あなたと交わす、未来の約束

由佐さつき

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本編

五、

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 元々透けるように白かった肌が青くなり、真っ直ぐに引き延ばされた口元にどうしたのだろうかと不安になった。折れ曲がって力んだ背中は、布越しであるはずなのに背骨が浮き上がって見える。かちかちと音がしているのは、下唇に沿うように付けられた二つのピアスが歯と当たっていたのだろう。
 黒板に書きこまれていく文字を写しながら、日向の頭を占めているのは須賀のことばかりだ。宗教学は専攻する分野に関わってくる重要な科目なのに、マイクに通されて聞こえづらくなったこもった声は右に左に流されていく。
 偶々通りかかった喫煙所で須賀と出逢って、柔らかな陽射しを受けた横顔に一目惚れをした。静謐な光を燻らせる瞳をもっと見たくて、中性的な外見に似合わず落とされた低い声に名前を呼ばれたくて、何処にいても彼の姿を探した。
 色んな授業に出ているという須賀を見つけるのはなかなかに難しく、日向が見つけられたのは最初にすれ違った英文学の授業のみ。そのたったひとつではあったけれど、自分が一番好きな授業を一緒に受けられるのは嬉しかった。
 名前を呼ぶと困ったように細く整った眉を下げ、日向の後ろに友人がいないかどうかを確かめる。前髪とマスクで表情を隠してしまった須賀は人見知りなのか、教授とも話しているのを見たことがない。それなのに自分の前では前髪を耳に掛け、ゆったりと喋ってくれた。君は特別なのだと言われているようで、心臓に甘い蜜が流し込まれていくようだった。
 英文学の教授に絵本を借りたのは、須賀に笑ってほしかったからだ。最前列の真ん中で授業を受けている須賀は真面目に講義を聞いているわりに、ノートには最低限の言葉しか写していない。留学経験があるのだと話していた彼にとって、黒板に書かれていく文字の羅列は覚えきれてしまうのだろうか。それとも、単純に単位を取り終わっている授業だから、日向や周りの生徒のようにテスト対策をしなくていいからなのだろうか。
 語学の成績は可もなく不可もなく、まだまだ勉強中の日向は取りこぼしが無いように隅から隅まで写す。黒板とノートを往復していた視線がふらりと隣に滑って見えてしまったのは、端に書き留められた五つのタイトルだった。
 先週の授業で紹介された一冊と、今教卓に置かれている四冊。筆記体で流れるように書かれた文字は上手いが故に読みづらかったが、須賀が書いているということは気になっているのだろう。
 四冊は大人から子どもまで知っているような有名なタイトルではあったが、先週の一冊は海外で発売されたばかりのもの。教授と話している姿は見ていないし、きっと須賀も読んだことはないはずだ。まだ日本には入ってきていないだろうそれを渡せば、困った風じゃない、須賀の心から笑った顔が見えるかもしれない。
 日向の頭は純粋で、真っ直ぐに作られていた。須賀の笑った顔が見たい、喜んでほしい。それだけを思って借りてきた児童書のはずだったのに、多少強引ではあったが須賀に翻訳の確認をしてもらう約束まで取り付けることが出来た。
 嬉しかったのだ。須賀のためを思ってやったことでありがとうと言われたのも、焦った勢いのまま訳に付き合ってくれると言ってくれたのも、日向にとっては青天の霹靂で、駄目で元々で、本当になるとは思っていなかった。
 だから、浮かれていた。確認もせずに実家に招いて、母親自慢の料理を食べてもらって、知らなかった須賀の一面を見せてもらおう。知りたいことは山ほどあって、どれから見せてくれるのだろうかとわくわくして、須賀の瞳が固まっていたことなんて気付きもしなかった。
 確かに、読み始めてすぐに詰まってしまった日向を見つめる瞳は少しだけ母親に似ていて、いつも見せてくれる黒く輝いていた光とは違っていた。陽射しを浴びる横顔は何度か見ているはずなのに、初めて知ったかのような感動が胸に到来する。
 好きなものや好きな人に囲まれている空間に、ずっとこの時間が続けばいいと思った。放課後の短い時間に約束をしてしまったから五冊全ては訳せないだろうし、また次の機会を作って須賀と同じ時間を過ごそう。そんなことまで考えていたのに、日向自身が壊してしまった。
 薄く張られた氷の膜を、無自覚のままで自ら踏み抜いてしまった。粉々に砕けた結晶は、元の形には戻ってくれない。そんなことは百も承知だが、後悔せずにはいられない。
 一番後ろの席に座っているのを良いことに、日向は重い溜息を無遠慮に吐き出した。前に座っている女子生徒が驚いて振り返ってはいたけれど、振り返らなかった薄っぺらい背中を思い出している日向には見えていなかった。
 いただきますと両手を合わせたとき、須賀は驚いたように目を丸く開いて、それからどこか遠くを見つめるようにぐっと細めていた。須賀の細い指先は箸に置かれていて、両手を合わせた様子はない。母親もそれには気付いていただろうが、特に咎めることはしなかった。
 食事の前には両手を合わせる。日向にとっては当たり前のことだったが、食事が面倒だと言ってのけた須賀には馴染みのない行動なのだろう。大学に入ってから学食で母親の作った弁当を前に両手を合わせたとき、向かいでうどんを啜っていた友人に真面目だと指摘されたことがある。そのときはそうなんだ、と思うくらいで、習慣が薄れることもない。
 だけれど、須賀は少し違っていた。初めて目にするような驚き方に、まるで異文化交流をしているようだ、と思ってしまったのだ。生まれたての赤ちゃんがたくさんのことを知っていくような、何も知らない土地に降り立って動き回るような、そんな真新しさが静謐な色の中に散っていて、ひっそりと細められることで消されていく。
 玄関に備え付けられた門を潜る前から、須賀はどこか緊張していた。あのときに見た瞳の色は、須賀の戸惑いを映し出していたんじゃないか。
 須賀に喜んでほしかっただけなのに、結果として傷付ける形になってしまった。食べられないと箸を置いたときの須賀は、この世の終わりだと絶望に打ちひしがれていた。謝ったところで須賀の感じた苦しさが和らぐわけもなく、ただ自分の罪悪感が増幅していくだけ。こんなはずではなかったと、休みの間中ずっと後悔していた。
 大丈夫だと嘯いて去っていく須賀を呼び止めて、だけど遮られた言葉の先は自分でも何を言おうとしているのかが分からない。好きだと告げる勇気はまだ湧いていなくて、もう一度謝ろうとしたわけでもない。須賀の名前を呼んで、振り返ってほしくて、ただ笑ってほしくて。
 この授業が終われば昼休憩だ。須賀が来てくれるかどうかは分からなかったが、ニ十分待っても来なかったら探しに行こうと思っていた。学年と名前は分かっている。教授や先輩に聞いて回ったらどこのゼミに所属しているかくらい教えてくれるだろう。
 重く長い溜息を吐いて、新しい空気を深く吸い込んだ。リュックの中に詰め込んでいた一冊の絵本を取り出して表紙を撫でると、どきどきと逸る心臓が落ち着いていく気がする。
 魔法使いのおばあさん。表紙に描かれている明るいおばあさんの頬を須賀の指先が滑って、柔く穏やかにページを捲る。
 夕飯によって中断していた翻訳作業は、休みの内に済ませていた。須賀が読んだ話を、自分も早く知りたいと思った。じっくりと大切に読まれていた話は盛り上がりに欠けていたけれど、不器用で優しいおばあさんに凝り固まった心は解れていく。
 きっとこのおばあさんは、そばに住む住人のことも、遠くの都を治める王様のことも、気まぐれで遊びにやってくる子ウサギのことも、大好きで仕方が無いのだ。大好きで、大切で、いつだって笑っていてほしいから。見返りなんてものを考えず、助け続けることが出来た。
 ありがとうの言葉が欲しかったわけじゃないだろうけれど、空気に溶けてしまうそれを拾い集めては胸に抱え、きらやかな夜を過ごす。日向も、須賀から言われたありがとうは全部綺麗に思い出すことが出来る。それと同じなのだと、おばあさんの頬を撫でた。
 そう言えば、自分は何も言えていなかった。自分の都合で訳の添削をしてもらっていたのに、そのお礼を伝え忘れている。それに他にもいっぱい、言いたいことはある。
 壁に掛けられた時計は十二時十五分を差している。避けられる可能性は充分にあったけれど、綺麗な指先に煙草を挟んで待ってくれている気もした。
 あと五分。あと五分で須賀に会えると思うと、たったの五分が一時間にも二時間にも感じられた。


