おじさんの恋

由佐さつき

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三、二十八歳 引っ越し

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 恋人との同棲に夢を見ている人間は、どれくらいの割合になるのだろうか。家に帰れば愛しい人がいる、深夜でも早朝でもその声を聞くことが出来る、辛いことも楽しいことも全部を共有出来る、いつでも一緒にいられる。
 楽観視しているわけではないだろうが、それでも夢と希望と憧れを詰め込んで同棲を始める人の方が多いはずだ。
 それは交際六年目になる越谷と綾部も同じで、ようやく始められた同棲に浮かれていた。元々一人暮らしをしていた綾部の家から何を持ってくるか、新しく準備する家具はどういうデザインにするか、役割分担は作った方がいいのかどうか。
 引っ越しのタイミングは綾部の博士論文が提出され、就職先になる大学講師の仕事に慣れてからにしようということになっていた。ばたばたと気持ちが焦りながら部屋や引っ越し業者を決めてもいいことはないし、内見に行く余裕もないだろう。
 それに、丁度越谷の部署が変わると内定も出されていた。通常業務に加えて引き継ぎもするとなると必然的に残業は多くなるし、身体的にも負担がかかる。
 互いに忙しく、疲れる時期に大変な作業はするべきではない。そう二人で話し合い、忙しい業務を全て済ませてからの引っ越しとなった。不動産屋に通い、引っ越しの予約を取り、土日に少しずつ段ボールを開けていく。綺麗に家具も家電も揃ったのは、残暑の厳しい九月に入ってからだった。
 時季がどうしても仕方なかったとは言え、八月の暑い時間にする作業は疲れる。遅々として進まない片付けに苛立ってしまうこともあったが、それさえも二人で共有して笑い合う。これが同棲か、と堪能する瞬間は毎日のようにやってくる。
 実家暮らしで家事経験のない越谷が念入りに家電の専門書を読んだり、夏休みで時短勤務になっている綾部が帰りに日用品の買い足しを行ったり、二人での生活は順調だった。台所に立つ綾部の隣で越谷がその手際を覗き込む光景も当たり前になり、二人分の洗濯物を畳むことにも次第に慣れる。
 そうなると次に起こるのは、価値観や経験の違いから起こるすれ違いだ。朝食は取るのかどうか、帰宅してすぐに風呂に入るのか。一つひとつは些細なことで、元は他人なのだからその場で落としどころを見つけていくしかない。
 しかし、その些細な一つひとつに解決策を見つけ、話し合いを続けるのも根気が必要となってくる。染みついた習慣は一回や二回で直るものではないし、無事に折衷案を見つけられるとも限らない。
 ここはこうしてほしい、と気軽に言い合っていたことも、回数を重ねるごとに面倒臭さが勝ってしまったり、何度も繰り返すことの申し訳なさが生まれてしまったりすることもある。そうなってしまうと、次第に口に出さないようになってしまう。
 これくらいはいいだろうと目を瞑る機会が多くなると、悶々とする気持ちがどこにも昇華されない。気付かない内にストレスを抱え込み、爆発するのを今か今かと待ち構えているのだ。
「え、うわ!」
 月曜日は一限から授業があるから、と玄関に向かっていた綾部は、洗面所の方から響く不穏な声を聞いた。同棲が始まってから何度聞いたか分からないそれに、提げたトートバッグが重くなるのを感じてしまう。
 まだ後期は始まったばかりで、一限の授業は一年生に向けたもの。講師一年目の綾部はまだ準備に手間取るうえ、相手が一年生ともなると用意する資料も多くなる。
 早めに行って最終の確認をしようとしていた綾部は、重く長い溜息を吐き出して行き先を変えた。このまま放置してしまった方が後々面倒なことになるのだと、ここ数週間の経験で嫌というほど理解している。
「今度は何?」
 たった数歩で辿り着いてしまった狭い洗面所を覗いて、溢れそうになった溜息を今度は腹に力を入れて我慢した。綾部よりも背の高い大きな背中が、この世の終わりを嘆くかのようにしゃがんで縮こまっている。
 全く同じ光景を、綾部は一週間前に目撃していた。月曜日の朝七時十分、腕時計で確認した時間もぴったりだ。
「……洗剤、の、量……」
 しゃがみ込んで膝を抱えたまま呟かれた言葉は、不明瞭な音となって綾部へと向かっていく。端的な説明ではあったが、一週間振り二度目の出来事に察しがついてしまった。
 綾部との同棲が始まるまで、越谷はずっと実家で暮らしていた。家事の一切が未経験で、洗濯機や電子レンジの使い方も知らない。家の主導権は全て母親が握っていたのだから仕方がないのかもしれないが、一人暮らし経験のある綾部からするとこれも知らないのか、と驚いてしまうことが多くある。
 それに、わざわざ仕事のある月曜日の朝に洗濯機を回そうとするのも分からなかった。どうしても回したかったら前日の夜に運転予約をすればいいと助言したのは先週で、聞いてなかったのではないかと思える有り様にどうしたって頭を抱えたくなる。
 飛び出してしまいそうになる溜息を堪えて、しゃがんだままの大きな男を乗り越えて洗濯機の中を覗いた。詰まっているのはおそらくシーツで、土曜日の午前中に干した記憶が蘇る。
 既に回り出してしまった中身は蓋に遮られて半分ほどしか見えないが、洗濯槽の上まで届きそうなくらいに泡が出来上がっている。倍量か、それともそれ以上か。見ただけでは判別出来ないが、先週に見たものとあまり違いはない。
「ほんまに、ごめんなさい」
 俯いていた顔が少しだけ持ち上がり、見上げてくる瞳が申し訳なさそうに潤んでいる。自分のしでかしてしまったことの重大さに気付いてはいるのだろうが、許してもらえることへと期待も僅かに滲んでいる。
 家事に慣れていない男が、頑張って洗濯機を回そうとしてくれた。その部分だけを見るとよくやった、と褒めてやりたい気持ちにもなるが、たったの七日前に注意したばかりのことだ。綾部は呆れに任せた溜息を吐き出して、いまだ体勢の変わらない越谷に一瞥を送った。
「洗い直しは僕がするから、止まってもそのままで置いておいて」
 倍量以上の洗剤をかけられた洗濯物は、一回の脱水くらいではその泡を流してはくれないだろう。先週の三倍量のときは一度昼休みの間に帰宅し、回し直して干すまでを済ませて仕事に戻っていた。
 今日も同じようにしようと、越谷を跨いで洗面所を出る。蹲ったままの男からは唸り声なのか泣き言なのか、どちらともつかない声が返ってきたが、綾部がそれに返事をすることはなかった。
 新学期も始まる綾部を気遣って、越谷は慣れない家事を頑張ろうとしていた。社会人の先輩は六年目にもなる越谷で、親の支援を受けながら研究だけに心血を注いでいた綾部はまだまだ講師としての立場に慣れていない。
