パライソ~楽園に迷い込んだ華~

エウラ

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10 記憶喪失の森人(sideアイントラハト)

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立ち話も何だから、と俺を自宅に招待するというカムイに、無警戒過ぎると内心で思いながら付いていくと、突然目の前にロッジが現れた。

隠蔽魔法で隠していたらしいが、驚いた。
全く気付かなかった。

それにしても外観だけでも素晴らしい物なのに、中はもっと凄くて驚いた。

だがそれよりも苦言を呈せねばと声をかければ。

「え? 家に入れるのはアルトが初めてだよ。ここに来たのも動物たち以外はアルトが初めて」
「えっ・・・初めてっ・・・いやそれでもだ・・・!」

俺が初めてなんて・・・うっかり顔を赤くしてしまったじゃないか。

「・・・ありがとう。自分以外の人に会ったの初めてで、心配して貰うのも初めて」
「・・・・・・ここには独りで?」
「うん、まあね。気付いたら独りでここよりずっと北の森の中にいたんだ。ここに辿り着けて良かったよ」

なんて事ないように言っていたが、かなり不安だったろう。

「どうしてこの森にいたのか分からないのか?」

そう問いかけたら、お菓子を食べる手を止めてうーんうーんと考え込んでしまったので、無理しなくて良いと言ったら、どうして森にいたのか分からないのだという。

そして名前ぐらいしか分からないから、と俺にどんどん詰め寄って質問して来た。
・・・・・・が、ふっと思い出したように俺を気遣ってきた。
俺は外部の人だから用事が済めば帰る家があると思い至ったのだろう。

段々尻すぼみになっていく声に堪らなくなり、気付けば宿泊を約束していた。

ぱあっと顔を綻ばせて部屋を用意してくると二階へ上がったカムイを見送ってから、通信用の魔導具でもある腕輪で騎士団の団長・・・俺の父に連絡を取った。

〔・・・はい、ああアルトか。守備はどうだ、接触出来たか?〕
「はい。すでに接触済みです。彼の家にいます」
〔・・・彼? 家に?〕
「名をジェイド・カムイと。見た目は俺より年下の森人でした」

向こうで息を呑むのが分かった。
さすがの騎士団長も驚くだろう。

〔───森人? 滅多にお目にかかれない種族だぞ。何故世界樹に?〕
「それが・・・記憶がないそうです。名前以外は覚えていません。この世界の名も知らず、半年ほど前に目覚めてから会ったのは動物以外では俺が初めてだそうです」

それを思い出してちょっと顔が赤らむ。

〔それはまた・・・。裏は取れそうか?〕
「嘘を吐いている感じはありません。そもそも悪意を持って嘘を吐いた時点で結界から弾かれるでしょう。・・・後、俺の話を聞きたいから泊まってくれと言われて」
〔泊まるのか?〕
「俺に気を遣って、帰っても良いからまた来てくれるかって、泣きそうに言われたら断れませんよ。彼、本当にずっと独りで住んでいたようなので・・・」

団長は少し考えたようだが・・・。

〔・・・分かった。数日間滞在していい。だが最低でも一日一度は連絡を入れろ。危険があれば・・・お前だけでも帰ってくること。良いな?〕
「・・・・・・了解しました」

そう言って通信を切ったが。

俺だけ逃げ帰る、なんて、出来るかな・・・。

すでに絆され始めている自分に苦笑して、他の設備を覗くのだった。

それからすぐに下に降りてきたカムイに、少々コワイだろうが知らない方が危険だろうと奴隷の話をしたら、顔を真っ青にして震えてしまった。

性奴隷や慰み者の意味を正しく理解したのかは分からないが、カムイが高位森人ハイエルフの事を口にしたのでそれに応えていたが・・・まさか・・・・・・。

「───カムイ、ハイエルフ・・・・・・なのか?」

無言で肯定され、唖然とする。


重苦しい空気に耐えられなかったのか、急に台所で料理を始めたカムイ。
それを目の端に捉えながら、再度通信を繋げた。

〔・・・どうした? さっきの今だぞ、何かあったのか?!〕

やや焦ったような声だが気にしている余裕はない。

「・・・高位森人だった」
〔───は?!〕
「彼、だった。希少種どころの話じゃ無かった」

向こうも唖然としたようだった。
俺も公での言葉遣いを忘れて普通に話していた。

〔───それは・・・その彼は今は・・・〕
「・・・台所で御飯を作ってる。俺、エルフは性奴隷にされやすいから気をつけろって、脅かしちゃって・・・真っ青に・・・・・・」

怖がらせすぎた。
嫌われたかな?

〔・・・・・・それは、当然だろう。危険を減らすために私だって教える〕
「・・・・・・俺、どうしよ・・・・・・、どうしたら良い?」
〔───アルト、きちんと向き合って気持ちを通わせなさい。信頼を得るんだ。・・・頑張れ〕
「・・・・・・はい」
〔次は良い報告を待ってる。ではな〕

そう言って切れた。

料理をして落ち着いたのか、カムイが晩御飯だと用意してくれた食事を食べて、食休みがてらこの大陸の貨幣価値を教えていると、ふと思い出したようにカムイがバッグから貨幣を一枚取り出して、使えるか聞いてきた。

───お前、それ、白金貨・・・・・・。

なんてモンをしれっと出してるんだよ!
まさかもっとあるなんて言わないよな?
・・・・・・あるんだな?

顔は笑いながらも俺の目が笑ってない事に気付いたカムイは誤魔化すように俺に風呂を勧めてきた。

はああ───。





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