【完結】重たい愛

エウラ

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愛が重たい 2(sideササナギ)

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「ミカサ様、ササナギ様! 一大事です! ナツメ様が───!」

侯爵家で執務中の父と俺の元に、ノックもそこそこに飛び込んできたエンドフィール侯爵家私設騎士団の団長。

開口一番ナツメの名前を叫ぶ騎士団長に、俺は椅子を倒す勢いで起ち上がった。

「詳しく話せ!」

父も執務を取り止め、周りに指示を出し始める。

騎士団長の話によると、今日の放課後、いつもは一緒に行動しているエイダ・オセットが教師に呼び出されてナツメのそばを離れたらしい。
オセットに言い聞かせられたナツメは言われた通り、一人真っ直ぐ寮に戻る途中で複数人の何者かに攫われたらしいと。

しかもオセットの呼び出しは嘘で、ナツメの側を離れさせる口実だったそうだ。

「そちらは今、学園の方でも調査中ですが、どうやら在学生の中のササナギ様の元親衛隊員が勝手に暴走したものと思われます」
「・・・・・・ああアレか。全く迷惑極まりない盲信者どもめ・・・・・・」

学園在学中に徹底的に潰しておくんだったな。

悪しき慣習にしか思えないが、学園内では人気のある生徒に親衛隊というものが結成されて、独自のルールでその生徒の身を守ったり世話をしたりするという。
かくいう俺も例に漏れず、勝手に親衛隊を結成されて鬱陶しく纏わり付かれたものだ。

俺は入学前から無表情無感情で氷人という二つ名みたいなものがあり、学園在学中もほとんど笑わなかったので親衛隊員達は俺に無視されても気にしないようだったが、とにかく他者との関わりを排除したがってウザかった。

俺が用事でちょっと生徒に声をかけようものなら、その生徒を呼び出して苦情を言い、近付くなやら思い上がるなやら、お前らこそ何様だよという態度で相手を牽制、制裁しまくった。

あまりにも目に余るので教師陣にも再三解散を要求したが、苦笑しながらも受けいれられずに、最終的には俺が無と化して放置した。

ほんっとうにウザかった!

で? ソイツらがナツメを攫っただと?
アイツら、ナツメが俺の義弟だって分かっててやったのか?

───いいや、きっと分かってないな。

安全のために聖魔法の使い手ということは秘匿情報で公にしていないし、お披露目もなく一部の高位貴族にしか義弟のことは伝えていない。
下位貴族はほとんど知らないだろう。

義兄弟だから俺と見た目は正反対でナツメは可愛らしい。

そんなナツメと俺が同じ寮からくっ付いて歩いてくれば誤解もするだろう。
親衛隊の中には伯爵家の子息が一人いたが、ソイツは唯一まともで副隊長だったため、ナツメと俺が義兄弟で同室なのも知っていて周りの隊員を抑えていたようだが。
他の隊長は皆、寮が違ったから勝手に妄想し嫉妬したんだろう。

───侯爵家嫡男に纏わり付き媚びるどこかの冴えない子息。そう思ったのかもしれない。

面倒だった俺は親衛隊ソイツらと関わるのをなおのこと避けた。
そして本当ならもう一年ナツメと過ごす予定だったがウザ過ぎて一年時にサッサと飛び級をして在学二年間で卒業した。

アイツら俺がいないときに度々ナツメにちょっかいかけていたから、俺が卒業してしまえば大人しくなるとそのときは思ったんだが。

盲信的なヤツらの思考は読みにくい。

一年早く卒業してしまったがためにナツメとろくに会えない日々を堪え、ナツメとの未来のために日々邁進していたというのに。

「情報は掴んだのか?」

騎士団長に聞くと、現在の状況を話してくれた。

「さすがに学園外には出ていないようです。今は空き教室や倉庫などを捜索中です」
「分かった。俺も学園に向かう。学園長に許可は───」
「得ております。魔法を使う許可も───」
「よし。というわけなので、いいですよね、父上?」
「構わん。お前の命の恩人で可愛い義息子の救出だ。いくら学園を破壊しようと気にするな」