 教える側の仕事に加え、研究室所属の人間としては研究も続けなければいけない。受け持ちになった生徒から質問や相談があれば時間を取らなければいけないし、大学側に言われた細かい事務作業もある。
 やらなければいけないことも、覚えなければいけない雑務も多い。一人暮らしで今まで自分で全てを賄ってきたからと言っても、二人分に増えた家事が負担にならないとは綾部自身も言えなかった。
 おそらく社会人一年目の、実家暮らしだった越谷も感じていたのだろう。例え洗濯や掃除をしてくれる人間がいたとしても、慣れない仕事に疲れ果てて帰ってくるのは変わらないし、付き合いで深夜まで飲み歩くこともある。寝るだけで消費されてしまう休日を体験してきた越谷だからこその気遣いに、ありがたいと感じることは多かった。
 だけれど、そんな感謝は二週間も続かない。まだ授業準備だけで帰宅出来た九月初めは良かったが、実際に後期の授業が始まってしまうとなかなか思うようにはいかない。
 商品開発部に異動になったばかりの越谷は残業も多く、やっておくと自ら口にしたことが出来ずに終わることがある。中途半端に片付けられた食器類に、玄関に忘れ去られた燃えるゴミ。取り込み忘れた洗濯物が雨に濡れ、二日同じシャツで出勤したこともあった。
 慣れていない越谷にお願いし過ぎていると思った綾部から、分担を決めてやろうと提案したこともある。人前に立つ仕事なのにシャツを着回しするのはいけないと反省しての言葉で、一人で背負い込み過ぎないようにとの配慮だった。
 研究に授業に生徒のことに、考えることは多く疲労も溜まるが、家のことを丸投げにしなければいけないほどの量でもない。この数週間が任せ過ぎたのだと謝罪と共に出した提案に、けれど越谷は静かに首を振るだけだった。
 付き合って丸五年が経って、好き嫌いも性格も分かっていると思っていた。越谷はゆったりとした喋り方や穏やかな気質のおかげで、真面目な面も責任感が強いことも伝わりにくい。反対に綾部も口数の少なさやつった目尻のせいで近寄りがたく思われるが、実際は冗談も軽口も言葉にする。
 真面目も不真面目も併せ持って、半分ずつにすればいい。一人だけが無理を背負う必要はない。まだ社会人としては半人前ではあるけれど、出来ないことではないと言い募っても越谷は頑として譲らなかった。
 一度決めたことに否は出さない性質だということは、綾部も承知しているところではある。ヘビースモーカーだった男の禁煙が成功しているのがその証拠で、いくら食い下がっても首を縦には振らないだろう。
 仕方がない、本人の気が済むまで任せてみようと引いた綾部であったが、こうも失敗を続けられると疲れてしまう。泡だらけになった洗濯物を回し直すたび、散らかしっぱなしの食器を片付けるたび、フォローに駆り出される身にもなってほしいと言いたくなる。
 出来ないのなら出来ないと言えばいい。気を遣われてばかりで居た堪れなくなっていた申し訳なさが、段々と一人の方が楽だったかもしれないと思うようになる。そんなこと思いたいわけじゃないのに、と理性はあるものの、溜息を吐く回数も増えてしまった。
 住み始めたばかりの部屋もそうだ。事前にある程度の目星はつけていたらしい越谷から持ち出してきたのは、どれも大学まで徒歩十分圏内のマンションだった。市営のバスが分刻みで何本も動いているとはいえ、越谷の働く会社までは三十分以上もかかる。
 綾部のためだけを考えられていて、越谷の都合は二の次。お姫様に対するような丁重な扱いに越谷は満足そうに笑っていたが、受ける本人の綾部は嬉しさよりも呆れや怒りの方が強かった。
 一階まで降りた綾部は、まだ慣れていない五階建てのマンションを見上げる。築年数の古い建物はペンキの剥げも雨水の跡も残っているが、大学まで徒歩五分だと一番に推してきた物件だ。
 深呼吸とも溜息とも取れる息を吐き出して、綾部は踵を返した。今日も昼休みに一度戻ってきて、洗濯機を回さなければいけない。休憩終わりの三限は幸いにも授業が入っていないから、濯ぎ残しがあっても二回までならやり直しがきく。
 昼ご飯は途中にあるスーパーマーケットでおにぎりでも買おう。そう決めた綾部は、重くなる足取りに喝を入れて大学へと向かった。



 朝の短い時間にやろうとするからいけないのだと分かりつつも今度こそは、と試してしまう越谷に、綾部も頭ごなしに叱りつけようとは思っていなかった。二回目の分量ミスも、三回目になったゴミの出し忘れも、週に三回はする食器の出しっぱなしも、慣れないながらに頑張ってくれているのだと目を瞑ろうとしていた。
 してくれているのだから、と言い聞かせる綾部に気付いているのかいないのか、謝る越谷もどんどんと憔悴していく。顔を合わせるたびに凍り付く空気を実感しながら、どちらも引くに引けなくなってきていた。
 じりじりと空気の悪い状態が続く中、とうとうその日がやって来た。見ない振りを続けてきた我慢の限界が、ぷつりと切れるように訪れてしまったのだ。
 新学期が始まってすぐのばたばたとした毎日にようやく目途が付いた金曜日。明日は仕事の一切を忘れて休める一日だ、と期待して帰ってきた綾部は、玄関を開けてすぐ鼻についた焦げ臭さに驚いて、肩に引っ掛けていたトートバッグを落としてしまった。
 木の燃えるような香ばしい匂いは、慣れ親しんだ煙草の煙とも違う。禁煙して長い越谷が小火を起こすとは思えず、玄関先に革靴がひっくり返ったのも直さずに廊下を走った。
「悠!? 大丈夫!?」
 越谷が仕事に履いて行っている革靴があったのは視界に入っていたから、別の靴で出掛けていない限りは部屋にいるはずだ。ばたばたとせわしく立てられる大きな足音にも構わずに開けた扉の先で、果たして小火騒ぎは起こっていなかった。
「あ、お、おかえり、早かったんやね」
 どこかぎこちなく出迎えの挨拶をする越谷の頬に、煤で書いたかのような乾いた汚れが張り付いている。どうにか笑おうとして、でも失敗したと分かる顔に、綾部は何が起こっているのかと睫毛を揺らす。
 何度か瞬いた瞳で越谷が立つ台所を見てみると、ガスコンロの周りに朝はなかったはずの焦げ跡が出来ている。流しの中からはいまだ湯気が昇っていて、嫌な予感に生唾を飲み込みながら覗いた。
 越谷はぎこちない態度を崩しはしなかったが、覗こうとする綾部を止めることもしなかった。焦げ跡も湯気も見られているから、隠しきれないと悟ったのだろう。
 流しに置かれている赤い耐熱皿には、何だったのか正体も分からないほどに焦げた物体が入っていた。燃えた一部が皿にこびりつき、生ものの焼ける何とも言えない匂いが広がる。換気扇は五月蝿いくらいに回っているが、焦げも匂いも回収しきるには至っていない。
 何が起こったのかと、呆然と開いた口が塞がらない。早くリビングダイニングの窓を開けなければいけないと頭の片隅では思うのだが、直立した足に根が生えたように動いてくれなかった。