*****


 果たして、須賀は人気のない喫煙所で煙草を吸っていた。細いせいでだぼだぼと布が余ってしまっている黒のスキニーパンツに、幾何学模様が編まれた黒いニットを合わせていた。肩に垂れかかったストールはざっくりと開かれた首元を隠すためのものなのか、人気のない今は浮き出た鎖骨が晒されている。
「千秋さん、あー、えっと、おはようございます」
「もうお昼だけれど、おはよう」
 銀杏の鮮やかな黄色を透けて現れた陽射しが、須賀の丸い額にきらきらと注がれている。長い前髪は耳に掛かって、銀とも白とも光るピアスが眩しかった。
 煙草を咥える須賀の横顔は大人びた綺麗さを漂わせていて、それなのに煙を吐き出すときに少しだけ突き出る唇が小さな子どもみたいで随分と可愛らしい。吸い口も白い紙に包まれた煙草は、太陽に焼かれていない須賀にぴったりと似合っている。もしかしたらこの煙草も、須賀の為に作られたんじゃないだろうか。そんな荒唐無稽なことを考えてしまう程度には、変わらずにいてくれた姿に嬉しくなる。
 授業中に何を言おうかと、ずっと考えていた。伝えられなかったお礼は言わなければと思うのに、自分の前では隠されないピアスに心臓が急いて声が出てきてくれない。あの、とか、その、とか。言葉に成りきれていない吐息が漏れていく。
「……一人でも訳せた?」
「っぁ、はい! でもやっぱ、自信はないですね」
 何から伝えればいいのか考えすぎて、最初の目的を忘れていた。リュックの中に詰めていた絵本と、ファイリングしてあった訳を差し出す。受け取る前に半分くらいしか減っていない煙草を押し潰して、橙色に燃える火元を消し去った。
 前に五冊の児童書を差し出したときもそうだったけれど、本を少しでも汚さないように考えている須賀は優しいと思う。教授は平気で煙草を吸いながら課題を確認していたりするのに、目の前の綺麗な人は自分が好きだと告げたものを大切に、優しく扱ってくれる。須賀自身も好きなのだから当たり前かもしれないが、素知らぬ顔を作っている彼が優しくて、綺麗で、素晴らしいと思うのだ。
 須賀のこういうところも好きなのだと、頬が赤く熟れていく。夕暮れの黄金色とも違う爽やかな黄色が、須賀の白い肌を色付けている。いくらでも見ていられると僅かに伏せられた横顔を眺めていると、ぴっちりと生えた睫毛の奥で動いていた瞳が音もなく真っ直ぐに向けられた。
「うん、大丈夫。ちゃんと訳せているよ」
 絵本だからか、スラングのような独特の言い回しもなかったみたいで、直す部分もなく返される。一人でも訳せたことを褒めてくれるように、須賀は薄っすらと口角を上げた。軽く見積もっても五センチは高い日向と視線を交わすため、須賀は自然と背筋を伸ばして見上げる形になる。
 それは、本当に偶々だった。秋の穏やかな陽射しが銀杏色に染まり、煉瓦作りの壁を麗らかな感情に変えていく。須賀の真っ直ぐに開かれた瞳は静謐な黒と、輝かしいばかりの光の色が蕩けていって、日向の心に深く突き刺さっていった。
「好きです。千秋さん、好きです、大好きです」
 伝えるつもりはなかった。まだもっと先の、須賀のことをよく知ってから伝えようと思っていた気持ちだった。だけれど、秋の光に包まれた須賀は綺麗で、儚くて。蕩けた黄金色の中に閉じ込められてしまいそうだと、ぼやける輪郭線に不安を募らせて、頭で考えるよりも先に言葉が飛び出してしまう。
 まだお礼も言えていないのに突っ走ってしまったと、やるせなさは感じている。それでも日向の胸に後悔や反省はなく、伝えるのがちょっと早くなってしまっただけだと心の中だけで拳を作った。
 ファイルを返して、絵本をまだ手にしていた須賀は予想もしていなかった言葉に目を丸め、ぱかりと薄い唇を開く。餌を求める金魚のように開けては閉めてを繰り返す口は、見下ろす形になっていた日向からは中まではっきりと見えてしまった。
 ピンク色を混ぜた赤い舌は先を二股に分け、両方の端に銀色の丸いボールを飾っている。スプリットタンという名称も、そういったものがあることも日向は知らなかったが、ゆらゆらと個々に動いていく舌はどこか可愛らしかった。
 また、須賀の望んでいない形で、望んでいない部分を知ってしまった。口内なんて早々目に入る場所でもないから、そこに何か秘密があるなんて考えたこともない。不可抗力とは言え謝るべきなのか、そっと見ない振りをするべきなのか。散々迷っていたくせに、不意に見てしまった新しい一面にどうしたって嬉しくなる。きっとこの舌も、日向しか知らない須賀の部分だった。
「……眩しいなぁ」
「えっ?」
 どうやって二股に分かれさせているのかは見当も付かなかったが、なんとなく痛そうだとは思った。ナイフで切られていく舌を想像して、実感の湧かない痛みに鳥肌が立つ。
 痛いのはあまり得意ではないと、勝手な想像にダメージを受けていた日向は、ぽつりと溢された須賀の声を拾いきれなかった。何て言ったのか聞き返そうとして、だけれどきつく寄せられた眉根の皺にそれは叶わないと知る。
「ち、あき、さん……?」
 眉間に刻まれた皺と、細められた瞳の奥で蔓延る色と、結ばれた唇と。須賀は今にも泣いてしまいそうな程に顔を歪めていたのに、目尻は誰よりも渇ききっていた。
「ありがとう、でもごめんね」
 切り取られたかのように真っ直ぐに浴びていた黄金の光は消え、須賀の肌はいつもの通り透ける白さを纏っていた。皮膚の下に流れる血液の色さえも映そうとしない白は、着ているものと相まって画面の向こう側のような、不可思議な印象を与えていた。
 振られた、と認識するよりも先に、謝らせてしまった、と今度こそ本当に両手を握り締める。少しだけ伸びていた爪先が手のひらに刺さるが、それ以上に痛みを訴える場所があるからか、痕が残るほどに食い込んでも痛いと感じることはない。
「千秋さんは、俺が嫌いですか?」
 ずるい聞き方だと思う。でもこれ以外には何も思い浮かばなくて、ずきずきと痛む心臓を抑え込んだ。
「……違う、そうじゃないよ」
「じゃあ、何が、」
 好きだとは告げたけれど、日向は何も付き合ってほしいとお願いしたわけではない。須賀の一つひとつが好きで、そのひとつがもっと増えていけばいいと思うだけ。彼のことをもっとよく知って、知らないところがないくらいになりたいだけ。彼の隣で一緒に笑って、ゆるやかに喋れたらそれでいいとさえ思っていた。
