side第三王子ノエルと男爵令嬢シルビア

まめ

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「…そう、凄いね…。シルビアの父親とは思えないな」

報告書を受け取り嘆息した

「で、国一番の策士様はどうなさるおつもりですか?」

「やめてくれるかなぁ、策士と呼ぶの。あんまり良い響きじゃないよね」

ラットに揶揄いまじりにそう呼ばれ苦笑いをした

「なら腹黒王子とでもお呼びしますか?また、どうせシルビアちゃんのために良からぬ事を考えてるんでしょう?」

「聞き捨てならないなぁ、良からぬじゃなくて良い事だよ」

「何か嫌な予感するんですけど」

「勘が鋭いラット君しか出来ない事を"お願い"しようと思ってたんだけど、流石だね。…ラット、シルビアの屋敷で暫く働いてきて。私の護衛は他の者を付けるから、シルビアを頼むね。あ、それと直接私が何かしたと思われるのは嫌だからその辺は上手くやってね」

「ええー、本当に酷い…。それ、丸投げしておいて責任取れよって事ですよね。はぁ、本当嫌だわ」

ははっ、と笑ってやればラットは益々不機嫌になった

「可愛いシルビアが正直に自分の思いを全部言ってくれたんだよ。憂いを無くしてあげないでどうするの?でもあからさまはやなんだよね。分かる?この男心」

「ああっ、もう、分かりました!一等馬!前から欲しかったあの馬で手を打ちましょう!」

ラットの言う一等馬は下手な領地よりも価値がある
今回の任務を考えれば決して安く無い報酬だが、致し方無いだろう

「納得出来る結果だったら、鞍も付けてあげるね。じゃあ、早速行ってきて。そうだなぁ、執事をやってる男の息子、確か城での内官希望出してたでしよ。それ通しておくから、上手いこと言って執事見習いとして頑張って」

「はぁ…っ、んとにっ!ノエル様が王太子でなくて本当に良かったですよ。王太子だったら国を跨いで仕事させられそうですからね…。じゃ、明日向かうんでその執事宛てに書類揃えといて下さいね」

「はい、はーい」

ひらひらと手を振ってラットを見送った

ラットは状況判断が素早く的確に行える
彼なら私が直接手を下したとシルビアにはバレずに上手くやってくれるだろう


シルビアは私と共に居たいと言ってくれた
だが育ての母の思いを叶え男爵位を継ぎ、領民達の幸せを見守りたい気持ちもある
領地は私のものにしてしまうのは容易い
私の管轄領としてシルビアに改めて渡せば良い
まあ、身分のことは適当な伯爵家の養女に籍を入れれば問題無いとして
残るは新しく迎え入れる者達のことだ
愛人だけでは治まらず、若い娘にまで手をつけている男爵はどうしたものか
シルビアの父親として醜聞になるようなことは避けたい

私の考えを正確に汲み取るラットを今回ほど側仕えにしてくれた父王に感謝しなけらばならないな、と思った

後はラットからの良い報告を待つのみ

さ、明日はシルビアと何処でデートしようかな





………




「私が当家の執事ショーン・ベルデでございますが」

「こちらの書類を預かって参りました」

ベルデと名乗ったきっちりと髪を後ろに撫で付けた頭で神経質そうな男は怪訝そうな顔をして書類を手に取った
この男の息子は平民だが優秀で領地を監査する役所勤めをしていた
役所である程度の功績が認められた者かもしくは高位貴族の子息しか城での内勤は出来ない
本人に能力があってもそれは叶わないことだった
手渡した書類には城の内勤への異動が書かれている
息子にでは無く父親にそれが渡ったということは、何かしらの対価を求めているということ
こんな書類を作れるのはそれなりの権力のある者
ベルデは目の前に居る若い男を見据えながら言った

「…それで、私に何をしろと」

「執事見習いとして他の者達に怪しまれないように雇い入れてくれれば、後はこちらで勝手にさせてもらう。これはシルビア嬢のためでもあるから、否は無しだ。そちらにも利のある話だしな」

「…お嬢様に危害を加えることは無いのですね。…かしこまりました。では、早速旦那様へ雇い入れの報告をして参ります。この後は私の下に就くことになりますので、敬う物言いはここまでとさせていただきますが、宜しいですね」

「物分かりの良い執事殿で助かる。では、そのように」

人使いの荒い主の命によりシルビア嬢の屋敷の中に入り込むことになり、得意の変装をして屋敷を訪れた


本当に主は人が悪い
人の機微に聡く、弱いところを突くのが上手い
愚かな主に仕えるよりは余程楽しい人生を送れるだろうが、いかんせん、あの人はこちらに丸投げをしてくる
ある意味それだけ信頼と自身の価値を認めてくれてるということで、それは嬉しいことなのだが、本当に面倒なことばかり押し付けてくるから困ったものだ

シルビアちゃんに惚れてからというものゆっくり休みを取らせてもらった記憶が無い

一等馬を手に入れたら長期の休みを取って思う存分遠乗りでもしよう
なんなら隣国までそのまま行くのも良い…
あー、でも、あの人そんな甘くは無いか

執事の戻りを待つ間、そんな考え事をしながらふふっ、と自嘲気味に笑っている所に件の愛人の娘がノックもせず部屋の扉を開けた

「あら、貴方綺麗な顔してるわね…」

マナーも何も有ったもんじゃ無い

「執事を若い男が尋ねて来たと聞いたけど、息子か何か?」

この不躾な様子を見れば容易く脚を開くのも納得出来た

「いえ、新しく執事見習いとして雇っていただく事になりました、グレアム・ドノバンと申します。以後お見知りおきを」

「へえ、執事見習いねぇ…」

ジロジロと上から下まで値踏みするようにこちらを見ているその視線に吐き気がしたがここはプロとしての腕の見せどころだろう
従順な家来として恭しく頭を下げた

嫌悪感の塊でしか無いこの女は俺にその頭の悪さを自ら晒した

「貴方、私の専属にしてあげるわ」

何言ってるんだ?
専属侍女ならともかく男に専属?
同性の者を仕えさせることはあっても、護衛でも無い限り専属なんて有り得ないだろ

「有難いお申し出ではございますが、家人の専属として雇われた訳では有りません。この屋敷に雇われた身ですのでご容赦願います」

淡々と言ってやれば言ってる意味すら理解出来ない様子だった

シルビアちゃんを知る俺としては真逆に位置するその女の頭の悪さに呆れを通り越して憐れみすら感じた

よくこんなんで生きてこれたもんだ…

さて、この家の内情を正確に把握してとっととこの女と男爵さんにご退場願いますか
早く終わらせないとあの主はまた無理難題を押し付けてくるからな

こうしてグレアムとしてシルビアの屋敷での生活を開始したのだった






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