席に座ると運転席の岡田くんを肘で小突いた。
「去年、買いました」
車を発車させて、慣れた手つきで校門を出ると岡田くんはそう答える。
私は少し驚いた。お母さんの車かなんかだと思ってた……。
「東京は車いらないっていうけどねえ」
「あった方がやっぱり便利なので……、仕事の打ち合わせとかで結構いろんなところ行くんですよ」
「仕事? あ、帰国子女の子の家庭教師のサポートしてるんだっけ」
彼が進路の話で話していたことを思い出す。確か外国にいる帰国予定の日本人の子に事前に勉強をサポートする団体を起業したということだった。
起業……、ボランティア団体みたいな感じかなとイメージしてたけど、どうやら違うようだ。
「東京の大学生は凄いね。ちゃんと仕事なんだ」
暗い山道を下りながら岡田くんは不満そうな声を出した。
「僕、代表ですから。就活しないでそのまま続ける予定です。もうちゃんと社会人みたいなもんです」
「そっか。ごめんごめん、言い方悪かったわね。頑張ってるね、岡田くん」
私が謝ると、岡田くんはそのまま黙って坂の途中の待避所に車を停めた。私は首を傾げる。前方から登ってくる車もないのに……。
「どうかした? 大丈夫?」
「先生」と岡田くんが真剣な表情で私を見つめる。
「社会人になったら、付き合ってくれるって言いましたよね」
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