 だけれど、須賀はきっぱりと拒絶した。嫌いじゃないと言いながら、日向からの好意を真正面から突き落としたのだ。それが酷いことだとは言えないけれど、まだ成長しきっていない日向には納得が出来なかった。
「僕は、僕が一番大切だから。自分を守るためだったら、何にも要らない」
「俺も千秋さんが大切です。千秋さんを守りたいと思います。……それじゃあ、駄目なんですか?」
 守ると口にした須賀は、転んで泣きそうになっているのを耐えている子どもと変わらない。まるで自分一人だと守れているような言い方に、ひっそりと煙草を咥える横顔の柔らかさと、振り返ることもなく向けられた背中の苦しさを思い出す。
 何も要らないと言っているくせに、日向には淋しさに耐えているだけのように見えてしまう。引き結ばれた唇に、日向も静かに淋しさを募らせた。
 垂らした長い前髪も、外そうとしないマスクも、ピアスを隠すためのものだと思っていた。耳に付けているのは一般的ではあるけれど、眉尻や口元は街でも見掛けることは少なく、どうしても怖い印象を与えてしまう。派手な生徒の少ない学校であるから、須賀なりの配慮なのだろうと、勝手にそう思っていたのだ。
 でも、実際はきっとそうじゃない。不躾なまでに向けられる視線や、自由気ままに囁かれる言葉から須賀は須賀自身を守るために、あまりにも似合っているピアスを隠している。
 銀色のアクセサリーについて聞いたことはない。須賀の白い肌を引き立たせて綺麗だな、誰よりも似合っているな、と初めて見たときから思っていたが、それを声に出して伝えたこともない。もしかしたら何も言わなかったことが、須賀の隣にいさせてもらう条件だったのかもしれない。
 須賀に踏み込まないことが仲良くなる為の絶対条件だなんて、そんな悲しいことはない。どうしてそこまで頑なになれてしまうのか日向には欠片も分からなくて、喉奥に詰まった涙を飲み込んだ。
「……返せない。僕には何も、返せないから」
 泣き出しそうに瞳を歪めて、それでも真っ直ぐに見上げていた須賀の視線が落ちていく。耳に掛けていた髪の毛が一束揺れて、色を失くした頬に滑っていった。瞬きをするたびに睫毛に触れるのか、ゆらゆらと左右に振れる前髪は泣けない須賀の代わりをしているように見えた。
 細い指の腹が、胸に抱えていた絵本の表紙をゆっくりとなぞっていく。表紙に描かれた魔法使いのおばあさんは、見返りなんて求めていなかった。誰かのためになれるなら、と懸命に魔法を使い続けていた。日向もそうなりたいと、須賀にとってのおばあさんになりたいと思った。
「俺も、見返りなんて求めてません」
「……だめ。返せないものは、受け取れない」
 振り絞った声は掠れていて、喉奥に閉じ込めていた涙が溢れてしまったのかと驚いてしまう。だけど、涼しくなった秋の空気が触れる頬は乾いていて、ただ情けない声を出してしまっただけだった。
 絵本を撫でる指先はこんなにも優しくて、柔らかで、綺麗なのに。日向の心は少しも受け取ってはもらえない。きっぱりと告げた声は硬く凍えていたのに、どこか淋しい色も含んでいた。
 ずっと凪いでいた風が舞う。はらはらと須賀の髪の毛を掬い上げ、鳴り止む頃には黒い静謐な光を隠してしまう。白い指先は変わらずにおばあさんを撫でていて、皺の目立つ頬に、帽子のおかげで半分隠れた額に、須賀の熱を移していった。
「それでも、千秋さんが好きです」
「……うん、ごめんね」
 辛うじて見えている口元は固く引き結ばれていて、背表紙を握った手も力を入れ過ぎていて白からピンク色に変色している。須賀に好意そのものを拒絶された事実だけが心を搔き乱していて、肝心の須賀の想いが見えなかった。
 少なくとも嫌われてはいないと思っていた。日向の前では躊躇いなくピアスを見せてくれて、無理矢理ではあったけれど添削にも付き合ってくれて、照れたような仄かな温かさを滲ませた笑みを浮かべてくれた。口数の少ない相手に対して喋り過ぎてしまったと口を噤んでも、続きを促すように首を傾けて待ってくれて、それが本当に嬉しかった。
 出逢ってからまだ一ヶ月も経っていない。やっぱりもっと時間を掛けて伝えれば良かった。情けないことに少し泣きそうで、でも泣けないのは須賀の方だった。あれだけ幼子のように顔を歪めていたのに、溢れ落ちていく雫は見えない。
 嫌いではないのなら、何になるのだろうか。ただの先輩と後輩という関係で立ち止まっておきたいと、そういうことなのだろうか。
 須賀が本当はどう思っていて、何を考えているのかが知りたい。本当のことを話してほしかった。
「ご飯、食べに行かなくていいの?」
「うぅ、お腹は空きました……」
 須賀の心が知りたいけれど、どれだけ粘ろうが今はきっと教えてはくれない。どうすれば見せてくれるだろうかと考えていたのに、ご飯の話を振られると場違いにも盛大な音が鳴った。切なさを募らせた腹の虫はもう我慢ならないのか、きゅるきゅると余韻を残していく。
 はい、と胸前に差し出されたのは須賀が力いっぱいに握り込んでいた絵本で、日向は大きな手のひらで受け取った。垂れた前髪は払われることもなく、須賀の表情を隠したままだ。泣いていないか心配になって額に滑らせた指が払われることはなく、静謐さを取り戻した瞳は黒々と渇いていた。
「僕はもう一本吸っていくから」
 パンツのポケットから取り出した煙草の箱は真っ黒で、浮かび上がるように描かれているのは青い炎だろうか。コンビニで見かけたかどうかも憶えていないデザインは、やっぱり真っ黒い須賀によく似合っていた。
「また、訳せたら持って来るので、添削お願いします」
「……うん、」
 一本取り出したまま咥えようとしない姿に、前髪を掛けていないからなのだと思うと切なくなった。日向が立ち去るまで吸わないつもりなのか、隠された表情からは何も分からない。ひらりと振られた右手に、ぺこりと軽く頭を下げて背中を向ける。吸っているだろうかと振り返ってみたくなったけれど、煙草独特の苦い香りは流れてこない。
 もう、自分の前でさえ煙草は吸ってくれないのだろうか。額に触れた指先は焼けたように熱く滾っているのに、心臓の奥は蜷局を巻いて冷えていた。