 夕飯も当たり前のように、越谷が作ると言って聞かなかった。朝食は食パンにインスタントコーヒーだけの簡素なもので充分だったし、昼は社食や食堂で食べたり付き合いで誰かと外に出たりと必要はない。
 定時で帰れるかどうかも分からないのに、綾部には授業準備があるだろうからと軽く笑って言った。包丁もガスコンロも使ったことのない男が何を言っているのかと不安になって、だけれど何とか食べられるものを用意してくれる越谷に安心してしまっていた。
 多少の焦げや生焼きはこれまでもあったが、小火ぼやを疑うような失敗は初めてだ。流しに置いた、炭と化した何かをビニール袋に詰める越谷の横顔は照れと申し訳なさが混ざって歪んでいる。
「今日は定時やったから頑張ってたんやけど……。あー、……、えっと、ごめん。なんかすぐに買うてくるな」
 真っ黒の物体の中から、おそらく人参だったものがぽろりと落ちる。鮮やかなオレンジ色を薄くしているのは、もしかしてホワイトソースだろうか。
 ぐらりと視界が傾いた気がして、綾部は思わず冷蔵庫に左手を突いた。すぐ近くにあると思っていたのに、意外にも大きな音が台所に鳴り響く。ばん、と木霊していく音に驚いた越谷はすぐに綾部を支えようとするが、爪の間まで黒くなった手を見とめて動きを止めた。
 自由に動いているところを見ると、怪我をした様子はない。炭を触っているわりには熱がる素振りを見せないことには安心するが、じゃあ良かったと言葉を漏らす余裕は生憎となかった。
 小火騒ぎにならなかったとはいえ、酷い火傷をする可能性は充分にある。熱そうにしていないからと言って指先に軽度の火傷が出来ていない保証もないのに、越谷が気にしているのは綾部の晩ご飯のことだけだ。
「……明日、どこかに出掛けようか」
 冷蔵庫に手をついて俯いたまま、舌の上で転がすように綾部は言う。炭を流すように手を洗っていた越谷には聞こえなかったようで、二人の間には勢いの強い水音だけが響く。
 じんじんと痛む左手のひらを握り込んで、綾部は何とも形容し難い口惜しさに奥歯を噛み締める。引っ越し作業で忙しなかった休日はもうひと月も前に終わっているのに、越谷とデートらしいデートをしたのは、まだ一人暮らしをしているときが最後だったと気付いてしまった。
 綾部には越谷がこうまで気を遣う理由が分からなくて、歯がゆさばかりが募っていく。先生業に慣れていないとはいえ、半年も経てば要領を覚えて手も抜けるようになる。それなのにいまだ何もさせてくれないのは、何も出来ないと言われているように感じてしまった。
「もういい、暫くは話しかけないで」
 比較的穏やかで負の感情をあまり継続させない二人は、付き合ってからも喧嘩らしい喧嘩をしたことがない。共通の友人と会ったときに揶揄われて反発したり、合わないことがあっても話し合いで解決出来てしまえたり、相手に心底苛立ってしまうようなことは一度もなかった。
 それでも、腹の底から湧き上がるような苛立ちと呆れに、綾部はまともに越谷の方を見られない。絞り出すような声音だったけれど今度はきちんと越谷に届いたらしく、流し台の下に足をぶつける音が聞こえた。
 低く響いた音は結構な重量感をしていたが、越谷がその痛みに悶えることはない。一向に持ち上がってくれない綾部の頭頂部を見つめ、流れっぱなしの水道を止めることも出来なかった。
「……なんで?」
 無意識の内に飛び出してきた声は、どこから漏れたのかと思えるほどにか細いものだった。掠れて聞き取りづらい音は水道に掻き消されることなく、綾部の耳へと真っ直ぐに吸い込まれる。
 何で、と聞きたいのは自分の方だと、喉まで出かかった言葉を寸でのところで飲み込んだ。感情的になってぶつけたところで意味がないと思うのに、今すぐその胸倉を掴んで揺さぶりたい気持ちにもなる。
 コントロール出来そうにない苛立ちに、綾部は身体じゅうの空気を抜くように長い溜息を吐いた。越谷はその吐息の重さに喉奥に力を入れ、溢れそうになる言葉をどうにか舌の上で昇華する。
 ぐらぐらと揺れそうになる体を左右に振り、綾部は踏ん張って寝室まで足を運ぶ。今は顔も見たくはないし声も聞きたくなかったが、一つしかない寝室には数時間後に越谷がやって来るだろう。
 それまでにこの苛立ちとやるせなさが収まるだろうかとベッドに沈めた身体に問いかけたが、ぐつぐつと煮えるだけの感情は収まりそうになかった。


*****


 まるで見たことのない酩酊状態のような千鳥足で寝室へと逃げていく背中を見送って数日、綾部とは一言も喋っていなかった。1LDKに二人暮らしで、寝室もベッドもひとつ。どうしようかと悩んだ末に、越谷はリビングダイニングの二人掛けソファで寝ることを選んだ。
 自分から言い出した手前気まずいのか、綾部は越谷が起きる前に出勤していって、帰宅してからもなるべく同じ空間にいないようにしている。避けられているのが分かるから越谷もどう話しかけていいか分からず、前にも後ろにも進めない膠着状態が続いていた。
 綾部が何に対して苛立っているのか、これだろうという予想はついていた。と言うか、それしかない。十中八九、経験のない家事に挑戦しては失敗して、綾部に迷惑を掛け続けているからだろう。
 細かい作業が苦手なわけでも、教えてもらったことが覚えられないわけでもない。大学生時代に綾部の家へと招かれたことは何度かあったが、なんとかなるだろうと大雑把に済ます彼と比べたら越谷の方がきっちりしている。神経質や潔癖というわけではないが、説明書があれば最後まで目を通してから使う性質なのだ。
 学生の頃から一人暮らしをしている綾部は勿論、就職を機に実家を出た佐倉も家のことは自分でこなしている。自分一人のために作るのは面倒だから、と料理はあまりしないらしいが、それでも洗濯機を回すのに失敗しただとか、玄関先に置いていたゴミを忘れて出てきてしまうだとか、そういう情けない失敗談は聞いたことがない。
 同棲が始まってから、たまの残業はあるものの定時で帰れていることの方が多い。休息を取る時間も、説明書を確認しながら落ち着いて家事をこなす時間もある。帰りに本屋によって料理本を見る暇もあるから、作ってやりたいレシピはいくつもストックされていた。
 それなのに、どうしてこんなにも失敗してしまうのかが分からない。項垂れる越谷の後ろで溜息を堪える気配がして、ああまた迷惑を掛けてしまうのだと心臓が押し潰される。
 今までは研究一本に絞れていた綾部が社会人になって、色んな雑務に慣れるまでは支えてやりたいというのに。越谷の失敗を綾部がカバーしてくれていて、余計な負担を掛けているようにしか思えない。
 今日もまた、綾部に迷惑を掛けてしまっていた。昨日は少し帰宅時間が遅くなってしまったから明日にしようと放置していたゴミを、綾部が纏めて出してくれていたのだ。越谷がよく忘れてしまう次のゴミ袋もきちんとかかっていて、忙しいのにやらせてしまったのだとまた頭を抱えてしまう。
