side第三王子ノエルと男爵令嬢シルビア

まめ

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お腹の子がディーンの子だと分かり私は安堵したと共に、今までの色々な出来事にここに来て涙が溢れた
結ばれることは無かったディーンとの縁がここに有る
それだけでこれまでの辛かった出来事が報われたような気がした


お腹が大きくなり始め家から外に出ないでいた私の元を訪ねる者が居た

密かに戻りずっと家の敷地から出ない生活をしていたのに…
まさかディーンにバレてしまったのかとビクビクしながらその人を見た
その顔を見て私は驚き、挨拶をすることも出来なかった

「カミラ…」

「奥様…」

若い男爵の妻だった

「急に貴女が屋敷を去って皆心配していたわ。実家に戻ったかもしれないと訪ねたのだけれど…。…ねぇ、何が有ったのか…悪いようにはしないから、正直に話てくれない?」

私のお腹を見て奥様は悲痛な面持ちで尋ねてきた

「…あの日、男爵様に襲われました…」

襲われたあの日にお腹には既にディーンの子が居たことには触れず、私はあの日に起きた事実だけを奥様に話した
ショックと憐れみの眼差しで奥様は私に何と言って良いか言葉が出ないようだった

だが、暫くして奥様はある提案をしてきた

「その子が産まれたら、私に…私に育てさせて。必ず幸せにすると誓うから。…不幸な出来事でできた子供とはいえ、男爵の血を引く子。それに私は子を成せないようなの…。傷付いた貴女にこんなお願いをするのは間違ってることは分かっているけれど、お願い」

深々と貴族である奥様が平民の私に頭を下げた

「奥様、頭を上げて下さい!…私は、…私一人ではこの子を育てる術が無く困っておりました。奥様がお許し下さるなら、この子は奥様の元でお育て下さい」

本当は愛するディーンの子をこの手で育てたかった
だが、これから爵位を継ぐディーンの隠し子としてこの子を育てる訳にもいかない
それに片親で平民の私の元で育てるよりも、貴族の娘として育った方が奥様の言う通りこの子も幸せになるだろう…

「ありがとう、と言うのも違うわね…。許して欲しいとは言えない…。主人のしたことを思えば貴女が私達夫婦を憎んでも仕方無いのは分かってる。だけど、その子に罪は無いの。貴女があの日の事を忘れて再出発できるようにできる限りの事はするわ。

「お金を…お金を下さい。私達家族が楽に生活出来るぐらいのお金を…」

本当にディーンの事を想うならディーンとの縁を断ち切ら無ければいけない
この子がお腹に居る間だけ…
その間だけ…
でも産まれて顔を見てしまえばきっと手放せなくなる
だから敢えてお金を要求した

「奥様、お金でこのことは解決しましょう。私も早く忘れたいので、そのお金で幸せになります」

「…、そう、分かったわ。本当に…、ごめんなさい」

屋敷で働いて居る時から慣れない使用人の私にもお優しく、皆を気づかって下さっていた奥様だ
きっとこの子も幸せになるだろう

お金を要求したことも本意では無いことを悟っていたようだが、敢えて気付かないふりをして下さった

そして定期的に、お腹の子の様子見も兼ね、奥様自らお金を渡しに私の元へ訪れた

母親としてせめてものこととして、産まれてくる子に私が名を付ける事を許して下さった





「カミラ、元気な女の子よ」

「…シルビアと、シルビアと呼んであげて下さい」

「シルビア…シルビアと名付けたのね。可愛らしいこの子にピッタリね」

「もう、…二度とその名を呼ぶことは無いですが、奥様、どうかその子を幸せにしてやって下さい」

「約束するわ。シルビアの母親として愛情を持ってこの子を守り、そして誰よりも幸せにしてあげるから、安心して」

「お願い致します…」

こうして私はディーンとの間に産まれた子を自ら手放した


それからの私は自暴自棄になり、乱れた生活を送った

若さを活かし何人もの恋人の間を渡り歩き、気がつけば愛人のような生活を送っていた

愛人から愛人へ

そんな生活を送っていた私はある時男爵家で共に勤めていた女と街で偶然に会った
私が屋敷を去ったあの後、男爵の愛人に選ばれたのは自分だと自慢のように言ってきた
私が男爵を望み、それが叶わなかったため屋敷を出たのだと思っているような口ぶりだった

年頃になり屋敷勤めを辞め嫁ごうとした時相手に騙されたのだと言う
だが、その男との間に子が産まれその子を育てるために職探しをしているところで私と出会したと

仕事が見つかるまでの間で良いからその赤ん坊を預かって欲しいと頼み込んできた

働かずとも食べさせて貰っている今の生活
自分の子を育てることが出来なかった私は数日とはいえ、他人の子でも良いので体験してみたいと浅はかにも思ってしまった

そしてアイリーンと言うその赤ん坊を数日の約束で預かった

まさかそのまま私がその赤ん坊を育てることになるとは思いも寄らずに…


自分の子では無いとはいえ戻らぬ女の代わりに初めはたくさん愛情を持って育てていた
だが一度愛人に身を落とした私にはアイリーンは重荷になった

度々母親に預け愛人達と過ごす日々が増えた頃、二度と会いたく無いと思っていた男爵がその愛人の一人の男との取引相手として私の前に現れた

私だと気が付いて無いようで自分とも愛人関係になるよう言ってきた
もちろん、断るつもりでいたのだが、男爵は信じられない言葉を私に言って脅してきた

「シルビアの母親はお前だろう?娘が不幸になっても良いのか?」

「っ、!貴方の、貴方の子でもあるのよ!」

「自分の子など関係無い。シルビアの将来がどうなるのか握っているのは私だ。年頃になった時に年老いた女好きの男の後妻として嫁がせるのも政略結婚としては良くある話だなぁ」

にやにやと卑下た笑いを浮かべながら男爵は私があの時のカミラでありシルビアの母親と知りながら脅してきたのである
…男爵に従うより他無かった

他の愛人達と共有することを嫌がった男爵は私を囲った
娘として育てているアイリーンと共に

そしてそのアイリーンが自ら父親程歳の離れた男爵と関係を持ち、その事で私が後妻として本当の娘シルビアと会うことになるとは…

神は一体何をお望みなのだろう…

だが私はその意味を知る
シルビアをこの男爵から守るために奥様が神に頼んで私をここへ来させたのだと…








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