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5ー3【引きこもりな僕と竜の番い】sideヴェルデ&アルシュ
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◇◇◇sideアルシュ
『ふふっ、まさか通じていないとは……ははっ』
シュウが寝落ちた部屋の扉の側で、腹を抱えて笑うヴェルデを睨む。
「お前、さては気付いていたな?」
『ええ、もちろん、最初からヘンに誤解されていると分かってましたよ。だから、静観してたんです。ふふっ、振り回されるあなたを見て、おかしくて……』
笑いを堪えるのが大変でした、と涙を溢すほど笑うヴェルデに言いたいことはたくさんあるが、ひとまずシュウを静かに寝かせようと部屋を出る。
一階のリビングのソファに座ると、ヴェルデがコーヒーを淹れてくれた。それをブラックで一口飲むと溜め息を吐く。
「───はあ。本当にまさかだよ。あれだけアピールしたのに、給餌も受けてくれたのに、ちっとも通じてなかった。マジかよ」
全部、竜人の妻問いだろう?
抱き上げて連れ歩いたし、給餌行為はまさに求愛行動。それもシュウからも食べさせてくれるなんて、もう受け入れてくれたも同然じゃん。
シュウを膝に乗せて独占欲を満たす。これだって拒否しなかったし。
それなのに、アレが全部、無意識なんて!
確かに、シュウが俺の番いだと断言しなかったけども。気持ちが先走って、段取りが狂ったけども!
『第一に、治療に専念していて、この世界の常識をあまり知らないんですよ、あの子は。だからあなたの行動の意味を分かっていなかったんでしょう』
……う、言われてみれば、確かに、そうかもしれない。
異界人と聞いていたのに、俺達竜人の求愛行動とか番いのこととか、ここでは当たり前すぎて、知らないなんてことを思いもしなかった。
『それに、あの子は不遇な時間を長く過ごしたせいで、自分には愛し愛されるような存在は現れないと思っています。だから最初から諦めているのですよ』
「……それは、俺も神託で知ったが……あまりにも酷い仕打ちだったな」
出産が命がけなんて、どこの世界でも同じだろう。こればかりはシュウのせいではないはず。
それを父親は、生まれた我が子のせいにして愛さずに放置だと。それを見ていれば、当然、シュウの兄も父に倣うだろう。周りの者は言わずもがな。
結果、家族の愛を知らずに、ひっそりと息を引き取る寸前、エスピオの神がすくい上げて、この世界に転移させたと。
そしてそれは、俺の番いだったわけだ。どうりで生まれて三百年、番いに巡り逢えないわけだ。まさか異界にいたとはな。
「それにしたって、お前が少しはこちらの常識を教えてると思うだろう。もしかして、全く教えてないのか?」
『おや、心外ですね。一般的な常識なら教えていますよ。生活に必要なこととかね。ですが恋愛ごとや婚姻関係はデリケートな問題ですし、そもそも私は精霊であって人ではないですから、その辺りの機微には疎いんです』
そういえば、そうだった。家護だから人の暮らしにある程度精通しているが、基本的には気まぐれな精霊だったな。あまりにも人間味がありすぎて、忘れていた。
まあ、シュウと生活するようになってからのコイツは、ずいぶんと気配りのできる優しい雰囲気になったが。
『だからあなた方の事情や常識など、自分にはあってないようなものですから、期待しないでください。……それともあなたは、家護とはいえ他人が自分の番いに手垢を付けることをヨシとするのですか?』
「いやだね」
俺は即答する。手垢って言い方はどうかと思うが、誰にも触れられていない真っさらな状態の番いを、できることなら、自分の手で染め上げたい。
『なら、ちゃんと分かってもらえるまで言葉で伝えて、行動と態度で示せばいいのです。そうすればきっと、頑なな心を開いてくれるでしょう。だって、あの子、ちっとも嫌がっていなかったんですから』
「……そうだな」
手始めに、目が覚めるまで添い寝して、起きたら伝えよう。
───シュウが俺の運命の番いで、俺は死ぬまでシュウを愛すると。
シュウがイヤだと言っても離さないと。
そしてたくさんの口吻を贈ろう。
俺はコーヒーをひと息に飲むと、ヴェルデに笑って言った。
「ご馳走さま。じゃあ押しまくって、俺の番いだと認識させてくるわ」
『……ほどほどに手加減してあげてくださいよ。まだまだ弱いんですから』
「……善処する」
ああ、心が通じ合っても、身体が通じ合うまでの道程が長そうだ。
だが、三百年あまり待ったんだ。もう、あと何年かくらいは待つさ。