 はぁ、と重く漏れてしまった溜息が、がやがやと騒がしい空間に沈んでいく。挟んだ煙草はいつの間にか半分以上が灰になり、真ん中でぽきりと崩れていた。
「お前、それ何回目やねん」
 吸えなくなった煙草をステンレス製の灰皿に押し付け、空いた手を慰めるようにビールジョッキへと伸ばす。泡の消えたぬるいビールを一息に煽っていると、ぷかりと浮かせた煙の奥で羽住が言った。
 中学生の頃から付き合っていた彼女と結婚し、三歳になる一人息子が生まれた羽住と飲みに出掛けるのは久し振りだった。まだ幼い子どものいる父親を頻繁に誘い出すのは気が引けたし、人事部で絶対に定時で仕事を終わらせている彼は気付いたら帰路についている。
 一人の親として当たり前のことをしているのかもしれないが、家事も育児も積極的に参加しているらしい。飄々とした性格のくせに彼女のことになると途端に全力で、越谷や佐倉が揶揄っても笑って受け流していた。
 そんな羽住を飲みに誘ったのは越谷からで、いつになく切羽詰まった様子に二つ返事で快諾してくれた。反対に誘った側のくせに本当に良いのかと遠慮したのは越谷で、その慌て振りにもにやにやと笑うだけ。心を読まれているわけではないだろうが、頼もしいその姿に越谷も安堵の息を吐いた。
「何回目って、何がやの」
「煙草、もったいないやろ」
 短くなった煙草を消しながら顎で示す先には、押し潰された煙草が五本。その周りには長く伸びた灰が同じだけ転がっていて、それだけ無益に燃やしてしまったということだ。
「しゃあないやん……」
「なんや、綾部と喧嘩でもしたんか」
 ジョッキに口をつけたまままの状態で拗ねるように言った越谷に、羽住は意外そうに片眉を上げた。二人がまだ友人と呼び合っていた頃から佐倉と共にひっそりと見守っていたが、しょうもないと鼻で笑いたくなるような言い争いでさえも見たことがない。
 縁側で温かいお茶を飲む熟年夫婦のようだと、そう評したのは佐倉だっただろうか。それを聞いた越谷と綾部は流石にそこまでの落ち着きはないと笑っていたが、咥え煙草で聞いていた羽住は隠れて頷いていた。
 片眉を上げたままぱちぱちと何度も瞬きを繰り返している羽住に、驚かせている自覚のある越谷はぐっと息を飲み込む。友人の前で取り繕っていたわけでもなく、喧嘩らしい喧嘩など本当にしたことがなかった。
「喧嘩、言うてええんかな」
 ただ一方的に落ち込んでいるだけのような気がして、持っていたビールジョッキをごとりとテーブルに落とす。思っていたよりも大きな音が鳴って、二人の間にはぽかりと空いた沈黙が漂った。
 今の状況は、越谷が失敗したことの尻拭いを綾部にさせてしまっているだけだ。自分でした方が早いかもしれないことを越谷がやりたがって、結果綾部に迷惑を掛けて怒らせてしまった。
 喧嘩と呼べるような双方向の出来事ではなく、越谷だけに原因があるようなもの。自分が悪いと分かっているから綾部の態度にも納得してしまっていて、ただ謝って済む話でもないことは明白である。
 越谷はどこから説明していいのか分からなくなって、深く椅子に沈み込んだ。羽住にだけ声を掛けたのは既婚者としての意見が聞きたかったからなのだが、昔からの友人に己の醜態を晒すのも躊躇ってしまう。
 見上げた天井は橙色の光と白い煙に照らされて、朧げな模様を描いている。じっと見ていると人の顔に輪郭を変えてしまいそうで、瞬きをひとつ残してから視線を羽住へと戻した。
「同棲始めたとこやしなぁ、喧嘩するんもしゃあないやろ」
 テーブルの上に並んだ焼き鳥から砂肝を選び、二つ一気に引き抜いた羽住は何てことのないような声色で口にした。咀嚼している途中で残りを一息に噛み締め、からりと串入れに落とす姿はあっけらかんとしている。
 原因が分かっていると言いたげな口調に、越谷は自然と眉根を寄せた。隣の席に注文を届けに来た店員にビールのお代わりを二つ頼むと、もう残り少なくなった梅水晶を手に取った。
「なに、羽住も喧嘩してたん?」
「そらもう、毎日のようにな」
 頬杖をついてどこか遠くを見つめるような目をする羽住に、周りの喧騒が重なっていく。五月蝿いはずの声は何重もの分厚さになっているくせして、その一言一言がはっきりと耳に入ってくる。
 何年も前に中年へと仲間入りした男が嫁の愚痴を言い、それに同意しているのは同じように草臥れたスーツを着た大人たち。ローンがどうとか、子どもが反抗期に入ったとか、聞こえてくるのは家族の話題が多かった。
 ぱちりと瞬いて周囲を見渡す越谷が面白いのか、羽住は二本目の砂肝がすべて抜かれた串を咥えて呆れたように笑う。騒がしい店内の声は無遠慮にあちこちから届いていたが、その内容に気付いたのは来店して一時間近くが経った今だった。
「前は向こうも働いとったからなぁ。帰ってくるんが遅いとか、家事当番はどっちやとか、掃除が適当やとか。ほんましょうもないことでばっか喧嘩しとったで」
 その当時のことを思い出しているのか、指折り数え出した羽住の顔は疲れて見える。越谷はあれもこれもと続いていく事柄の多さに驚いて、最後の一口と掬った梅水晶をテーブルに落としてしまった。
 人の家の事情など事細かに聞くものではないと思ってあまり尋ねたことはなかったが、十年以上の仲になる夫婦でも些細な喧嘩はするのだ。越谷の両親も靴下が裏返しのまま洗濯機に入っているだとか、トイレットペーパーが補充されていないだとか、小さなことで文句を言っていた。
 思い出しただけで疲れている羽住は、きちんと喧嘩に発展している。両親は連れ添った時間が長すぎて互いに文句を言い合うだけで不満を昇華していたのだろうが、どちらにもなれていない自分に溜息が出そうになった。
「お前らんとこは? 綾部は家のことも慣れとるやろ」
 食べられなくなってしまった梅水晶をお絞りで拭い、丁度ビールを持ってきてくれた店員に新しいお絞りをお願いする。大学生くらいに見える年若い店員は快く返事をして、ついでとばかりに汚れたお絞りも回収してくれた。
 届いたばかりのビールジョッキはまだ充分に冷えていて、暖房で温まった指先に程よい気持ち良さを与えてくれる。越谷も羽住も一気に半分くらいまでビールを減らし、同時に煙草へと手を伸ばした。
「いや、全部僕がやっとるよ」
「はぁ? なんでやねん、綾部ってそんな不器用とちゃうやろ」
 気持ち良さそうに点けたての煙を吸い込む姿に、越谷はまた点けるだけになりそうだった煙草を咥える。久し振りに吸うような気持ちになって、真っ直ぐに天井へと向かう煙をじっと見つめた。
「なんでや言われても、翔平は学校始まって大変やろうし。僕はもう会社入って六年になるし、出来るとこは僕がやらんと」
 煙を吸い込んでいく換気扇に視線を向けると、がやがやと色んな声の混じる喧騒がどこか遠くに消えていく気がする。椅子に凭れてぼんやりとその様子を眺めていると、わざとらしい溜息が聞こえてきた。
 隅に設置された換気扇に向けていた視線を下げると、短く切り揃えた前髪のおかげで晒された額にくっきりと皺の刻んだ男がいた。呆れているとも、引いているとも取れるその反応に、越谷は黙って首を傾げるしか出来ない。
「お前なぁ、綾部もガキとちゃうんやぞ。自分の世話くらい自分でできるわ」
 小さな子どもを見守るような言い方に、ぽかりと開いた口が塞がらない。綾部が子どもと呼ばれるような年齢ではないことも、これくらいでいいやと見切りをつけながらも家事が不得意ではないことも、ずっと近くで見てきた越谷の方がよく知っている。
 論文の締め切り近くになると荒れてしまう部屋も、提出し終わってしまえば思う存分ゲームがやりたいからと綺麗に片付けられる。遊びに行けば慣れた調子でオムライスやナポリタンなど、喫茶店で出てくるような美味しそうなご飯を作ってくれる。
 実際に綾部の作る料理は美味しい。家庭料理というよりかは女の子が好きそうな、見た目も華やかな洋食を得意としている。それを知っているのは今のところ越谷だけで、羽住や佐倉さえも知らない事実に優越感を覚えたこともあるほどだ。
 新作ゲームが発売されると寝食を忘れて没頭してしまうところもあるが、それでも二十七年間を実家で暮らし、全て母親に任せていた越谷に比べるとなんでもこなせてしまう。自分のことくらい自分で出来るのは、勿論知っている。
 だけれど、羽住に真正面から告げられてふと気付いてしまった。綾部のためだと、綾部を支えたいからとしていたことが、全部裏目に出てしまっているのではないだろうか。自分の感情だけを優先して、綾部の気持ちなど聞き流している気がする。
「……なぁ、僕ってな、もしかして翔平のこと子ども扱いしてる?」
「もしかしてやのうて、まんまそうやろ。全部の世話やなんて、息子にしても嫁にはせぇへんで」
「や、でも、翔平仕事始まったばっかりやし、そういうときってしんどいやん」
「もう半年以上経っとるやん。てか、綾部の方が全部やってくれ言うてきたん?」
 湧き出てきた可能性を否定したくて、でも出来るだけの材料は揃っていない。社会人になりたての頃はへとへとで帰ってきて着替えて風呂に入るだけで精一杯の部分もあったが、それも二週間も経てば慣れてきて飲みに行く元気はあった。
 勝手に整えられた部屋を見て母親に文句を言ったことはあるし、着たかった服がまだ乾いてなくて苛立ったこともある。してもらうことが当たり前だった子どもの頃は散々反抗もしたが、就職してからはそのありがたみに何度感謝したか分からない。
 世話を焼いてくれていたのは専業主婦の母親で、生まれたときからの習慣だと思えば享受出来る。親にとってはいくつになっても自分は子どもでしかなく、仕方がないなと体裁を繕っても嬉しそうな母親に大人しく世話を焼かれていた。
 一つひとつ思い返してみて、綾部のためだと言い訳をして無理を重ねてしまったのだと思い知った。相手は同い年の成人した大人で、全部が出来なくてもどうにか解決出来る。三歳になったばかりの羽住の息子には一から十まで世話を焼くだろうが、彼女にはそこまでする必要がないのと同じだ。
 綾部から家事の一切をしてくれとお願いされたわけではないし、なんなら分担を決めようと提案されたこともある。それを己の感情で聞かなかったのは越谷で、文句を言う隙間さえも与えていなかった。
 越谷は項垂れそうになる頭を横に振った。失敗の後始末をさせて迷惑を掛けていた申し訳なさに加えて、同等に見ていなかったとも取れる態度に辟易とする。
「分担決めて、協力してったらええやん。どんな理由があっても全部世話されるんとか、綾部もそりゃ嫌やろ」
 さらりと口にして煙草を咥える仕草は、ずっと一緒に馬鹿な遊びをしてきた同級生だとは思えない。子どもが出来ると変わる、とは職場の先輩がよく話していることでもあるが、その言葉の通りなのかもしれないと初めて実感した。
「しんどならんかなぁ」
 癖の強い髪をぐしゃりと掴んで、吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出す。ふわふわと広がっていく煙の白さが目に沁みて、じわりと涙が滲んできた。
「散々失敗して尻拭いさせて、一人で出来ひんから半分こして、とか。めっちゃかっこ悪いやん」
「ただかっこつけとっただけかい」
 ふっと鼻で笑う羽住に、越谷は反論のひとつも出来ない。ぐっと奥歯を噛み締めて、恥ずかしさなのか居た堪れなさなのか分からない感情に耐える。
 はっきりと結論を出してしまえば、かっこつけているとしか言えなかった。自分も経験をしたことだから、と一歩引いた場所で構えているようで、ありがとうと言ってほしかっただけのような気がしてくる。
 一人でも生活出来る綾部の隣で、自分には何が出来るのだろうかと考えた。そうして出てきたのは大変だろう綾部に出来る範囲のことを自分が担って、少しでも楽に毎日を過ごしてほしいということ。
 だけれど、それも全て空回るだけで終わってしまった。力になりたい、支えたいと思っても実力がないのでは、無鉄砲に敵の元へと飛び込んでいく雑魚と変わらない。
 かっこつけたかったはずが、一番かっこ悪い結果に終わってしまった。半分ほどの長さになった煙草がぐしゃりと潰れ、もったいないと言われる前に押し潰してしまう。すぐに次の煙草を手に取ってその葉を燃やすと、ビールを煽った羽住はいつも通りのにやけ顔を浮かべていた。
「今の、全部綾部に言うてまえ。今は怒っとるかもしらんけど、種明かしされたら笑いよるぞ」
 高校の頃から変わらない表情に、吐いた煙が不鮮明に揺れる。特別に聡いわけでもないくせに、この男がこうなると言えば本当にそうなってしまう。
 預言者なんてそんな大仰なものではなく、ただ誰よりも楽観視しているだけ。その裏表のないあっけらかんとした物言いが、今の越谷には丁度良かった。
 綾部は許して、笑ってくれるだろうか。空回った結果の越谷に出来たのは迷惑を掛けることくらいだったのに、笑い話としてその失敗談を語るには少々荷が重い。
 先生業をするようになったのだから、多少の失敗には目を瞑ってくれるだろうか。また次に頑張ればいいと励ましさえしてくれるかもしれないが、越谷はアドバイスも聞かず暴走気味だった。匙を投げられても仕方がないと思うと、向けられた背中に頭を下げる気にはなれない。
「たいがいお前に甘いからいけると思うけど、これからもがんばりますぅて意思表明はした方がええか」
 眉根を寄せて煙草を吸うだけの機械になってしまった越谷を憐れに思ったのか、羽住は角の脆くなったビジネス鞄を引き寄せる。ごそごそと探っている姿をなんとなしに眺めていると、鞄の中から出してきた用紙の裏側に何かを書き出した。
 羽住には甘いと言われたが、特別に甘やかされている気持ちはしない。今の越谷の空回りを綾部に対する甘やかしだと言われるとそうかもしれないと頷けるが、その逆は一体どういうことだろうか。