*****


 友人に囲まれて教室に入ると、いつも通り須賀は最前列で背中を丸めていた。授業まではまだ時間もあるのに、また何か読んでいるのだろうか。そう思ったけれど、項垂れた先の頭は左右に揺れていて、珍しくも睡魔と戦っているのだと窺えた。
 呼び止める友人の声には顔の前で両手を合わせ、投げられる挨拶へおざなりな言葉を返して進んでいく。日向の背負うリュックの中には教授に借りていた五冊の児童書と、新しく訳された三冊分のルーズリーフが収まっていた。
 一昨日喫煙所で別れたときは、取りなしてはみたものの気まずい雰囲気が薄れることはなく、追い立てられるようにして別れてしまっていた。鼻に掛かった低い声は緊張で固まってしまっていて、散らばった前髪に覆われて須賀の本当の気持ちが隠されてしまう。ごめんと繰り返す唇も、音を乗せる舌も春を思わせるピンク色に色付いていたのに、零れる吐息には淋しさや苦しさしかこめられてはいなかった。
 二日を掛けて何度も何度も考えたけれど、須賀がどうしてあれだけ拒絶の色を見せたのか、日向には分からなかった。付き合いたいと望んでいたわけではなく、溢れてくる感情が抑えられなかっただけ。稚拙な告白は微笑ましいものだと受け流すことも出来たのに、須賀は敢えてそれをしなかったようにも見える。
 同性に好きだと言われたことに対して嫌悪感を抱いている様子は見えなかったのに、守りたいのだと泣くのを耐えて謝り続けていた。日向からの好意が受け入れられないのではなく、他人からの感情が受け止めきれないのではないだろうか。須賀の反応は日向個人に向けられているだけじゃない。二日考えた結果に確信はないけれど、まるっきりの間違いではないような気がする。
 心臓が雑巾を絞るようにぎりぎりと音を立て、日向の人懐こい表情がじわじわと歪められていく。すれ違う同級生たちが常と様子の違う日向を振り返っても、当の本人には須賀の背中しか見えていない。頭の中が整理出来ているわけではないけれど、話しかけないという選択肢は最初から浮かんではいなかった。
「千秋さん」
 隣の席に座っても須賀は頭を揺らすだけで、起きる気配はない。人を寄せ付けないように気を張っている彼にしては珍しすぎる様子に、一昨日のことがあったからなのかと日向は眉根を寄せる。笑っていてほしいだけだったはずが、これではもっと苦しめているじゃないか。
 名前を呼んで、それにも気が付かない須賀に焦れて肩を叩く。机に投げ出されていた指先がぴくりと動き、ゆっくりと緩慢な遅さで顔を上げた。目を開けているのかどうなのか、隠されたままの今は判断すら出来ない。
「千秋さん」
 もう一度名前を呼んで、覆われた奥で光る瞳がこちらを向いた気配がした。誰だか分かっていないのか、数秒眺めた後に思いきり椅子を引かれてしまう。がつりと後ろの机に当たった音は大袈裟なまでに教室に響いて、騒がしかった教室の中はしんと静まり返った。後ろの席に座っていた男子生徒が迷惑そうに席を移動する様子が視界の端に映ったが、その背中に謝罪を飛ばす余裕はない。
「君、なんで、」
「なんで、って。訳してくるって言ったじゃないですか」
 驚かれたことにも、約束を忘れられていたことにも拗ねて、日向はむっつりと頬を膨らませた。豊かな表情は言葉以上に雄弁で、さっきまで彼を困らせてしまっただけだと後悔で心をざわめかせていたのに、今は須賀の大袈裟な反応の方が淋しかった。
 静まり返っていた教室に、騒がしさが戻ってくる。空いていた後ろの席にもざわめきを知らない生徒が座り、始業前の景色が広がる。いつも通りに出来ていないのは最前列で向かい合う二人と、遠巻きに様子を窺っている日向の友人だけだ。
 添削をしてほしいと言って、須賀もそれには肯定の返事をしていたはずだ。勢い任せの告白は拒絶されてしまったが、だからと言って約束を反故にされる謂れはないし、親しくなった間柄がなくなるわけでもない。
 須賀の本心は分からなかったけれど、関係性が拗れてしまうわけではない。日向はそう信じていたのに、この反応は少し自信を失くしてしまいそうだった。
 むすりと頬を膨らませたまま見つめても、須賀は返す言葉に迷っているのか、微かにマスクを動かすだけで言葉は出てこない。何をそこまで悩む必要があるのだろうかと首を傾げて、外した視線の先では見たことのない銀色が煌めいていた。
 須賀の左手薬指の根元が銀色に飾られている。一昨日煙草を挟んでいたときにはなかったそれは、須賀の細い指には少しだけ不釣り合いだと思った。皮膚の薄い場所だからか、それともピアスが大きすぎるのか。ボールを繋げる間がぷくりと盛り上がっていて、透き通る白は赤く染まっている。膿んでいるのか、銀色の周りは濡れたように光を反射していた。
「……いい、の?」
「え、何がですか?」
 舌の赤さには銀色も似合っていたんだけれどな。ぼんやりと昨日見てしまった口の中を思い出して、指の赤と何が違うのだろうかと考える。
 痛々しいと鳥肌が立つような見た目はしていないが、完成していない傷に生々しさが際立つ。指が白くて細いから余計に変化が分かって、違和感を覚えているのかもしれない。
 だけれどそれは答えを出す暇もなく、ようやく絞り出された須賀の掠れた声に散っていく。いいの、とは、何を差して告げた言葉なのか、日向にはさっぱり分からなかった。
 拗ねて膨らんでいた頬はいつの間にか萎んでいる。指に向けていた視線を戻しても、引いて距離の取られた体はそのままの位置で固まっていた。
「僕は、乳首やぃ、んけ、ぃに、ピアスを付けているような、そんな、人間だよ?」
「ほぇっ」
 ちくび、いんけい、ぴあす。
 恥ずかしさに掠れた言葉が何を意味しているのか、思考停止した日向の脳ではすぐに処理することが出来なかった。こちらを注目してさざめいていた教室中が、水を浴びせたかのようにもう一度静まり返る。須賀の大きくもない声が反響して、みんなの心の中で弾むように消えていった。
 乳首、陰茎、ピアス。一つひとつ意味を持たせた変換をして、吐き出された言葉を飲み込んでいく。漢字に置き換えることは出来たが、それが何を意味した単語だったのか、知っているはずなのに出てこない。ぐるぐると回っていく視界の先で須賀が動くのが分かったが、追い駆けるだけの気力は残されていなかった。
 トートバッグを引っ掴んだ須賀は周りの反応なんてお構いなしに飛び出していって、発言だけが宙ぶらりんのまま混乱を巻き起こしていく。ぴしゃりと扉が閉められた途端に教室はざわめきを取り戻し、耳まで真っ赤に染めた日向は友人に取り囲まれてしまった。
「日向! お前あれ、大丈夫なのかよ!」
「あれって噂の人だよね? なに、ピアスって」
「陰キャかと思ってたらヤバイ奴じゃん、何もされてねぇか?」
 口々に掛けられる言葉は音となって通り過ぎていくだけで、三つの単語が思考を占めている日向には届かない。ぐるぐると輪を描く言葉が次第にポップなイラストになって、卑猥なイメージからは遠ざかっていく。巡り続けるイラストを何度も何度も反芻して、日向はやっとひとつの違和感に辿り着いた。
 ピアスを隠していた須賀が、こんな大勢の前で言いふらすはずがないのだ。しかも、照れて口籠っていた場所はそう見られるような部分でもなく、柔らかで静謐な色を持つあの人には到底似合わない。その証拠に走り去るときにちらりと見えた耳は今の自分と同じくらい真っ赤に染まっていて、如何に言い慣れていないかが伝わってきた。
 公衆の面前で下品なことを喋るような人じゃない。須賀はわざと此処で、日向の隣で知らしめたのだ。日向自身にではなく、教室にいるみんなに対して。
 須賀は噂以上に変わっていて、日向の隣にいるべき存在ではないのだと。学年関係なく授業を受けているだけではなく、周りから隠さなければいけないものを抱えているのだと、この数分で須賀は周知させてしまった。
「なんで……?」
 二年下の授業を受けるほど好きなはずだ。日向の部屋で黙々と絵本を読んでいた彼の横顔は綺麗で、穏やかで、楽しそうで。どんな作品が好きで、普段は何を読んでいるのかは知らないが、並ぶ児童書の背表紙を撫でる手つきは優しかった。本が好きで、大切にしているのは一ヶ月の付き合いでも充分に伝わってくる。
 そんな人が授業に出られなくなるようなことをするとは到底思えない。それに、隣り合って歩く日向を気遣ってピアスを隠すような優しい人だ、自分に被害が向くようなことは絶対にしない。
「おい、日向! 大丈夫かよ!」
「ぇ? あ、うん、大丈夫。千秋さんはやばい人なんかじゃない。優しくて、柔らかで、綺麗な人だよ」
 取り囲むように騒いでいた友人たちに笑いかけ、そうじゃないのだと言って聞かせる。日向の知っている須賀千秋という人物は、他人にやばいと言われてしまうような人ではない。何が原因であんな言葉を言わせてしまったのかは分からないが、自分と日向の関係を引き剥がすためにあんなことを叫んだのだろう。
 にっこりと浮かべられた人好きのする穏やかな微笑みに、口々に喋っていた友人は気まずそうに黙り込んだ。納得していないような眉間の皺は取れそうになかったが、これ以上何か言い募る様子はなさそうだ。
 丁度良いタイミングで始業のチャイムが鳴る。すぐに入ってきた教授にざわめいていた教室は水を打ったように静かになり、周りの友人も自分たちが取った席へと戻っていく。
 教授はいつも出席している須賀が来ていないことに気が付いたようだったが、視線を向けるだけで何かを尋ねてくることもなく授業は始まった。今日は分厚い小説が一冊だけで、日向の好きな児童書は扱われないらしい。
 好きな授業の筆頭ではあったが、今の日向はまともに教授の声が拾えない。かろうじて簡潔なタイトルは書き写したが、その後は須賀のことばかりを考えていた。