その決意が早々に揺らぐことになるとは、このときの俺は、まだ気付いていなかったが。
◇◇◇sideヴェルデ
「じゃあな」
そう言ってシュウの寝室に向かうアルシュを見送る。
アルシュ・アルヴァ・ルシエル。
ルシエル竜帝国皇帝の皇弟という身分を持つ、この家の所有者で私の主。
この森はアルシュの個人資産で、この家は彼の憩いの場・隠れ家として建てられた。
その際、偶然にも家護として生まれたばかりの私がその家に棲み着いたため、アルシュは私と契約して、この家を管理する役目を与えてくれた。
彼はときどき、息抜きで訪れた。
特に何をするでもなく、ぼーっと過ごすときもあれば、森の奥に魔物を間引きしに行ったり。
おそらく、皇族としての仕事や番い探しで疲れた心と体を癒しているのだろう。
そんな日々の中、彼に不意に『神託』が降りた。
──病のために、今まさに命の灯火を消さんとする異界の少年が、アルシュの番いだという。
その少年をこちらの世界に転移させるから、保護し、病気の療養をして欲しいと。
少年の住んでいた世界は魔力がないため、濃い魔力は弱った身体に障りがあるそうで、私の管理するあの家周辺に結界を張り巡らし、その中で生活をさせて魔力に馴染むようにして欲しいと。
そして死にかけのボロボロの身体だから、せめて二十歳になるまでは番うのを待つように、と告げられたときのアルシュの絶望感を想像して、ちょっと憐れんだ。
しかし、そこからのアルシュの行動は早かった。
兄である皇帝に『神託』の内容を告げると、皇帝からの許可を得て、受け入れの準備をするアルシュ。
元々、別荘としてきちんと整備されてはいたが、内装を少年向けに柔らかく温かみのある色合いに揃えたり、転送ボックスを最新のものに設置し直したり。
あっという間に、一日でそれらを済ませると、自分は『直接顔を見てしまうと、暴走する気しかしない』と言って、泣く泣く皇城に戻っていった。
私に『あとは任せた』と言って。
私に番いの世話を任せてくれたことが嬉しかったのは内緒だ。
そして準備が整ったのを神が見ていたのか、間もなく庭に現れた少年は、想像以上に痩せ細り、生気のない瞳だった。
自己紹介をすると、少年は私に名をくれた。
『ヴェルデ』
アルシュとは違う種類の歓喜に震えた。
私は、この瞬間、一人の精霊として生まれ変わったようだった。
この子を護る。
人の家族のように、兄として、この子を愛し慈しもう。
そうして少しずつ食べる量が増え、歩けるようになり、余裕ができると、食材や衣類の出所を気にしたので、転送ボックスの存在を教えると、一応は納得したようだった。
たぶん、支払いは誰がしてるのかとか、この家は誰の持ち物なんだろうとか思っているのだろうが、特に聞いてはこなかった。
おそらく、聞いてはいけないと空気を読んだのだろう。
そういうのが上手くならざるを得ない生活だったのかと、やりきれない思いだったが。
あの子の食材や衣類などの支払いは、全てアルシュの個人資産から賄われている。
リストを送るたびに、嬉々として厳選したものを転送してくるのもアルシュだ。
直接逢えないため、そういうのに手間暇を惜しまない。己の選んだものを身にまとってもらうという独占欲がよく出ている。
シュウにとってもアルシュにとっても念願の二十歳の誕生日。
待ちきれずにやって来てシュウに抱き付き、窒息死させそうになって思わず張り倒したが。
出逢った最初から、ちょっとかみ合っていない二人に密かに笑い、寝落ちしたシュウの言葉にトドメを刺されて落ち込むアルシュに大笑いして。
でもまあ、二人が番って幸せになることが、今の私の夢でもあるので。
頑張ってくださいね、アルシュ。
ちなみにシュウを泣かせたら、この家に出入り禁止にしますからね。
家護の力を舐めないように。
『ふふっ、まさか通じていないとは……ははっ』
シュウが寝落ちた部屋の扉の側で、腹を抱えて笑うヴェルデを睨む。
「お前、さては気付いていたな?」
『ええ、もちろん、最初からヘンに誤解されていると分かってましたよ。だから、静観してたんです。ふふっ、振り回されるあなたを見て、おかしくて……』
笑いを堪えるのが大変でした、と涙を溢すほど笑うヴェルデに言いたいことはたくさんあるが、ひとまずシュウを静かに寝かせようと部屋を出る。
一階のリビングのソファに座ると、ヴェルデがコーヒーを淹れてくれた。それをブラックで一口飲むと溜め息を吐く。
「───はあ。本当にまさかだよ。あれだけアピールしたのに、給餌も受けてくれたのに、ちっとも通じてなかった。マジかよ」
全部、竜人の妻問いだろう?