「喧嘩になるまではお前の好きにさせてくれとったんやろ? 十分な甘やかしやんけ」
 視線は手元に向けたまま、羽住の言葉に不思議がる姿に正解を与えてくれる。好きにさせてくれるというのが甘やかしになるとは、すぐには理解出来なかったがなるほど。そういう見方も出来るかもしれない、と思った。
 呆れて溜息を吐きながらも、ある程度は好きにさせてくれていた。綾部の方が帰宅の早い日もあったが、夕食も自分が作るからと伝えておくと何もせずに待っていてくれる。お腹が空いた、と台所に立つ越谷の周りをうろちょろとしていた綾部は、自分の方が手慣れていることに最初から気付いていたはずだ。
 越谷は自分の願望が強くなりすぎて、綾部から与えられていた優しさに気が付けていなかった。最終的には怒らせてしまったが、それは越谷がその優しさに目を向けなかったからだろう。
「ほら、これやったら初心者のお前でも作れるで」
 静かに与えてくれていた優しさに心臓を掴まれた心地でいると、顔にかかる位置でぺらりと紙を差し出された。鼻先を掠っていくのがこそばゆくて、遠ざけながら揺れる紙を受け取る。
 向けられた面は今日の午前中に使っていらなくなった会議資料で、裏返すと右払いの角度が特徴的な羽住の字がずらりと並んでいた。読んでみるとそれは肉じゃがのレシピのように見えるが、越谷が料理本で見たものよりも材料が少なくなっている。
「うちでは肉じゃがって呼んでるけど、それっぽいただの炒めもんやな」
 満足そうに笑っている羽住の頬は僅かだが赤くなっていて、そんな友人の様子に越谷の口元は自然と持ち上がってしまう。もにょもにょと照れくさそうにするくせ、何も言ってこない越谷の足を蹴ってくる。
「ありがとうね、がんばってみる」
 やっと絞り出せた言葉は、力を入れ過ぎて震えていた。甘やかされていると、子ども扱いしているだけだと、呆れていた友人の優しさに感謝の思いが溢れてしまう。
 もう何年もしたら三十に入るのだと耐えて、越谷は三分の一程度になってしまったビールを煽る。それに負けじと羽住も残りを一息に飲み干して、勢いよく次の一杯を注文した。
 話し掛けないでと背を向けた綾部が、いつになったらそれを解いてくれるのかは分からない。まだしばらくは話し掛けても無視されるかもしれないし、これ以上は迷惑だともっと怒られるかもしれない。
 それでも、羽住に相談することで恐らくの原因は分かったのだから、謝ることはしたいと思った。空回ったかっこつけを謝って、子ども扱いしたいのではないと弁明して、これからは一緒に頑張らせてほしいと言いたい。綾部のようにさらりと家事を済ませられるようになるのはまだ随分と先かもしれないが、半分ずつが出来るようになりたい。
 聞いてくれるかどうかは分からないが、話すときにはこの教えてもらった肉じゃがをテーブルに並べよう。また焦がしてしまうかもしれないし、味も薄かったり濃かったりするかもしれない。
 だけれど、背伸びしないで今の自分に出来ることを少しずつでもこなしていけば、いつかは半分ずつが出来るようになる。それまでは喧嘩したり、迷惑掛けたり。互いにしていきながら、一緒に過ごしたい。
 そう思ったがこれを羽住に伝えてしまうのは恥ずかしいなと、越谷は届いたビールを一口で煽る。喉を滑っていく炭酸が弾けて、何度か咽そうになったがそのまま最後まで飲み干した。
「今日は店の酒飲み尽くすんか?」
「その前に羽住が潰れるやろ」
 長身のわりに酒の強くない羽住は、あと二杯も飲めば潰れてしまうだろう。お礼もそこそこに揶揄うと、にやりと笑って煙草を吹かす。そんな友人に笑って、越谷はもらった紙を失くさないよう内ポケットへと仕舞った。


*****


 気まずい空気になって、同じ家に帰っても互いに喋らないようになって、十日ほどが経った金曜日。二人で暮らすようになってから初めて、越谷は家事の手を抜いていた。
 抜いていた、と言うよりは、綾部の分も担っていいのかどうか分からなくなって、手がつけられなかったというほうが正しい。一人分の少ない洗濯を回していいのか、勝手に掃除機はかけていいのか、迷った末にやらない、という選択肢を選んでしまっていた。
 無造作に放置されているワイシャツや下着を見て、行動に移したのは綾部が先だった。溜まっていくばかりの洗濯物を見かねて洗い、出勤前に干して、帰宅したら取り込んで畳む。二人分を合わせてさらりとこなし、けれどそれを越谷に報告することはしなかった。
 越谷もいつの間にか洋服箪笥に戻されている下着やハンガーに掛かったワイシャツを見て、綾部がやってくれているだろうことは気付いているはず。何か言いたそうな視線は感じていたが、それを綾部が指摘することはしていない。
 そんな、綾部が勝手に家のことをこなす毎日が十日ほど続いた金曜日は、次の日が休みだからと洗濯物は干してから出勤することはしなかった。明日すればいいや、と朝陽が昇ったばかりの時間に家を出る。
 リビングのソファでずっと寝ている越谷を思うと、このままずっと冷戦状態を続けるわけにもいかない。まだ二十代とは言え、寝返りも打てない狭い場所で寝続けていると身体を悪くしてしまう。
 怒ってごめんと謝れば済む話なのだろうが、そんな気持ちにはなかなか切り替えられない。何が嫌だったと話したところで、今の越谷に伝わってくれるだろうか。
 越谷はわざわざ早起きをして洗濯機をセットし、二人分の朝食を作り、洗濯機が回り終えたらそれをベランダに干して、綾部と朝食を摂ってから出勤していた。前日に仕込むこともせず、陽が昇る前から起きてそんなことをしていたら仕事の前に疲れてしまう。
 新学期が始まって数日は、その優しさに甘えていた。後期の初回授業をこなせば大体の感じは掴めるだろうから、それまでは率先してやろうとしてくれる越谷にお願いしよう。そう思って、多少の失敗には目を瞑っていた。
 だけれど、いくら社会人になって一年も経っていないからと言って、家のことをすべて越谷に丸投げしなければいけないほど忙しいわけではない。慣れない作業は当たり前にあるが、二十四時間かかるようなものではないし、掃除や洗濯も面倒に思うときはあるが苦痛に思うほどでもない。
 最初はありがとうと言えていた越谷の厚意は、気付いたら度を越した気遣いに成長していた。子ども扱いされているような口惜しさに、反抗期の子どものような態度を取ってしまう。
 帰路を辿りながら、思わず頭を抱えてしまった。厚意を受け入れる自分も確かにいたのに、説明もなしに放り出してしまった自覚がある。もっと根気強く自分も家のことをすると、そんなに気を遣わなくても大丈夫だと言えば良かったのにそれをしなかったのは、綾部も自分で分かっていることだ。