*****


 あの後、授業が終わって喫煙所まで走って行ったけれど、そこに須賀の姿はなかった。風に揺られて落ちてきた銀杏の葉っぱが錆びた銀色の上に重なっていて、またゆらりと地面まで散っていく。灰が潰された様子もなくて、走り去る後ろ姿を追えば良かったのだろうかと少しだけ後悔した。
 今日も母親の作った料理は美味しい。頭の中は須賀の放った言葉をぐるぐる、ぐるぐる繰り返しているのに、心は出汁の甘さに絆されていくようだった。
 部活で帰りの遅い妹はいないけれど、向かい合う席には両親が座っている。これが美味しいと一つひとつ褒めていく父親に、耳だこになっていてもおかしくはない母親はそれでも嬉しそうだった。二人とも幸せを体現するままに笑っていて、自分もこんな風にただ穏やかな時間を須賀と過ごしていたいだけなのだと改めて思う。
「ねぇ、父さん、母さん」
「なぁに、難しそうな顔して。何かあったの?」
 自分はそれほどに酷い顔をしているのだろうか。いつもなら垂れていくだけの眉が中央に寄っているのだろうな、という自覚はあったが、父親にまで怪訝そうな顔をされる程とは思わなかった。
「わざと嫌われようとするのってさ、どういう時だと思う?」
 須賀はわざと、自分はおかしな奴だと思わせようとしていた。ただ色んな授業を受けているだけだった人物像に尾ひれを付けて、日向を離れさせようとした。振った相手を引き剥がそうとするようなものかと一瞬考えたが、そういうのとはまた違う気がする。
 下品とも卑猥とも取れる言葉を口にして、それを当て付けられた日向が友人に心配されることなんて須賀には分かっていたはずだ。分かった上で、わざとそうなるように狙ったのだろう。須賀は噂以上にヤバイ人で、日向はそれに巻き込まれそうになっていただけ。嫌われるのは須賀一人だけで、日向は良かったなと同情されるだけだ。
 そんなことをしてまで自分から離れたかったのだろうか。いや、離れたかったのではなくて、離したかった。日向を友人たちのところに返したかった。そう思うとまた、切なさと淋しさに顔が歪んでいく。
「守りたいものを、守るとき」
 行動の理由は想像出来たけれど、須賀がどうしてそんなことをしたのかまでは分からなかった。自分と喋るのはそんなにつまらなかっただろうか、喋るのも嫌になったのだろうか。だけど、須賀は確かに笑っていた。緩やかに口角を上げて、喉の奥で囁くように、日向の前で笑っていた。
 ぎゅうぎゅうと苦しくなる心臓を抑えて考えていると、ぽつりと沈み込むような温かな声が溢された。決して口数の多くない父親の声は、低くて少し酒に掠れていて、母や自分たちを守ってきた強さがあった。
「そうねぇ。守りたいものがあって、守れないのが怖くて、怖くて……。一人なら平気って、思っちゃうのかな」
 続けられた母親の声も甘く、柔らかだった。テーブルの上で組まれた小さな両手は水仕事でささくれが目立ち、所々に切れた節は痛そうだ。いくらハンドクリームを塗っても間に合わないのだと笑っていた母は、それでも毎日自分たちのために美味しいご飯を作ってくれる。
 細められた二人の瞳は真っ直ぐ日向に向かっていて、交わされる視線には慈愛の念がこめられていた。日向も妹も二人に守られて、愛されて、ここまで大きくなったのだ。
「守れないって思って、嫌われようとしたことがあるの?」
 静謐な色の奥は濡れそぼっていたのに、須賀の目尻は渇いていた。引き結ばれた唇は充血したように赤く、折れてしまいそうなほどに細い両腕で抱え込んでいるものの大きさを物語っているようだった。
 自分が大切なのだと告げる須賀は、何を守ろうとしているのだろうか。須賀の両手には何が乗っていて、何に耐えているのだろうか。自分だけが知っているのだと鼻を鳴らしていたくせに、実際は何も知らなかった。須賀の考えも、心も、何も分からなかった。
「母さんがいて、お前たちがいて。一人じゃないって、知っていたからな」
 だから、嫌われようとしたことはないよ。そう続けられた言葉に、胸の奥が熱くなる。掠れた声の大人びた様子に、父親の今までがぐっと沁みこめられていた。
 この二人が両親で本当に良かった。この二人に育てられて本当に良かった。言葉にすると全部が陳腐になる気がして、せり上がってくる感情は涙となって零れてくる。
「あらあら、泣き虫ねぇ」
 席を立った母親からティッシュを渡されて、ぐじぐじと垂れてくる鼻水を拭った。呆れて眉尻の下がった母親はそれでも微笑んでくれていて、食事に戻った父親もどこか嬉しそうに口を動かしている。
 須賀はこれまでもずっと、自分一人で守ってきたのだろうか。柔らかな心を絞って、穏やかな瞳を歪めて、誰からも助けてもらわずに、一人きりで守り続けていたのだろうか。
「これからは秋久が、一緒に守ってあげなさい」
 誰の話かなんて言っていなかったのに、母親にはすっかりバレていたらしい。片眉を僅かに持ち上げた父親は何も言わなかったが、もしかしたら大体のアタリはつけられている気がする。
 須賀の白く細い指先が背表紙をなぞって、幸せそうに綻んだ口元を思い出す。丸い額に葉っぱの色を付けた光が当たって、静謐な黒い瞳がそっと細められていく。何よりも綺麗な光景だと、二十年しか生きていない日向は一目で惚れ込んでしまった。
「うん、ありがとう」
 滲んでくる涙を拭って、小さな子どもを相手にしているように撫でてくる手のひらに照れくさくなる。父親はもう既に食事を再開させていて、だけどその気安さが今の日向には丁度良かった。
 好きだと、守りたいと告げた日向の気持ちは真正面から拒絶されてしまった。返せないと受け入れてもらえず、離れてしまえと突き放されてしまった。それでも須賀を好きだと思う気持ちに変わりはなくて、笑っていてほしいと祈る願いは増していくばかりだ。
 だったら、と思う。須賀を一つひとつ知って、知ってもらって、受け入れてもらえるまで頑張ればいい。目の前で愛おしさを隠しもしないで微笑む両親のように、彼に愛を伝え続ければいい。
 分からないと沈みかけていた心は浮上して、今はもう須賀にどう受け入れてもらうかを考えるばかりであった。もう一度いただきますと両手を合わせて、母親が得意にしている肉じゃがを頬張った。舌の上で崩れていくじゃがいもの柔らかさに、日向の口元はほろほろと綻んでいった。


