【完結】重たい愛

エウラ

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重たすぎる愛(side国王&王太子) 

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※前半国王陛下、後半王太子。



「はあ───。やっと人心地つける───」

そう言って豪奢なソファにだらしなく背を預ける白金の前髪を上げたアイスブルーの瞳の三十代後半の男性。

「陛下、他の人の目がないからといってだらけすぎです」
「えええ・・・・・・堅いこと言わないでよ、ミリィ。私の私室なんだからいいだろう?」

そう。
陛下と呼ばれた男性はまさにこの国の国王陛下ソルトで、ミリィと呼ばれた男性は息子である王太子ミリオネアのことである。
自分と同じ色を持つ王太子。

はとこであるエンドフィール侯爵子息ササナギに似た容貌で私と同じように鍛えていて細マッチョの二十歳。
息子はあと一人、歳の離れた十歳になる第二王子がいるが、そちらは王妃に似て金髪碧眼の可愛らしい容姿だ。
ちなみに王妃は男で幼馴染みの元公爵令息。私と同い年には見えない童顔だが、気が強くていつも私の尻を叩く、いい意味で王妃だなと思う。

そしてここは王の私室。

今の時刻は夜の八時。晩餐を終えて入浴も済み、ひと息ついたところだ。
今日の大仕事は王立騎士団と王立魔導師団の本年度の入団式。学園を卒業した者達が思った以上に優秀で大人数だったのは嬉しい悲鳴だ。

無事に式を終えてホッとする時間。

今は近衛騎士が一人、部屋の出入り口付近で空気になっている。
いつも護衛やら侍従やらに囲まれての生活が当たり前なので、彼らには悪いが空気のような存在と思って過ごしている。

彼らもそれを承知で見聞きしたものは他言無用の誓約魔法で契約しているため、こうしてぐだぐだしていても心配ない。

───誓約魔法といえば・・・・・・。

「四年も前になるんだなぁ」
「なんです?」

私の独り言を聞いて怪訝そうに聞き返すミリオネアに苦笑しながら言った。

「いやほら、ミカサがさ、孤児の神官見習いを養子にって急に来たじゃない? しかもササナギの婚約者にするからって」
「───ああ、あのときの。そうですね、もう四年というのかまだ四年というのか・・・・・・あれは驚きましたね」

ミリオネアが感慨深くそう言った。

「それで私達にも誓約魔法を使うし。普通、そういうの王族に使わないからね!」
「・・・・・・貴方が若気の至りで色々やらかしてたからでしょう? 国王がいくら従兄弟とはいえ侯爵家の圧に負けるなんて・・・・・・」

ああ、息子からのジト目を貰いました。くう・・・・・・私だって今頃ソコを突かれるなんて思ってもみなかったけどね!

───そう、実は従兄弟であるエンドフィール侯爵ミカサに、私はめちゃくちゃ弱味を握られているのだ。

一つ一つはたいしたことではない。
たださっきミリオネアが言ったとおりに、若気の至りでやらかしたことが多すぎて、そのどれもが弱味になっていると思う。
いやもう、自身でも覚えていないようなことも重箱の隅を突くように覚えていてそれとなく突いてくるものだからいやになってしまう。

「・・・・・・あのときは『寝惚けてエンドフィール侯爵に抱き付いて盛った』んでしたっけ?」
「お、おまっ───!? 何バラして・・・・・・いやそもそも盛ったんじゃなくて夢精しただけ───!」
「───っぶ。・・・・・・失礼・・・・・・し」

・・・・・・おうふ。
扉のところにいた近衛騎士が思わずという感じで吹き出した。堪えきれてないぞ。

「・・・・・・父上。五十歩百歩です」
「・・・・・・コホン。いやスマン。まあ、王妃に知られたら恥ずかしいじゃないか。仕方ないだろう」

ミリオネアに白い目で見られてちょっとしょげる。
くそう、このあと王妃に慰めて貰おう。

「まあそうですね。・・・・・・私にもそういう相手が出来ればその気持ちも分かるのでしょうね」

そう寂しそうに言うミリオネアに胸が痛む。

「・・・・・・ミリオネア。まだまだ若いんだから慌てなくていいんだぞ」
「そういうところ、きっと他国と違って優しいんでしょうね、父上は。大丈夫ですよ。気長に探します。ではおやすみなさい」
「・・・・・・ああ、おやすみ」