 金曜日の夜七時五十三分。来月になれば残業が増えるかもしれないと言っていたが、今日は定時で上がって帰ってきているだろう。自分たちの部屋がある辺りを見上げれば、案の定橙色の灯りが漏れている。
 明日も明後日も二人は休みで、どちらかが逃げでもしない限りは顔を合わせる。ずっとこのままいるわけにもいかないし、今日こそは話さなければいけない。そうは分かっていても気まずい感覚が湧き上がってきて、綾部の足はなかなか思うようには動いてくれなかった。
 八時が過ぎて、ようやく思いきりのついた綾部が部屋の鍵を回す。玄関前で五分ほどの時間を潰し、不思議な顔をして後ろを通っていく同じ階の住民に居た堪れなさを覚えたのもある。
 がちゃりと音を響かせて、恐る恐る扉を開ける。電気の点いていない廊下は暗いけれど、すりガラス越しにリビングの灯りも、その中を動き回る人影も見えた。
 部屋に冷戦中の男がいると思うとぐっと腹の奥に力が入ったが、ふわりと漂ってくる出汁と醤油の良い香りに、綾部はぱちりと一つ瞬いた。
 時間帯的には越谷が頑固に率先していた夕食作りが終わっていてもおかしくはない。だけれど、こんなにもちゃんとした良い香りが漂うのは初めてのことだ。
 大抵は食材が焼かれている簡素な匂いがするか、焦げて炭になっただろう気配がするかのどちらかだった。だが、今日はちゃんと料理の香りがしている。出来合いの物でも買ってきてあっためたのだろうかと、綾部は首を傾げながらリビングへと向かった。
 昨日までなら寝室に直行して、そのまま物音が聞こえなくなるまで籠っていた。大学から家までの短い距離にある定食屋か、適当に買ったスーパーの総菜かで夕食を済まし、あとはじっとゲームをするだけ。
 気まずいからと避け続けていたのに、今日は何故かすんなりと足が進んだ。寝室から越谷を追い出している申し訳なさか、それとも香ってくる食欲の塊か。理由は分からなかったが、これ幸いと素直にリビングに向かった。
 そっと静かにリビングへと続く扉を開けたが、台所とダイニングテーブルを行き来していた越谷にはすぐに気付かれてしまう。勢いをつけて振り向いた越谷は、右に左にと視線を漂わせる。
「……おかえり」
「え、ぁあ、うん。ただいま」
 視線は交わらなかったものの、十日振りとは思えない落ち着いた声音で告げられた。面食らいつつも綾部はそれに返し、そっとテーブルへと視線を移す。
 そこには、二人分の食事が準備されていた。白米に味噌汁、大皿に盛られた肉じゃが。台所に視線を向けると、コンロの上にフライパンが残されている。
「今日のは、おいしぃできたと思うし……。なんか食べてきた?」
 一目で肉じゃがだと分かるそれは、蛍光灯を浴びてきらきらと輝いて見える。じゃがいもに人参、糸こんにゃくに牛肉。それから何故か大根も入っていた。
 互いに大学生だった頃、食堂で食べた肉じゃがに牛肉が入っていることに驚いていると、越谷からはそれがどうしたのだと言われた。綾部の育った地域では肉じゃがに豚肉を入れていたから、地域差があることを知って驚いてしまったのだ。
 大学で初めて知った牛肉入りの肉じゃがが、綺麗な茶色に色づけられている。ふわりと香ってくる出汁と、そこに混じる醤油の香りに綾部の腹は空腹を訴えた。
 ぐるぐると鳴る腹の音に綾部が耳を赤くしていると、越谷は安心したように笑う。そっと背中を押されて席につき、当たり前だが目の前に越谷が座った。
 良い香りを振り撒く肉じゃがは、近くで見れば所々が焦げている。切られた人参もじゃがいもも大きさはバラバラで、わかめだけの味噌汁はきっとインスタントのものだろう。それでも、見た目も香りも今までとは比べられないくらいに食欲をそそられた。
 急にどうしたのだろうかと、料理に向けていた視線を持ち上げて越谷を見つめれば、眉尻を下げて困ったように笑って頬を掻く。その左手の人差し指に、絆創膏が貼られていた。
「羽住が、僕でも作れるよって、レシピ教えてくれてん。まぁ、焦げてはもうてんねんけど、味見もしたし食べれると思う」
 自信のなさそうな声ではあるが、今までのような失敗作ではないことに安心しているらしい。両手はテーブルの上に置いているのに、箸には手を伸ばさない越谷に綾部はごくりと喉を鳴らす。
 いただきます、と小さく呟いて、肉じゃがを小皿によそう。ほろほろと崩れるような柔らかさはないみたいだが、じゃがいもも大根もしっかりと茶色に染まっている。
 大きく切られたじゃがいもを半分にほぐすと、ふわりと湯気が立ち昇る。中までしっかりと火が通っていて、噛み切れないという事態には陥らずに済みそうだ。じゃがいもと牛肉を掬って口に入れ、ゆっくりと歯を立てる。
 噛んだ瞬間に広がったのは、思ったよりも強い醤油の味だ。だけれど濃くてしょっぱいと眉根を寄せる結果にはならず、白米が進みそうな風味に綾部はただただ驚いた。
 ちゃんと、美味しいのだ。この数週間はずっと失敗の連続で、一人暮らしを始めたばかりの綾部よりもずっと出来が悪かった。無理はしなくてもいいのに、と思ってしまうのも仕方のない結果だったのに、これはどういうことなのだろうか。
「材料切って、調味料ぶっこんで、とにかく混ぜながら炒める。羽住にはそう言われたんやけど、混ぜるんってこんなに大事やったんやなぁ」
 どちらかと言うと煮物に該当する肉じゃがを炒めて作るらしい羽住のレシピは、初心者の越谷にはまだ作りやすいものだったらしい。目を瞬いている綾部の反応が悪くないものだったからか、解説をしながらも越谷は箸に手を伸ばした。
 ほっと息を吐きながら、よそった肉じゃがを口に運んで、その完成度に小さく頷いた。これまでの失敗作を思うと、十分に美味しい肉じゃがへと成長している。
「おいしい」
 無意識に飛び出していった言葉に、越谷はぱちりと瞬いてからありがとうとお礼を言った。その言葉尻には震えているような揺らぎがあって、綾部はじっと目の前の男を見つめる。
 安心したように笑う口角は持ち上がってはいるものの、下がった眉尻は未だ元の位置に戻ることはない。何か他にも声を掛けた方がいいのだろうかと綾部は迷ったが、結局は何も浮かばなくて一口、二口と箸を口に運ぶしか出来ないでいる。
「ずっと、ごめんな」
 聞き流してしまいそうなさりげなさを装った声音に、綾部は最初なんて言われたのか分からなかった。落としていた視線を彷徨わせて、ようやく視界に入った越谷が真っ直ぐに綾部を見つめているのを知った。
「僕、全部自分がせんとあかんって、空回っとった。羽住に半分こしたらええやんって言われて、頭殴られたみたいに納得してもうたわ」
 つらつらと続いていく言葉には、渇いた笑いが取り付けられていた。同情を誘っているような痛々しいものではなく、自身を顧みて反省しているだけのものではあったが、聞いた綾部の方は心臓をぎゅっと掴まれたような心地になる。
 追い込んだとは違うだろうが、それでも越谷にやらなければいけないと思わせたのは綾部だ。それほどに切羽詰まっていたつもりはないが、相手からすればそう見えていたのかもしれない。
