side第三王子ノエルと男爵令嬢シルビア

まめ

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父からの呼び出しを受け執務室に向かった

「お父様、シルビアです」

急な呼び出しに思い当たる節がなく、何事だろうと思った

「とりあえず座りなさい」

「…はい」

三人掛けのソファに座り執務机で書類を手にしている父が口を開くのを待った

「ネザー伯爵からお前を娘として迎え入れたいと申し出があった」

「えっ…どういう…」

「学園でのお前の優秀さをかって下さり、子の無い伯爵ご夫妻が養女としたいと仰ってる」

子に恵まれず後継を立て無ければいけない爵位を持つ者が養子を迎えるのはよくある話だ
だがそれは縁戚の男児を迎えるが一般的
学園での成績を認めて下さったとはいえ縁戚でも無い私を何故…

「伯爵家から嫁ぐも良し、婿養子を迎えるも良し、お前の希望をきいて下さるそうだ」

「それでは私に得が有っても伯爵様に何の得が有るのですか?それに学園には私以外にも優秀な方はたくさんみえます。何故私を…」

「実のところ、ネザー家は一度子を設けたが身体の弱い子で成長を待たずして儚くなったそうだ。その子に面影の似たお前を、入学式に来賓として出席されたご夫妻が大層気に入って下さり今回の申し出となった」

「遠縁の方など、年頃の子供も居るのでは?それに私は長子です」

「ご夫妻の年齢に見合う者も居ないそうだ。我が家ももう娘はお前だけでは無い。アイリーンという後継も出来た。上爵位の方からのお申し出だ。こちらから断ることは出来んぞ」

「お、お父様…」

下位の者からただ気に入ったというだけで娘を迎えるなど、話題好きな社交界で直ぐ様噂になるだろう
伯爵ほどの方が世間の目を気にしない訳がない

「お前を養女に迎えるに辺り、支度金をご用意下さった。先日の長雨で領地に出た被害のことはお前も把握しているだろう。貴族としての役割を果たす意味でもこの申し出は受けるべきだ。私はもうすでに書類にサインを済ませてある。後はお前のサインだけだ」

この国では十六歳を迎えた者は成人と同等と見做され契約には保護者のサインだけでは無く、本人のサインも必要だ

被害のことは勿論把握している
先日ベルデに見せてもらった帳簿にはこれまでの蓄えで何とか凌げることも分かっている
領地のためとは言うがこんな金で買われるように養女になる必要があるのだろうか

「お申し出を受けるにも気持ちの整理が必要です。少し時間を下さいませ」

礼を取りその場を後にした




…………




「それ、私の役目だったのになぁ。先を越されちゃった」

定期報告のためにラットが城へ戻ってきたが、開口一番に受けた報告に口を尖らせた

「今頃になって親心ですかね?」

「まあ、シルビアにとって悪い話じゃ無いし。そのままにしておこう。それにシルビアは何も知らないんだよね?なら、私がわざわざ本当のこと言わなくても、ね」

「あの男爵の元に居るのは害しか無いですからね。でも、何でそんなに不満そうなんですか?」

「ええ、だってシルビアのことは全て私がしてあげたかったのに。身分を気にしているシルビアのために養女として迎える先をどこにするか決めたところだったんだよ。何か負けた気がするなぁ」

「そんなこと言って。全然負けたなんて思って無いくせに。逆にノエル様嬉しそうじゃないですか」

「まぁね、シルビアのことをちゃんと考えてくれる身内が居て良かったなと思ってさ。ところで家来達は?シルビアを傷付けるような馬鹿な者居ないよね?」

ちらりとラットを見やればビクッと表情を固くしていた

「やだなぁ、ラット。そんな悪魔でも見るような顔して」

「いや、悪魔そのものですけどね…。家来達は男爵やあの娘の前で上手く立ち回ってますよ。皆優しくて聡明なシルビアちゃんに心酔してますからね」

「…前から言おうと思ってたけど、ラット、何か馴れ馴れしくない?ちゃん呼びとか辞めてくれるかなぁ」

「狭量な悪魔だ」ボソっ

「何か言った?」

「いえ、何も~。ではそろそろあちらに戻りますね」

軽口を叩きながらラットはシルビアの屋敷に戻っていった



別な日、シルビアから養女の件で相談を受けたが、ネザー家の者達に問題も無さそうなので、そのまま受け入れるように進言した

「伯爵家から嫁いで来てくれたら、君の気にしてる身分のことも解決するよね。身分差を埋める為に、懇意にして居る家に養女として迎え入れてもらうことで、その家との繋がりも深まるから、聞かない話では無いんだ。それに、言っても学園を卒業するまでだからね。君が伯爵藉に入ったら直ぐに夫妻に挨拶するつもりだから、安心して」

「…本当に大丈夫でしょうか?今回の被害はそこまででは無いのに、父が支度金を宛にしている節があって何だかお金欲しさに身売りする気分です…」

「大丈夫。シルビアが心配するようなことが無いように、私が牽制の意味を込めて挨拶に行くんだ。これでも王族だからね」

「ノエル様…ありがとうございます。ノエル様に守っていただくばかりで私何もお返し出来て無い…」

「ん?大丈夫だよ。これからたくさんシルビアを貰うから。手始めに…」

心配事が無くなったが申し訳無さそうな顔をしていたシルビアの唇に啄むようにキスをした

「ん、取り敢えずここまでで。続きはまた今度。いっぺんにたくさんのお礼もらっちゃうと勿体無いからね」

その先を匂わせればシルビアはいつものように真っ赤になった

「そんな可愛い顔されたら、我慢出来なくなっちゃうよ」

耳元でそう囁き反応を見ていたらシルビアは珍しく拗ねた顔をした

「…ノエル様、揶揄わないで下さい」

「ふふ、揶揄ってなんか無いんだけどね」

相変わらずどんな顔も可愛いシルビアをにやにやと笑いながら見て自分でもこれは卒業まで待てないな、と確信したのだった





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