*****


 まずは須賀に会うところから始めなければいけない。英文学の教室か喫煙所か、そのどちらかでしか会ったことのないせいで何処に行けばいいのか、なかなか見当も付かなかった。騙すような形になってしまったとは言え自宅に招いたこともあるのに、本当のところは何も知らないのだな、と奥歯を噛み締める。
 見当を付けられないのなら、とにかく足を動かすしかない。今日は英文学の授業もないから、とりあえず先に喫煙所を覗いてみようと、秋色を溢れさせるさびれた場所に向かう。湿った焦げ茶色の地面が隠れる程に黄色い絨毯が敷かれていて、葉っぱの乾いた音を立てながら歩く。銀杏の色がスニーカーに染みそうだな、と思ってから視線を持ち上げると、真っ黒いその人は静かに煙草を吸っていた。
「千秋さん……」
 まさかこんなに早く会えると思っていなかった日向は、込み上げてくる感情を飲み込むことに必死だった。呆然と突っ立っている存在に気が付いているはずなのに、前髪を耳に掛けて煙を吐き出す須賀に気にした様子はない。
 薄い長袖では肌寒くなってきた今日は、随分と陽射しが柔らかくなっていた。照り付ける太陽の明るさは同じであるはずなのに、煉瓦の赤茶色も銀杏の黄色もセピアの膜が張られているみたいだ。
 命が長い眠りにつく準備を始めている中で、須賀は一際明るい光を浴びていた。いつもと変わらずに黒だけを身に纏っているくせに、焼き付いた瞼の裏ではちりちりと花が舞い散っている。静謐な色を宿した瞳が真っ直ぐに持ち上げられて、日向の熟れた視線と交差する。
「千秋さん」
「煙草も吸わないのに、どうしてまた来たの?」
 そっと名前を呼んで、一歩ずつ近付いていく。左手に煙草を挟んだ細い指には、昨日と同じ銀色の光がまとわりついていた。須賀の左隣に落ち着いて、煉瓦の湿った感触に背中を預ける。警戒するような色を含んでいたけれど、この距離になっても逃げられるようなことはなかった。
 言葉の整理がついていたわけではない。何も知らないくせに、と言われてしまったらそれまでで、次に繋げる言葉を絞り出せる気はしていない。それでも、今胸の中にあるものを、嘘偽りのない真っ直ぐな感情を全部、須賀に伝えたいと思った。
「千秋さんのことが好きです」
「受け取れないって言ったはずだよ」
「でも、受け取らないとは言われてないです」
 微妙な言葉の違いでしかなかったけれど、指摘したことで須賀は初めて気が付いたようだった。受け取らないのではなく、受け取れない。須賀の本心は何処かに置き去りにされたかのような言い回しに、あの時は気が付けなかった。
 丸い額の真ん中で、ぎゅっと細かな皺が寄る。結ばれた薄い唇の下でピアスが歪み、かちかちと音が鳴った。日向に投げかける言葉を探しているのかもしれないが、ここで折れてやるつもりは毛頭なかった。
 肌の白さと身に纏った黒の対比を見つめて、何を言われても打ち返す気でいた。真っ正面から受け止めて、稚拙かもしれない正直な言葉を返すつもりだ。須賀は一人ではないのだと、自分も一緒に守りたいのだと、信じてもらえるまで言葉を尽くすつもりでいた。
 半透明の淡い白さは、セピアの中をゆっくりと漂っていく。煙と一緒に吐き出された溜息は重く濁っていて、何を言われるのだろうかと背筋が伸びる。日向から真っ直ぐに向けられた視線から逃げるかのように、須賀はぼんやりと遠くを眺めていた。
 長い睫毛が目元に影を作る。刷毛で塗ったようにこびり付いている下瞼の隈は、この一ヶ月で一度も見たことのないもの。肌が白いから余計に目立っていて、血色の悪さを際立たせている。無意識で目元に力が入ってしまったのは、そうでもしないと泣いてしまいそうだったからだ。
「僕ね、セックスが出来ないんだ。女性とも男性とも試そうとしたけど、出来なかった。……服を脱ぐことさえ、僕には出来なかった」
 薬指に飾られたピアスが銀色の光を放つ。秋の深さに染まっていく景色の中でも、須賀の体に刻み込まれた銀色は目に痛いくらい鮮やかだ。
 滔々と語る言葉は悟ったように大人びて聞こえるのに、芯は怖れるほど冷たく固まっていた。鼻に掛かった低い声が上擦っていて、教室で紡がれた品の無い言葉が蘇る。
 小さく縮こまっていた卑猥な単語と同じで、この人はセックスと言うのも慣れていない様子だった。だからこそ現実味は帯びていき、日向の背中も自然と真っ直ぐに伸ばされていく。
 言わなくても大丈夫だと、叫び出してしまいそうになった。わざと感情を抑え込んでいるような喋り方は恐ろしくて、一歩でも踏み出せば割れてしまう氷の膜そのもの。砕け散ってしまうならいっそ、知らないままでも耐えることは出来る。
 そう思いはするけれど、須賀の言葉を止めることはしたくない。ようやく曝け出してくれた言葉がどれだけ悲しくても、どれだけ苦しくても、日向はその全てを聴くつもりでいた。
 結末が何処に向かっている話なのか、見つめるだけの日向には分からない。緊張に震える唇で何を囁いていくのか、次にどんな言葉が飛び出してくるのか。予想も出来なかったけれど、途中で止めてしまえばこの人はもう何も語ってくれることはない。力を込めすぎて煙草を潰してしまった指先を掬いとりたかったけれど、日向はその衝動を必死に我慢した。
