拾われた俺、最強のスパダリ閣下に全力で溺愛されてます 迷い子の月下美人

エウラ

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527 もう一つの毒

にゃんこ会が終わってただいまの時刻は午後四時頃。

「……あれ?」

アークから獣人国の報告を受けたあと、テント内の作業部屋で調薬やら錬成やらの素材を漁っているときにふと気付いた。

以前ヴァンがメーレの部屋で手に入れてきたあの毒の他にもう一つ、水差しに入っていた毒があったことを。
そういえばメーレの方に気を取られていて、すっかり忘れていた。

慌ててインベントリから、件の水差しを取り出して観察する。

見た目はただの水だ。万人には無味無臭だが、ヴァンの驚異的な嗅覚はわずかな毒の臭いを嗅ぎ分けたらしい。

「『鑑定』」

俺も見た目じゃ毒の存在は全く分からないが、この水差しの中身から微かにのろいの気配を感じる。
そう、メーレを古の森に連れてきたときに纏わり付いていた黒いもやのようなアレ。
メーレを狙ったものではないらしいアレは、俺の聖浄化魔法で消え去ったが、さすがにあれだけでは誰の呪いかは分からない。
でもこの水差しならたぶん分かるはず。

そう思って鑑定してみれば。

精神錯乱の毒薬フレンジー
品質:A
効果:体内に取り込むか嗅いで吸収すると幻影を見たり悪夢を見ることがある興奮剤の一種。ほぼ無味無臭。毎日こまめに摂取することで効果が現れる。しかし健康で精神も安定している者には効かない。摂取を止めれば徐々に毒素が抜けて快復するが、酷い場合は聖浄化魔法をかけないと治癒しない。軽い呪いが付与されている。
製作者:サムラート・オリヴァン】

「これ、毒薬に分類される興奮剤だ」

俺は調薬したことないけど、調合に合わせる薬草によっては禁止薬物になるので、調合や所持には薬師ギルドの許可が必要だとラグ爺さんに教わったことがある。
だから、無許可なモノか薬師ギルドに未登録の野良薬師か、そういう知識のない薬師もどき辺りが有力なんだけど。

「でも家名があるってことは貴族か、もしくは豪族かな」

俺は貴族社会に疎いから、オリヴァンという家名を知っても誰かは分からない。アークに要相談だな。

「それにしても普通は単なる薬なんだけど、これは私怨のような魔力が注がれていたんだろうな。その私怨が呪いに変化しちゃって付与されたみたい」

対象者が限定されていないから誰を呪ったのか分からないけど。
ちなみに『呪い』は魔法として存在はしていない。強い思念によって多少の事変を起こすもので、例えるなら『痛いの痛いの飛んで行け』と必死に念じたら痛みが和らいだとか、『家具の角に足の小指をぶつけてしまえ』と念じたら偶然相手が足をぶつけたとか、そういう些細なおまじないの括りだ。

アンデッド系の魔物は強い呪いの思念を持つモノも多いので、ときに戦闘で呪われることがあり、そういうときは聖浄化魔法をかけて消し去るか、あとは薬師や錬金術師の作った『聖水』をかけたり飲ませたりする。

そんな、普通は気のせいで流せる呪いがハッキリと害悪として存在しているということは、非常に危険だ。

「メーレに飲ませる水差しに入っているくらいだからそれが出来る内通者とか、もしかして王宮全体に広がっているのか。アークに言って調べて貰わないとメーレをあそこに帰らせられないな」

テントを出た俺の目に入ったのはエレンとミオを引き連れて意気揚々と土いじりを楽しんでいるメーレ。

ずっと苦労してきたあの人を、そんな魔窟のような場所に帰したくない。

大きな麦わら帽子を被ってエプロンを身に纏い、鼻歌を歌いながら雑草取りに勤しむメーレを見てほわんとしたあと、俺はそう思った。


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