side第三王子ノエルと男爵令嬢シルビア

まめ

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「君、シルビア・モーリス男爵令嬢だよね?」

授業の終わりに男子生徒が声を掛けてきた

「ええ。あの、貴方は…」

「ああ、私はノエル・バッカス同じ経済学の授業を取ってるんだけど、知らない?」

経済学は領地経営のために、より真剣に授業を受けており、最終の時間帯ということもあり、授業が終わればノエル様との待ち合わせ場所まで遅れてはいけないと直ぐに教室を出ていた

「ごめんなさい。どの人が同じ授業を取ってるか余り覚えて無くて…」

「君、授業が終わると一目散に教師を出て行くからね。今日は急いで無いの?」

「何かご用事でも?」

「時間が有るなら、少しいいかな?」

今日はノエル様は公務のため学園をお休みされてる
時間は有るには有るが、要らぬ誤解を生みたくないので、余り一緒には居たくない

「今日は家の事情で早目に帰宅することになっていますの。ごめんなさい」

そう言ってその場を去ろうとしたがふいに腕を掴まれた

「何をなさるのです。お離し下さい」

「君の家に借金取りが来てるって噂を耳にしたんだけど、私が助けてあげようか?」

「何処からそのようなお話を?我が家は何処かに借財をしなければならない程困窮しておりません!」

「先日の長雨で君の所が管轄してる領地、作物の取れ高に打撃があっただろう?かなりの金額の借金だって、聞いてる。実家の商売の関係でそういった事は嫌でも耳にするんだ」

「どなたかの間違いです。と、とにかくこの手をお離し下さい」

「まぁ、家の者に確認してみて。私の言ってることが正しいと分かるから。貴族の令嬢として君自身がお金を稼げる方法が有るから、いつでも相談して」

やっと腕を離して貰い、教室の出口付近で心配そうにこちらを見ていたソフィの元へ急いだ

「シルビア、今の…」

「ノエル・バッカスという方よ。それより、早く馬車止めまで行きましょう」

その場をとにかく早く離れたかったので、ソフィの腕を取り廊下を進んだ

「バッカスと言えば、実家が娼館を営んでるって話よ。そんな人が何故シルビアに?」

「領地の打撃でお金が必要なら相談に乗ると言ってきたわ。でもうちは昨年の豊作で蓄えもあるし、借財を抱えるようなことは無いの。誰かとお間違えになられてるんだわ」

「あまり評判の良い方では無いから、近づかない方が良いわね。殿下にも一応お話しておいた方が良いわ」

「ノエル様にご心配を掛けたく無いから、辞めておくわ。また、話掛けられても無視をするから大丈夫よ」

「そう…、今度貴女に近寄って来たら私が助け船を出すわね。でも、お互いに気をつけましょう。あの人と話をしてるだけで、どんな噂が立つか」

「ええ。でも彼も直ぐに勘違いだったと気付くはずよ」

ソフィと話をしている内にお互いの馬車が見えたのでそこで別れを告げた


屋敷に戻ってもあのバッカスの語った内容がどうにも気になり、執事にそんな心配は無いことを確かめに行った
だが、執事から返ってきたのはバッカスの語った通りの内容だった

「嘘でしょう?先日貴方の話では大丈夫だって…」

「領地のことは心配要らないのですが…申し訳有りません。私の把握しきれていない、旦那様個人の借金がかなり有るようで、先日金貸しが屋敷に直接やって来たのは事実です」

「お父様は一体何にそんなにお金を使われたの?」

「ハシム商会という少し裏の噂の有る者と取り引きをされていたようで…実は今朝、お嬢様が学園に向かわれた後、招集命令が届き、旦那様はそちらに向かわれ、まだお戻りになっておられません」

「そ、そんな…。大丈夫よね?」

「…申し訳有りません。私がもっとちゃんと把握していればこんな事には…」

「いいえ、ベルデには執事の責務以上の事をして貰ってるのは分かってる。充分過ぎる程よくやってくれてるわ。それに比べて私は…」

「先日旦那様がお受け取りになった、伯爵家からの支度金も決して少額では有りません。…きっと何とかなります。お嬢様はご心配なさらなくても良いように私共で何とかしますので、残り少ないここでの生活を穏やかにお過ごし下さい」

「で、でも、私はこの男爵家の娘よ。このまま伯爵様の所に行くことは出来ないわ。一度はお受けしたけれど、支度金をお返しして私もこの家の為に何か出来ることがないか考えるわ」

「お嬢様、こんなことを申し上げるのは何ですが、貴女様に出来ることは何もございません。先程申しました通り、伯爵家に行かれることがお嬢様に出来る唯一のことなのです」

苦渋の表情を浮かべながらベルデは言った
ベルデの言う通り、何の力も持たない私には何も出来ないだろう
支度金をその借金に充てて貰うことしか出来ない事実に涙がでそうになった
下唇を噛みぐっと堪え、何も言えない代わりにベルデに微笑みその場を後にした


自室に戻った私の頭の中で、バッカスの声が繰り返す
ふらふらとする身体は自分の物では無いような感覚がした

何かを考えたり思い立ったわけでは無いが部屋から出ようとし、そこでベルに出会した

「お嬢様…?どうされたんです!」

「ベル…」

ふらついた身体を支えられてそのまま部屋に戻され、寝台に腰掛けた

「何が有ったのです?正直に仰って下さい!」

膝元でしゃがみ込み、私の両手を握りながらベルは言った
姉のような存在のベルの顔を見て私は堪えられなくなり、涙を溢れさせた
そしてバッカスのこと、執事から教えられたことを正直に全て話した

一通り話終えた私を優しく抱きしめ背中を撫でながらベルは安心させるように言った

「…お嬢様、そのノエル・バッカスとお約束することは出来ますか?」

「何故…?何をするつもりなの?」

「私にお任せ下さい。決してお嬢様にご迷惑をお掛け致しません。お嬢様はただ、その者とお話する場を設けて下されば結構です」

「ベル、貴女まさか」

「ふふっ、お嬢様の考えてるようなことでは有りませんよ。いくら何でも娼婦になったりしませんから、ご安心下さい」

「なら尚更彼に会う必要など無いじゃない…」

「旦那様の借財の額をその方を通じて調べていただくだけです。長くその方とお嬢様がお話されてる所を誰かに見られるのは良く有りませんが、侍女である私なら誰も何とも思いませんから」

「本当にそれだけなの?」

「ええ、お約束致します」

「…本当に調べて貰うだけよ」

「ええ。それでは、私は戻りますね。あの娘からの頼まれ事の途中ですから」

にこりと笑ってベルは私の手をあやすようにぽんぽんと叩き出て行った

借金の額を調べて貰ったところでその額が減るわけでは無いが、何故かベルの笑顔を見て少しだけ不安な気持ちが減ったのだった










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