「君が思っているよりもずっと僕は怖がりで、弱虫で、何も持っていない。いつか飽きられちゃうのが怖くて、大嫌いな自分を見られるのが怖くて、誰とも交われないんだ」
 遠くを見つめていた瞳が、痛みにそっと閉じられていく。乾いた睫毛が震えて、下瞼の隈を隠してしまう。温めるように肩を抱いた両腕は細くて、儚くて、こんなにも頼りない様でずっと自身を守っていたのだろうかと口惜しくなった。
 静謐な穏やかさを湛えていた色は、それだけこの人が強がっていた証でもあったのだ。その瞳の色を見つめるだけ見つめて、そんなことにも気付けなかった自分が情けなくて歯がゆい。
 こんなにも嫋やかで綺麗な須賀が、すらすらと異国の言葉をなぞっていく須賀が、自分のことを大嫌いだと評するなんて思ってもいなかった。
「大嫌いな自分を晒せるほど僕は強く出来ていないし、愛し続けてもらえるほど何かを持っているわけじゃない。飽きられるって分かっているのに曝け出すなんて、僕にはどうやったって出来ない」
 凍えたような震えは唇から全身に広がって、掻き抱いた指先はいっそ透けてさえ見えた。ぎゅっと小さくなる姿は羊水を揺蕩う赤子のようで、須賀が抱える恐れの根深さを知らしめる。
 児童書が好きだと照れながらも告げる日向を、文法に躓いて教えを乞い手を伸ばす日向を、見守るように微笑んでくれていた須賀とは全く違う。ずっと大人びて見えていたけれど、それだけで作り上げられていたわけではないのだ。
 どうして、自分が大切なのだとわざわざ口に出すのか分からなかった。きっと人間にとって、一番大切なのは自分ただ一人だ。言葉にしなくても潜在的に備わったものなのだと、当然のようにそう思っていた。
 でも、須賀が守りたいと願っているのは、それさえも告げてしまう自分自身だ。怖がりで、弱虫で、誰からも認めてもらえないと思い込んでいる自分を、一人でずっと守ってきたのだ。大嫌いなのだと告げながら、大切にしようと守ってきたこの人は誰よりもずっと清らかで、穏やかで、優しい。
「俺は、千秋さんの守る千秋さんごと、守りたいです。何もかも諦めてる千秋さんを一つひとつ知って、好きになって、守っていきたいです」
 自分にも守らせてほしい、と思った。泣かないように踏ん張り続けたせいで泣くことを忘れてしまった須賀を、怖くて他人を拒むしか出来なくなった須賀を、自分に向けられた好意を信じられないと嘆く須賀を、全部まとめて守りたかった。
 拒絶された自分よりも痛みに嘆くような表情が印象的で、見落としていた。好きだと告げた時、彼は驚きも戸惑いも、ましてや同性に告白されてしまったと嫌悪を浮かべることさえしていない。
 ただ、眩しさに耐えるかのように目を細め、逃げるように言葉を重ねただけ。困ったように眉根を寄せてどうにか微笑んで見せたのは、受け入れたくても受け入れられない事情があるみたいにしか思えない。
 受け取れないと吐き出しつつ、一瞬でも嬉しいと思ってくれたのではないだろうか。日向の好意を少しでも嬉しいと、受け取りたいと思ってくれたのではないだろうか。自惚れでしかないとは分かっていても、須賀の瞳に浮かぶ母親のような優しさに、一縷の望みを託してみたくなった。
 自分を守るためだと話していたが、本当は日向を守るためでもあったんじゃないか。自分と日向は違うのだと勝手に線引きをして、離れてしまういつかの未来を空想して、だったら最初から受け入れない方がいいと結論を急いでしまっただけなんじゃないか。愛おしいが故に手放そうとするのは、怖がりで不器用な須賀らしいとも言える。日向にはそう思えてならなかった。
「セックスなんて要りません。千秋さんと一緒にいて、笑えたらそれでいいんです。千秋さんの守る千秋さんを一緒に守れたら、それでいいんです」
 柔らかくて、優しくて、穏やかで、弱くて。今の須賀を作り上げた全てが愛おしいと思った。嘘なんていくらでもでっち上げられただろうに、本心から零れ落ちる淡い心を話してくれる須賀を、ひたすらに好きだと思った。
 須賀の薄い両肩を抱え込んでいた腕が落ちて、閉じられていた光が開け放たれる。弱々しく持ち上げられた視線は僅かに揺れていて、静謐な光は恐怖に包まれていた。泣き出す寸前にまで歪められているのに、それでも濡れていく気配はない。いつまでも泣いてくれない須賀に苦しくなって、堪えていた熱さが日向の頬を滑っていく。
 噛み締めていた奥歯は解かれて、水面に浮かぶ金魚のように唇が戦慄いてしまう。下腹に力を込めてこれ以上滑り落ちないようにしようと思うのに、零れていく感情は止まらない。
「無限の愛情は存在しない。僕のことを知って、嫌いにならないとは言い切れないだろう? ずっと好きで、守っていてくれるなんて、言えないだろう?」
 ぼろぼろと流れ落ちていく雫の先で、須賀は真新しい銀色の光を握り込んでいた。左手の薬指を飾ったそれは、結婚指輪のようにも見えてしまう。日向の想いを知ったその日に、彼はたった一人で生きていくのだと決めてしまったのだろうか。
 それはあまりにも悲しくて、淋しい。孤高なまでに諫められてしまった苦しさに、日向の感情は迸り続けていた。
「未来のことなんて俺には分かりません。だけど、千秋さんの好きなところは知るたびに増えていきます」

