【完結】重たい愛

エウラ

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愛が重たい 9(sideササナギ)

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父に続いて馬車を降りた途端、煩わしい視線と声が集中して眉をひそめる。

『何故エンドフィール侯爵家が?』
『ほら見て、ササナギ様よ!』

等々、こちらに聞こえる大きさで話している。更には秋波の視線を送ってくる有象無象の輩。

卒業式は王族の誰かが参加し祝辞を述べるので、普段は男女別々に学園に通っているが、この日だけは同じ会場に集まって行われる。

更に学生の保護者や婚約者がいるものは婚約者も同伴できるため、かなりの人数になる。

「・・・・・・父上」
「ああ、分かっているよ」

和やかな笑みを崩さないままそっと呟く父。この一瞬で侯爵家に不利益な貴族の顔をチェックして記憶しているだろう。

そこに急ぎ足でこちらに近付いてくるエイダ・オセットを認めて、俺は安心して馬車の中のナツメに声をかける。

ナツメは俺への秋波に気付いて嫉妬したらしく、むうっと口を尖らせていた。

「嫉妬してくれて嬉しいが、俺が愛してるのはナツメだけだよ」

そう微笑んで言えば、初めて気付いたようにハッとして照れる。
可愛い。

あんな顔や地位しか興味のない有象無象は放っておけ。
もうナツメに指一本触れさせないからな。

そうして俺のエスコートでナツメが馬車から降りると、再びざわめきが起こった。

───そうだろう。ナツメはとびきり可愛いからな。

内心ドヤ顔で、表向きは済ました貴族の仮面を被る。
ナツメも言われた通りに俺だけを見て周りを気にしないようにしていた。それでいい。

『ちょっと! 誰、アレ!?』
『どうしてエンドフィール侯爵子息様にエスコートされているのよ!』
『オイ、アレ誰だ?』
『さあ? 見たことない子供だ』
『エンドフィール侯爵様達、今日はどうしてこちらにいらしたのかな?』

───何も知らない阿呆共が煩く囀りやがって。

そう眉をひそめてイラッとしていると───。

オセットがナツメに話しかけ、ナツメはそちらに気がいって雑音に気づかなかったのでホッとする。

父に促されて俺のエスコートで歩いて行くナツメの横にオセットが張り付き、俺の横に父が張り付いて周りを牽制する。

そのうちオセットに俺と結ばれたことに気付かれて顔を赤くする。
誰のせいだというので俺だなと笑って応えれば更に真っ赤になり、その可愛くて艶っぽくなった顔を隠そうと俺の腕にしがみ付いて顔を伏せてしまった。

その様子を見た周りのヤツらがぎゃあぎゃあ、きゃあきゃあと煩いこと!

『侯爵子息様が笑ったわ!』
『エスコートされている子供、何か色っぽいな』

・・・・・・お前らには俺の笑顔のの欠片もやらんし、ナツメは俺のだから当然お前らのモノにはならん。

父とオセットが何やら呟いていたが、さっさと卒業式を終わらせて卒業パーティーに軽く顔を出したら帰ろう。

   ◇◇◇

そうして騒がしかった会場も学園長が卒業の祝辞を述べて一旦落ち着きを取り戻した。

このあとは王族の祝辞を頂き、乾杯の合図でここはそのまま卒業パーティー会場に様変わりする。そのため会場の両脇には軽食や飲み物が準備されており、それらをサーブするウェイターも控えている。

まだ王族の入場の時間前なので静かに歓談する貴族達がちらほら。
そこにズカズカと足音荒く近付いてくる令息と取り巻きらしき令息達数名。

周りにいる貴族達が何事かと注視する中、不躾にナツメを指差して喚きだした。

「ササナギ様! 何故こんなどこの馬の骨とも知れない平凡な男をエスコートしているのです!?」

そう顔を醜く歪めて叫ぶ令息に、ナツメはキョトンとしてからしどろもどろに応えようとしたので無作法だが俺が会話をぶった切って告げた。

「・・・・・・え、確かに、僕は平凡だけど───」
「───何を言う。ナツメは可愛い。平凡な訳あるか。それよりお前は誰だ? そちらこそ名も名乗らず無礼だろう」

本当はしっかり把握しているがワザと知らんぷりをして聞いてやる。
するとまさかそう言われるとは思っていなかったのか、顔を真っ赤にして叫んだ。

「なっ───僕はササナギ様の親衛隊長を務めました、ロラン・チェスターです! お忘れですか!?」
「ああ、迷惑しかかけられていないうえに学園長に解散要求を却下されたので放置してしまったか」
「・・・・・・なっ、なんて・・・・・・そ、そんな」

俺の言葉に狼狽えるチェスター。確か子爵位だったな。何故こんなヤツが親衛隊長を務められたのか不思議だったんだが───。

「ササナギ! お前何故ここにいるんだ! ソイツも何故卒業式に出ている!?」

唾を飛ばさん勢いで喚く輩が増えた。
茶色の癖っ毛に茶色の瞳のやや小太りで目付きの悪い阿呆っぽい、ナツメと同い年の男。

「・・・・・・ロウナート侯爵子息。卒業式に家族で出席することのどこがおかしいのかな? そちらも侯爵ご夫妻が出席なさっているだろう」
「ロウナート侯爵子息殿。ウチの大切な息子を呼び捨てな上に、もう一人の義息子を呼びとは一体どういう了見ですかな? ロウナート侯爵ご夫妻は御子息の教育をやり直した方がよいのでは?」

