side第三王子ノエルと男爵令嬢シルビア

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「シルビア、新しく母になるカミラと妹のアイリーンだ」

父に連れられて愛人とその娘が屋敷にやって来た
今日からここで暮らすことになったのだが、カミラと名乗った新しい母はどこか見覚えがあった
どこで会ったのだろう…

考え事をしていた私はアイリーンがどんな目で私を見ていたか気が付かなかった

使用人達は本邸ではなく、別邸にカミラとアイリーンを案内した
カミラは納得しているようで、何も言わず、挨拶を済ませるとすたすたと使用人に着いて行った

「お父様、せっかくお姉様が出来たのだから、こちらの本邸で一緒に住むことは出来ないのですか？私、楽しみにしていたのに…」

アイリーンは涙目で父に頼んだ

「…まあ、そうだな。…シルビアと同じ階に部屋を用意させよう。シルビア、勝手も分からないだろうから、案内してやってくれ」

「…はい、お父様…」

妻に迎えた愛人を別邸に押しやり、娘だけ本邸に住まわせるなんて、仲違いでもしたのかしら…
まあ、私が口を挟むことでは無いわね

二人にもっとどす黒い感情を抱くかと思っていたが、実際に会っても私はさほど何も感じ無かった
ノエル様との時間が私の気持ちを穏やかにしてくれたのだろう

「アイリーン、疲れたでしょう？屋敷を案内する前に私の部屋でお茶にしましょう」

「はい。お姉様、これからよろしくお願いしますね」

にこりと可愛らしい笑顔で私に挨拶をした
愛人の連れ子とはいえ、もう戸籍上は私の妹
妹が出来て嬉しいとか、そんな感情を持つことは出来ないけれど、姉として優しく接してあげようと心に決めた

「ベル、私の部屋にお茶を頼める？」

「はい、かしこまりました…」


部屋に行くと、中をきょろきょろと見回し机に広げてあった本を手に取りアイリーンは言った

「お姉様、その年でまだ絵本を読んでらっしゃるのですか？」

「え、…それ歴史書…」

「っ！…ああ、そうですわね…」

戦争のあった頃の挿絵を見てそう言ったのだろうか

「この歴史書って文字を見落としただけですわ！」

そこに書かれているタイトルは"変化の時"…

「アイリーン、貴女もしかして字が…」

「……、そ、それが何か？ひ、酷い…。学園に通ってらっしゃることをご自慢になられたいのですね。」

「いえ、違うわ。貴女もこの家の娘になったのだもの、来年から学園に通うことは出来るわ。…文字は私が教えるから…。入学まで半年もあるもの頑張れば覚えられるから心配要らないわ」

「…その必要はありません。そう言った事は殿方にお任せすれば良いですもの。女が生意気に知識をひけらかすのを殿方は好みませんからね」

年齢の割にやたら男性のことを口にするアイリーンに違和感を覚えた

「でも、文字を覚えることは必要よ」

「…そんなに私を馬鹿にして面白がってらっしゃるなんて…。私…ずっとお姉様になる方はお優しい方だとばかり…」

目に涙を浮かべて手には拳を握りわなわなと震えている

「アイリーン、本当にそんなつもりは無いのよ…。男爵の娘になればいずれ社交の場にも出ることになるわ。ある程度知識が無ければ社交の場で困ることになるのは貴女よ。その為にも…

「もう、良いです！」

アイリーンはそう告げると部屋を飛び出し大きな音を立てて扉を閉めた

少しして扉がノックされベルがお茶を運んで来た

「お嬢様、今、あの娘が凄い顔で廊下を走ってましたが…」

「…はぁ、ベル、どうやらアイリーンに嫌われてしまったみたい。彼女文字が読めないようだから、教えると言ってみたのだけれど、彼女の自尊心を傷つけてしまったようなの…」

「あの年で文字も読めないのですか…？いくら平民上がりとはいえ、一昔前と違い今は教会の孤児ですら文字どころか簡単な計算も出来るほどですよ。あり得ませんね…。一体どのような環境で育ったらそのようなことになるんですか」

「…彼女のせいでは無いのかもしれないわ。父が必要無いと言ってきたのかもしれないし…」

父の愛人の娘として囲われてたことを言えばベルは深々と頭を下げた

「も、申し訳有りません…。決してご旦那様を悪く言うつもりは…」

「ベル、分かってるから大丈夫よ。それより、彼女、まだこの屋敷の中を知らないでしょうから、迷ったりしてないか心配だわ。探して部屋に案内してあげて。お茶はそのままで良いわ、自分で淹れるから」

「かしこまりました」

ベルが退室して一人大きなため息をついた

もっと上手く言えばアイリーンを傷付けることは無かったかもしれない
この家にやって来たばかりなのにそんな提案をして、少し出しゃばり過ぎたわね
初日からやってしまったと落ち込んでしまった




夕飯の時間になり別邸に居るカミラ以外が食卓に揃った
私は先程のことを悪気は無かったとはいえ、傷付けてしまったことを謝ろうとアイリーンに目を向けたが、私と目を合わせること無く、席に着くなりアイリーンは眉尻を下げて父にお願いした

「お父様、ベルを私の専属侍女にしていただけませんか？」

「え…、」

「お前の専属侍女を新たに雇う予定だったが…シルビア、ベルをアイリーンの専属にしてやりなさい。お前は他の侍女を専属にしても問題無いだろう」

「ですが、お父様、ベルは私が幼い頃からの…

「我儘を言うな。お前はアイリーンの姉になったんだ。姉は妹に譲らなければいけない。分かったな」

「お父様、ありがとうございます！」

私の否は聞き入れてもらえず決められてしまった

だが、アイリーンのおねだりはこれだけでは済まなかった…