side第三王子ノエルと男爵令嬢シルビア

まめ

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「もう、貴方のこと何とも思って無いのよ。遊びだったの」

「嘘だ!お互い想いが通じ合ってたじゃないか!…カミラ、婚約のことは親が勝手に決めたことなんだ。君にも言ったはずだ。私は政略結婚などしない。君を愛してるんだ…」

私が幸せに別れを告げた記憶が今頃になって夢として現れた


ディーンと出会ったのは、街の酒場で働き始めて間も無くのことだった
騎士見習いから正騎士に昇格した祝いで仲間達と店に来ていた彼が、酔った客に絡まれているところを助けてくれた
正義感の強い彼は逆恨みされてはいけないと日を置かず通い続けてくれた

私は直ぐに彼を好きになった

騎士見習いは平民が正騎士になるためのルートだ
貴族で家督を継ぐことのない者は学園を卒業後そのまま騎士団に所属する
だから私は疑いもせず彼が平民だと思っていた

何度か休みの日に共に出掛けるようになり、気持ちを打ち明ければ彼も私を想ってくれていた

私の初めては全て彼だった

手を繋いだのもキスをしたのも身体を捧げたのも

遠くない未来に彼と夫婦になれるのだと信じていた

だがある日私の元に貴族の男性が訪ねてきた

「息子は爵位を継ぐまでの間という約束で騎士になった。私はそれを許した。だが、平民と結婚することは許していない。息子には直ぐに騎士を辞めてもらう。これを何も言わずに受け取って姿を消してくれ」

ディーンの父親を名乗る伯爵様が私に布袋を差し出した

「お金など必要有りません。ディーンは…ディーンは騎士を生きがいにしてます。身を退けと言うなら従います。ですから、もう少し彼に騎士を続けさてせあげてください。この通りです」

頭を机に擦り付けるように下げお願いした

身なりや所作で目の前の人が嘘を言っていないことが分かった私はディーンの身分を知った驚きよりも、彼が騎士を辞めなければいけないことの方がショックだった

彼がどれほどの気持ちで騎士見習いから騎士になったのか
爵位が有りながらも見習いから始め実力で正騎士になったのだ
普段の彼の様子からも今の仕事をどれだけ生きがいにしているかは聞かなくても分かっていた

「…息子には婚約者が居る。一年後には結婚をする予定だ。どのみち一年後には騎士を辞めさせる予定だった。それが早まっただけだ」

「お願いです!もう、二度と会わないと約束します!一年、…あと一年だけでも良いので、騎士を続けさせてあげてください」

「…これまでも息子とは何も無かったと記憶からも消すことが出来るならば、その願いを聞かないでもない」

「分かりました。彼とは今までもこれからも何の関わりも無かった…。お約束致します。…彼に何の未練も残らないように私からお別れします」

「…分かった。君が約束を守ったら、こちらも約束を守ろう」

私はその約束を果たすため、いつものように待ち合わせ場所に現れた彼に別れ話を持ち出した

「ディーン…私達もう会うの辞めましょう?」

何の前触れも無く突然別れ話を切り出され彼は冗談だと思ったようでにこにこしながら手を繋ごうとした

「何?そういうの流行ってるの?」

バシッと手を振り払い彼を睨みつけるようにして私は続けた
何が起きたのか分からないといった様子で叩かれた手を見て彼は理由を聞いてきた
飽きたのだといくら言っても信じない彼は誰かに何かを言われたのかと問いただしてきた

「貴方がいずれ伯爵位を継ぐことを知ってて近付いたの。いずれ伯爵夫人になれると思ったから。でも、貴方婚約者が居るんでしょう?それなら私は用済みで捨てられるもの。そんなの馬鹿みたいじゃない。だから、貴方のお父様を脅して、貴方が平民の娘と付き合ってた事をバラされたく無かったらお金を寄越すように言ったのよ。お貴族様は醜聞は避けたいのね。直ぐにお金を用意して下さったわ。有り難くそれを受け取ったって訳。だから、本当に貴方とはこれでお終い」

「…父に、父に何と言われたんだ。君がそんな事をする人では無いことは分かってる。父に何か言われたんだろう?」

「はぁ…馬鹿な人。お金目当てって言ってるでしょう?まだ分からない?貴方は私にまんまと騙されたの。これからは私みたいなのには気をつけてね。言いたい事は言ったから、私はこれで…」

拳を握り締め肩を震わせながら下を向いていた彼がどのような感情を持っていたかは分からないが、演技がこれ以上出来なくなりそうで私は踵を返した


店を辞め住んでいた所も離れ、伯爵様との約束通り彼と二度と顔を合わせることの無い場所へ向かった
知り合いから住み込みで男爵家の使用人を募集していると聞きそこに働き口と棲家を求めた

彼との別れのショックからか私は月のものがしばらく止まっていた

男爵家で働き始めやっと仕事を覚えた頃、体調を崩して寝込んでいた私の元へ夜も遅い時間だと言うのにこの家の若い主人がやって来た

まさか使用人の私を襲うなどと思って居なかった私は何の疑いも持たずその主人を部屋に入れてしまった

酷い酒の匂いをさせた主人は具合が悪く力の入らない私を力任せに襲い、何度も何度も私を犯した

悪夢を見ているのだと思いたかった…

私を襲い満足した主人は明日も待っているように言ってきたが、朝を待たずに誰にも告げずに逃げるようにその家を後にした

ディーンを傷付けた罰がくだったのだと思った

体調も戻らず更には襲われ、住む家も失った私は不幸のどん底にいた

ディーンが居る街には戻りたく無かったが、実家に頼るしか無かった私は密かに元居た街に戻った
勝手に出て行った私に最初は腹を立てていた母だったが、顔色の悪い私を気づかい家に入れてくれた
その後も何も聞かずに居てくれた母に感謝しか無かった

母が私の身体の異変に気が付いたのはそれから間も無くだった

「カミラ、あんた…」

嫌がる私の腕を引き、医者に連れていかれ、診断された私に告げられたのは妊娠三ヶ月という結果だった









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