【完結】猫になれ!

エウラ

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アトリウムside 1

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俺がそいつに目を止めたのは偶然だった。


父が訪問した先の孤児院に引き取られるところをちょうど見かけたのだ。

意地の悪そうなハゲ親父に、打ち捨てられるように神父の元に押し付けられた痣だらけの薄汚れた子供。

荷物なんて首から下げた御守り袋らしいもののみで、ガリガリだった。

この時、俺は7歳。
リナリアと呼ばれたそいつが同い年と知ったのはそれから一年後。

思えばこれは必然だったのだろう。

あの日から定期的に孤児院に顔を出す。
貴族の義務というもので、一定量の寄付金を納め、孤児院の運営に問題が無いか訪問して確認をする事。
ウチの家は侯爵で、その孤児院が領内の担当地区なのだが、父上や祖父も孤児院経営に積極的で、衣食住はしっかりしていてウチの孤児院は評判が良かった。

そんな中でもアイツは異質だったようで、何時も独りで浮いていた。

声をかけられればにこっと愛想良く笑うが、あれはおそらく、相手の気分を良くさせるための作り笑いだ。
引き取られた当時を思い出せば、虐待を受けていたことが容易に知れた。

空気のように存在感を消し、当たり障り無く接する。

空気を読むと言えば聞こえは良いが、要するに自分を殺しているって事だ。
そうしなければ生きていけなかったのだろう。

・・・・・・彼だけが不幸だとは言わないが、何故か妙に気になる存在になっていた。

そして一年後、俺が学園の初等科に入学するにあたって、孤児院からも一人入学させると父上に告げられて、俺は何となくピンときた。

案の定、あの子供だった。
リナリアというその子供が同い年だったとは思わなかったが、その後父から聞いた言葉に耳を疑った。

「彼はね、今は亡き天才魔導具発明家の忘れ形見なんだ。彼と一緒に亡くなったと思われていたんだが、どうやら隠されて虐待を受けていたらしい」

話を詳しく聞くと、父の知人であったその魔導具発明の第一人者が5年前に夫夫共に事故死し、一緒にいたはずの3歳になる嫡男の行方が分からなくなり、遺体が見つからないまま死亡扱いになった。
彼はその功績から男爵位を賜っていたが、跡取りが不在のため、彼のつまの弟が爵位を継いだとのこと。

それが一年前、孤児院に押し付けに来たハゲ親父だったらしい。

不審に思った父がよくよく調べて、漸く最近になって事実確認が取れたそうだ。
地下室に監禁に近い状態で魔導具製作や修理をさせられていたようだ。
そして使用人以下の扱いを受けていたらしい。
その様は他国にいる奴隷のようだったとか。

今はそのハゲ親父一家は罪を問われて、鉱山での終身労働についているとか。
リナリアの後見人として新たに国から派遣された文官が今は男爵家を切り盛りしている。

「彼には何一つ知らせていない。もし彼が気付いて知りたがったら教えるつもりだが、お前には、彼を気にかけて手助けをしてやって欲しい。頼めるかな?」
「分かりました。大丈夫です」

申し訳無さそうに頼む父に二つ返事で快諾する。

「良かった。彼はさすがというか、魔法理論や魔導具についてはもの凄い才能がある。が、いかんせん、監禁されて虐待を受けていたせいで知識に偏りが有り、コミュニケーションが苦手だ。その辺りはサポートしてあげて欲しい」
「分かります。魔導具以外は馬鹿ですよね」

俺が即答すると、微妙な顔で言った。

「・・・・・・まあ、概ねそうなんだが・・・・・・うん、とにかく頼むよ。学園にはしっかり通達しておいたから」

俺は無言で頷く。

「彼は表向き平民の孤児として入学させる。ウチの孤児院出身だからという理由でお前と相部屋にして貰った。クラスも一緒だよ。あ、あと彼との関わり方はお前に一任するが、私に頼まれたからというような雰囲気は出さないで。彼はおそらく人間不信になっているから、そういう空気はすぐに分かるようで・・・きっと壁を作られるとなかなか打ち解けられないと思う」

そう言う父に頷いて応える。

「大丈夫です。父上の事が無くとも、俺は彼を好ましく思っているので。絶対に嫁にします」
「・・・えー、そこまで? まだ8歳だよ? 彼が可哀想だからあんまりグイグイいかないでね? 手加減してね?」

そう言う父親に、そんなに俺って信用ないのか、一体どう思われているのか凄く気にはなったが、追及はしなかった。


それからは入学式まであっと言う間で、入学式前日に学生寮に入寮して初めてまともに顔を合わせた。

孤児院に来て一年経つのに、頭一つ分低いガリガリの体。
今までの環境の苛酷さを思い知らされる。

「よろしくお願いします。リナリアです」
「・・・よろしく。アトリウム・バーバリウムだ」
「バーバリウム様、よろしくお願いします」
「アトリウムで良い」
「アトリウム様」
「・・・様は要らないが・・・そういうわけにもいかないか。まあ、分からないことは俺に聞け」
「はい、ありがとうございます」

どうやら孤児院経営の貴族だとは気付いてないようだ。
まあ、魔導具以外は興味を持たないようだし、人の名前も顔も覚える気も無さそうだ。

ほぼほぼ初対面の貴族だからか硬い感じの表情だったが、仕方ないだろう。
これから親密になれば良いこと。

そんなアトリウムの思惑は早々に打ち砕かれるのだが・・・。






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