険しい顔でそんなことを言う父に、俺はニヤリと笑う。

「了解」

あとで騎士団長に『アレは魔王の微笑みでしたね』と言われるのだが・・・・・・。

今の時刻は夕方の五時。
すでに日が翳って薄暗くなりつつある。春先の空気はまだ寒く、日の差さない場所ではかなり冷えるだろう。

寒さで震えているだろうナツメを思うと辛く、犯人には怒りしかない。

「見つけたらボコボコにしてやる」

───そうして馬で駆けて学園内に入ると、捜索していた教師達に混じってオセットが見えたので声をかける。

「オセット、状況を説明しろ」
「! ササナギ様! 申し訳ありません!」
「謝罪はあとだ。ナツメは!?」
「あらかた捜索してまだ見つかりません。あとは寮内と寮の敷地内の建物くらいです」

高位貴族寮と下位貴族寮か。
どうやらあまり大事にならないように学園側が後回しにしたようだ。
いや、寮付近で攫われたのだから真っ先に調べろよ、無能教師ども!

口には出さず、心の中だけで罵倒しておくに留めるが。

「犯人の目星は付いているのか」
「はい。事情聴取という名目で身柄を確保してあります」
「ヨシ、そっちはナツメを見つけてからだ。大騒ぎになっても構わんと学園と父から許可を得ている。やるぞ」
「・・・・・・はい!」

俺の言葉に若干引き攣った顔のオセットだが、ナツメをこんな目に合わせたんだ。学園側に被害が出ようと構わない。

そして目星を付けた犯人は子爵令息ということで、高位貴族寮には立ち入れないから必然的に下位貴族寮の捜索になる。

よもや高位貴族家の誰かが手を貸したりはしていないだろうな?
それならば高位貴族寮も捜索し、報復せねばならないが。

「ササナギ様の思うような高位貴族家は関わっておりませんのでご心配なく」
「・・・・・・そうか」

俺の思考を読んだのか、オセットがそう言った。

「あの、ササナギ様はナツメ様のコトとなるとけっこう分かりやすいですよ」
「・・・・・・そうか」

コソッと小声で言われたが、そんなに分かりやすいだろうか?
しかし当の本人ナツメには全く伝わっている気がしないんだが。

侯爵家から引き連れてきた騎士達と手分けして捜索していると、下位貴族寮の裏手に小さな倉庫を見つけた。
在学中は気にも止めていなかったが。

「・・・・・・アレは?」

一緒に来たオセットに問う。

「ああ、はい。学園側の話ですと下位貴族や平民用の備品などを保管している倉庫とのことです。高位貴族用の倉庫はまた別にあるそうですが」

備品倉庫・・・・・・。

「月に一度、備品の補充や確認で開けるくらいだという話です。今月は一週間前に確認済みで鍵がかかっていると思いますが」
「まだ捜索はしていないのか」
「ええ、まだ・・・・・・」

俺は迷わず足を向けた。虫の知らせというのか、怪しいと勘が告げる。

よく見ると倉庫の方に向かう真新しい足跡がいくつも残っている。一週間前に来たならこんな風に足跡が残ってはいないはず。
それにこれは大人ではなく比較的小柄で体重の軽い───そう、学生くらいの足跡だ。

間違いない。

「オセット、騎士達に連絡を。ナツメはあそこに閉じ込められている可能性が高い」
「え! それならば急いで鍵を───」
「待っていられるか。壊す。許可は得ているからな!」
「は、はあ・・・・・・とにかく俺は連絡を入れて医者を呼んできます。どういう状態か分からないので!」
「ああ、任せた」

オセットが騎士達の方に向かうのを確認してから俺は倉庫に向かった。
入口付近にはやはり新しい足跡が複数ある。
これは当たりだな。

俺は一歩下がると、鍵のかかった扉を思い切り蹴って鍵を壊した。

すると真っ暗な倉庫の奥の方でガタッと音が聞こえた。
何かいる!

