side第三王子ノエルと男爵令嬢シルビア

まめ

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「ベル…一体どういうこと?」

ベルとの約束でバッカスと引き合わせるために侍女を付けずに一人街に来ていた
時間になり、バッカスと私の前に現れたのはベル一人では無くアイリーンも一緒だった
バッカスのアイリーン達が来る前に告げた言葉のこともあり、妹として紹介することに躊躇した
やり取りを聞いて居なかったアイリーンは私が妹として認めて無いのだと勘違いして自ら名乗り、ベルと馬車で帰るように私に告げ、バッカスの腕を取りすたすたと二人はどこかへ向かってしまった

そしてその馬車の中でベルに尋ねた
ベルはにこりと笑って答えた

「シルビアお嬢様が伯爵様の養女として迎えられることをお伝えしましたら、爵位を継ぐのが自分だと認識されたので、この件についてお話しました。先ずは私が何とか話をしてみるとおっしゃられましたので、それに従ったまでですよ」

「バッカスは私に娼婦になれと言ってきたわ…。令嬢という立場を活かせと…。それなのにアイリーンはバッカスを王子呼びしてそのままついて行ってしまったのよ。ねえ、どうしよう…、まさかアイリーン家のために娼婦になるつもりじゃ…」

「大丈夫ですよ、シルビア様。いくらなんでも、娼婦になれと言われて、はい、なりますなんてこと言う訳ありませんよ。よほどの男好きな女ならともかく」

クスクスとベルは口元を押さえて笑った

「…そうよね…」

「それに昼日中に襲ってくるほどあのバッカスとかいう男も馬鹿では無いでしょうから。無理矢理貴族の娘を襲えばどんな罰を受けるかぐらい分かってますよ。それより、久しぶりにこうしてお嬢様と馬車をご一緒させていただきましたね」

「本当…久しぶりね。先日の私が泣いてしまった日を除けばこうしてゆっくり話をするのも久しぶね…。…アイリーンはバッカスに借金の額を聞き出した後どうするつもりかしら?」

「ベルデ執事長に相談するでしょうね。最近は優秀な執事見習いも付いたようですし。きっと何とかなりますよ」

落ち着かない気持ちで屋敷でアイリーンが戻るのを待った
だがその日は遅く戻ってきたため、何も聞くことは出来なかった
その夜は、あの後アイリーンがバッカスと身体の関係を持ったなどとは知らず、家の借財のことばかりを気にして眠りについた

次の日、初めてアイリーンの方から相談があると持ちかけられた
午前中は用事があり出掛けるとのことで、戻る時間の二時を指定された
昨日どんな話をされたのか、やはりアイリーンはあのとんでもない提案をされ、不安になってしまったのだろうとこの時までは思っていた

コンコンコン
「アイリーン、シルビアよ…」

中からの返事を受けて扉を開けば寝台の方からごそごそと人の気配を感じ、そちらを見た

「キャッ!!!」

そこには一糸纏わぬ男女が抱き合いお互いの身体を弄りあっていた
恥ずかしがることも悪びれることも無く、アイリーンは得意気な表情さえ浮かべバッカスの元へ行くと言った

アイリーンはバッカスの提案を受け入れたのだった

どのようにして部屋を出たのかも分からない
自分の部屋に鍵をかけズキズキと痛む頭を抱えた

この家、いや、父親の借財のためとはいえ貴族の令嬢とまでなったアイリーンが嬉々とした表情でバッカスに身を委ね娼婦になると言う
しかももう純潔は捧げてしまった後だろう
今ならまだバッカスと身体の関係を持っただけで、間に合うかもしれない
血の繋がりが無いとはいえ妹だ
こんなことをさせてはならない

ふぅと、細く息を吐き、自分を落ち着かせ、再びアイリーンの元へ向かおうとした
ちょうどその時廊下の窓からバッカスの手を取り馬車に乗り込むアイリーンの姿が見えた

駄目よ!
行っては駄目!
急いで引き留めなきゃ

玄関口まで急いで階段を降りた
玄関フロアでは父と執事の二人が私に気が付き視線を寄越した

「お父様!アイリーンを!アイリーンをお止め下さい!」

「…ああ、シルビア、お前に話がある。書斎までくるように」

アイリーンがどこへ行こうとしているのか知らないのかやけに落ち着いた様子で父は言った

「今は、アイリーンを連れ戻す方が先です!」

「そのことで話をするんだ。ここでは使用人達の目もある。とにかく書斎へ来るように」

「お嬢様…、旦那様のご指示にお従い下さい」

「ベルデ、…貴方、貴方は知ってるの?」

「先程旦那様から…。ここでは出来ないお話です。さあ、旦那様の書斎へ」

焦りを感じない二人にアイリーンは自分の想像するようなことでは無く、単にバッカスとの身体の関係になってしまったことについて言ってるのだと思った
先程アイリーンもバッカスも娼婦については言葉にしていなかった
ただバッカスの元へ行くとだけだ
まだ若いアイリーンが部屋に異性を連れ込み、身体の関係を持ってしまったことも問題では有るが、お金のために身売りするわけでは無いことに安堵した

「分かったわ。お父様の書斎で話をしてくるわ。ベルデ、取り乱してごめんなさい」

「…いえ」

私は父の後に続いた


部屋に入るなり、父は一枚の紙を私の前に差し出した

「お父様、これは…何かの間違いです。アイリーンが…。そうです!あの子は文字が読めません。この契約書の内容を確認せずにサインしたに違い有りません」

父に見せられたのは永年契約として本人の意思とは関係無く働くことが出来なくなるまで娼婦として雇用するとうたっていた
しかもその賃金は本人の手元には行かず、この男爵家に入ると

「アイリーンは分かった上でサインしたのだ。もう既に生娘では無いしな。あの娘なりに男爵令嬢としての役割が何か考えた末のことだろう」

「ですがっ…!…お父様、アイリーン一人が責を負うのは間違ってます。借財もお父様個人の物と聞いてます!」

「何も知らぬのに分かった風に言うな。領地のために取り引きしていた商会が経営破綻したのだ。その煽りを受けての借財だ。私個人の物では無い。それに私とて先日、その商会との関わりが有ったというだけであらぬ疑いをかけられそうになったのだぞ。私は被害者だ。男爵家の者が娼館堕ちしたなどと世間に知られるのは体裁が悪い。アイリーンの藉は抜くことにした。前金として支度金を受け取った以上、お前の伯爵家へ養女となる話が無くなるのも困る。少しの間屋敷で面倒を見ていた娘が娼婦になっただけだ。分かったな」

「…私がアイリーンを連れ戻します」

「シルビア!」

父親の怒鳴り声を後ろから受けながら、私は走り出していた

アイリーンの元へ向かうため馬車に乗り込もうとした所でそれを止められた

「シルビアちゃん、行くならノエル様の所にしようね」

「ラット様…」

その場に居るはずの無いラット様は、私が何処に向かおうとしているのかを知った風に言った

戸惑う私を促し馬車に乗せ、ラット様とノエル様の元へ馬車は向かったのだった







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