side第三王子ノエルと男爵令嬢シルビア

まめ

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ーシルビア、今まで私を母親として貴女を育てさせてくれてありがとう。貴女の母親になれて私の人生は救われたわ。貴女の幸せを願っています。

葬儀から半年が経って見つかった母からの手紙を読み、驚きと淋しさと感謝の気持ちで涙が溢れた

父と母は政略結婚だった
なかなか子の出来ない母は自ら愛人に産ませた私を引き取った
母の愛情を余すことなく受けていた私は、何も知らずただ幸せに二人の子として暮らしてきた
愛人の子を育てるなど、考えただけで嫌悪されそうなものだ
だが、母は実の娘のように無償の愛を私に捧げてくれた
真実を知った今でも感謝と尊敬しか無い

男爵位で狭いながらも領地を持ち、領民達に支えられながら、我が家は生計を立てていた

母は領民達を常に心に置き、身体を壊してからもそのことばかり気にかけていた

母の願いは領民の幸せだ

父は私達のことなど気に掛けず愛人の所に入り浸っている

間もなく通う学園でたくさんの事を学び、一人娘として婿を迎え、次期男爵として母の憂いである領民達の生活を守ることが私の務め
だが入学を二か月後に控えた時に父に告げられたのは喪が明けたら愛人とその娘を迎えるという直ぐには受け入れ難い内容だった

「お嬢様、何も心配することはございませんよ。どのような方がおみえになっても、私達は皆お嬢様の味方ですから」

乳母の娘で私の姉のような存在のベル
専属侍女としていつも寄り添ってくれた
母が亡くなった時も片時も離れず慰め、家族である父よりも近い存在だった

「ありがとう、ベル…」

新しい家族が増えようと私の役目は変わらないわ

彼に出会うまでその決意が揺らぐとは思ってもみなかった


彼と出会ったのは入学して間もなく

入学式で挨拶をし、変に目立ったことがいけなかったのだろう、学園生活が始まって早々に、何人もの方から交際を申し込まれた
珍しさにそんな事を言われても、とにかく学業に専念したかった私は、身分が上の方達にも失礼のないよう、やんわりとお断りし続けていた
一過性のものだと思っていたが、先輩の女性達から嫌がらせを受けるようになっていった

悔しくて辛くて、でも人前で泣くこともできなくて
一人になりたくて普段誰も来ない庭園の裏手にあるベンチに向かった

そこには先客がいた

キラキラとした金髪が陽の光に当たり宝石のような碧眼をしたその人は優しく微笑みながら、少し汚れた猫に話かけていた

「迷ってしまったのかい?ふふ、相当汚れてるね。今は何も持っていないんだ、ごめんね」

自身が汚れてしまうのも構わずその猫を膝に抱えて背を撫でている
汚された制服姿の自分にかけられた言葉では無かったけれど、何故か心が温かくなり、泣かずに済んだ


それからその人を目で追うようになった
高位の方なのだろう
従者なのか側近なのか一人の男性を常に側に置いている
関わることの無いだろうその人に勝手に身分の違いを感じ一人悲しくなった

学園に通う目的にこの感情は不要だ
私はそれまで以上に勉強を頑張ろうと自分を鼓舞した



相変わらず先輩達からの嫌がらせが続いていた

同じクラスの友人と挨拶をしていた時、後ろから肩に思い切りぶつかられ、恥ずかしいほどに転んでしまった
痛みに目を瞑っていると誰かが近づく気配を感じた
あの時の彼だった
私に手を差し出し、逆恨みされないように先輩達をやんわり注意してくれた
目の前に居る彼はやっぱり眩しくて素敵だった

「私はノエル・シャトゥワ・ベイヤード…」

名乗った彼は第三王子殿下だった…
身分違いどころでは無い
思いを寄せることすら不敬にあたる

タイミング良く友人が次の授業を促してくれたので、その時の私の酷い顔を見られることなく立ち去ることが出来た

授業の終わりに殿下の使いの方が真新しい制服を持って教室に現れた

「ノエル様から。良かったら受け取って上げて」

「そんなっ…受け取れません。汚れも、ほら、殆ど目立ちませんし。受け取る理由がありません」

「ん~、そうだよね。……ところで、君、何時にいつも帰ってるの?」

「えっ?帰り…ですか?」

「うん、そう」

「いつも図書室に寄ってから夕飯に間に合うように帰ってます」

「もしかして、今日も行ったりする?」

「ええ…それが何か…?」

「いや、そういえばちょうどこのぐらいの時期、課題が多くて俺も大変だったなぁ、って思い出してただけ。じゃ、もう行くね。ノエル様には贈り物は制服じゃ無くて花束が良いって伝えておくから~」

「そんな、こと言ってない!…のに…」

従者の方は私の返事も聞かずに戻っていかれた
思わずため息が漏れてしまった

「今の第三王子殿下の側近の方でしょう?」

「ええ…そうみたい。ソフィ知ってた?」

「…はぁ、シルビア…、貴女もうちょっと勉強以外に興味を持った方が良いわよ。で、?殿下は何ておっしゃてたの?」

「ううん、何も。ただ、哀れな生徒に制服を贈ってくださろうとしただけよ。王子殿下ともなると民全員を気に掛けて下さるのね」

「…シルビア、貴女手に…まぁ、良いわ。多分だけど、これから先輩達からの嫌がらせも減るわよ。良かったわね」

「そうだと良いんだけど…」

ソフィのこの言葉が現実になるとは知らず、私は曖昧な返事をした


そしていつものように図書室で過ごして居た私は偶然にもまた彼と会った






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