静かに私室を去ったミリオネアにそっと願う。

「お前にも必ずこの人、という人物が現れるように」

   ◇◇◇

───父の私室から出て廊下を歩く私は先ほどの父の言葉を反芻していた。

「・・・・・・慌てなくていい、か」

そうはいっても、王太子でこの歳まで婚約者もいないなど、知らぬ者からすればどこか欠陥でもあるのかと勘繰られるくらいには異様なのだろう。
他国や国内でも政略結婚は割とある中、父は好いた相手を婚約者に、と言って許してくれている。

だがはとこのササナギが婚姻し、ナツメが懐妊したと聞けば王太子にも婚約者を、とさすがに周りが煩くなるだろう。

「・・・・・・はあ」

ちょっと憂鬱だな。
そんな思いで自室に戻り、汗を流そうと浴室の脱衣所でシャツに手をかけて───。

「っ何者だ!」

背後からのナイフに気付き、咄嗟にその手首を掴むと思いっきり力を込めて骨を砕く。

「・・・・・・っ」
「ほう、激痛に叫ばないとは、優秀だな」
「───っ!」
「遅い!」

私はもう片方の手首も掴んで砕き、さすがに苦痛で屈み込んだ暗殺者の両すねをすかさず蹴り折った。

「───っ!!!」
「・・・・・・へえ。これでも声を出さないなんてどんな訓練を───ん? ・・・・・・お前、出さないんじゃなくて喉を潰されてるのか」

倒れ込んだ暗殺者のフードを下ろすと、私と同じくらいの年齢の男で黒髪黒瞳の美人の顔があり、首元のシャツを下げれば首に一筋の傷が真横に走っていた。
これで声帯を傷付けられたのだろう。

「闇組織に飼われて調教された奴隷か?」

首の後ろ、うなじのところに奴隷の魔法陣が刻まれている。
この国には犯罪奴隷や借金奴隷はいるが裏社会に通ずる暗殺を手がける奴隷は一応いないことになっている。
近隣諸国や闇組織ではあり得ないことはないが。

「・・・・・・少しの間、我慢してくれ」

私はそう言うと、念のため魔法で拘束してから部屋の前で警護している近衛騎士に言伝を頼んだ。

少しして、極秘に私の私室にやって来たササナギとナツメ。侯爵家から急いで駆けつけてくれたらしい。

「───おい、せっかくコレからいいところだったのに、殺すぞ」

おいおい、王太子にする態度ではないぞ。

ムスッとするササナギに苦笑する。しかしこうして駆けつけてきてくれる優しさはちゃんとあるから嬉しい。

「お前は相変わらずだな。寛いでいたところ申し訳なかったがこちらも急ぎだったんでね。すまないナツメ殿」

いいところだったというのは、まあ、夜の夫夫の営みだよな。スマン。

「とととんでもないです! ま、まだ未遂だっ───いえ! で、この方を治療すればいいんですか?」
「ああ、頼めるか? 手足の骨は、その、私がやったんだが。彼は故意に喉を潰されている上に隷属魔法で奴隷にされていて・・・・・・」

顔を赤らめてうっかりそう言うナツメ殿を微笑ましく思いながらそう言うと、ナツメは一転、真剣な眼差しになって怪我人───暗殺者を見た。

「あの、聖魔法アレ使っていいですか? それと僕、隷属魔法も解除出来ます!」
「───っああ、頼む」
「分かりました!」

そう言って、痛みで苦痛の表情をしている暗殺者に向かって声をかけると魔法を発動した。

「心配ないですよ。綺麗に直りますからね。隷属なんて最低な魔法も消しちゃいますよ」

そうして眩い光がおさまると、骨折も喉の傷も、うなじの奴隷の魔法陣も綺麗サッパリ消えて呆然とした美人の男の人がいた。
このときには拘束も解けている。

彼は『うそ・・・・・・だろ?』と呟くとハッとして、そのあとガバッと床に頭を擦り付けるように座って言った。

「スミマセンでした! いやありがとうございます! 本当に・・・・・・本・・・・・・当に・・・・・・こんな日が来るなんて」
「───いや、まあ。私もバキバキ骨砕いちゃったし。・・・・・・何があったか詳しく話してくれるか?」
「・・・・・・私達も同席していいか? 何やら訳ありみたいだし、ナツメもここまで関わったから気になっているだろうし」
「ああ、頼む」

そうして彼をソファに座らせ、話を聞くことになった。

ちなみに先ほどの彼の頭を擦り付けるような仕草は、の最上級の謝罪でと言うらしい。

───そう、彼はこの世界にごく稀に現れるだった。









※王太子side、続きます。
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