6 / 8
アトリウムside 2
しおりを挟む---早いもので高等科まで卒業して、今は魔塔に勤める初日。
お互い15歳になり俺は首席で卒業、リナリアは魔導具製作ではトップだったので一芸で(他は普通の成績だった)無事に飛び級で卒業して、二人とも魔塔に就職した。
(本来は18歳で卒業)
結局、在学中にはリナリアを堕とせなかった。
何故だ?!
7年も同じ相部屋でずっとクラスも一緒だったのに。
アイツは本当に色恋沙汰に無頓着で、全く関心が無い。
俺があんなにアピールしていたのにだ!
おかげで周りのヤツらからの同情と憐憫の眼差しが痛い。
今年魔塔に就職する同期は皆、俺の気持ちとリナリアの塩対応を知っている。
おそらく魔塔に勤める先輩達も噂を知っているのだろう。
同じ様な眼差しを受ける。
リナリア?
アイツは馬鹿だからそんなことに気付かない。
仕事始めですでに職場が分かれている。
俺は主に魔物の討伐を行う魔導師課でアイツは魔導具製作課。
これで顔を合わせる機会がかなり減ってしまった。
「---ようこそ、魔塔の魔導師課へ。課長のリーフレットだ、よろしく。首席だって? かなり強いそうじゃないか。期待してるよ」
「・・・ありがとうございます」
アトリウムはムスッとした顔をとりつくろいもしない。
「・・・ふふふ、不満そうだね。同期のリナリア君の事かな? 大丈夫、皆知ってるよ。協力するからなんでも言ってくれ。出来る限りのことはしよう」
「・・・何故とお聞きしても?」
リナリアとは面識が無いはず。
肩入れする理由は無いだろう。
「---そうだね。実は以前ここに彼の父親も勤めていて、彼の開発した魔導具に色々と救われた者も多いんだ。皆、尊敬していたんだよ。詳しく話を伺ったときにはクソはげデブ親父と腹が立ってねえ・・・。思えばあの頃世に出ていた魔導具は彼の父親のモノによく似ていた。早く気付くべきだったんだよ。皆、後悔してる。だからかな?」
そう言ったリーフレット課長は本当に悔やむ様子で・・・。
じゃあ、遠慮なく協力して貰いますと笑った。
それから更に5年。
アイツは色々な魔導具を発表し、めちゃくちゃ高い評価を得ていたが本人は相変わらず無関心でひたすら魔導具製作に精を出す日々。
俺は魔物の討伐で名を上げて、面倒臭い事に色んなヤツらから声をかけられてウザい日々だった。
おかげで『来る者拒まず去る者追わず』なんてヤリチンみたいな噂が流れた。
巫山戯るな。
こう見えても俺はリナリア一筋の童貞処女だ!
そんな噂が流れ、仕事中はアイツとの時間が持てず、学生時代よりも希薄な関係性になっていき、俺は焦っていた。
だからかな。
『ネコの日』なんてのに乗っかって、気付けばリナリアに言っていた。
「お前、明日、ネコになれ」
後で我に返ったが、勢いって大事だと職場のヤツらに揶揄われ、邸に戻って執事長のセスに事の次第を話し、明日、万が一リナリアが来たら何時でもイケる手筈を整えておくようにと告げて就寝。
次の朝、7時に来やがった馬鹿の対応に向かうと、何か頭に付いてる・・・。
話しながらも視線はリナリアの頭の上。
猫耳を凝視する。
何だあれ、何でピクピク動いてんの?!
セスに言って一旦応接室に通して貰うが・・・後ろ姿が・・・尻尾・・・尻尾?!
ゆらゆら揺れているんだが?!
「---ナニアレ、ヤベえ・・・」
口を掌で覆って天を仰いだ。
支度を整えて応接室に向かうと、微妙な空気が・・・。
セスも壁に控えながらリナリアの頭の上を凝視している。
その空気に堪えきれなかったのか、リナリアが困ったように・・・。
「にゃーん?」
「・・・・・・何やってる、バカリナリア」
思わずツッコんだ。
思わず猫耳を掴めば痛いって・・・?
いったいなんなんだ?
リナリアもよく分かってないようだった。
それにしても『ネコになれ』=『猫の仮装』って思考がなあ・・・。
ほんっとバカ。
そんな馬鹿なリナリアが悪いヤツに食われないように俺が今から食うから。
「セス、呼ぶまで来なくて良いから」
「手加減なさってくださいね」
---たぶん無理だな。
俺の寝室のベッドにぽすんとおろし、舌舐めずりをする。
「物理的にもネコになってくれたから、イタダキマス」
「みぎゃ---!!」
こうして漸く、晴れて俺達は結ばれ、おバカなリナリアは俺の嫁になった。
猫耳尻尾の魔導具やら猫神様やらはひとまず置いておく。
もう外れないようだし?
可愛いから良いよ。
55
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役のはずだった二人の十年間
海野璃音
BL
第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。
破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩
ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。
※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。
幼馴染の王子に前世の記憶が戻ったらしい
325号室の住人
BL
父親代わりの叔父に、緊急事態だと呼び出された俺。
そこで、幼馴染の王子に前世の記憶が戻ったと知って…
☆全4話 完結しました
R18つけてますが、表現は軽いものとなります。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる