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9 そこにいたのは(sideアイントラハト)
しおりを挟むアルトの笑ってない目で察したカムイはそれ以上何も言わずに、アルトに風呂を勧めて一階の自室に戻った。
それを見て深い溜息を吐きながら風呂場へ向かう。
見たことのない作りの家だ。
カムイが席を外しているときに見た室内の家具や台所、トイレやこの風呂も。
かなり高度な技術で作られている。
こんな凄い家に、独りで住んでいるのか・・・。
服を脱いで裸になると、浴室に入る。
魔石に触れるとちょうど良い湯加減でお湯が出るシャワー。
良い匂いのするシャンプーやボディーソープ。
・・・全身くまなく洗って泡を落とすと湯船に浸かった。
「───ふう・・・」
湯船には薬草が浮かんでいる。
爽やかな香りで気持ちが落ち着いた。
思い起こされるのは3日前のこと。
───半年前、定期巡回中の騎士団が世界樹の森の中心、まさにその世界樹のすぐ側に人の気配があるという報告を受けて調査を何度か行った。
その際、高濃度の魔力も何度か探知している。
そして3日前に確認の単独任務を受けた俺は準備をして、今日、単身ワイバーンに乗って世界樹の上空にやって来た。
聖域には結界が常に張られている。
それは世界樹自身が身を守るため、自ら張っている物で、悪意や害意を受け入れない。
俺は何故か昔から普通に入れたために、今回確認に向かったのだ。
悪意は確かにないとは思うけどな。
そう言うわけでその魔力の気配を探って位置を特定するとワイバーンから飛び降りた。
ワイバーンは付いてきた騎士団員に回収され、騎士団に一旦帰還する。
連絡を入れれば再び付近で待機して待っていてくれる。
風魔法で速度を落としながら少し離れたところに着地すると、果たして目標の生物はそこにいた。
様々な動物たちが、その人物を囲むようにみっちり固まっていたのだ。
俺が近づくと一歩、また一歩と後退していき、彼の目の前に来る頃には、全ての動物たちが去って行った後だった。
そこには美しい森人の少年が眠っていた。
熟睡しているのか、全く起きない。
青銀の長い髪、長く尖った耳。顔のパーツは小さく薄紅色の唇は可愛らしくて、閉じられた瞳が何色なのかとても気になった。
そっと頬に手を滑らせる。
すべすべの傷一つ無い肌が俺とは対照的で、思わず撫でさすっていた。
そのせいで目が覚めたようで、ピクリと睫毛が震えてゆっくりと目を開いた。
透き通るような翡翠の瞳だった。
ぼんやりと瞳を彷徨わせて数度まばたきをして焦点が合ったらしく、俺を見つめてピタッと固まってしまった。
「俺はアイントラハトと言う。黒狼の獣人だ。俺の言っている言葉が分かるか?」
「・・・・・・」
大陸共通語で話しかけたが、返事がない。まんじりともしない。
通じてないのか?
森人だから精霊語じゃないと駄目か?
俺、得意じゃないんだよな・・・。
『俺の名はアイントラハト。君は誰?』
やや片言の精霊語で話しかけたら応えがあった。
「『・・・俺は、カムイ。ジェイド・カムイ』・・・あ、えっと、大陸共通語?も分かる。ごめんなさい、ビックリしちゃって」
そう言われて、あからさまにホッとしてしまった。
言葉が通じる以外に、ちゃんと反応してくれたから。
「初めまして、ジェイド?」
そう言ったら、ちょっと哀しい顔で『カムイ』って呼んで欲しいと。
誰も呼ぶことのない名だから、俺に呼んで欲しいと。
・・・これは相当なワケありかな。
カムイと呼ぶと嬉しそうに笑った。
俺のことはアルトと愛称で呼んで貰う。
立ち上がったカムイはなんて事ないように無詠唱で浄化魔法を使っている。
・・・かなりの高等技術なんだが。
そして自分の周りにいたであろう動物たちを気にかける優しさ。
動物たちは俺の黒狼の血を本能で恐れて去って行ってしまった。
悪いことをしたな。
カムイの瞳には確かに寂寥感があった。
ぱっとソレを消してカムイは俺に近づくと俺を見上げてきた。
俺よりも頭一つ分くらい小さい。
じーっと見つめられて思わず目を逸らしてしまった。
不審に思われるかなと心配したが、気にした風でも無く、どこから来たのか、とか、どうして来たのかと聞いてきた。
それにどう答えようか。
来た理由はカムイなんだが、それは言えない。
「えっと、どうやって来たかだっけ。ココには空から来た」
「───空?」
上空を見上げてから不思議そうに首を傾げるカムイに。
「ふふ、ワイバーンに乗って来た。上空から飛び降りたんだよ」
「え」
思わず笑ってそう言ったら、唖然とした。
───そんな顔も可愛いな。
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