 静謐な流れを宿す瞳。

 中性的な見た目とはイメージの違う、鼻に掛かった低い声。

 太陽の光を知らない、透き通るような白い肌。

 煙草を吸うときに伸ばされる細い指。

 決して綺麗ではないけれど、几帳面に書かれた筆圧の強い字。

 他とは比べられないくらいに上手い、流れるような筆記体。

 口の端を少しだけ持ち上げた微かな笑み。

 俺を守るために振り撒いてくれた不器用な優しさ。

 絵本を読んでいくときの慈しむような視線。

 遠くを見つめるように上向きになった横顔。

 言わなくてもいいのに、本当のことを教えてくれた真面目さ。

「こうやって、俺の言葉ひとつで真っ赤になってくれる可愛らしいところも好きです」
 夏が終わって、秋がやってきてすぐの頃だった。銀杏並木はまだ半分以上に軽やかなエメラルドグリーンを残していて、淡くなった陽射しを集める須賀の横顔は誰よりも綺麗だと感じた。秋も深まって辺りはセピア調に色を落としていくのに、日向の中で須賀の存在はどんどんと鮮やかに色付いていく。
 あの日からまだ一ヶ月も経っていない。隣り合った回数も、交わした言葉の数も、決して多くはない。それなのに好きだと思う部分は数え切れなくて、言葉にするたび頬を赤く染めていく須賀が心から愛おしかった。陶器よりも白くなめらかな肌は、体温を上げるととすぐに血色を良くしてしまう。
 須賀の指とは全然違う、節の目立つ指を丸く艶やかな頬に滑らせていく。触れた瞬間にぴくりと跳ねた肩は細っこくて、軽く押しただけでも崩れてしまいそうだ。
 触れる体温から逃げられないことに安心して、手のひら全体を片頬に当てる。平熱も平均かそれよりも高いかくらいだけれど、今は泣いてしまったせいでもっと温度が上がっているだろう。熱いくらいなその体温に、須賀の心が少しでも綻んでくれたらいい。
「……君は、温かい場所にいるべきだ。あのリビングのように、きらきらと優しい、愛に溢れた場所に、いてほしい」
 耳の薄っぺらい軟骨の部分までが真っ赤になって、小さく震えている須賀に日向の心はじわじわと柔らかく蕩けていく。好きだと感じた部分を一つひとつ伝えていったけれど、自分が嫌いなのだと言わしめるこの人は半分も信じてくれていないだろう。こんなにも魅力にばかり溢れているのに、気が付かないなんて須賀は自分に無頓着すぎる。
 だけど、恥ずかしさに震える様子を見ると日向の気持ちは少しずつ伝わっているのだろう。今はそれでいいと思う。嫌いなままでいいから、本気で好きだと告げる存在がたった一人、目の前で笑っているのだと知っていてほしい。
「初めて人に話しますけど、養子なんですよ、俺」
 誰にも言ったことのない事実は、緊張で話す声が揺れてしまった。顔は母親とも、須賀は会ったことはないが父親とも、似ていない。垂れた目尻だったり、何となくの雰囲気だったりが両親ともに似通っているおかげで疑われたことはないが、細部を見比べるとどちらともとズレている。妹とは生まれたときからずっと一緒だったせいで、顔も似ていないのに行動が同じで、仲の良い兄妹だと言われていた。
 無限の愛はないのだと話していた須賀は意外だったのか、恥ずかしさに細めていた瞳を大きく開いた。ぱちりと瞬いた睫毛が揺れて、光を飛ばしていく。何かを言おうとして、それでも何も言葉は見つからなかったのか、赤い舌先をちらりと覗かせるだけだった。
「生まれてすぐ施設に預けられて、ハイハイを覚える頃には今の両親に引き取られていました」
 日向がこの話を聞いたのは高校三年の冬で、大学の合格発表を聞いた日の夜だった。いつもより豪華な食事に、おめでとうとプレートの置かれたケーキ。この時期が一番忙しいのだと帰りの遅かった父親もその日は定時で帰ってきて、久々に四人で食卓を囲んでいた。
 切り分けられたケーキにフォークを差し込んだところで告げられた言葉に最初は驚いて、信じられなくて、絶望の底に突き落とされた気分だった。自分を生み、育ててくれたと思っていた両親とも、目に入れても痛くないほど可愛がった妹とも、自分は血が繋がっていない。自分だけが他人で、仲間外れで、部外者なのだと口惜しかった。
「だけど、父親が言ってくれたんです。一生お前の味方だ、お前の帰ってくる場所はここだ、何があっても俺の息子だ、って」
 そう言って、表情のあまり変わらない父親が涙を流してくれた。鼻を真っ赤にした母親に抱き締められて、妹に手を握られて、口惜しいと感じた気持ちは消えていった。
 血の繋がりはなかったけれど、愛されていることを知って、大切に想われていることを知って、それだけで充分だと思った。この家で育てられた自分は誰よりも幸せ者だと、疑うこともなく思えたのだ。
「捨てられた記憶が無いので言えることかもしれませんが、千秋さんの言う愛に溢れた場所は作れます。母がまた千秋さんを連れてきなさいって、毎日のようにうるさいんですよ。きらきらして優しい場所だって伝えてあげたら、母はすごく喜びますよ」
 驚いて固まったままでいる須賀の両頬を包み込んで、にっこりと笑ってみせる。養子であること自体は公言していないが、別に知られて困ることでもない。それでもこの優しい人は、喋らせてしまったと嘆いているのだろう。ぎゅっと眉根に寄せられた皺は苦しそうで、伸ばした親指でぐりぐりと揉みこんでやる。
 自分を曝け出して嫌われてしまうのが怖いのだと話してくれた須賀は、日向には愛の溢れる場所にいてほしいと願っている。自分が隣にいないことでそれが叶うのなら、須賀はどれだけ欲しいと思ってもその手を伸ばしはしないだろう。
 須賀に笑ってほしいのだと愛を告げた日向と、何が違うのだろうか。たくさんのことを知り合って、一緒に笑い合って、穏やかな日々を隣で過ごしたいというのは、それこそ愛の溢れる場所になるのではないだろうか。不器用で優しくて、怖がりな須賀らしいささやかなお願い事は、それこそ愛の告白のように思う。
 きっと、いや、絶対に、好かれている。須賀なりの感情を向けてくれている。一人で守り続けてきた須賀の雁字搦めになった心が溶けるのはまだ先なのだろうが、今はこうして隣にいることを許してくれたらいい。
「千秋さん。千秋さんは俺のこと、好きですか?」
 柔らかで温かい須賀の瞳は、静謐な黒を残して滲んでいく。凪いでいた風が吹いて揺蕩うように、渇きを訴えていた目尻から一粒の雫が零れ落ちていった。ずっと泣くことを耐えていた須賀が自分の前で一粒、二粒と涙を溢していく。それが何よりも嬉しくて、幸せで、日向の頬もまた塩辛い雫が滑り落ちていった。

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