抱き上げて連れ歩いたし、給餌行為はまさに求愛行動。それもシュウからも食べさせてくれるなんて、もう受け入れてくれたも同然じゃん。
シュウを膝に乗せて独占欲を満たす。これだって拒否しなかったし。
それなのに、アレが全部、無意識なんて!
確かに、シュウが俺の番いだと断言しなかったけども。気持ちが先走って、段取りが狂ったけども!
『第一に、治療に専念していて、この世界の常識をあまり知らないんですよ、あの子は。だからあなたの行動の意味を分かっていなかったんでしょう』
……う、言われてみれば、確かに、そうかもしれない。
異界人と聞いていたのに、俺達竜人の求愛行動とか番いのこととか、ここでは当たり前すぎて、知らないなんてことを思いもしなかった。
『それに、あの子は不遇な時間を長く過ごしたせいで、自分には愛し愛されるような存在は現れないと思っています。だから最初から諦めているのですよ』
「……それは、俺も神託で知ったが……あまりにも酷い仕打ちだったな」
出産が命がけなんて、どこの世界でも同じだろう。こればかりはシュウのせいではないはず。
それを父親は、生まれた我が子のせいにして愛さずに放置だと。それを見ていれば、当然、シュウの兄も父に倣うだろう。周りの者は言わずもがな。
結果、家族の愛を知らずに、ひっそりと息を引き取る寸前、エスピオの神がすくい上げて、この世界に転移させたと。
そしてそれは、俺の番いだったわけだ。どうりで生まれて三百年、番いに巡り逢えないわけだ。まさか異界にいたとはな。
「それにしたって、お前が少しはこちらの常識を教えてると思うだろう。もしかして、全く教えてないのか?」
『おや、心外ですね。一般的な常識なら教えていますよ。生活に必要なこととかね。ですが恋愛ごとや婚姻関係はデリケートな問題ですし、そもそも私は精霊であって人ではないですから、その辺りの機微には疎いんです』
そういえば、そうだった。家護だから人の暮らしにある程度精通しているが、基本的には気まぐれな精霊だったな。あまりにも人間味がありすぎて、忘れていた。
まあ、シュウと生活するようになってからのコイツは、ずいぶんと気配りのできる優しい雰囲気になったが。
『だからあなた方の事情や常識など、自分にはあってないようなものですから、期待しないでください。……それともあなたは、家護とはいえ他人が自分の番いに手垢を付けることをヨシとするのですか?』
「いやだね」
俺は即答する。手垢って言い方はどうかと思うが、誰にも触れられていない真っさらな状態の番いを、できることなら、自分の手で染め上げたい。
『なら、ちゃんと分かってもらえるまで言葉で伝えて、行動と態度で示せばいいのです。そうすればきっと、頑なな心を開いてくれるでしょう。だって、あの子、ちっとも嫌がっていなかったんですから』
「……そうだな」
手始めに、目が覚めるまで添い寝して、起きたら伝えよう。
───シュウが俺の運命の番いで、俺は死ぬまでシュウを愛すると。
シュウがイヤだと言っても離さないと。
そしてたくさんの口吻を贈ろう。
俺はコーヒーをひと息に飲むと、ヴェルデに笑って言った。
「ご馳走さま。じゃあ押しまくって、俺の番いだと認識させてくるわ」
『……ほどほどに手加減してあげてくださいよ。まだまだ弱いんですから』
「……善処する」
ああ、心が通じ合っても、身体が通じ合うまでの道程が長そうだ。
だが、三百年あまり待ったんだ。もう、あと何年かくらいは待つさ。
その決意が早々に揺らぐことになるとは、このときの俺は、まだ気付いていなかったが。
◇◇◇sideヴェルデ
「じゃあな」