 綾部は持ち上げていた小皿と箸を置き、すっと姿勢を正す。このままではいけないと思ったのは、何も綾部だけではない。越谷が作ってくれた機会に乗っかろうと、綾部は鳴りそうになる腹を何とか沈めた。
「仕事をしているのは僕も悠も同じだよ。それを一方的に支えられるのは、何もさせてもらえないのは、正直口惜しかった」
 思っていたことをぶちまけて、綾部は真っ直ぐに越谷を見つめる。表面上だけで付き合ってきたわけでもないが、ここまで取り繕わずに言葉をぶつけたのは初めてだ。
 ばくばくと五月蝿い心臓を宥めながらの綾部に、同じように越谷も難しそうに固めた表情を崩さない。ぎゅっと力いっぱいに握り込まれた両手が白くなっていた。
「やってあげたいなって思ったんもほんまやけど、それよりもかっこつけたい気持ちの方が大きかったんやと思う。なんや、見直されたい、言うか……」
「かっこつけたいって……。そんなことされても、僕はかっこいいって思えないよ」
「うぅ……、せやんな、冷静にならんでもそうやと思う……」
 唸って頭を抱えてしまった越谷に、綾部は吐き出しそうになった溜息をどうにか飲み込んだ。かっこつけたいだなんて、綾部が思っていた何倍も子どもじみた考え方だった。
 子ども扱いされているような過保護さを感じていたけれど、越谷の言葉を聞けばそんなものは思い違いだったのだと気付かされる。本人も羽住に指摘されるまで、そんな気持ちは微塵もなかったのだろう。
 結局はどちらも過剰に気を遣っていただけで、本音を交わし合えばどうにでもなる問題だ。越谷は空回っていただけで、綾部も言葉にせず放置してしまっていただけ。なんてことのないすれ違いで、どちらのせいというほどのことでもない。
「後始末ばっかさせてもうて、ごめんな」
 しょんぼりと項垂れた越谷の言葉に、綾部は静かに首を振る。面倒臭いと思ったことはあるし、アドバイスを覚えてくれと呆れてしまったこともあるが、それ自体に苛立ったことはない。
「別に、そこはあまり気にしてないよ」
 それ以上に嫌だったのは越谷がすべてを負担してしまうことで、言外に含ませた意味を汲み取った越谷は肩身が狭そうに大きな体を縮こまらせる。なるべく小さくなろうとする体が可笑しくて、綾部は知らず固まっていた両肩から力が抜けていくのを感じた。
「僕は、悠と半分こしながら生きていきたいなって思うよ」
 行儀が悪いとは思いながら、綾部はテーブルの下で広げられている越谷の足を右足で小さく蹴った。力の入っていないそれは特別痛いものではないはずだが、越谷の眉間には深い皺が刻まれる。
 何か言葉を続けようとした綾部は、だけれど部屋中に響いたぱん、という破裂音にびくりと肩を揺らす。その音は目の前でいきなり自身の両頬を叩いた越谷から上がったものなのだが、見ていても突然の行動に心が付いていかなかった。
「逆の立場んなったら、僕も嫌やったやろうなって思う。これからも、僕は慣れてないから迷惑かけることの方が多いかもしれへんけど、半分こ。僕と半分こ、していってくれへん?」
 僅かに両頬を赤くした越谷が、真っ直ぐに綾部を見つめて言った。熱のこもった視線に、綾部も自然と頬が熱くなる。
「……うん。半分こ、していこう」
 空回っていた理由は支えたいだとかかっこつけたいだとかそれっぽく言い募っていたが、二人の根本にある一番は一緒に楽しく過ごしていくこと。
 それが叶わないのなら支えられなくてもかっこ悪くても、ちゃんと半分ずつにする方がいい。辛いことも大変なことも二人ならなんとかなるだろうと始めた同棲に、過剰な気遣いや厚意は必要ない。
 同棲を開始してすぐに初めての喧嘩をして、このままやっていけるのかと不安にもなったが、ぶちまけてみればただの意地の張り合いのようなもの。どれだけ好き合っていても所詮は他人なのだから、言葉にしなければ何も伝わらないのだと知る。
「あ、そうだ。明日か明後日、時間はある?」
 頬を染めて見つめ合う形になっていた二人は、ぱちりと瞬いた綾部をきっかけにいつも通りの空気に戻る。友人に縁側でお茶を飲む熟年夫婦だと評された二人の間に流れる空気は穏やかで、実際の時間よりも緩やかに過ぎていく。
 味噌汁に浮かぶわかめを掬おうとしていた越谷は、綾部のふと思いついたと言わんばかりの声色に首を傾げる。先週の休日は顔を合わせないようにそれぞれが出掛けていたが、もうそんなことをする理由はない。
「別になんもないけど、どないした?」
「じゃあ、デートしようよ。引っ越してからずっと、どこにも出掛けてないだろう?」
 デートと言葉にするのは気恥ずかしいが、ここは二人が住む部屋で、他に綾部の言葉を聞く人間はいない。告白されたときと同じくらいにばくばくと五月蝿い心臓を宥めるように、少ししょっぱいインスタントの味噌汁を啜る。
 掬おうとしていたわかめが滑って、飛んだ汁が越谷の手の甲に跳ねる。思っていた以上に驚かれてしまったことに苦く笑って、不格好な盛り付けから糸こんにゃくを小皿に移した。
「で、でも、翔平は仕事で疲れとるやろうし……」
 驚きから喜びへ、そうして困惑へと表情を変える目の前の男に、綾部は鼻から抜けるような笑いを溢す。
 誘われて嬉しいくせに、まだ続いているらしいかっこつけが邪魔をしている。役割分担を決めるなり、慣れない家事を教えるなりして半分こにするとは言い合ったが、綾部の体調を気遣うことはなかなかやめられそうにない。
「そんなの、ちゃんと休めば大丈夫だよ。くたくたに疲れてるわけじゃないんだし」
「うぅ……、ほんま? ほんまにいける?」
 綾部よりも身長が高いくせに、上目遣いで窺ってくる様子に笑ってしまう。本当はすぐにでも行くと言いたいのだろうが、今日までの冷戦を反省して諸手を挙げられない姿がいじらしい。
 提案したのは綾部なのだから、素直に行きたいと言えばいいのに。そう思いながらも越谷の珍しい調子に、わざわざツッコんでやることはしない。
「しつこいよ。どこに行くか、考えておいて」
「おう。……ほんま、翔平には敵わんなぁ」
 食事を再開させてさらりと口にする綾部に、越谷は丸めていた背中を伸ばして片眉を下げる。敵わないと言葉にしながらもそこに不満を感じている様子はなく、手の甲に飛んだ味噌汁を拭う。
 昨日まで二人の間を漂っていた硬い空気は、一片の隙もなく入れ替えられる。同棲はひと月以上も前から始まっていたが、片付けに追われたり喧嘩になったりと二人きりの時間をゆったりと過ごせたことはない。
 これから始まっていく二人の生活に思いを馳せて、越谷の作った夕ご飯を口にする。簡単だと教えられた肉じゃがは焦げている部分もあるが、きっと二人はこの味をいつまでも忘れることはないだろう。

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