それがネズミの類いではなくナツメだと自分に言い聞かせながら足早に近付くと、少し埃っぽい床の隅に身体を縮こまらせて震える小柄なナツメが見えた。

俺は悪態を吐きながらナツメの腕や足の拘束を解いて口を縛っている布も外してやる。

するとぼんやりとしながら、ナツメが俺のことを夢だと思っているのか『カッコいい』『大好き』などと呟く。

まさかナツメが俺をそういう風に思っていてくれたなんて!

しかし俺の混乱した気持ちを置き去りに気を失ってしまい、仕方なく抱き上げて倉庫を出た。

「ササナギ様、ナツメ様は───」
「無事に見つけたが、気を失っている。それに拘束されて手足に痕が付いているし身体も冷えているから医師に診て貰いたい!」

オセットの声にそう応えると、駆け付けてくれた学園の医師が待機してくれていた。

「エンドフィール侯爵子息様、私が診察をいたします。あの、もしよろしければナツメ様の寮部屋にお運びされますか?」
「───そうだな。俺も在学中に過ごした部屋で安心できるし何より近い」

保健室に行くよりも早い。
医師とオセットと一緒に部屋に向かう道すがら、騒ぎを聞きつけた寮の生徒達が何事かと顔を覗かせているが、構わずにナツメの部屋に向かう。
オセットが時折説明をしているようなので大丈夫だろう。
ここは高位貴族寮だから、皆、無作法に騒がず詮索もしない。

そして俺とナツメと医師が部屋に入り、オセットが部屋の外で待機となった。
おそらく誰かが様子を見に来たときにまた説明をするのだろう。

ナツメは知らないことだが、オセット伯爵家はエンドフィール侯爵家の子飼いで、ナツメの護衛としてたまたま同い年だったエイダを付けていたのだ。
エイダは上手くナツメの友人枠に入り、卒業まで付きっきりで護衛予定だった。

あと少しだったのに、ここにきてしてやられて本人も焦ったし悔しかったのだろう。本当は友人としてナツメに付いていたいだろうに、護衛任務を全うしようとしている。

卒業後は王立騎士団に入団が決まっているが、ナツメが希望すればナツメ専属の護衛騎士の一人に推薦してもいいかなと思うくらいの働きとナツメからの信頼は厚い。

それはともかく、今はナツメだ。

「先生、どうですか?」

医師が見える範囲でサッと診察していく。それが済むとこちらを振り返った。

「・・・・・・うん、外傷は手足の擦過傷と顔に少しの痣くらいですね。縛られていた場所と、顔は床に打ち付けたものと思われますが痕は残らないで直りますよ」
「・・・・・・よかった」

それを聞いてホッと息を吐く。

「あとは薬品を嗅がされて意識を失ったようなので、この中和剤を目が覚めたら飲ませてあげて下さい」
「後遺症のようなものは?」
「攫われてから今の間に意識が戻ったのであれば少量でしょう。心配は要らないですよ」

確かに行方知れずになってから二時間かそこらだったから軽いモノだったのだろう。
これで危険な薬品だったら殺す。

「擦過傷と痣に薬を塗布します。それで、どうしますか? 侯爵家にお連れになりますか? それならば私の方で外泊届を出しておきますが」
「ええ、一度連れて帰ります。ただ明後日の卒業式は様子を見て出欠を決めたいと思いますので、明日までの外泊と欠席の旨、お願いします」
「そうですね・・・・・・出来れば卒業式には出席して欲しいですが。ではお気をつけてお帰り下さい」
「ありがとうございます」

医師が部屋を出るときに寮生の姿がちらほら見えたが放置し、オセットに連れて帰る旨を伝えて馬車の手配を頼んだ。

少しして迎えに来たオセットと寮をあとにし、侯爵家の用意した馬車に乗り込むとあとをオセットと侯爵家の騎士達に任せ、邸へと向かった。

俺の膝の上で横抱きで眠るナツメの額にそっと口付けて───。







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