俺が冷たく見据えてそう言うと父も参戦して口元は笑んでいるが笑ってない目で同じように子息を見たあと侯爵の方を見た。

それに怒りで顔を赤らめて震える侯爵夫妻と子息。親が親なら子も子だな。

「───っな、何という侮辱っ!」
「いや、侮辱されたのはこちらですが?」
「おっお前は、いつもそうやって私を侮辱してっ!」
「してませんよ? 勝手に僻んでるだけでしょう? 学園でも仕事でもと勝手にライバル意識を燃やして。こちらはいい迷惑なんですがねぇ」

そう言って深く溜め息を吐く父。
和やかな笑みでよく煽れるな。我が父ながら感心する。俺は無表情になるからな。いや、元から無表情だったな。

俺に抱き込まれて周りが見えないナツメは、不安から俺にぎゅっとしがみついてから握った服にシワが付いたのに気付いて慌てて手を離すと一生懸命擦ってシワを伸ばしている。

なんだこの可愛い生き物!

隣に控えているオセットがそれに気付いて、笑いを堪えるように片手で口元を覆っているが肩が震えているぞ。

「───ええい、煩い! お前に何が分かる! いつもお前と比べられて出来が悪いと罵られて! 息子にも同じような苦渋を味わせられて全く! ───!!」

ロウナート侯爵が怒りに任せて口走った言葉に辺りがしんとなった。
ロウナート侯爵は気付いていない。

「・・・・・・四年前の?」
「そうだ! そこの息子は瀕死の重傷だったと聞いたぞ! あのとき死んでいれば───っ」
は極秘で、関係者以外知り得ない情報なんですがねぇ」
「・・・・・・えっ・・・・・・いや、風の噂で───」
「───知っているのはあとは、ササナギを襲った暗殺者とその雇い主のみ。そうですよね? ロウナート侯爵殿」
「・・・・・・・・・・・・」

先ほどまで顔を真っ赤にして喚いていたのが一転、今度は真っ青を通り越して真っ白になった。

「あと、一昨日が夕方、学園内で攫われた事件、アレ、貴方ですよね?」
「───へっ!?」

俺の元親衛隊長ロラン・チェスターに和やかに問いかける父に、矛先を向けられるとは思っていなかったのか間抜けな顔をした。

「知ってますよ。貴方とその取り巻き達、ロウナート侯爵家の子飼いですよね? ロウナート侯爵子息殿に頼まれたのでしょう? ナツメを攫って倉庫に放置して卒業式に出席させないようにと」

穏やかに話すが、内容はけっこう大事だ。
周りの貴族家と生徒達はさわさわと囁きあっている。
生徒から家族の耳に入っていたのだろう。周りを気にせずナツメの捜索をしていたし、救出後の応急処置を高位貴族寮で行ったからな。オセットも周りに説明していたし。

「・・・・・・な、何で・・・・・・この前は事情を聞かれたけど特に何も言われなかった───」
「───そんなの泳がせてたに決まってるでしょう? あっさりロウナート侯爵家とやり取りしていて、バッチリ証拠を掴んでますから」

そう言って微笑んだ父に絶望の顔で崩れ落ちるチェスター達。

そこにちょうど入場してきたのは王太子殿下だった。

「───話は聞かせて貰った。騎士達、ロウナート侯爵家の者達とチェスター子息達、及びその家族を拘束して牢へ連れて行け。のちほど調査をする」
「はっ!」

いつから待機していたのか騎士達が大勢入ってきて手早く拘束して会場から連れ出していった。
ロウナート侯爵達は罵詈雑言を喚き散らしたがチェスター達は静かに出ていった。これからのことを思うと言葉がなかったのかもしれない。

こんな大騒動の中、必死にシワを伸ばしていたナツメは目を潤ませて俺を見上げると呟いた。

「ナギ、ごめんなさい。・・・・・・シワが、取れないの」

相当焦ったのか、俺を呼ぶ一人称がになってる。可愛い。俺のアレが昂る。いかん、堪えろ!

「・・・・・・・・・・・・大丈夫だ、それくらい。ナツメを護った証だ。気にするな」

そう言ってぎゅうっと抱きしめた。

「・・・・・・・・・・・・ナツメ、あの騒ぎの間中ササナギ様の服のシワを直すことだけに集中してて、アレらのこと眼中になかったみたいですよ」
「それはよかった。この間の心の傷を思い出させて抉っちゃったかと心配だったんだよ」

呑気に会話するオセットと父。そこに人目をはばからないで抱き合う俺とナツメ。

そんな俺達に聞かせるように、王太子殿下の呆れたような声が響いた。

「───おーい。そろそろ卒業式の祝辞、言ってもいいかなー?」

先ほどのキリッとした言葉とは正反対の気の抜けた声に会場の雰囲気は一気に弛んだのだった。













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