side第三王子ノエルと男爵令嬢シルビア

まめ

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「ベル、顔色が悪いけど、大丈夫なの?」

久しぶりにベルとまともに会話する時間が出来たが、ベルは以前より少し痩せたようだった

「ええ、大丈夫ですよ。それより、こうしてお嬢様とお話するのも久しぶりですね。専属を外されてから同じ屋敷に居てもなかなかお話出来ませんでしたからね」

「本当に大丈夫?疲れていない?」

「ふふ、心配し過ぎです。それより、お嬢様、伯爵様の藉に入られるとか…。淋しくなります」

「そうね…。何だか良く分からないけど、ノエル様もそうした方が良いと言って下さったから…」

「ノエル様?」

久しぶりのベルとの時間が嬉しくてつい口を滑らせてしまった

「あっ!…。…あのね、驚かないでね…。実は私の想い人はノエル殿下なの。それで…ノエル様も私を想って下さってて…。初めは、私なんか…と思ってたんだけど、ノエル殿下が私の憂いを全て受け止めて下さったの。二人で居られるように色々考えて下さるって…」

「ノエル殿下ということは、第三王子殿下でらっしゃるんですね!!凄い!!私のお嬢様ならどこぞの王族の方に見初められてもおかしくないと常々思っておりました!シルビア様…王子妃になられるんですね」

少し涙目になりながら自分のことのように喜んでくれるベルを思わず抱きしめた

「ありがとう、ベル…。もっと早く貴女に言いたかったのだけれど、お相手がお相手だから…。ごめんなさい」

「いいえ、私に謝る必要なんてありません。嬉しいご報告が聞けて私も幸せです。シルビアお嬢様良かったです、本当に。お幸せになって下さいね」

「ベルにこうして喜んでもらえて今でも充分幸せよ。…ただ、この家のことや領地のことを考えると…」

「王族一、聡明だとお噂のある第三王子殿下ですもの、ご心配には及びませんわ。きっと何とかして下さいますよ」

「でも、殿下にご負担ばかりお掛けして心苦しいわ」

「ふふふ、殿方の役目です。そこは甘えてしまえば良いんです」

「そお?…前から聞こうと思ってたけど、ベルこそ誰か想い人は居ないの?」

「そんなの決まってるじゃないですか。もちろんシルビアお嬢様です」

「もう、そうじゃなくて!」

「私の事は良いんです!物語の殿方の話をしても面白くないですからね」

「え?物語の人?」

「そうですよ、だから振り向いて貰えないんです!」

抱きしめていた手を少し離して顔を見れば少し拗ねたベルの顔があった

「お姉さんのように思ってたベルが、まさか物語の登場人物に恋してるなんて、ふふ」

「笑わないで下さい。それより…あとどのぐらいここに居られるのですか?」

「…そうね書類が受理されれば、直ぐにでもというお話だから…一ヶ月も居られないわね…。領地のこともそうだけど、アイリーンのことも心配なの。貴族の娘として少しでも教養を身につけて欲しいと思ってる。ここに居られる内に私が力になってあげられたら良いんだけど、相変わらず、私は嫌われてるみたいだし…」

「お嬢様、心もとないかもしれませんが、私にお任せ下さい。専属侍女として、あの娘のことは何とかします!」

「あの娘って…。ベル、アイリーンと上手くいってないの?」

椅子に腰掛けながらそう聞けば、ベルはお茶を淹れながら、少し黙った後、苦々しい顔した

「…上手くいってない訳では無いんです。ただお嬢様と同じようにお呼びするのに慣れて無いだけです」

「何か嫌な事させられたりして無い?もし、そうなら私から注意しておくから」

「…何も、何も無いです。さあ、お茶が冷めないうちにお飲み下さい」

そう言ってカップを私の前に置いた
私はベルの手が少し震えているように見えた

「私に言い辛いなら、お父様に相談してみる?少しアイリーンに甘いけれど、ベルの話なら聞いて下さるわ」

カチャンとティーポットを落としそうになり、ベルは先程より、更に顔色が悪くなった

「い、いえ、旦那様には何も仰らないで下さい。私は本当に何もされてませんから」

「…そう、本当に何か有ったらいつでも言ってね。私にとってベルは家族同然なんだから」

私はこの時、何故もっとベルに問い詰め無かったのか、後になってから後悔することになるのだった…



…………



「クソッ、……、おい、お前!グレアムとか言ったな、ハシム商会まで行って来い!」

イライラとしながら、男爵が怒鳴りつけてきた

ハシム商会に今頃行っても、もう誰も居ないだろうに

ノエル様は俺からの報告を受けて直ぐにハシム商会に手入れをした

出るわ出るわ悪行の数々

取り引き先の弱味につけ込みそこの年頃の娘を犯し、更に金を巻き上げる
巻き上げた金で貴族に有利な取り引きを持ちかけ、差し入れ代わりに受け取った侍女などの身体を弄んだとのことだ

被害にあった者達は口を噤んでなかなか証言は得られなかったが、手入れにより裏の契約書が見つかった

まだ公になって無いのでこの男爵は連絡が急に取れなくなったあの男に裏切られたと思っているのだろう

今朝、金貸しが男爵の元を訪ねて来ていたが、本来金貸しが直接屋敷に来ることは無い
金貸しの出入りを見られれば、それだけで恥になる
ハシム商会との連絡が途絶え、金回りが無くなり返済が滞っているのだろう

領地経営を他人任せにし、分不相応な生活がここに来て綻び始めたのだ

「かしこまりました。ハシム商会のどなたを訪ねればよろしいですか?」

「取り敢えず、行って来い!誰でも良いからハシムの者を連れて来るんだ!」

「…はい。では、早速行って参ります」

そう答えてその場を後にした
勿論、ハシム商会には行かない
行っても何も誰も居ないのだから

屋敷を出たその足で主の元へ向かった



「ノエル様、男爵はまだハシム商会の者達が捕らわれたことに気が付いてません。それにしても早かったですね。行動に移されるの」

「そりゃあ、シルビアに関わることだからね。まぁ、男爵もその内ハシムの事は耳に入るだろ。気が付いてオロオロすれば良いさ。それより、好食な義父殿が変な気を起こさないように、ちゃんと見張っておいてよ」

「はい、はい、シルビアちゃんに何か有ったら、即時俺の命の終わりですからね。その辺は抜かりないですよ」

「何か有ったらじゃなく、何もさせないでね。ほら、今日はその報告だけなんでしょう?さっさとシルビアの警護に戻って」

「今来た所なのに…」

「二等馬に格下げでも良い?」

「はい!直ぐにシルビアちゃんの所に戻ります!」

「あ、ちゃん呼びしたから鞍は無しね」

……もう、ヤダこの主…







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