side第三王子ノエルと男爵令嬢シルビア

まめ

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外側からの報告を纏めている時でさえ、この家の状況にあの純粋を絵に描いたようなシルビアちゃんが良く捻くれもせず育ったもんだと感心した

内情は散々たるものだった

男爵の爵位で小さな領地を管轄していたが、その経営はほぼ前妻とベルデという執事が取り仕切り、男爵は潤った懐を自分の欲のためだけに使っていた

能力のある執事とはいえ、本来は屋敷を管理する者
前妻の力有ってのものだったのだろう
執事一人では少しずつ経営に綻びが出始めているのが分かった

シルビアちゃんが学園を卒業を待たずしてこの領地は窮困するのが目に見えていた

「ベルデ様、このハシム商会というのは耳にしたことが無いのですが、どういった取り引きをされているのですか?」

「そこは最近旦那様が領地の作物を高値で買い取って貰っている取引先だ。商談などには立ち会っていないので、私も書類でしか内容は把握していない」

ハシム商会ねぇ…

特段の価値のある作物でも無く、他の領地が不作なわけでもない
それをわざわざ高値を払って買い取るなんて、何か有るよなぁ

早く仕事を終わらせ、今直ぐにでも、一等馬に跨りたいため、外に何人か待機させてある
その一人に以前から男爵の行動は見張らせてあった

その者の報告で男爵は娘として迎え入れたあの女を実質の愛人として馬車で致しているらしいことは把握していた
宿ぐらい使えよと呆れたが、ノエル様にそこじゃ無いと睨まれたのは先日の話

何度か貴族では無い男と度々接触しているとそれも報告に有ったが、それがハシム商会の者だろう
その商会の男との、書類上以外のどんな取引がされているのかを突き止めるように早速指示を出した

屋敷の他の者に見つからないように裏手から戻ろうとした時、後妻の元愛人らしき女が腕組みをしながら、こちらを見ていた

頭を下げるだけにとどめ、その場を通り過ぎようとした時声を掛けてきた

「ねぇ、貴方最近雇われた?」

「はい…」

何故こんな質問をしてきたのか意図が分からず、次の質問を待った

「ここに来た時貴方居なかったものね…。貴方はあの人に雇われたの?」

「あの人とは?」

「男爵よ」

「いえ、執事長のベルデ様に執事見習いとして雇っていただきました」

「…そう。本邸であの娘達どうしてる?アイリーンはちゃんと男爵に可愛がられてるかしら?」

少し言い方に含みを感じ取った俺はその質問に正直に答えた

「ええ、ご安心ください。アイリーン様は旦那様に可愛がられていらっしゃいます。その専属の侍女ですら目をかけてらっしゃるほどですから」

「……シルビアちゃんは?」

「え?」

その呼び方も何だか変だ…

「シルビア様は学園生活を謳歌してらっしゃいます」

「…そう。分かったわ、ありがとう」

何を納得したのかは分からなかったがこの後妻も注意が必要だと感じた
ここに来た当初から当然のように別邸で過ごし、こちらの本邸には一切関わらずに自由にしているだけだと思っていたが…

先に来た道を戻り、男爵に付けた者とは別な者にこの後妻の外での様子を探らせることにした

何かを出しゃばってシルビアちゃんが傷付くようなことがあれば我が主が黙って居ない
頼むから仕事を増やしてくれるなよ、と心の中で祈った



それから数日後、男爵はあの娘と二人切りのいつもの外出に初めて同伴者を伴った

専属侍女ベルだった

最近、彼女の様子はおかしかった
男爵の部屋から夜遅く、ぎこちない歩きで出てくるのを見た
だが、それからずっと体調でも悪いのか動きに機敏さが無い
あの男爵のことだ避妊はしているだろう
妊娠では無いにせよ、本調子では無さそうだ
よく立ち止まっている姿も目にする


そんな彼女を今回は観劇と称した情事に連れて行くという
複数人で致すには馬車は狭いだろ!と心の中で突っ込んだが、冗談を考えてる暇は無く、男爵の追跡者をもう一人増やすよう、急ぎ裏手口から指示した



やはり俺の感は当たった

男爵達の馬車は着替えと称して宿に立ち寄り、宿に侍女を待機させ、また二人で馬車に乗り込んだという
言葉通り、あの娘は着替えて出てきたようだ

だが、その部屋を男爵達が出た後、入れ替わるように、指に嵌り切らない程の指輪をした中年の男がその部屋に入って行ったという

一時間程経った頃、部屋を出際に
「確かに契約書は受け取ったと伝えておいてくれ」
と中にいる者に言い整い切らない服装を手で直しながら部屋を後にしたとのことだった

隣の部屋から壁越しに聞いたという内容の報告
…鬼畜だねぇ
あの侍女、シルビアちゃんのことは宝物のように大事にしてるみたいだからなぁ

はっ!俺、ノエル様寄りになってきてない?
やだなあ
あんくらいで鬼畜とか言ってたら、我が主は悪魔か
いや悪魔確定だわ

さてと、男爵の取引も掴んだことだし、後はあの後妻とその娘だな

あ、折角だからあの侍女にも一役買って貰って舞台の幕引きに役立って貰おう!
俺天才だわ!
ははは

そして、一日休みを貰い我が悪魔に途中報告をしに城に戻った



「うん、良いんじゃない?流石だねラット。でも、シルビアにバレたら今回の報酬無しだから、その点気をつけてねぇ」

と軽く悪魔に言われた時、一等馬から転げ落ちる自分の幻を見かけ、頭をぶんぶんと振ったのだった








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