そう言ってシュウの寝室に向かうアルシュを見送る。
アルシュ・アルヴァ・ルシエル。
ルシエル竜帝国皇帝の皇弟という身分を持つ、この家の所有者で私の主。
この森はアルシュの個人資産で、この家は彼の憩いの場・隠れ家として建てられた。
その際、偶然にも家護として生まれたばかりの私がその家に棲み着いたため、アルシュは私と契約して、この家を管理する役目を与えてくれた。
彼はときどき、息抜きで訪れた。
特に何をするでもなく、ぼーっと過ごすときもあれば、森の奥に魔物を間引きしに行ったり。
おそらく、皇族としての仕事や番い探しで疲れた心と体を癒しているのだろう。
そんな日々の中、彼に不意に『神託』が降りた。
──病のために、今まさに命の灯火を消さんとする異界の少年が、アルシュの番いだという。
その少年をこちらの世界に転移させるから、保護し、病気の療養をして欲しいと。
少年の住んでいた世界は魔力がないため、濃い魔力は弱った身体に障りがあるそうで、私の管理するあの家周辺に結界を張り巡らし、その中で生活をさせて魔力に馴染むようにして欲しいと。
そして死にかけのボロボロの身体だから、せめて二十歳になるまでは番うのを待つように、と告げられたときのアルシュの絶望感を想像して、ちょっと憐れんだ。
しかし、そこからのアルシュの行動は早かった。
兄である皇帝に『神託』の内容を告げると、皇帝からの許可を得て、受け入れの準備をするアルシュ。
元々、別荘としてきちんと整備されてはいたが、内装を少年向けに柔らかく温かみのある色合いに揃えたり、転送ボックスを最新のものに設置し直したり。
あっという間に、一日でそれらを済ませると、自分は『直接顔を見てしまうと、暴走する気しかしない』と言って、泣く泣く皇城に戻っていった。
私に『あとは任せた』と言って。
私に番いの世話を任せてくれたことが嬉しかったのは内緒だ。
そして準備が整ったのを神が見ていたのか、間もなく庭に現れた少年は、想像以上に痩せ細り、生気のない瞳だった。
自己紹介をすると、少年は私に名をくれた。
『ヴェルデ』
アルシュとは違う種類の歓喜に震えた。
私は、この瞬間、一人の精霊として生まれ変わったようだった。
この子を護る。
人の家族のように、兄として、この子を愛し慈しもう。
そうして少しずつ食べる量が増え、歩けるようになり、余裕ができると、食材や衣類の出所を気にしたので、転送ボックスの存在を教えると、一応は納得したようだった。
たぶん、支払いは誰がしてるのかとか、この家は誰の持ち物なんだろうとか思っているのだろうが、特に聞いてはこなかった。
おそらく、聞いてはいけないと空気を読んだのだろう。
そういうのが上手くならざるを得ない生活だったのかと、やりきれない思いだったが。
あの子の食材や衣類などの支払いは、全てアルシュの個人資産から賄われている。
リストを送るたびに、嬉々として厳選したものを転送してくるのもアルシュだ。
直接逢えないため、そういうのに手間暇を惜しまない。己の選んだものを身にまとってもらうという独占欲がよく出ている。
シュウにとってもアルシュにとっても念願の二十歳の誕生日。
待ちきれずにやって来てシュウに抱き付き、窒息死させそうになって思わず張り倒したが。
出逢った最初から、ちょっとかみ合っていない二人に密かに笑い、寝落ちしたシュウの言葉にトドメを刺されて落ち込むアルシュに大笑いして。
でもまあ、二人が番って幸せになることが、今の私の夢でもあるので。
頑張ってくださいね、アルシュ。
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